エントロピー (英 えい : entropy )は、熱 ねつ 力学 りきがく および統計 とうけい 力学 りきがく において定義 ていぎ される示 しめせ 量 りょう 性 せい の状態 じょうたい 量 りょう である。熱 ねつ 力学 りきがく において断熱 だんねつ 条件下 じょうけんか での不 ふ 可逆 かぎゃく 性 せい を表 あらわ す指標 しひょう として導入 どうにゅう され、統計 とうけい 力学 りきがく において系 けい の微視的 びしてき な「乱雑 らんざつ さ」[注 ちゅう 1] を表 あらわ す物理 ぶつり 量 りょう という意味 いみ 付 づ けがなされた。統計 とうけい 力学 りきがく での結果 けっか から、系 けい から得 え られる情報 じょうほう に関係 かんけい があることが指摘 してき され、情報 じょうほう 理論 りろん にも応用 おうよう されるようになった。物理 ぶつり 学者 がくしゃ のエドウィン・ジェインズ (英語 えいご 版 ばん ) のようにむしろ物理 ぶつり 学 がく におけるエントロピーを情報 じょうほう 理論 りろん の一 いち 応用 おうよう とみなすべきだと主張 しゅちょう する者 もの [誰 だれ ? ] もいる。
エントロピーはエネルギー を温度 おんど で割 わ った次元 じげん を持 も ち、SI における単位 たんい はジュール 毎 まい ケルビン (記号 きごう : J/K)である。エントロピーと同 おな じ次元 じげん を持 も つ量 りょう として熱容量 ねつようりょう がある。エントロピーは一般 いっぱん に記号 きごう S を用 もち いて表 あらわ される。これは夭折 ようせつ したサディ・カルノー にちなんでクラウジウスがSを選 えら んだとの俗説 ぞくせつ があるが、インドで出版 しゅっぱん された”The Sterling Dictionary of Chemistry”という書籍 しょせき によるもので、おそらく真実 しんじつ では無 な い。
エントロピーは、ルドルフ・クラウジウス の造語 ぞうご である。ギリシャ語 ご 由来 ゆらい であり、"ε いぷしろん κ かっぱ "("en")と、英語 えいご の"transformation"に相当 そうとう する"τροπή"という語根 ごこん から成 な る[1] 。
和製 わせい 漢語 かんご では「内 うち 転 てん 勢力 せいりょく 」[2] などと訳 やく される。現代 げんだい 中国 ちゅうごく 語 ご では「熵 shāng」という字 じ で表現 ひょうげん される
物理 ぶつり 学者 がくしゃ のレオン・クーパー は、造語 ぞうご 「エントロピー」に対 たい して、「彼 かれ (クラジウス)は誰 だれ にとっても同 おな じもの、つまり『何 なに も意味 いみ しない言葉 ことば 』の造語 ぞうご に成功 せいこう した」[3] とコメントしている[4] 。
エントロピーは、熱 ねつ 力学 りきがく 、統計 とうけい 力学 りきがく 、情報 じょうほう 理論 りろん など様々 さまざま な分野 ぶんや で使 つか われている。しかし分野 ぶんや によって、その定義 ていぎ や意味 いみ 付 づ けは異 こと なる。よってエントロピーを一言 ひとこと で説明 せつめい することは難 むずか しいが、大 おお まかに「何 なに をすることができて、何 なに をすることができないかを、その大小 だいしょう で表 あらわ すような量 りょう 」であると言 い える。
エントロピーに関 かか わる有名 ゆうめい な性質 せいしつ として、熱 ねつ 力学 りきがく におけるエントロピー増大 ぞうだい 則 そく がある。エントロピー増大 ぞうだい 則 そく は、断熱 だんねつ 条件 じょうけん の下 した で系 けい がある平衡 へいこう 状態 じょうたい から別 べつ の平衡 へいこう 状態 じょうたい へ移 うつ るとき、遷移 せんい の前 ぜん 後 うしろ で系 けい のエントロピーが減少 げんしょう せず、殆 ほとん ど必 かなら ず増加 ぞうか することを主張 しゅちょう する。断熱 だんねつ 条件 じょうけん の下 した で系 けい の平衡 へいこう 状態 じょうたい が A から B への遷移 せんい が可能 かのう な場合 ばあい 、系 けい のそれぞれの平衡 へいこう 状態 じょうたい におけるエントロピーの間 あいだ には
S
(
A
)
≤
S
(
B
)
{\displaystyle S({\text{A}})\leq S({\text{B}})}
の関係 かんけい が成 な り立 た つ。等号 とうごう が成 な り立 た ち、状態 じょうたい を移 うつ る前後 ぜんご でエントロピーが変化 へんか しない場合 ばあい には、逆 ぎゃく 向 む きの B から A への遷移 せんい が可能 かのう である。逆 ぎゃく 向 む きの遷移 せんい が可能 かのう なのは準 じゅん 静的 せいてき な断熱 だんねつ 過程 かてい だけである。逆 ぎゃく 向 む きの断熱 だんねつ 過程 かてい が存在 そんざい しないならば、状態 じょうたい の遷移 せんい に伴 ともな ってエントロピーが必 かなら ず増加 ぞうか する。
エントロピー増大 ぞうだい 則 そく は熱 ねつ 力学 りきがく の特徴 とくちょう である可逆 かぎゃく 性 せい と不 ふ 可逆 かぎゃく 性 せい を特徴付 とくちょうづ ける法則 ほうそく であり、エントロピーは熱 ねつ 力学 りきがく における最 もっと も基本 きほん 的 てき な量 りょう である。
固体 こたい の模 も 式 しき 図 ず
液体 えきたい や気体 きたい の模 も 式 しき 図 ず
氷 こおり のような結晶 けっしょう 性 せい の固体 こたい は、結晶 けっしょう 構造 こうぞう に従 したが って分子 ぶんし が配列 はいれつ される。
一方 いっぽう 、水 みず のような液体 えきたい や水蒸気 すいじょうき のような気体 きたい は、自由 じゆう な分子 ぶんし 配置 はいち をとれる。
このため、液体 えきたい や気体 きたい が取 と り得 え る状態 じょうたい の数 かず が固体 こたい に比 くら べて大 おお きく、エントロピーも大 おお きい。
エントロピーに関 かん する法則 ほうそく としてもう一 ひと つよく知 し られるものに、統計 とうけい 力学 りきがく におけるボルツマンの原理 げんり がある。ボルツマンの原理 げんり は、ある巨視的 きょしてき な系 けい のエントロピーを、その系 けい が取 と り得 え る微視的 びしてき な状態 じょうたい の数 かず と関係 かんけい づける。微視的 びしてき な状態 じょうたい 数 すう が W のときのエントロピーは
S
=
k
ln
W
{\displaystyle S=k\ln W}
で表 あらわ される。比例 ひれい 係数 けいすう k はボルツマン定数 ていすう と呼 よ ばれる[6] 。系 けい の巨視的 きょしてき な状態 じょうたい は、系 けい のエネルギー や体積 たいせき 、物質 ぶっしつ 量 りょう などの巨視的 きょしてき な物理 ぶつり 量 りょう の組 くみ によって定 さだ められるが、それらの巨視的 きょしてき な物理 ぶつり 量 りょう を定 さだ めたとしても系 けい の微視的 びしてき 状態 じょうたい は完全 かんぜん には定 さだ まらず、いくつかの状態 じょうたい を取 と り得 え る。状態 じょうたい 数 すう とは巨視的 きょしてき な拘束 こうそく 条件 じょうけん の下 した で可能 かのう な微視的 びしてき 状態 じょうたい の数 かず を見積 みつ もったものである。ボルツマンの原理 げんり から、可能 かのう な微視的 びしてき 状態 じょうたい の数 かず が増 ふ えるほどにエントロピーが大 おお きいことが解 ほどけ る(対数 たいすう は狭義 きょうぎ の単調 たんちょう 増加 ぞうか 関数 かんすう である)。逆 ぎゃく に、微視的 びしてき 状態 じょうたい が確定 かくてい する[注 ちゅう 2] W = 1 の状況 じょうきょう ではエントロピーが S = 0 となる。可能 かのう な微視的 びしてき 状態 じょうたい の数 かず が増 ふ えるということは、巨視的 きょしてき な情報 じょうほう しか知 し り得 え ないとすれば、それだけ微視的 びしてき 世界 せかい に関 かん する情報 じょうほう が欠如 けつじょ していると捉 とら えることができ、この意味 いみ でボルツマンの原理 げんり はエントロピーの微視的 びしてき 乱雑 らんざつ さを表 あらわ す指標 しひょう としての性格 せいかく を示 しめ している。
ルドルフ・クラウジウス
エントロピーは、ドイツの物理 ぶつり 学者 がくしゃ ルドルフ・クラウジウス が、カルノーサイクル の研究 けんきゅう をする中 なか で、移動 いどう する熱 ねつ を温度 おんど で割 わ ったQ /T という形 かたち で導入 どうにゅう され、当初 とうしょ は熱 ねつ 力学 りきがく における可逆 かぎゃく 性 せい と不 ふ 可逆 かぎゃく 性 せい を研究 けんきゅう するための概念 がいねん であった。後 のち に原子 げんし の実在 じつざい 性 せい を強 つよ く確信 かくしん したオーストリアの物理 ぶつり 学者 がくしゃ ルートヴィッヒ・ボルツマン によって、エントロピーが原子 げんし や分子 ぶんし の「乱雑 らんざつ さの尺度 しゃくど 」であることが論証 ろんしょう された。
クラウジウスは1854年 ねん にクラウジウスの不等式 ふとうしき として熱 ねつ 力学 りきがく 第 だい 二 に 法則 ほうそく を表現 ひょうげん していたが、彼 かれ 自身 じしん によって「エントロピー」の概念 がいねん が明確 めいかく 化 か されるまでにはそれから11年 ねん を要 よう した。不可 ふか 逆 ぎゃく サイクルでゼロとならないこの量 りょう をクラウジウスは仕事 しごと と熱 ねつ の間 あいだ の「変換 へんかん 」で補償 ほしょう されない量 りょう として、1865年 ねん の論文 ろんぶん においてエントロピーと名付 なづ けた。エントロピーという言葉 ことば は「変換 へんかん 」を意味 いみ するギリシア語 ご : τροπή (トロペー)に由来 ゆらい している。
その後 ご ボルツマンやギブスによって統計 とうけい 力学 りきがく 的 てき な取 と り扱 あつか いが始 はじ まった。情報 じょうほう 理論 りろん (直接的 ちょくせつてき には通信 つうしん の理論 りろん )における情報 じょうほう 量 りょう の定式 ていしき 化 か が行 おこな われたのは、クロード・シャノン の1948年 ねん 『通信 つうしん の数学 すうがく 的 てき 理論 りろん 』である。シャノンは熱 ねつ 統計 とうけい 力学 りきがく とは独立 どくりつ に定式 ていしき 化 か にたどり着 つ き、エントロピーという命名 めいめい はフォン・ノイマン の勧 すす めによる、と言 い われることがあるが、シャノンはフォン・ノイマンの関与 かんよ を否定 ひてい している[7] 。
熱 ねつ エントロピーの説明 せつめい 用 よう の図 ず 。
エントロピーは、熱 ねつ 力学 りきがく における断熱 だんねつ 過程 かてい の不 ふ 可逆 かぎゃく 性 せい を特徴付 とくちょうづ ける量 りょう として位置付 いちづ けられる。熱 ねつ 力学 りきがく では、系 けい のすべての熱 ねつ 力学 りきがく 的 てき な性質 せいしつ が、一 ひと つの関数 かんすう によってまとめて表現 ひょうげん される。そのような関数 かんすう は完全 かんぜん な熱 ねつ 力学 りきがく 関数 かんすう と呼 よ ばれる。エントロピーは完全 かんぜん な熱 ねつ 力学 りきがく 関数 かんすう の一 ひと つでもある。
エントロピーの定義 ていぎ の方法 ほうほう には、いくつかのスタイルがある。
以下 いか のエントロピーの説明 せつめい は、クラウジウスが1865年 ねん の論文 ろんぶん の中 なか で行 おこな ったものを基 もと にしている。クラウジウスは熱 ねつ を用 もち いてエントロピーを定義 ていぎ した。この方法 ほうほう による説明 せつめい は多 おお くの文献 ぶんけん で採用 さいよう されている。
温度 おんど T 1 の吸熱源 げん から Q 1 の熱 ねつ を得 え て、温度 おんど T 2 の排 はい 熱源 ねつげん に Q 2 の熱 ねつ を捨 す てる熱 ねつ 機関 きかん (サイクル)を考 かんが える。この熱 ねつ 機関 きかん が外部 がいぶ に行 おこな う仕事 しごと はエネルギー保存 ほぞん 則 そく から W = Q 1 − Q 2 であり、熱 ねつ 機関 きかん の熱 ねつ 効率 こうりつ η いーた は
η いーた
=
W
Q
1
=
1
−
Q
2
Q
1
{\displaystyle \eta ={\frac {W}{Q_{1}}}=1-{\frac {Q_{2}}{Q_{1}}}}
で与 あた えられる。
カルノーの定理 ていり によれば、熱 ねつ 機関 きかん の熱 ねつ 効率 こうりつ には二 ふた つの熱源 ねつげん の温度 おんど によって決 き まる上限 じょうげん の存在 そんざい が導 みちび かれ、その上限 じょうげん は
η いーた
≤
η いーた
m
a
x
=
1
−
T
2
T
1
{\displaystyle \eta \leq \eta _{\mathrm {max} }=1-{\frac {T_{2}}{T_{1}}}}
で表 あらわ される[注 ちゅう 3] 。
これら2本 ほん の式 しき を整理 せいり することで、
Q
1
T
1
≤
Q
2
T
2
{\displaystyle {\frac {Q_{1}}{T_{1}}}\leq {\frac {Q_{2}}{T_{2}}}}
(*
)
が成立 せいりつ することが分 わ かる。
可逆 かぎゃく な熱 ねつ 機関 きかん の熱 ねつ 効率 こうりつ は η いーた max と等 ひと しく、このため可逆 かぎゃく な熱 ねつ 機関 きかん では(*) 式 しき は等号 とうごう
Q
1
T
1
=
Q
2
T
2
{\displaystyle {\frac {Q_{1}}{T_{1}}}={\frac {Q_{2}}{T_{2}}}}
(†
)
が成 な り立 た つ。すなわち、可逆 かぎゃく な過程 かてい で高熱 こうねつ 源 げん に接 せっ している状態 じょうたい から低 てい 熱源 ねつげん に接 せっ している状態 じょうたい に変化 へんか させたとしても Q /T という量 りょう は不変 ふへん となる。クラウジウスはこの不 ふ 変量 へんりょう をエントロピー と呼 よ んだ。
可逆 かぎゃく でない熱 ねつ 機関 きかん は熱 ねつ 効率 こうりつ が η いーた max よりも悪 わる いことが知 し られており、このため可逆 かぎゃく でない熱 ねつ 機関 きかん では(*) 式 しき は等号 とうごう ではなく不等式 ふとうしき
Q
1
T
1
<
Q
2
T
2
{\displaystyle {\frac {Q_{1}}{T_{1}}}<{\frac {Q_{2}}{T_{2}}}}
が成 な り立 た つ。すなわち、可逆 かぎゃく でない過程 かてい で高熱 こうねつ 源 げん で熱 ねつ を得 え た後 のち 、低 てい 熱源 ねつげん でその熱 ねつ を捨 す てるとエントロピーは増大 ぞうだい する(エントロピー増大 ぞうだい 則 そく )。
上 うえ では話 はなし を簡単 かんたん にするため、高熱 こうねつ 源 げん と低 てい 熱源 ねつげん の2つしか熱源 ねつげん がない場合 ばあい を考 かんが えたが、より一般 いっぱん にn 個 こ の熱源 ねつげん がある状況 じょうきょう を考 かんが えると(*) 式 しき は
∑
i
=
1
n
Q
i
T
i
≤
0
{\displaystyle \sum _{i=1}^{n}{\frac {Q_{i}}{T_{i}}}\leq 0}
となる(クラウジウスの不等式 ふとうしき )。ただし上 じょう の不等式 ふとうしき では(*) 式 しき と違 ちが いQi は全 すべ て温度 おんど Ti の熱源 ねつげん から得 え る熱 ねつ であり、熱 ねつ を捨 す てる場合 ばあい は負 まけ の値 ね としている。
可逆 かぎゃく なサイクルでは等号 とうごう
∑
i
=
1
n
Q
i
T
i
=
0
{\displaystyle \sum _{i=1}^{n}{\frac {Q_{i}}{T_{i}}}=0}
が成 な り立 た ち、この式 しき でn →∞ とすると、
∮
d
′
Q
T
=
0
{\displaystyle \oint {\frac {d'Q}{T}}=0}
となる[注 ちゅう 4] 。状態 じょうたい A から状態 じょうたい B へと移 うつ る任意 にんい の可逆 かぎゃく 過程 かてい C ,C' を考 かんが え、−C をC の逆 ぎゃく 過程 かてい とする。このとき、C' と−C を連結 れんけつ させた過程 かてい C' −C は可逆 かぎゃく なサイクルとなり
∮
C
′
−
C
d
′
Q
T
=
∫
C
′
d
′
Q
T
+
∫
−
C
d
′
Q
T
=
∫
C
′
d
′
Q
T
−
∫
C
d
′
Q
T
=
0
{\displaystyle \oint _{C'-C}{\frac {d'Q}{T}}=\int _{C'}{\frac {d'Q}{T}}+\int _{-C}{\frac {d'Q}{T}}=\int _{C'}{\frac {d'Q}{T}}-\int _{C}{\frac {d'Q}{T}}=0}
∫
C
′
d
′
Q
T
=
∫
C
d
′
Q
T
{\displaystyle \int _{C'}{\frac {d'Q}{T}}=\int _{C}{\frac {d'Q}{T}}}
(**
)
が成 な り立 た つ。つまり、この積分 せきぶん の値 ね は始 はじめ 状態 じょうたい と終 おわり 状態 じょうたい が同 おな じならば可逆 かぎゃく 過程 かてい の選 えら び方 かた によらない。
そこで、適当 てきとう に基準 きじゅん となる状態 じょうたい O と、そのときの基準 きじゅん 値 ち S 0 を決 き めると、状態 じょうたい A におけるエントロピー S (A) を
S
(
A
)
=
S
0
+
∫
Γ がんま
(
A
)
d
′
Q
T
{\displaystyle S({\text{A}})=S_{0}+\int _{\Gamma ({\text{A}})}{\frac {d'Q}{T}}}
と定義 ていぎ することができる。ここでΓ がんま (A) は基準 きじゅん 状態 じょうたい O から状態 じょうたい A へと変化 へんか する可逆 かぎゃく な過程 かてい である。(**) 式 しき からエントロピーの定義 ていぎ は可逆 かぎゃく 過程 かてい Γ がんま (A) の選 えら び方 かた によらない。
基準 きじゅん 状態 じょうたい O から状態 じょうたい A へと移 うつ る可逆 かぎゃく 過程 かてい Γ がんま (A) と、状態 じょうたい A から状態 じょうたい B へと移 うつ るある可逆 かぎゃく 過程 かてい C を連結 れんけつ させた過程 かてい Γ がんま (A)+C は基準 きじゅん 状態 じょうたい O から状態 じょうたい B へと移 うつ る可逆 かぎゃく 過程 かてい である。したがって、
∫
Γ がんま
(
A
)
d
′
Q
T
+
∫
C
d
′
Q
T
=
∫
Γ がんま
(
A
)
+
C
d
′
Q
T
=
∫
Γ がんま
(
B
)
d
′
Q
T
{\displaystyle \int _{\Gamma ({\text{A}})}{\frac {d'Q}{T}}+\int _{C}{\frac {d'Q}{T}}=\int _{\Gamma (A)+C}{\frac {d'Q}{T}}=\int _{\Gamma ({\text{B}})}{\frac {d'Q}{T}}}
あるいは
Δ でるた
S
=
S
(
B
)
−
S
(
A
)
=
∫
C
d
′
Q
T
{\displaystyle \Delta S=S({\text{B}})-S({\text{A}})=\int _{C}{\frac {d'Q}{T}}}
となる。
状態 じょうたい A から状態 じょうたい B へと移 うつ る任意 にんい の過程 かてい X と、同 おな じく状態 じょうたい A から状態 じょうたい B へと移 うつ る可逆 かぎゃく 過程 かてい C を考 かんが え、−C をC の逆 ぎゃく 過程 かてい とする。このときX と−C を連結 れんけつ させた過程 かてい X −C はサイクルとなる。
このサイクルについて、導出 どうしゅつ と同様 どうよう にクラウジウスの不等式 ふとうしき から
∮
X
−
C
d
′
Q
T
ex
=
∫
X
d
′
Q
T
ex
+
∫
−
C
d
′
Q
T
ex
=
∫
X
d
′
Q
T
ex
−
∫
C
d
′
Q
T
ex
≤
0
{\displaystyle \oint _{X-C}{\frac {d'Q}{T_{\text{ex}}}}=\int _{X}{\frac {d'Q}{T_{\text{ex}}}}+\int _{-C}{\frac {d'Q}{T_{\text{ex}}}}=\int _{X}{\frac {d'Q}{T_{\text{ex}}}}-\int _{C}{\frac {d'Q}{T_{\text{ex}}}}\leq 0}
∫
X
d
′
Q
T
ex
≤
∫
C
d
′
Q
T
ex
{\displaystyle \int _{X}{\frac {d'Q}{T_{\text{ex}}}}\leq \int _{C}{\frac {d'Q}{T_{\text{ex}}}}}
が導 みちび かれる。ここでT ex は熱源 ねつげん の温度 おんど であり、一般 いっぱん には系 けい の温度 おんど T とは一致 いっち しない。しかし、可逆 かぎゃく 過程 かてい C の間 あいだ においては、系 けい は常 つね に平衡 へいこう 状態 じょうたい にあるとみなされるから、熱源 ねつげん の温度 おんど T ex は系 けい の温度 おんど T に一致 いっち する。したがって
∫
X
d
′
Q
T
ex
≤
∫
C
d
′
Q
T
=
Δ でるた
S
{\displaystyle \int _{X}{\frac {d'Q}{T_{\text{ex}}}}\leq \int _{C}{\frac {d'Q}{T}}=\Delta S}
となる。
特 とく に断熱 だんねつ 系 けい (外 そと から仕事 しごと が加 くわ えられても良 よ い)においてはd' Q = 0 なので、
Δ でるた
S
≥
0
{\displaystyle \Delta S\geq 0}
という結果 けっか が得 え られる。これがエントロピー増大 ぞうだい 則 そく である。熱 ねつ 力学 りきがく 第 だい 二 に 法則 ほうそく と同値 どうち なクラウジウスの不等式 ふとうしき からこれが求 もと められたことにより、熱 ねつ 力学 りきがく 第 だい 一 いち 法則 ほうそく がエネルギー保存 ほぞん 則 そく と対応 たいおう するのになぞらえて熱 ねつ 力学 りきがく 第 だい 二 に 法則 ほうそく とエントロピー増大 ぞうだい 則 そく を対応 たいおう させることもある。なお、この導出 どうしゅつ から明 あき らかなように、熱 ねつ の出入 でい りがある系 けい ではエントロピーが減少 げんしょう することも当然 とうぜん 起 お こり得 え る。
エントロピーが増加 ぞうか するために、熱 ねつ エネルギーのすべてを他 た のエネルギーに変換 へんかん することはできない。したがって、熱 ねつ エネルギーは低 てい 品質 ひんしつ のエネルギーとも呼 よ ばれる。
熱 ねつ 力学 りきがく 第 だい 一 いち 法則 ほうそく から、ある熱 ねつ 力学 りきがく 過程 かてい の間 あいだ に系 けい が外部 がいぶ から得 え る熱 ねつ Q は、その過程 かてい の前後 ぜんご での系 けい の内部 ないぶ エネルギーU の変化 へんか Δ でるた U と、その過程 かてい の間 あいだ に系 けい が外部 がいぶ になす仕事 しごと W により
Q
=
Δ でるた
U
+
W
{\displaystyle Q=\Delta U+W}
と表 あらわ すことができる。無限 むげん 小 しょう の変化 へんか で考 かんが えると
d
′
Q
=
d
U
+
d
′
W
{\displaystyle d'Q=dU+d'W}
となる[注 ちゅう 4] 。クラウジウスの不等式 ふとうしき とエントロピーの定義 ていぎ 式 しき から無限 むげん 小 しょう 変化 へんか に対 たい して
d
S
≥
d
′
Q
T
ex
{\displaystyle dS\geq {\frac {d'Q}{T_{\text{ex}}}}}
となる。系 けい が体積 たいせき V の変化 へんか dV を通 とお してのみ外部 がいぶ に仕事 しごと をなす場合 ばあい には、外部 がいぶ の圧力 あつりょく をp ex として
d
′
W
=
p
ex
d
V
{\displaystyle d'W=p_{\text{ex}}dV}
となる。これらをまとめると
d
S
≥
1
T
ex
(
d
U
+
p
ex
d
V
)
{\displaystyle dS\geq {\frac {1}{T_{\text{ex}}}}(dU+p_{\text{ex}}dV)}
が成 な り立 た つことがわかる。可逆 かぎゃく 過程 かてい では等号 とうごう
d
S
=
1
T
ex
(
d
U
+
p
ex
d
V
)
{\displaystyle dS={\frac {1}{T_{\text{ex}}}}(dU+p_{\text{ex}}dV)}
が成 な り立 た ち、さらに準 じゅん 静的 せいてき 過程 かてい では系 けい と外部 がいぶ が熱 ねつ 平衡 へいこう および力学 りきがく 的 てき 平衡 へいこう にあるので、外部 がいぶ の温度 おんど T ex は系 けい の温度 おんど T に等 ひと しく、外部 がいぶ の圧力 あつりょく p ex は系 けい の圧力 あつりょく p に等 ひと しい。すなわち、(U ,V ) で表 あらわ される平衡 へいこう 状態 じょうたい から(U +dU ,V +dV ) で表 あらわ される平衡 へいこう 状態 じょうたい への準 じゅん 静的 せいてき な無限 むげん 小 しょう 変化 へんか では
d
S
=
1
T
(
d
U
+
p
d
V
)
{\displaystyle dS={\frac {1}{T}}(dU+pdV)}
となる。
系 けい と外部 がいぶ の間 あいだ で物質 ぶっしつ の出入 でい りがなく、外 そと 場 じょう の作用 さよう も受 う けていないときには、平衡 へいこう 状態 じょうたい にある系 けい の温度 おんど と圧力 あつりょく は、(U ,V ) の関数 かんすう として一意 いちい に定 さだ まることが経験 けいけん 的 てき に知 し られている。系 けい の温度 おんど と圧力 あつりょく がそれぞれT (U ,V ) とp (U ,V ) で表 あらわ されるとき、不可 ふか 逆 ぎゃく 過程 かてい においても、(U ,V ) で表 あらわ される平衡 へいこう 状態 じょうたい から(U +dU ,V +dV ) で表 あらわ される平衡 へいこう 状態 じょうたい への無限 むげん 小 しょう 変化 へんか で、準 じゅん 静的 せいてき 過程 かてい と同 おな じ式 しき
d
S
=
1
T
(
U
,
V
)
(
d
U
+
p
(
U
,
V
)
d
V
)
{\displaystyle dS={\frac {1}{T(U,V)}}(dU+p(U,V)dV)}
が成 な り立 た つ。なぜなら、左辺 さへん のdS が状態 じょうたい 量 りょう S の変化 へんか 量 りょう なので、右辺 うへん もまた途中 とちゅう の過程 かてい に依 よ らないからである。この式 しき をS (U ,V ) の全 ぜん 微分 びぶん dS と比 くら べると、直 ただ ちに偏 へん 微分 びぶん
(
∂
S
∂
U
)
V
=
1
T
,
(
∂
S
∂
V
)
U
=
p
T
{\displaystyle \left({\frac {\partial S}{\partial U}}\right)_{V}={\frac {1}{T}},~\left({\frac {\partial S}{\partial V}}\right)_{U}={\frac {p}{T}}}
が得 え られる。
特 とく に前者 ぜんしゃ は、統計 とうけい 力学 りきがく において熱 ねつ 力学 りきがく 温度 おんど T を導入 どうにゅう する際 さい に用 もち いられる関係 かんけい 式 しき である(エントロピーの存在 そんざい を公理 こうり 的 てき に与 あた える論理 ろんり 展開 てんかい の場合 ばあい は、熱 ねつ 力学 りきがく においてもこの式 しき が熱 ねつ 力学 りきがく 温度 おんど の定義 ていぎ 式 しき である)。
系 けい と外部 がいぶ の間 あいだ で物質 ぶっしつ の出入 でい りがなく、外 そと 場 じょう の作用 さよう も受 う けていないとき、T (U ,V ) とp (U ,V ) の両方 りょうほう の関数 かんすう 形 がた が知 し られていれば、これら二 ふた つの関数 かんすう から、熱容量 ねつようりょう やエントロピーなどの、系 けい の全 すべ ての状態 じょうたい 量 りょう を計算 けいさん することができる。しかし、どちらか一方 いっぽう の関数 かんすう 形 がた が不明 ふめい な場合 ばあい は、これが不可能 ふかのう になる。例 たと えば、p (U ,V ) だけから系 けい の熱容量 ねつようりょう を計算 けいさん することは不可能 ふかのう である。また、T (U ,V ) だけからでは、体積 たいせき 変化 へんか に伴 ともな うエントロピー変化 へんか を求 もと めることはできない。一方 いっぽう 、S (U ,V ) が知 し られていれば、この関数 かんすう ひとつだけから、系 けい の全 すべ ての状態 じょうたい 量 りょう を計算 けいさん することができる。すなわち、系 けい と外部 がいぶ の間 あいだ で物質 ぶっしつ の出入 でい りがなく、外 そと 場 じょう の作用 さよう も受 う けていないとき、S (U ,V ) は完全 かんぜん な熱 ねつ 力学 りきがく 関数 かんすう となる。
エントロピーは内部 ないぶ エネルギーや体積 たいせき などの示 しめせ 量 りょう 性 せい 状態 じょうたい 量 りょう を変数 へんすう に持 も つとき、完全 かんぜん な熱 ねつ 力学 りきがく 関数 かんすう となる。系 けい が化学 かがく 反応 はんのう など物質 ぶっしつ の増減 ぞうげん によってエネルギーの移動 いどう が生 しょう じるときは
d
S
=
1
T
(
d
U
+
p
d
V
−
μ みゅー
d
N
)
{\displaystyle dS={\frac {1}{T}}(dU+pdV-\mu dN)}
となる。
ここで、N は物質 ぶっしつ 量 りょう 、μ みゅー は化学 かがく ポテンシャル である。さらに他 た の示 しめせ 量 りょう 性 せい 状態 じょうたい 量 りょう の変化 へんか dX によるエネルギーの移動 いどう があるときは、それに対応 たいおう する示 しめせ 強 きょう 性 せい 状態 じょうたい 量 りょう x として
d
S
=
1
T
(
d
U
+
p
d
V
−
μ みゅー
d
N
−
x
d
X
)
{\displaystyle dS={\frac {1}{T}}(dU+pdV-\mu dN-xdX)}
となる。
X とx の組 くみ としては
などがある。
エントロピーを完全 かんぜん な熱 ねつ 力学 りきがく 関数 かんすう として用 もち いる場合 ばあい の系 けい の平衡 へいこう 状態 じょうたい を表 あらわ す変数 へんすう は内部 ないぶ エネルギーと体積 たいせき などの示 しめせ 量 りょう 性 せい 変数 へんすう である。しかし、温度 おんど は測定 そくてい が容易 ようい なため、系 けい の平衡 へいこう 状態 じょうたい を表 あらわ す変数 へんすう として温度 おんど を選 えら ぶ場合 ばあい がある。
閉鎖 へいさ 系 けい で物質 ぶっしつ 量 りょう の変化 へんか を考 かんが えない場合 ばあい に、温度 おんど T と体積 たいせき V の関数 かんすう としてのエントロピー S (T ,V ) の温度 おんど T による偏 へん 微分 びぶん は
(
∂
S
∂
T
)
V
=
1
T
(
∂
U
∂
T
)
V
=
C
V
(
T
,
V
)
T
{\displaystyle \left({\frac {\partial S}{\partial T}}\right)_{V}={\frac {1}{T}}\left({\frac {\partial U}{\partial T}}\right)_{V}={\frac {C_{V}(T,V)}{T}}}
で与 あた えられる。ここで CV 定 てい 積 せき 熱容量 ねつようりょう である。
また、エントロピー S (T ,V ) の体積 たいせき V による偏 へん 微分 びぶん はMaxwellの関係 かんけい 式 しき より
(
∂
S
∂
V
)
T
=
(
∂
p
∂
T
)
V
{\displaystyle \left({\frac {\partial S}{\partial V}}\right)_{T}=\left({\frac {\partial p}{\partial T}}\right)_{V}}
で与 あた えられる。これは熱 ねつ 膨張 ぼうちょう 係数 けいすう α あるふぁ と等温 とうおん 圧縮 あっしゅく 率 りつ κ かっぱ T で表 あらわ せば
(
∂
S
∂
V
)
T
=
α あるふぁ
κ かっぱ
T
{\displaystyle \left({\frac {\partial S}{\partial V}}\right)_{T}={\frac {\alpha }{\kappa _{T}}}}
となる。
従 したが って、T -V 表示 ひょうじ によるエントロピーの全 ぜん 微分 びぶん は
d
S
=
C
V
T
d
T
+
(
∂
p
∂
T
)
V
d
V
=
C
V
T
d
T
+
α あるふぁ
κ かっぱ
T
d
V
{\displaystyle {\begin{aligned}dS&={\frac {C_{V}}{T}}\,dT+\left({\frac {\partial p}{\partial T}}\right)_{V}dV\\&={\frac {C_{V}}{T}}\,dT+{\frac {\alpha }{\kappa _{T}}}\,dV\\\end{aligned}}}
となる。
さらに体積 たいせき に変 か えて圧力 あつりょく p を変数 へんすう に用 もち いれば、体積 たいせき V (T ,p ) の全 ぜん 微分 びぶん が
d
V
=
V
(
α あるふぁ
d
T
−
κ かっぱ
T
d
p
)
{\displaystyle dV=V(\alpha \,dT-\kappa _{T}dp)}
であることを用 もち いれば、T -p 表示 ひょうじ によるエントロピーの全 ぜん 微分 びぶん は
d
S
=
C
p
T
d
T
−
V
α あるふぁ
d
p
{\displaystyle dS={\frac {C_{p}}{T}}\,dT-V\alpha \,dp}
となる。
低圧 ていあつ 領域 りょういき において実在 じつざい 気体 きたい の状態 じょうたい 方程式 ほうていしき をビリアル展開 てんかい
V
m
(
T
,
p
)
=
R
T
p
+
B
V
(
T
)
+
O
(
p
1
)
{\displaystyle V_{\text{m}}(T,p)={\frac {RT}{p}}+B_{V}(T)+O(p^{1})}
の形 かたち で書 か くと、モルエントロピー S m の圧力 あつりょく による偏 へん 微分 びぶん は、マクスウェルの関係 かんけい 式 しき より
(
∂
S
m
∂
p
)
T
=
−
(
∂
V
m
∂
T
)
p
=
−
R
p
−
d
B
V
d
T
+
O
(
p
1
)
{\displaystyle \left({\frac {\partial S_{\text{m}}}{\partial p}}\right)_{T}=-\left({\frac {\partial V_{\text{m}}}{\partial T}}\right)_{p}=-{\frac {R}{p}}-{\frac {dB_{V}}{dT}}+O(p^{1})}
となる。従 したが って、低圧 ていあつ 領域 りょういき においてモルエントロピーは
S
m
(
T
,
p
)
=
S
m
∘
(
T
)
−
R
ln
p
p
∘
−
p
d
B
V
d
T
+
O
(
p
2
)
{\displaystyle S_{\text{m}}(T,p)=S_{\text{m}}^{\circ }(T)-R\ln {\frac {p}{p^{\circ }}}-p\,{\frac {dB_{V}}{dT}}+O(p^{2})}
で表 あらわ される。ここで
S
m
∘
(
T
)
=
lim
p
→
0
{
S
m
(
T
,
p
)
+
R
ln
p
p
∘
}
{\displaystyle S_{\text{m}}^{\circ }(T)=\lim _{p\to 0}\left\{S_{\text{m}}(T,p)+R\ln {\frac {p}{p^{\circ }}}\right\}}
で定義 ていぎ される S °m (T ) は、温度 おんど T における標準 ひょうじゅん モルエントロピー であり、この実在 じつざい 気体 きたい が理想 りそう 気体 きたい の状態 じょうたい 方程式 ほうていしき に従 したが うと仮定 かてい した時 とき の、圧力 あつりょく p °におけるモルエントロピーに相当 そうとう する。
1999年 ねん にエリオット・リーブ とヤコブ・イングヴァソン は、「断熱 だんねつ 的 てき 到達 とうたつ 可能 かのう 性 せい 」という概念 がいねん を導入 どうにゅう して熱 ねつ 力学 りきがく を再 さい 構築 こうちく した。「状態 じょうたい Y が状態 じょうたい X から断熱 だんねつ 操作 そうさ で到達 とうたつ 可能 かのう である」ことを
X
≺
Y
{\displaystyle X\prec Y}
と表記 ひょうき し、この
≺
{\displaystyle \prec }
の性質 せいしつ からエントロピーの存在 そんざい と一意 いちい 性 せい を示 しめ した。
この公理 こうり 的 てき に基礎 きそ 付 づ けされた熱 ねつ 力学 りきがく によって、クラウジウスの方法 ほうほう で用 もち いられていた「熱 あつ い・冷 つめ たい」「熱 ねつ 」のような直感 ちょっかん 的 てき で無 む 定義 ていぎ な概念 がいねん を基礎 きそ から排除 はいじょ した。温度 おんど は無 む 定義 ていぎ な量 りょう ではなくエントロピーから導出 どうしゅつ される。このリーブとイングヴァソンによる再 さい 構築 こうちく 以来 いらい 、他 ほか にも熱 ねつ 力学 りきがく を再 さい 構築 こうちく する試 こころ みがいくつか行 おこな われている[17] 。
ある巨視的 きょしてき 状態 じょうたい (例 たと えば、圧力 あつりょく と体積 たいせき を指定 してい した状態 じょうたい )に対 たい して、それを与 あた える微視的 びしてき 状態 じょうたい (例 たと えば、各 かく 分子 ぶんし の位置 いち および運動 うんどう 量 りょう )は多数 たすう 存在 そんざい すると考 かんが えられる。そこで仮想 かそう 的 てき にアンサンブルを考 かんが える。つまり、ある巨視的 きょしてき 状態 じょうたい に対応 たいおう する微視的 びしてき 状態 じょうたい の集合 しゅうごう を考 かんが え、その各々 おのおの の元 もと が与 あた えられた巨視的 きょしてき 状態 じょうたい の下 した で実現 じつげん する確 かく 率 りつ 分布 ぶんぷ を与 あた えることにする。
系 けい の微視的 びしてき 状態 じょうたい (例 たと えば量子 りょうし 系 けい であればエネルギー固有 こゆう 状態 じょうたい )ω おめが を考 かんが え、微視的 びしてき 状態 じょうたい ω おめが が実現 じつげん される確 かく 率 りつ 分布 ぶんぷ p (ω おめが ) が与 あた えられているとき、ボルツマン定数 ていすう をk として、エントロピーS を
S
=
k
⟨
ln
1
p
(
ω おめが
)
⟩
=
−
k
∑
ω おめが
p
(
ω おめが
)
ln
p
(
ω おめが
)
{\displaystyle S=k\left\langle \ln {\frac {1}{p(\omega )}}\right\rangle =-k\sum _{\omega }p(\omega )\ln p(\omega )}
により定義 ていぎ する[注 ちゅう 5] 。これはギブズエントロピー (英 えい : Gibbs entropy )とも呼 よ ばれる。
すなわち、統計 とうけい 力学 りきがく におけるエントロピーは情報 じょうほう 理論 りろん におけるエントロピー (無 む 次元 じげん 量 りょう )と定数 ていすう 倍 ばい を除 のぞ いて一致 いっち する[注 ちゅう 6] 。
例 たと えば、エネルギーE の状態 じょうたい にある孤立 こりつ 系 けい に対応 たいおう して、小正 おばさ 準 じゅん 集団 しゅうだん を用 もち いるとする。すなわち、微視的 びしてき 状態 じょうたい ω おめが にあるときのエネルギーをE (ω おめが ) としたときに、系 けい のエネルギーE にある微視的 びしてき 状態 じょうたい のみに有限 ゆうげん の確 かく 率 りつ を等 ひと しく
p
(
ω おめが
)
=
{
1
/
Ω おめが
(
E
)
if
E
(
ω おめが
)
=
E
0
if
E
(
ω おめが
)
≠
E
{\displaystyle p(\omega )={\begin{cases}1/\Omega (E)&{\text{if }}E(\omega )=E\\0&{\text{if }}E(\omega )\neq E\end{cases}}}
として与 あた える[注 ちゅう 7] (等 とう 重 じゅう 率 りつ の原理 げんり )。ここで、規格 きかく 化 か 定数 ていすう Ω おめが (E ) は状態 じょうたい 数 すう と呼 よ ばれ、系 けい がエネルギーE にあるときに実現 じつげん しうる微視的 びしてき 状態 じょうたい の数 かず を意味 いみ する。このとき、エントロピーはボルツマンの公式 こうしき としてよく知 し られる
S
(
E
)
=
k
ln
Ω おめが
(
E
)
{\displaystyle S(E)=k\ln \Omega (E)}
で与 あた えられる。
このように小正 おばさ 準 じゅん 集団 しゅうだん により与 あた えられたエントロピーが、先 さき に見 み た熱 ねつ 力学 りきがく のエントロピーと整合 せいごう していることを確認 かくにん する。エネルギーE 、小正 おばさ 準 じゅん 集団 しゅうだん によるエントロピーS の系 けい を、透 とおる 熱 ねつ 壁 かべ を入 い れることにより 2 つの部分 ぶぶん 系 けい に分離 ぶんり する。それぞれの系 けい にエネルギーがE 1 , E 2 と分配 ぶんぱい されるとしよう。この場合 ばあい 、系 けい 全体 ぜんたい の状態 じょうたい 数 すう か、あるいはその対数 たいすう であるエントロピーが最大 さいだい になるように部分 ぶぶん 系 けい のエネルギーが決定 けってい されると考 かんが えるのは自然 しぜん であろう。系 けい 全体 ぜんたい の状態 じょうたい 数 すう は 2 つの部分 ぶぶん 系 けい の状態 じょうたい 数 すう の積 せき であり、すなわち系 けい 全体 ぜんたい のエントロピーS は 2 つの部分 ぶぶん 系 けい のエントロピーS 1 , S 2 の和 やわ である。条件 じょうけん E 2 = E − E 1 の下 した で全体 ぜんたい のエントロピーを最大 さいだい とする条件 じょうけん を考 かんが えると、
d
S
d
E
1
=
d
S
1
d
E
1
+
d
S
2
d
E
1
=
d
S
1
d
E
1
−
d
S
2
d
E
2
=
0
{\displaystyle {\frac {dS}{dE_{1}}}={\frac {dS_{1}}{dE_{1}}}+{\frac {dS_{2}}{dE_{1}}}={\frac {dS_{1}}{dE_{1}}}-{\frac {dS_{2}}{dE_{2}}}=0}
すなわち
d
S
1
d
E
1
=
d
S
2
d
E
2
{\displaystyle {\frac {dS_{1}}{dE_{1}}}={\frac {dS_{2}}{dE_{2}}}}
となる。ここで、このエントロピーを熱 ねつ 力学 りきがく のものと同一 どういつ 視 し すると、dS /dE = 1/T が成立 せいりつ するのであった(部分 ぶぶん 系 けい の体積 たいせき は固定 こてい しておくことにする)。透 とおる 熱 ねつ 壁 かべ を用 もち いて 2 つの系 けい を接触 せっしょく させた場合 ばあい 、平衡 へいこう 状態 じょうたい では当然 とうぜん 2 つの系 けい の温度 おんど は等 ひと しくなることと、ここで確認 かくにん した事実 じじつ は確 たし かに整合 せいごう している。
熱 ねつ 力学 りきがく と整合 せいごう するアンサンブルは、ここで例示 れいじ した小正 おばさ 準 じゅん 集団 しゅうだん の他 ほか にも、正 せい 準 じゅん 分布 ぶんぷ や大正 たいしょう 準 じゅん 分布 ぶんぷ がある。
情報 じょうほう 理論 りろん におけるエントロピーとの関係 かんけい [ 編集 へんしゅう ]
情報 じょうほう 理論 りろん においてエントロピー は確 かく 率 りつ 変数 へんすう が持 も つ情報 じょうほう の量 りょう を表 あらわ す尺度 しゃくど で、それゆえ情報 じょうほう 量 りょう とも呼 よ ばれる。
確 かく 率 りつ 変数 へんすう X に対 たい し、X のエントロピーH (X ) は
H
(
X
)
=
−
∑
i
P
i
ln
P
i
{\displaystyle H(X)=-\sum _{i}P_{i}\ln P_{i}\,}
(ここでPi はX = i となる確 かく 率 りつ )
で定義 ていぎ されており、これは統計 とうけい 力学 りきがく におけるエントロピーと定数 ていすう 倍 ばい を除 のぞ いて一致 いっち する。この定式 ていしき 化 か を行 おこな ったのはクロード・シャノン である。
これは単 たん なる数式 すうしき 上 じょう の一致 いっち ではなく、統計 とうけい 力学 りきがく 的 てき な現象 げんしょう に対 たい して情報 じょうほう 理論 りろん 的 てき な意味 いみ づけを与 あた える事 こと ができることを示唆 しさ する。情報 じょうほう 量 りょう は確 かく 率 りつ 変数 へんすう X が数 すう 多 おお くの値 ね をとればとるほど大 おお きくなる傾向 けいこう があり、したがって情報 じょうほう 量 りょう はX の取 と る値 ね の「乱雑 らんざつ さ」を表 あらわ す尺度 しゃくど であると再 さい 解釈 かいしゃく できる。よって情報 じょうほう 量 りょう の概念 がいねん は、原子 げんし や分子 ぶんし の「乱雑 らんざつ さの尺度 しゃくど 」を表 あらわ す統計 とうけい 力学 りきがく のエントロピーと概念的 がいねんてき にも一致 いっち する。
しかし、情報 じょうほう のエントロピーと物理 ぶつり 現象 げんしょう の結 むす びつきは、シャノンによる研究 けんきゅう の時点 じてん では詳 つまび らかではなかった。この結 むす びつきは、マクスウェルの悪魔 あくま の問題 もんだい が解決 かいけつ される際 さい に決定的 けっていてき な役割 やくわり を果 は たした。シラードは、悪魔 あくま が分子 ぶんし について情報 じょうほう を得 え る事 こと が熱 ねつ 力学 りきがく 的 てき エントロピーの増大 ぞうだい を招 まね くと考 かんが えたが、これはベネットにより可逆 かぎゃく な(エントロピーの変化 へんか ない)観測 かんそく が可能 かのう である、と反例 はんれい が示 しめ された。最終 さいしゅう 的 てき な決着 けっちゃく は1980年代 ねんだい にまで持 も ち越 こ された。ランダウアーがランダウアーの原理 げんり として示 しめ していたことであったのだが、悪魔 あくま が繰 く り返 かえ し働 はたら く際 さい に必要 ひつよう となる、分子 ぶんし についての以前 いぜん の情報 じょうほう を忘 わす れる事 こと が熱 ねつ 力学 りきがく 的 てき エントロピーの増大 ぞうだい を招 まね く、として、ベネットによりマクスウェルの悪魔 あくま の問題 もんだい は解決 かいけつ された。
この原理 げんり によれば、コンピュータがデータを消去 しょうきょ するときに熱 ねつ 力学 りきがく 的 てき なエントロピーが発生 はっせい するので、通常 つうじょう の(可逆 かぎゃく でない=非 ひ 可逆 かぎゃく な)コンピュータが計算 けいさん に伴 ともな って消費 しょうひ するエネルギーには下限 かげん があることが知 し られている(ランダウアーの原理 げんり 。ただし現実 げんじつ の一般 いっぱん 的 てき なコンピュータの発熱 はつねつ とは比 くら べるべくもない規模 きぼ である)。また理論 りろん 的 てき には可逆 かぎゃく 計算 けいさん はいくらでも少 すく ない消費 しょうひ エネルギーで行 おこな うことができる。
さらにエドウィン・ジェインズ (英語 えいご 版 ばん ) は統計 とうけい 力学 りきがく におけるギブズ の手法 しゅほう を抽象 ちゅうしょう することで、統計 とうけい 学 がく ・情報 じょうほう 理論 りろん における最大 さいだい エントロピー原理 げんり を打 う ち立 た てた。この結果 けっか 、ギブズの手法 しゅほう は統計 とうけい 学 がく ・情報 じょうほう 理論 りろん の統計 とうけい 力学 りきがく への一応 いちおう 用例 ようれい として再 さい 解釈 かいしゃく されることになった。
統計 とうけい 力学 りきがく と情報 じょうほう 理論 りろん の関係 かんけい は量子力学 りょうしりきがく においても成立 せいりつ しており、量子 りょうし 統計 とうけい 力学 りきがく におけるフォン・ノイマンエントロピー は量子 りょうし 情報 じょうほう の情報 じょうほう 量 りょう を表 あらわ していると再 さい 解釈 かいしゃく された上 うえ で、量子 りょうし 情報 じょうほう や量子 りょうし 計算 けいさん 機 き の研究 けんきゅう で使 つか われている。
ブラックホール のエントロピーは表面積 ひょうめんせき に比例 ひれい する。
S
=
A
k
c
3
4
ℏ
G
.
{\displaystyle S={\frac {Akc^{3}}{4\hbar G}}.}
ここでS はエントロピー、A はブラックホールの事象 じしょう の地平 ちへい 面 めん の面積 めんせき 、ℏ はディラック定数 ていすう (換算 かんさん プランク定数 ていすう )、k はボルツマン定数 ていすう 、G は重力 じゅうりょく 定数 ていすう 、c は光 ひかり 速度 そくど である。
エルヴィン・シュレーディンガー は、生命 せいめい をネゲントロピー (負 まけ のエントロピー)を取 と り入 い れエントロピーの増大 ぞうだい を相殺 そうさい することで定常 ていじょう 状態 じょうたい を保持 ほじ している開放 かいほう 定常 ていじょう 系 けい とした。負 まけ のエントロピー自体 じたい は後 のち に否定 ひてい されたが、非 ひ 平衡 へいこう 系 けい の学問 がくもん の発展 はってん に寄与 きよ した。
^ 「でたらめさ」と表現 ひょうげん されることもある。ここでいう「でたらめ」とは、矛盾 むじゅん や誤 あやま りを含 ふく んでいたり、的外 まとはず れであるという意味 いみ ではなく、相関 そうかん がなくランダムであるという意味 いみ である。
^ ここでいう「微視的 びしてき 状態 じょうたい が確定 かくてい する」ということは、あらゆる物理 ぶつり 量 りょう の値 ね が確定 かくてい するという意味 いみ ではなく、なんらかの固有 こゆう 状態 じょうたい に定 さだ まるという意味 いみ である。従 したが って量子力学 りょうしりきがく 的 てき な不 ふ 確定 かくてい 性 せい は残 のこ る。
^ カルノーの定理 ていり においては一般 いっぱん には熱 ねつ 効率 こうりつ の上限 じょうげん は η いーた max = f (T 1 , T 2 ) の形 かたち で証明 しょうめい されている。この表 ひょう 式 しき が成 な り立 た つように、熱 ねつ 力学 りきがく 温度 おんど (絶対温度 ぜったいおんど )T を定義 ていぎ する。たとえば、セルシウス度 ど やファーレンハイト度 ど を使 つか った場合 ばあい には、熱 ねつ 効率 こうりつ の式 しき はやや複雑 ふくざつ な形 かたち になる。
^ a b d' は状態 じょうたい 量 りょう でない量 りょう の微小 びしょう 量 りょう ないし微小 びしょう 変化 へんか 量 りょう を表 あらわ す。文献 ぶんけん によってしばしば同様 どうよう の意味 いみ でδ でるた が用 もち いられる。
^ 古典 こてん 系 けい の場合 ばあい は状態 じょうたい を可算 かさん 個 こ として扱 あつか えない。したがって、例 たと えば自由 じゆう 度 ど f の古典 こてん 系 けい であれば、位相 いそう 空間 くうかん 上 うえ の一 いち 点 てん をΓ がんま = (Q 1 , Q 2 , …, Qf , P 1 , P 2 , …, Pf ) と表 あらわ し、ここに一様 いちよう な確 かく 率 りつ 測度 そくど dΓ がんま /hf を導入 どうにゅう する(ここでP• , Q• は正 せい 準 じゅん 変数 へんすう 、h はプランク定数 ていすう )。こうすることにより、積分 せきぶん
S
=
k
⟨
ln
1
p
(
Γ がんま
)
⟩
=
−
k
∫
d
Γ がんま
h
f
p
(
Γ がんま
)
ln
p
(
Γ がんま
)
{\displaystyle \scriptstyle S=k\left\langle \ln {\frac {1}{p(\Gamma )}}\right\rangle =-k\int {\frac {d\Gamma }{h^{f}}}\,p(\Gamma )\ln p(\Gamma )}
でエントロピーを定義 ていぎ できる。
^ ボルツマン定数 ていすう を1とする単位 たんい 系 けい を取 と れば、エントロピーは情報 じょうほう 理論 りろん におけるエントロピー(自然 しぜん 対数 たいすう を用 もち いたもの)と完全 かんぜん に一致 いっち し、無 む 次元 じげん 量 りょう となる。簡便 かんべん なので、理論 りろん 計算 けいさん などではこの単位 たんい 系 けい が用 もち いられることも多 おお い。なお、この単位 たんい 系 けい では温度 おんど は独立 どくりつ な次元 じげん を持 も たず、エネルギーと同 おな じ次元 じげん となる。
^ 量子 りょうし 系 けい では厳密 げんみつ には、エネルギーが量子 りょうし 化 か されているため、ほとんど至 いた るところ のE においてE = Ei は満 み たされない。そのため、その間 あいだ に十 じゅう 分 ふん 多 おお くのエネルギー固有 こゆう 状態 じょうたい が入 はい るエネルギー間隔 かんかく Δ でるた E を定義 ていぎ し、条件 じょうけん を|E − Ei |< Δ でるた E と緩 ゆる めることにする。
論文 ろんぶん
書籍 しょせき