2行ぎょう軌道きどう要素ようそ形式けいしき

2行ぎょう軌道きどう要素ようそ形式けいしき（にぎょうきどうようそけいしき、英えい: Two-line elements ： TLE）は、アメリカ航空こうくう宇宙うちゅう局きょく (NASA) と北きたアメリカ航空こうくう宇宙うちゅう防衛ぼうえい司令しれい部ぶ (NORAD) が現在げんざいでも使用しようしている、人工じんこう衛星えいせいの地ち心こころ座標ざひょう系けいにおけるケプラー軌道きどう要素ようそのテキスト形式けいしきのフォーマットである。元来がんらいは初期しょきのコンピューターの80桁けたのパンチカード用ようとしてデザインされたフォーマットであるが、さまざまな分野ぶんやで非常ひじょうに普及ふきゅうしており、また他たのいかなるフォーマットと比くらべても遜色そんしょくなく働はたらくことから、現在げんざいでも使用しようされている。

応用おうよう分野ぶんやや対象たいしょうとなる軌道きどうにもよるが、更新こうしんから30日にち以上いじょう経過けいかした2行ぎょう軌道きどう要素ようそ形式けいしきを用もちいて計算けいさんされた値ねは、信頼しんらい性せいに欠かける可能かのう性せいがある。衛星えいせいの軌道きどう上じょうの位置いちは、2行ぎょう軌道きどう要素ようそ形式けいしきから、SGP、SGP4、SDP4、SGP8、SDP8 の各かくアルゴリズムを用もちいて計算けいさんされる。SGP4 を使用しようした場合ばあいの精度せいどは、位置いちに関かんして典型てんけい的てきには誤差ごさ 1 km である。例たとえば 300 km 離はなれた位置いちからは、これは最大さいだい 0.2° の観測かんそく誤差ごさを引ひき起おこす。

フォーマットの詳細しょうさい

2行ぎょう軌道きどう要素ようそ形式けいしきは、テキスト形式けいしきの1行ぎょう69文字もじの2行ぎょう (Line 1 と Line 2) から成なる。使用しよう可能かのうな文字もじは、英えい大文字おおもじ A–Z、数字すうじ 0–9、小数点しょうすうてん.、空白くうはく および + と - の符号ふごうのみである。

実際じっさいの利用りようにおいては、分わかり易やすいように、Line 1 の前まえに Line 0 として24文字もじ以内いないの衛星えいせい名めいを付加ふかすることが広ひろく行おこなわれている。衛星えいせい名めいとして使用しよう可能かのうな文字もじは Line 1 と Line 2 で利用りよう可能かのうな文字もじよりもやや自由じゆう度どが大おおきく、少すくなくとも英えい大文字おおもじ A–Z、数字すうじ 0–9、丸まる括弧かっこ ( と )、角かく括弧かっこ [ と ]、+ と - の符号ふごう、および空白くうはくが利用りよう可能かのうである（その他たのASCII文字もじも利用りようされている可能かのう性せいがある）。衛星えいせい名めいの24文字もじという制限せいげんは、NORAD および NASA で使用しようされている衛星えいせい名めいと整合せいごう性せいを保たもつための慣例かんれいである（Line 0 を付加ふかして3行ぎょうの形式けいしきとした場合ばあいでも、2行ぎょう軌道きどう要素ようそ形式けいしきと呼よばれる）。以下いかの説明せつめいは Line 0 を付加ふかした形式けいしきで行おこなう。

一般いっぱんフォーマット

AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
1 BBBBBC DDEEEFFF GGHHH.HHHHHHHH +.IIIIIIII +JJJJJ-J +KKKKK-K L MMMMN
2 BBBBB PPP.PPPP QQQ.QQQQ RRRRRRR SSS.SSSS TTT.TTTT UU.UUUUUUUUVVVVVW

AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA が24桁けたの衛星えいせい名めい (Line 0) である。 また、下記かき以外いがいの文字もじは、次つぎで説明せつめいするためのシンボルである。

凡例はんれい（一般いっぱんフォーマットの各かく項目こうもく共通きょうつう）

• 1、2、. ： これらはそれぞれ各かく桁けた番号ばんごうおよび小数点しょうすうてんを表あらわす。これ以外いがいの文字もじは来こない。
• + ： 続つづく数値すうちの符号ふごうが来くることを表あらわし、+、-または空白くうはくが来くる。
• - ： 1桁けたの数値すうちが続つづく場合ばあいは、その数値すうちの符号ふごうであり、+ か - が来くる。その場合ばあい、この符号ふごう付づけの1桁けたの整数せいすうは、先行せんこうする数値すうちの10を底そことする指数しすう部ぶである。この2桁けたは空白くうはくになる場合ばあいがある。
• その他た : シンボル

Line 1

桁けた	桁数けたすう	詳細しょうさい	シンボル
1	1	要素ようそデータ行ぎょう番号ばんごう。 Line 1 では必かならず 1	1
3–7	5	衛星えいせいカタログ番号ばんごう (NORADカタログナンバー)	BBBBB
8	1	軍事ぐんじ機密きみつ種別しゅべつ（S：秘匿ひとく、U：公開こうかい、のどちらかの文字もじが来くる。）	C
10–11	2	国際こくさい衛星えいせい識別しきべつ符号ふごう (打上うちあげ年ねんのラスト2桁けた)	DD
12–14	3	国際こくさい衛星えいせい識別しきべつ符号ふごう (その年としの打上うちあげげの通算つうさん番号ばんごう)	EEE
15–17	3	国際こくさい衛星えいせい識別しきべつ符号ふごう（その打上うちあげによる飛行ひこう体たいの通番つうばん）飛行ひこう体たいが1つの場合ばあいは3桁けたとも空白くうはく。飛行ひこう体たいが複数ふくすうの場合ばあいは、各々おのおのの飛行ひこう体たいを区別くべつする目的もくてきで左ひだり詰つめで A、B、C、…、Z、AA、…、AZ、BA、…、ZZ、AAA、… の要領ようりょうで表あらわす	FFF
19–20	2	この軌道きどう要素ようその元もと期き (年としのラスト2桁けた)	GG
21–32	12	元もと期き (続つづき) (その年としの通つう日び3桁けた、および該日における時刻じこくを表あらわす9桁けたの小数しょうすう)。先行せんこうする GG が示しめす年としの1月がつ1日にち0000 UTC を1.0と数かぞえ、それからの経過けいか時間じかんを日ひを単位たんいとして加算かさんした値ね。最小さいしょう位いの桁けたは0.864msに相当そうとうする。UTC を使用しようする場合ばあいは閏うるう秒びょうに注意ちゅういする必要ひつようがある。閏うるう秒びょうの無ないTAI、TT、UNIX時間じかん、GPSタイムを用もちいた方ほうが良よい	HHH.HHHHHHHH
34–43	10	平均へいきん運動うんどうの1次じ微分びぶん値ちを2で割わった値ね。単位たんいは [回転かいてん/day2]。主おもに地球ちきゅうの重力じゅうりょくポテンシャルの球たま対称たいしょうからのずれにより発生はっせいする二に体たい問題もんだいへの摂動せつどうの影響えいきょうを、平均へいきん運動うんどうについて補正ほせいする。SGPで使用しようされるが、SGP4では使用しようされていない。	+.IIIIIIII
45–52	8	平均へいきん運動うんどうの2次じ微分びぶん値ちを6で割わった値ね（仮数かすう部ぶは先頭せんとうに小数点しょうすうてんがあるものと見みなされる）。単位たんいは [回転かいてん/day3]。 実際じっさいには使用しようされておらず、NASA、NORADなどの公表こうひょう値ちは 00000-0にセットされている。	+JJJJJ-J
54–61	8	B* (B STAR) 抗力こうりょく項こう（仮数かすう部ぶは先頭せんとうに小数点しょうすうてんがあるものと見みなされる）。大気たいきによる抗力こうりょくが無視むしできない場合ばあいに用もちいる補正ほせい係数けいすう。SGP4で使用しようされるが、SGPでは使用しようされていない。	+KKKKK-K
63	1	この軌道きどう要素ようそを算出さんしゅつした軌道きどうモデル (Ephemeris) の種別しゅべつ。0:情報じょうほうなし、1:SGP、2:SGP4、3:SDP4、4:SGP8、5:SDP8。この情報じょうほうは通常つうじょうは使用しようされず、NASA、NORADなどの公表こうひょう値ちは 0 となっている。	L
65–68	4	軌道きどう要素ようそ通番つうばん。軌道きどう要素ようそ情報じょうほうが更新こうしんされるごとに1ずつ加算かさんされる。	MMMM
69	1	Line 1 チェックサム。 68桁けたまでの各かく桁けたの数字すうじを10進しん1桁けたの数すうと見みなして単純たんじゅんに加算かさんした総和そうわを10で割わった余あまり。ただし、数字すうじ以外いがいの文字もじ、空白くうはく、小数点しょうすうてん、+ は無視むしし、- は 1 と見みなす。	N

Line 2

桁けた	桁数けたすう	詳細しょうさい	シンボル
1	1	要素ようそデータ行ぎょう番号ばんごう。 Line 2 では必かならず 2	2
3–7	5	衛星えいせいカタログ番号ばんごう（Line 1 と同一どういつ）	BBBBB
9–16	8	軌道きどう傾斜けいしゃ角かく。単位たんいは [度ど]	PPP.PPPP
18–25	8	昇のぼり交点こうてんの赤あか経けい。単位たんいは [度ど]	QQQ.QQQQ
27–33	7	離はなれ心しん率りつ。先頭せんとうに小数点しょうすうてんがあるものと見みなされる。	RRRRRRR
35–42	8	近きん地点ちてん引数ひきすう。単位たんいは [度ど]	SSS.SSSS
44–51	8	平均へいきん近きん点てん角かく（Mean Anomaly）。単位たんいは [度ど]	TTT.TTTT
53–63	11	平均へいきん運動うんどう (Mean Motion)。単位たんいは [回転かいてん/day]	UU.UUUUUUUU
64–68	5	元もと期きにおける通算つうさん周回しゅうかい数すう。軌道きどう上じょうに打上うちあげられてから最初さいしょに昇のぼり交点こうてんを通過つうかするまでを 0 周しゅう目めとして、昇のぼり交点こうてんを通過つうかするごとに 1ずつ増ふえる値ね。	VVVVV
69	1	Line 2 チェックサム。計算けいさん方法ほうほうは Line 1 と同おなじ	W

実際じっさいの形式けいしきの例れい

以下いかに具体ぐたい例れいをあげる。

ISS (ZARYA)
1 25544U 98067A   22095.91869325  .00012930  00000-0  23502-3 0  9991
2 25544  51.6452 334.5328 0004408 351.0413  99.6998 15.49890618333972

MIDORI (ADEOS)          
1 24277U 96046A   09116.47337938 -.00000023  00000-0  73445-5 0   432
2 24277  98.3597  83.2073 0002090  64.7512 295.3886 14.28595439661547

ORBCOMM FM08 [+]        
1 25112U 97084A   09116.51259343  .00000203  00000-0  12112-3 0  2154
2 25112  45.0199 241.1109 0010042 194.4473 165.6089 14.34380830592834

軌道きどう要素ようそ間あいだの関係かんけい

軌道きどう要素ようそのうち、2行ぎょう軌道きどう要素ようそ形式けいしきには次つぎの要素ようそが直接ちょくせつ含ふくまれている。

$t_{0}$ : 元もと期き (Epoch)

$i_{0}$ : 元もと期きにおける 軌道きどう傾斜けいしゃ角かく (inclination)

$\Omega _{0}$ : 元もと期きにおける 昇のぼり交点こうてん赤あか経けい (longitude of the ascending node)

$e_{0}$ : 元もと期きにおける軌道きどう離はなれ心しん率りつ (Orbital eccentricity)

$\omega _{0}$ : 元もと期きにおける近きん点てん引数ひきすう (Argument of periapsis)

$M_{0}$ : 元もと期きにおける平均へいきん近きん点てん角かく (mean anomaly)

$n_{0}$ : 元もと期きにおける平均へいきん運動うんどう (Mean Motion)

これらの要素ようそは、厳密げんみつな二に体たい問題もんだいが成立せいりつする場合ばあいは定数ていすうであるが、次つぎのような原因げんいんによる摂動せつどうで変動へんどうする。

• 地球ちきゅうの重力じゅうりょくポテンシャルの球たま対称たいしょうからのずれ
• 地球ちきゅうの大気たいきによる抗力こうりょく
• 太陽光たいようこう圧あつ、太陽たいよう風圧ふうあつ
• 地球ちきゅう以外いがいの天体てんたい(月つき、太陽たいよう、他たの惑星わくせいなど)の重力じゅうりょく

2行ぎょう軌道きどう要素ようそ形式けいしきには、主おもに平均へいきん運動うんどうの時間じかん変動へんどうを補正ほせいする、次つぎのような情報じょうほうが含ふくまれている。

${\dot {n}}_{0}/2$ : 元もと期きにおける平均へいきん運動うんどうの時間じかんについての1次じ微分びぶんを2で割わった値ね。

${\ddot {n}}_{0}/6$ : 元もと期きにおける平均へいきん運動うんどうの時間じかんについての2次じ微分びぶんを6で割わった値ね。

B* : 地球ちきゅう大気たいきの抗力こうりょくによる平均へいきん運動うんどうへの影響えいきょうを表あらわすパラメーター

${\dot {n}}_{0}/2$ および ${\ddot {n}}_{0}/6$ はSGPで用もちいられているが、SGP4では用もちいられていない。逆ぎゃくに B* はSGP4で用もちいられているが、SGPでは用もちいられていない。

SGPやSGP4では、地球ちきゅうの重力じゅうりょくポテンシャルのモデルなどを用もちいて、2行ぎょう軌道きどう要素ようそ形式けいしきに含ふくまれる元もと期き t₀ における軌道きどう要素ようその値ねから、任意にんいの時刻じこく t における次つぎの軌道きどう要素ようその値ねを予測よそくしている。

$i$ : 時刻じこく $t$における軌道きどう傾斜けいしゃ角かく

$\Omega$ : 時刻じこく $t$における昇のぼり交点こうてん赤あか経けい

$e$ : 時刻じこく $t$における軌道きどう離はなれ心しん率りつ

$\omega$ : 時刻じこく $t$における近きん点てん引数ひきすう

$M$ : 時刻じこく $t$における平均へいきん近きん点てん角かく

$n$ : 時刻じこく $t$おける平均へいきん運動うんどう

以下いかの軌道きどう要素ようそは、2行ぎょう軌道きどう要素ようそ形式けいしきには元もと期き t₀ における値ねが直接ちょくせつは含ふくまれていないが、任意にんいの時刻じこく t における平均へいきん運動うんどう n と離はなれ心しん率りつ e から、t における値ねを計算けいさん可能かのうである。

$a$ : 時刻じこく $t$における軌道きどう長ちょう半径はんけい(Semimajor axis)

$l$ : 時刻じこく $t$における半はん通どおり径みち(または半はん直ちょく弦つる)(semi-latus rectum)

$q$ : 時刻じこく $t$における近きん点てん距離きょり (Periapsis)

$Q$ : 時刻じこく $t$における遠とお点てん距離きょり (Ap(o)apsis)

$T$ : 時刻じこく $t$における軌道きどう周期しゅうき(Orbital period)

これらには、次つぎのような関係かんけいがある。

$a={\sqrt[{3}]{\frac {GM_{E}}{n^{2}}}}$

$l=a(1-e^{2})$

$Q=a(1+e)$

$q=a(1-e)$

$T={\frac {2\pi }{n}}$

ここで GM_E は地ち心こころ重力じゅうりょく定数ていすう(万有引力ばんゆういんりょく定数ていすうと地球ちきゅう質量しつりょうの積せき)でありGM_E = 3.986004418(8)×10¹⁴ m³ s⁻² である。

地球ちきゅう中心ちゅうしんと衛星えいせい間あいだの距離きょりを r とすると、 r は真ま近きん点てん角かく νにゅー の関数かんすうとして次つぎの形かたちに表あらわすことができる。

$r={\frac {l}{1+e\cos \nu }}$

また、r は、離はなれ心こころ近きん点てん角かく E の関数かんすうとして次つぎの形かたちに表あらわすことができる。

$r=a(1-e\cos E)$

真ま近きん点てん角かく νにゅー と離はなれ心こころ近きん点てん角かく E の関係かんけいは、次つぎのようになる。

$\tan {\frac {\nu }{2}}={\sqrt {\frac {1+e}{1-e}}}\tan {\frac {E}{2}}$

離はなれ心こころ近きん点てん角かく E と平均へいきん近きん点てん角かく M の関係かんけいは次つぎの式しき(ケプラー方程式ほうていしき)で表あらわされる。

$M=E-e\sin E$

平均へいきん近きん点てん角かく M は次つぎの式しきで表あらわされる。

$M=M_{0}+{n_{0}}(t-t_{0})+\delta M$

δでるたM は摂動せつどうによる M の変動へんどうを表あらわす項こうであり、摂動せつどうがなければ δでるたM = 0 である。

時刻じこく t における 平均へいきん運動うんどう n は 、時刻じこく t における平均へいきん近きん点てん角かく M の時間じかん微分びぶんである。

$n={\dot {M}}=n_{0}+\delta {\dot {M}}$

外部がいぶリンク

• CelesTrak
• Space track(United States Space Surveillance Network)
• Human Space Flight (HSF) - Realtime Data - NASA
• きどうようそのひみつ