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物質ぶっしつりょう

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』
物質ぶっしつりょう
amount of substance
りょう記号きごう n
次元じげん N
種類しゅるい スカラー
SI単位たんい モル(mol)
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物質ぶっしつりょう(ぶっしつりょう、英語えいご: amount of substance)は、物質ぶっしつりょうあらわ物理ぶつりりょうのひとつ[ちゅう 1]である[1]けい物質ぶっしつりょう記号きごうn)は、特定とくていされたよう素粒子そりゅうしかず尺度しゃくどである[2]よう素粒子そりゅうし英語えいご: elementary entity)は、原子げんし分子ぶんし、イオン、電子でんし、その粒子りゅうし、あるいは、粒子りゅうし集合しゅうごうたいのいずれであってもよい。

物質ぶっしつりょうは1971ねん国際こくさい単位たんいけい (SI) の7番目ばんめ基本きほんりょうさだめられた。表記ひょうきする場合ばあいは、りょう記号きごうはイタリックたいnりょう次元じげん記号きごうサンセリフ立体りったいの N が推奨すいしょうされている[3]物質ぶっしつりょうのSI単位たんいモルであり、単位たんい記号きごうは mol である。ねつ力学りきがくてき状態じょうたいりょうとしてればしめせりょうせい状態じょうたいりょう分類ぶんるいされる。

定義ていぎ

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物質ぶっしつりょうは、よう素粒子そりゅうし個数こすう比例ひれいする。ある物質ぶっしつ物質ぶっしつりょうもとめるには、まずその物質ぶっしつよう素粒子そりゅうし指定していしなければならない。化学かがくしき X で指定していされるよう素粒子そりゅうし以下いかよう素粒子そりゅうし X としるす。

よう素粒子そりゅうし X の個数こすうN(X)、アボガドロ定数ていすうNA とすれば、物質ぶっしつりょう n(X)つぎしき定義ていぎされる。

物質ぶっしつりょうSI単位たんいモルであり、モルの単位たんい記号きごうは mol である。少量しょうりょう物質ぶっしつりょうあらわすときは、モルにSI接頭せっとうをつけたミリモル (mmol, 10−3 mol)、マイクロモル (μみゅーmol, 10−6 mol)、ナノモル (nmol, 10−9 mol) などの単位たんい使つかわれる。

N(X)個数こすうという次元じげんりょうであり、n(X)物質ぶっしつりょう次元じげん N をつので、アボガドロ定数ていすう次元じげん物質ぶっしつりょう逆数ぎゃくすう N−1 となり、その単位たんいはモルの逆数ぎゃくすう (mol−1) となる。

NA = 6.02214076×1023 mol−1 である。

また、物質ぶっしつりょう歴史れきしおよび単位たんい定義ていぎについては「モル」の記事きじ参照さんしょうのこと。

簡単かんたんれい

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水溶液すいようえき

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容器ようきはいったしょく塩水えんすいなかかく物質ぶっしつ物質ぶっしつりょうかんがえる。

  • みず物質ぶっしつりょう n(H2O) は、食塩しょくえんすいふくまれるみず分子ぶんし H2O のかずNAったものにひとしい。
  • 水素すいそ原子げんし物質ぶっしつりょう n(H) は、食塩しょくえんすいふくまれる水素すいそ原子げんし H のかずNAったものにひとしい。1個いっこの H2O 分子ぶんしは2の H 原子げんしふくむので、n(H)n(H2O) の2ばいひとしい。
  • ナトリウムイオン物質ぶっしつりょう n(Na+) は、食塩しょくえんすいふくまれるナトリウムイオン Na+かずNAったものにひとしい。
  • 塩化えんかぶつイオン物質ぶっしつりょう n(Cl) は、食塩しょくえんすいふくまれる塩化えんかぶつイオン ClかずNAったものにひとしい。食塩しょくえんすいにはナトリウムイオンと同数どうすう塩化えんかぶつイオンがふくまれるので、n(Cl)n(Na+)ひとしい。
  • 塩化えんかナトリウム物質ぶっしつりょう n(NaCl) は、形式けいしきてきには、食塩しょくえんすいふくまれるよう素粒子そりゅうし NaCl のかずNAったものとして定義ていぎされる。しかし、食塩しょくえん水中すいちゅうには化学かがくしき NaCl であらわされる粒子りゅうし実際じっさいには存在そんざいしない。なぜなら塩化えんかナトリウムは、食塩しょくえん水中すいちゅうではナトリウムイオン Na+塩化えんかぶつイオン Clかれてけているからである[ちゅう 2]。このれいのようによう素粒子そりゅうし仮想かそうてき粒子りゅうしであっても、食塩しょくえん水中すいちゅうふくまれる塩化えんかナトリウムの質量しつりょう m後述こうじゅつするモル質量しつりょう M(NaCl) とから物質ぶっしつりょう n(NaCl)もとめることができる。

合金ごうきん

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ステンレスこういたふくまれるかく元素げんそ物質ぶっしつりょうかんがえる。

  • てつ原子げんし物質ぶっしつりょう n(Fe) は、いたふくまれるてつ原子げんし Fe のかずNAったものにひとしい。
  • 炭素たんそ原子げんし物質ぶっしつりょう n(C) は、いたふくまれる炭素たんそ原子げんし C のかずNAったものにひとしい。
  • クロム原子げんしなどのほか元素げんそ E の物質ぶっしつりょう n(E)同様どうように、いたふくまれる原子げんし E のかずNAったものにそれぞれひとしい。

化学かがく反応はんのう

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重曹じゅうそうねつ分解ぶんかい

かんがえる。ねつ分解ぶんかいまえ重曹じゅうそう物質ぶっしつりょうn(NaHCO3) とする。

  • ナトリウムイオンの物質ぶっしつりょう n(Na+) は、n(NaHCO3)ひとしい。n(Na+)ねつ分解ぶんかい前後ぜんご変化へんかしない。
  • 炭酸たんさん水素すいそイオン物質ぶっしつりょう n(HCO3) は、ねつ分解ぶんかいまえn(NaHCO3)ひとしい。ねつ分解ぶんかいのちn(HCO3) はゼロになる。

一般いっぱんに、化学かがく反応はんのうしき係数けいすう物質ぶっしつりょう(モル)にひとしい。よって以下いかのことがえる。

  • ねつ分解ぶんかい発生はっせいするみず物質ぶっしつりょう n(H2O) は、n(NaHCO3) / 2ひとしい。
  • ねつ分解ぶんかい発生はっせいする二酸化炭素にさんかたんそ物質ぶっしつりょう n(CO2) は、n(NaHCO3) / 2ひとしい。
  • ねつ分解ぶんかいのこ炭酸たんさんナトリウム物質ぶっしつりょう n(Na2CO3) は、n(NaHCO3) / 2ひとしい。
  • 炭酸たんさんナトリウムにふくまれる炭酸たんさんイオン物質ぶっしつりょう n(CO32−) は、n(Na2CO3)ひとしい。よってねつ分解ぶんかいまえn(HCO3) の 1/2 にひとしい。

物質ぶっしつりょうあらわ物理ぶつりりょう

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粒子りゅうし個数こすう物質ぶっしつりょう

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日常にちじょうてきには、物質ぶっしつりょうは「2 Lのみず」のように体積たいせきあらわすか、「5 kgの食塩しょくえん」のように質量しつりょうあらわすことがおおい。しかし、えるおおきさの物質ぶっしつは、原子げんし分子ぶんしイオンなどのえないほどちいさな粒子りゅうし(これらの粒子りゅうしやこれら粒子りゅうしわせを物質ぶっしつよう素粒子そりゅうしという)から構成こうせいされていて、不連続ふれんぞく構造こうぞうをもつ。そのため、物質ぶっしつりょうを、物質ぶっしつ構成こうせいするよう素粒子そりゅうしかずあらわすことも可能かのうである。えるかえないかくらいの少量しょうりょう物質ぶっしつでも莫大ばくだいかずよう素粒子そりゅうしからできているので、よう素粒子そりゅうし個数こすうそのものではなく、よう素粒子そりゅうし個数こすう非常ひじょうおおきな定数ていすうったもので物質ぶっしつりょうあらわ[4]。このおおきな定数ていすうをアボガドロ定数ていすうといい、よう素粒子そりゅうし個数こすうをアボガドロ定数ていすうったものを物質ぶっしつりょうという。アボガドロ定数ていすう物質ぶっしつ種類しゅるい温度おんど圧力あつりょくなどにはよらない定数ていすうなので、よう素粒子そりゅうし個数こすう同様どうよう物質ぶっしつりょうでも物質ぶっしつりょうあらわすことができる。

たとえば、さんせんちょう(= 3×1015分子ぶんしからなる物質ぶっしつりょうは、物質ぶっしつりょうあらわすとやく 4.98 nmol(= やく 4.98×10−9 mol) になる。この関係かんけい分子ぶんし原子げんし種類しゅるい温度おんどにはよらない。さんせんちょう水分すいぶんからなるみず物質ぶっしつりょうやく 4.98 nmolであり、さんせんちょう炭素たんそ原子げんしからなるダイヤモンド物質ぶっしつりょうやく 4.98 nmolである。また、さんせんちょう水分すいぶんふく水蒸気すいじょうき物質ぶっしつりょうは、さんせんちょう水分すいぶんから構成こうせいされるこおり物質ぶっしつりょうひとしく、やく 4.98 nmolである。

粒子りゅうし個数こすうそのものは不連続ふれんぞく離散りさんりょうであるが、それが莫大ばくだい個数こすうなので、物質ぶっしつりょう体積たいせき質量しつりょう同様どうよう連続れんぞくりょうとしてあつかえる。つまり、物質ぶっしつりょう微分びぶんしたり物質ぶっしつりょう微分びぶんしたりすることができる[5]たとえば反応はんのう速度そくどろんにおいて、物質ぶっしつ X の生成せいせい速度そくど物質ぶっしつりょう時間じかん微分びぶん dn(X)/dt物質ぶっしつりょう濃度のうど時間じかん微分びぶん d[X]/dtあたえられる。あるいはねつ力学りきがくにおいて、けいギブズエネルギー温度おんど T圧力あつりょく p物質ぶっしつりょう n(X1), n(X2),···, n(XC)関数かんすうとしてあたえられているとき、ギブズエネルギー G物質ぶっしつりょう n(Xi)へん微分びぶんすると成分せいぶん Xi化学かがくポテンシャル μみゅーiられる[ちゅう 3]

質量しつりょう物質ぶっしつりょう

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物質ぶっしつりょうは、動力どうりょくがくもとづくりょうである質量しつりょう比例ひれいする。物質ぶっしつ X の質量しつりょうm であるとき、物質ぶっしつ X の物質ぶっしつりょう

あたえられる。ここで係数けいすう M(X)物質ぶっしつ X のモル質量しつりょうである。モル質量しつりょう M(X)よう素粒子そりゅうし1あたりの質量しつりょう m/N(X) にアボガドロ定数ていすう NAけたものにひとしい。

モル質量しつりょうは、アボガドロ定数ていすう同様どうよう温度おんど圧力あつりょくにはよらないが、アボガドロ定数ていすうとはちがってよう素粒子そりゅうし種類しゅるいによってことなる。すなわち、モル質量しつりょうよう素粒子そりゅうし固有こゆう定数ていすうである[ちゅう 4]。モル質量しつりょうを g/mol の単位たんいあらわしたときの数値すうちしきりょう分子ぶんしりょう原子げんしりょう)にひとしい。※2019ねん5がつ20日はつか定義ていぎ変更へんこうまでは原子げんしりょうにg/molをすと厳密げんみつにモル質量しつりょうであったが、さい定義ていぎ以降いこう、モル質量しつりょう定数ていすう定義ていぎ定数ていすうでなくなり、CODATA2018推奨すいしょうでは0.99999999965(30) g/molとなった。 たとえば、みずのモル質量しつりょうM(H2O) = 18.02 g/mol であり、炭素たんそのモル質量しつりょうM(C) = 12.01 g/mol である。したがって、1 gのみず物質ぶっしつりょうは 55.5 mmolであるのにたいして、1 gのダイヤモンドの物質ぶっしつりょうやく 83.3 mmolとなる。ダイヤモンドの同素体どうそたいであるグラファイトよう素粒子そりゅうしは、ダイヤモンドとおなじく炭素たんそ原子げんしである。よって 1 gのグラファイトの物質ぶっしつりょうやく 83.3 mmolとなる。また、1 gの水蒸気すいじょうきこおり物質ぶっしつりょうは、どちらも H2O をよう素粒子そりゅうしとする物質ぶっしつなのでやく 55.5 mmolである。

よう素粒子そりゅうし X のモル質量しつりょうは、化学かがくしき X と元素げんそ原子げんしりょうとから計算けいさんできる。よってよう素粒子そりゅうし X が現実げんじつには存在そんざいしない仮想かそうてき粒子りゅうしであっても、モル質量しつりょう M(X)計算けいさんすることができる。たとえば、食塩しょくえんすいなかには化学かがくしき NaCl であらわされる粒子りゅうし存在そんざいしないので、食塩しょくえん水中すいちゅうよう素粒子そりゅうし NaCl は仮想かそうてき粒子りゅうしである。この仮想かそうてきよう素粒子そりゅうしのモル質量しつりょうナトリウム塩素えんそ原子げんしりょうから計算けいさんすることができて、 M(NaCl) = (22.99 + 35.45) g/mol = 58.44 g/mol となる。このモル質量しつりょう食塩しょくえん結晶けっしょうなかよう素粒子そりゅうし NaCl[ちゅう 5]のモル質量しつりょうひとしい。

体積たいせき物質ぶっしつりょう

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気体きたい(ガス)や液体えきたいりょうあらわすときは、体積たいせきもちいられることがおおい。物質ぶっしつ X の密度みつどρろー とすると、体積たいせき V質量しつりょう mあいだにはつぎ関係かんけいがある。

物質ぶっしつ密度みつどは、物質ぶっしつ種類しゅるいによりことなるだけでなく、温度おんどあつりょくによってもわる。また物質ぶっしつさんたいそう)によってもちがう。たとえば 0 °C のこおり密度みつどおな温度おんどみず密度みつどより 8 % ちいさく[ちゅう 6]、100 °C、1 気圧きあつ水蒸気すいじょうき密度みつどどうあつしどうあつみず密度みつどの 1/1600 である。したがって、体積たいせき物質ぶっしつりょうあらわすときには、温度おんど圧力あつりょく(と必要ひつようであればそう)を指定していしなければならない。さもないと、物質ぶっしつりょうあらわほか物理ぶつりりょう粒子りゅうしすう物質ぶっしつりょう質量しつりょう)との関係かんけい曖昧あいまいになる。ただし液体えきたい場合ばあいは、液体えきたい圧縮あっしゅくりつちいさいので、通常つうじょう目的もくてきには温度おんど指定していだけで十分じゅうぶんなことがおおい。

気体きたい圧縮あっしゅくりつは、液体えきたい圧縮あっしゅくりつくらべてずっとおおきい[ちゅう 7]。そのため、気体きたいりょうあらわ物理ぶつりりょうとして体積たいせきもちいるさいには、圧力あつりょく温度おんど両方りょうほう指定していしなければならない。気体きたい理想りそう気体きたいとみなせる場合ばあいは、気体きたい体積たいせき V物質ぶっしつりょう nあいだつぎ関係かんけいがある(理想りそう気体きたい状態じょうたい方程式ほうていしき)。

ここで、Tねつ力学りきがく温度おんどp圧力あつりょくR気体きたい種類しゅるいによらない気体きたい定数ていすうである。気体きたい理想りそう気体きたいとみなせるかぎりにおいては、気体きたい体積たいせき V物質ぶっしつりょう nあいだ関係かんけいしき気体きたい種類しゅるいにはよらない。標準ひょうじゅん状態じょうたいで 1 mol の理想りそう気体きたいめる体積たいせきひょうしめす。

1 mol の理想りそう気体きたい体積たいせき
0 °C 273.15 K 101325 Pa 22.41 L
0 °C 273.15 K 100000 Pa 22.71 L
25 °C 298.15 K 101325 Pa 24.47 L
25 °C 298.15 K 100000 Pa 24.79 L

ひょうちゅう101325 Pa は 1 気圧きあつひとしい。

よう素粒子そりゅうしについて

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物質ぶっしつ名称めいしょうだけで十分じゅうぶん場合ばあい

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よう素粒子そりゅうしえらかたにはいくふんかの任意にんいせいがあるので、物質ぶっしつ名称めいしょうだけでは物質ぶっしつりょう曖昧あいまいとなる場合ばあいがある。たとえば「硫黄いおう物質ぶっしつりょう」といういいかたでは n(S)n(S8) のどちらをすかからない。このような物質ぶっしつ場合ばあいは、よう素粒子そりゅうし明示めいじする必要ひつようがある。しかしおおくの場合ばあい分子ぶんしせい物質ぶっしつでは分子ぶんしが、イオン結晶けっしょうでは組成そせいしきかれるものが、金属きんぞくでは原子げんしよう素粒子そりゅうしとしてえらばれるので、物質ぶっしつめいだけで曖昧あいまいさなく物質ぶっしつりょう定義ていぎできる[6]

よう素粒子そりゅうし指定してい必要ひつよう場合ばあい

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物質ぶっしつ名称めいしょうだけでは物質ぶっしつりょう曖昧あいまいとなる場合ばあいを、以下いか例示れいじする。

分子ぶんしめい原子げんしめいおな物質ぶっしつ
酸素さんそ物質ぶっしつりょう」といういいかたでは n(O2)n(O) のどちらをすかからない。 °C、1013 hPa で 22.4 L酸素さんそガスには、酸素さんそ分子ぶんしであれば 1.00 mol が、酸素さんそ原子げんしであれば 2.00 mol ふくまれる。「窒素ちっそ物質ぶっしつりょう」や「塩素えんそ物質ぶっしつりょう」も同様どうようである。それにたいして「オゾン物質ぶっしつりょう」は n(O3) を、「アルゴン物質ぶっしつりょう」は n(Ar)すので曖昧あいまいさはない(オゾン原子げんしやアルゴン分子ぶんし存在そんざいしないため)。
分子ぶんしちゅう一部いちぶ注目ちゅうもくする場合ばあい
塩基えんきさんである硫酸りゅうさん水酸化すいさんかナトリウム中和ちゅうわして硫酸りゅうさんナトリウムみず生成せいせいする場合ばあいには、硫酸りゅうさん分子ぶんしの2水素すいそがそれぞれ中和ちゅうわ反応はんのうにより1分子ぶんしみず生成せいせいするので、1 mol の硫酸りゅうさん水素すいそイオンの物質ぶっしつりょうとしては 2 mol となる。
高分子こうぶんし化合かごうぶつ
モノマーユニットのかえしからなる高分子こうぶんし化合かごうぶつでは、モノマーユニットをよう素粒子そりゅうしとした物質ぶっしつりょう高分子こうぶんし分子ぶんし自体じたいよう素粒子そりゅうしとした物質ぶっしつりょうが、目的もくてきおうじて使つかけられる。
分子ぶんしせい物質ぶっしつであることが無視むしされがちな物質ぶっしつ
さきべたように、いち種類しゅるい分子ぶんしのみをふくじゅん物質ぶっしつでは分子ぶんしよう素粒子そりゅうしとされていることがおおい。ただし、硫黄いおう酸化さんかリン(V)酢酸さくさんどう(II)いちみず和物あえもののように例外れいがいおおい。このような場合ばあいは、分子ぶんししき S8、P4O10、Cu2(CH3COO)4·2H2O か組成そせいしき S、P2O5、Cu(CH3COO)2·H2O のどちらかをしめしてよう素粒子そりゅうし明示めいじする。
不定ふてい化合かごうぶつ
不定ふてい化合かごうぶつ組成そせいしきは、物質ぶっしつめいからはからない。このような場合ばあい組成そせいしき明示めいじして、それをよう素粒子そりゅうしとする。たとえば硫化りゅうかてつ(II) Fe0.91S であれば、この物質ぶっしつよう素粒子そりゅうしを Fe0.91S とする。

よう素粒子そりゅうしは、都合つごうのよいようにえらぶことができ、物理ぶつりてき実在じつざいする個々ここ粒子りゅうしである必要ひつようはない[6]たとえば、てつ硫黄いおう質量しつりょうが Fe : S = 61.3 : 38.7 である硫化りゅうかてつよう素粒子そりゅうしを Fe0.91S とすることができる。あるいは、(1/5)KMnO4 のようなよう素粒子そりゅうしは、そのようなよう素粒子そりゅうし存在そんざいしないという意味いみ人為じんいてきなものであるが、酸性さんせい条件下じょうけんか酸化さんか還元かんげんしずくじょうでは、これを1電子でんしよう素粒子そりゅうしかんがえることができる。

よう素粒子そりゅうし都合つごうのよいようにえらぶことができる、とはいうものの、pV = nRT のようなしきたばいちてき性質せいしつふくしきでは、n定義ていぎかんがえられるよう素粒子そりゅうしは、独立どくりつ並進へいしん運動うんどうする粒子りゅうしとすべきである[6]たとえば、乾燥かんそう空気くうきは、窒素ちっそ分子ぶんし酸素さんそ分子ぶんし、アルゴン原子げんしなどからなる混合こんごう気体きたいである。SIの定義ていぎでは、よう素粒子そりゅうしかならずしも同等どうとう粒子りゅうしとはかぎらない[7]ので、乾燥かんそう空気くうき 1 mol という表現ひょうげんゆるされる。乾燥かんそう空気くうきよう素粒子そりゅうし独立どくりつ並進へいしん運動うんどうする粒子りゅうしであり、その状態じょうたい方程式ほうていしきあらわれる物質ぶっしつりょう n は、独立どくりつ並進へいしん運動うんどうする粒子りゅうしすうをアボガドロ定数ていすうったもの、すなわち窒素ちっそ分子ぶんしかず酸素さんそ分子ぶんしかず + アルゴン原子げんしかず二酸化炭素にさんかたんそ分子ぶんしかず + … をアボガドロ定数ていすうったものである。

よう素粒子そりゅうし存在そんざい前提ぜんていとしない定義ていぎ

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現実げんじつ物質ぶっしつ原子げんし分子ぶんし、イオン、電子でんしなどあるいはこれらの集合しゅうごうたいからなる不連続ふれんぞく構造こうぞうをもつよう素粒子そりゅうしから構成こうせいされるが、物質ぶっしつりょうはそれらよう素粒子そりゅうし存在そんざい前提ぜんていしなくても物質ぶっしつりょうあらわ概念がいねんとして定義ていぎできる[8]。すなわち、物質ぶっしつ X の質量しつりょうm であるとき、物質ぶっしつ X がいち成分せいぶんけいとみなせるならば、物質ぶっしつ X の物質ぶっしつりょう

定義ていぎすることができる。ここで係数けいすう M(X) は、目的もくてきおうじて任意にんいめられる定数ていすうである。物質ぶっしつ X が成分せいぶんけいならば、かく成分せいぶん Xi物質ぶっしつりょう n(Xi) は、その成分せいぶん質量しつりょう mi係数けいすう M(Xi)同様どうよう定義ていぎすることができる。必要ひつようであれば、物質ぶっしつ X の物質ぶっしつりょう n(X)かく成分せいぶん物質ぶっしつりょう総和そうわ

定義ていぎできる。

係数けいすう M(X)M(Xi) は、物質ぶっしつあるいは成分せいぶんごとに任意にんいめられるので、物質ぶっしつけいねつ力学りきがくてき解析かいせき便利べんりなようにめることができる。たとえば、すべての物質ぶっしつ X について M(X) = 1 とするなら、グラムまたはキログラムを物質ぶっしつりょう単位たんいとしてもちいることができる[9]化学かがく平衡へいこうにある物質ぶっしつけい化学かがく反応はんのうこる過程かていでは、元素げんそ原子げんしりょう物質ぶっしつ X にふくまれるすべての元素げんそ質量しつりょうぶんりつもとづいて M(X)めると解析かいせき容易よういになる。物質ぶっしつりょう原子げんし存在そんざい前提ぜんていしなくても定義ていぎできることを強調きょうちょうしたいならば、19世紀せいき化学かがくしゃならって原子げんしりょうという言葉ことばを「とうりょう」、「結合けつごう重量じゅうりょう」、「比例ひれいすう」などの言葉ことばえてもよい[10]。いずれにせよ「元素げんそ種類しゅるい高々たかだか可算かさんである」、「物質ぶっしつ有限ゆうげん元素げんそからできている」、「かく元素げんそ原子げんしりょう物質ぶっしつ履歴りれきらない」と仮定かていするなら、元素げんそ原子げんしりょうひょう作成さくせいすることができる。かく元素げんそ原子げんしりょう M(E)任意にんいめられるので、すべての元素げんそ E について M(E) = 1 としてもよいし、古典こてんてき重量じゅうりょう分析ぶんせきにより実験じっけんてきめてもよいし、あるいはIUPAC原子げんしりょうひょうもちいてもよい。みっつの仮定かていくわえてさらに「元素げんそ質量しつりょう保存ほぞんする」と仮定かていするなら、元素げんそ E の物質ぶっしつりょう保存ほぞんする。

以上いじょう前提ぜんていのもとで、物質ぶっしつ X にふくまれるすべての元素げんそ質量しつりょうぶんりつ決定けっていすることができれば、物質ぶっしつ X の組成そせいしき決定けっていすることができる。すなわち、よう素粒子そりゅうし存在そんざい前提ぜんていしなくても、古典こてんてき重量じゅうりょう分析ぶんせきにより、物質ぶっしつ X の組成そせいしき決定けっていすることができる。組成そせいしきから計算けいさんしたしきりょう係数けいすう M(X) とすれば、定義ていぎしきから物質ぶっしつ X の物質ぶっしつりょうもとまる。

組成そせいしきから計算けいさんしたしきりょう適当てきとうかずじょうじたものを係数けいすう M(X) としてもよい。たとえば、アセチレンベンゼン元素げんそ組成そせいひとしいので、どんな原子げんしりょうひょう使つかっても組成そせいしきしきりょうふたつの物質ぶっしつおなじになるが、ボイル=シャルルの法則ほうそく温度おんど T圧力あつりょく p体積たいせき V のもとではつぎしき定義ていぎされるアセチレンのガス定数ていすう

はベンゼンのそれのさんばいである。そこで、係数けいすう M(X)M(benzene) = 3M(acetylene) となるようにとれば

ふたつの物質ぶっしつおなになる。このときアセチレンの化学かがくしきを CH とくなら、ベンゼンの化学かがくしきは C3H3 になる。物質ぶっしつについても同様どうよう操作そうさほどこせば、理想りそう気体きたい状態じょうたい方程式ほうていしき物質ぶっしつ種類しゅるい依存いぞんしないかたちくだすことができる[11]。アセチレンの化学かがくしきを CH とくなら、メタン化学かがくしきは C1/2H2 になる。 メタンの化学かがくしきを CH4くなら、アセチレンの化学かがくしきは C2H2 に、ベンゼンの化学かがくしきは C6H6 になる。ここでIUPACの原子げんしりょう使つかえば M(CH4) = 16.042 g/mol となり、気体きたい種類しゅるいらない気体きたい定数ていすうは 8.314 J K−1 mol −1 になる。ただし「かく元素げんそ原子げんしりょう物質ぶっしつ履歴りれきらない」と仮定かていしたので、ここでは 12 g の炭素たんそ12ではなく、12.011 g の炭素たんそ物質ぶっしつりょうを 1 mol とした。

同位どういたい分離ぶんり濃縮のうしゅくを、よう素粒子そりゅうし存在そんざい前提ぜんていとしないでねつ力学りきがくてき取扱とりあつかうには、「元素げんそ原子げんしりょう物質ぶっしつ履歴りれきらない」という仮定かていのぞいて「化学かがく元素げんそ原子げんしりょうことなる同位どうい元素げんそ混合こんごうぶつである」ことをみとめればい。さらに「元素げんそ質量しつりょう保存ほぞんする」という仮定かていのぞけば、放射ほうしゃせい物質ぶっしつよう素粒子そりゅうし存在そんざい前提ぜんていとしないでねつ力学りきがくてきあつかうことができる。

モルすう

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物質ぶっしつりょうは、ふるくはモルすう(もるすう、英語えいご: number of moles)とばれていた。「グラムすう」を「質量しつりょう」の同義語どうぎごとして使つかうべきではないのと同様どうように、物質ぶっしつりょうSI基本きほんりょうさだめられた現代げんだいにおいては「物質ぶっしつりょう」をして「モルすう」とぶべきではない、とされている[12]

ただし、物質ぶっしつりょうぶんりつ (英語えいご: amount-of-substance fraction, amount fraction) とぶべきりょうモルぶんりつ (英語えいご: mole fraction) とぶことは、2009ねん現在げんざいみとめられている。

物質ぶっしつりょうモル (もるひ、英語えいご: mole ratio) と[ちゅう 8]化学かがく反応はんのうしき係数けいすうは、反応はんのう関与かんよする物質ぶっしつのモルひとしい。

歴史れきしてき単位たんい

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物質ぶっしつりょうあらわ歴史れきしてき単位たんいとして以下いかげるようなものがあるが、計量けいりょうほうではモルのみの使用しようしかみとめていないことから、MSDSのような公示こうじ文書ぶんしょ商品しょうひん計量けいりょう表示ひょうじではモル以外いがい表記ひょうき推奨すいしょうされない。

グラム原子げんし (gram atom)
単体たんたい物質ぶっしつりょうあらわ単位たんいで、原子げんし 1 mol をふく単体たんたいが 1 グラム原子げんしである。たとえば窒素ちっそ 14.01 g は 1 グラム原子げんしになる。
グラム分子ぶんし (gram molecule)
分子ぶんし形成けいせいする物質ぶっしつ物質ぶっしつりょうあらわ単位たんいで、分子ぶんし 1 mol をふく物質ぶっしつが 1 グラム分子ぶんしである。たとえば窒素ちっそ 14.01 g は 0.5 グラム分子ぶんしになる。
グラムイオン (gram ion)
イオン物質ぶっしつりょうあらわ単位たんいで、イオン 1 mol が 1 グラムイオンである。たとえば塩化えんかナトリウム 58.44 g にはナトリウムイオン 1 グラムイオンと塩化えんかぶつイオン 1 グラムイオンがふくまれる。
グラムしきりょう (gram formula mass)
分子ぶんし形成けいせいしないような物質ぶっしつ物質ぶっしつりょうあらわ単位たんいで、その物質ぶっしつ組成そせいしき1 molをふく物質ぶっしつが1グラムしきりょうである。たとえば塩化えんかナトリウム58.44 gは1グラムしきりょうになる。
グラムとうりょう (gram equivalent)
中和ちゅうわはんおう酸化さんか還元かんげん反応はんのう関与かんよする物質ぶっしつ物質ぶっしつりょうあらわ単位たんいで、水素すいそイオンあるいは電子でんし 1 mol を放出ほうしゅつあるいは受容じゅようする物質ぶっしつりょうが 1 グラムとうりょうである。たとえば硫酸りゅうさん 98.08 g は 2 mol の水素すいそイオンを放出ほうしゅつするから 2 グラムとうりょうである。1 グラムとうりょう物質ぶっしつふくむ 1 L の溶液ようえき濃度のうどが 1 規定きていである。

脚注きゃくちゅう

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注釈ちゅうしゃく

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  1. ^ 体積たいせき質量しつりょう分子ぶんしすう原子げんしすうなどでも物質ぶっしつりょうあらわすことができる。
  2. ^ このような物質ぶっしつ強電きょうでんかいしつという。
  3. ^
  4. ^ 特殊とくしゅ相対性理論そうたいせいりろん (E=mc2) によれば質量しつりょう保存ほぞん法則ほうそく厳密げんみつにはりたない。そのため、グラファイト 1 molあたりの質量しつりょうは、ダイヤモンド 1 molあたりの質量しつりょう厳密げんみつにはことなる。しかし、その標準ひょうじゅん原子げんしりょうかくかさよりもちいさいので通常つうじょう無視むしできる。元素げんそ変換へんかんこらないかぎり、質量しつりょう保存ほぞん法則ほうそく十分じゅうぶん精度せいどっている。
  5. ^ 食塩しょくえん結晶けっしょうちゅうに NaCl 分子ぶんし存在そんざいしないが、結晶けっしょうかえ単位たんいとしての NaCl が存在そんざいする。
  6. ^ みず以外いがい大抵たいてい物質ぶっしつは、えきしょうよりかたしょうほう密度みつどおおきい。
  7. ^ ボイルの法則ほうそくより、圧力あつりょくばいになると気体きたい体積たいせき半分はんぶんになる。
  8. ^ この呼称こしょう是非ぜひについては、グリーンブック(2009)にはべられていない。

出典しゅってん

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  1. ^ 大辞林だいじりん だいさんはん
  2. ^ SI文書ぶんしょだい9はん(2019) p.102
  3. ^ SI文書ぶんしょだい9はん(2019) p.104
  4. ^ 物質ぶっしつりょう, 『理化学りかがく辞典じてん』、だい5はん岩波書店いわなみしょてん
  5. ^ 清水しみず (2007), p. 120.
  6. ^ a b c グリーンブック(2009) pp. 64-65.
  7. ^ グリーンブック(2009) p.104
  8. ^ キャレン(1998) p. 12.
  9. ^ ルイス、ランドル(1971) p. 18.
  10. ^ ブロック(2003) p. 132.
  11. ^ 田崎たさき (2000) p. 52.
  12. ^ グリーンブック(2009) p. 4, p. 64.

参考さんこう文献ぶんけん

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  • 清水しみずあきらねつ力学りきがく基礎きそ東大出版会とうだいしゅっぱんかい、2007ねんISBN 978-4-13-062609-5 
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外部がいぶリンク

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