同素体どうそたい

ダイヤモンドとグラファイトの写真しゃしんとそれぞれの結晶けっしょう構造こうぞう。

同素体どうそたい（どうそたい、英語えいご: allotrope、英語えいご: allotropism）とは、同一どういつ元素げんその単体たんたいのうち、原子げんしの配列はいれつ(結晶けっしょう構造こうぞう)や結合けつごう様式ようしきの関係かんけいが異ことなる物質ぶっしつ同士どうしの関係かんけいをいう。同素体どうそたいは単体たんたい、すなわち互たがいに同おなじ元素げんそから構成こうせいされるが、化学かがく的てき・物理ぶつり的てき性質せいしつが異ことなる事ことを特徴とくちょうとする。

典型てんけい的てきな例れいとしてよく取とり上あげられるものに、ダイヤモンドと黒鉛こくえん（グラファイト）がある。 炭素たんその同素体どうそたいである両者りょうしゃは硬度こうど以外いがいにも、透明とうめい度どや電気でんき伝導でんどう性せいが大おおきく異ことなるが、これはダイヤモンドの分子ぶんし（正せい四よん面体めんていの格子こうし) とグラファイトの分子ぶんし（平面へいめん的てきな六方ろっぽう格子こうしの層そう）の構造こうぞうに大おおきな違ちがいがあるためで、物性ぶっせいにおける分子ぶんし構造こうぞうの重要じゅうよう性せいを示しめす例れいとなっている。

多おおくの同素体どうそたいは安定あんていした分子ぶんしとして存在そんざいし、相あい転移てんい(気体きたい、液体えきたい、固体こたい)しても化学かがく形がたは変化へんかしない (例れい：O₂、O₃) が、例外れいがい的てきにリンの同素体どうそたいは固体こたいでのみ現あらわれ、液体えきたいではすべて P₄ の形かたちを取とる。　

歴史れきし

同素体どうそたいの概念がいねんは、1841年ねんにスウェーデンの化学かがく者しゃであるイェンス・ヤコブ・ベルセリウス男爵だんしゃくによってギリシャ語ごのαλλοτροπος（異ことなっている）から命名めいめい・提唱ていしょうされたが、証明しょうめいはされなかった。しかしその後ご、1860年ねんにアボガドロの仮説かせつによって多た原子げんし分子ぶんしの存在そんざいが理解りかいされるようになり、酸素さんその同素体どうそたいである O₂ と O₃ が広ひろく認みとめられるようになった。20世紀せいき初頭しょとうになると、炭素たんその同素体どうそたいなどは結晶けっしょう構造こうぞうの違ちがいによるものであると広ひろく認みとめられるようになった。

1912年ねん、ヴィルヘルム・オストヴァルトは、元素げんその同素体どうそたいは化合かごう物ぶつで知しられている多た形かたちの特殊とくしゅな例れいであり、 allotrope と allotropy の用語ようごがとり違ちがえられている点てんに言及げんきゅうした。多おおくの化学かがく者しゃがこの主張しゅちょうを行おこなったが、IUPAC や多おおくのテキストは元素げんそのためだけの allotrope と allotropy の使用しようを支持しじしている。

おもな同素体どうそたい

一般いっぱん的てきに、可変かへんな配はい位い数すうと酸化さんか数すうを持もち、また、連鎖れんさ (catenation) しやすい元素げんそほど同素体どうそたいを多おおく持もつ傾向けいこうにある。同素体どうそたいは一般いっぱんに、ハロゲンと貴きガス元素げんそを除のぞく非金属ひきんぞく元素げんそと、半はん金属きんぞく元素げんそで顕著けんちょであるが、金属きんぞく元素げんそも多おおくの同素体どうそたいを持もつ。

非金属ひきんぞく

炭素たんそ

• ダイヤモンド - 非常ひじょうに硬かたい無色むしょくの結晶けっしょう。炭素たんそ原子げんしが正せい四よん面体めんてい格子こうし状じょうに配置はいちした分子ぶんし構造こうぞうをとる。電気でんき伝導でんどう性せいが低ひくい。優すぐれた熱ねつ導体どうたい。
• ロンズデーライト - 六方ろっぽう晶あきらダイヤモンドとも呼よばれる。
• グラファイト - 黒鉛こくえんとも呼よばれる薄片はくへん状じょうに剥はがれやすい層状そうじょうの黒色こくしょく固体こたい。中ちゅう程度ていどの電気でんき伝導でんどう性せいを持もつ。グラフェンが何なん層そうにも重かさなった構造こうぞうをとる。
• グラフェン - 1原子げんし分ぶんの厚あつさを持もつ六角形ろっかっけい格子こうし構造こうぞうをしたシート状じょうの形かたちをとる。
• 不ふ定形ていけい炭素たんそ - 顔料がんりょう、着色ちゃくしょく剤ざいとして使用しようされる。
• フラーレン - C₆₀の炭素たんそのみで構成こうせいされた閉殻空洞くうどう体たいの総称そうしょう。
• カーボンナノチューブ - 炭素たんそが円筒えんとう形がたのナノ構造こうぞうを構成こうせいしている。
• カルビン - 炭素たんそ同士どうしがsp混成こんせい軌道きどうで連鎖れんさした構造こうぞうをとる。
• schwarzites
• Cyclocarbon

リン

• 白はくリン P₄ - 結晶けっしょう性せい固体こたい(黄きリンとも言いう)
• 赤あかリン P_n - 高分子こうぶんし固体こたい
• 紅べにリン
• 黒くろリン - 半導体はんどうたい、グラファイトのアナログ
• 紫むらさきリン
• 二にリン

酸素さんそ

• 二に酸素さんそ O₂ - 無色むしょく透明とうめい
• オゾン O₃ - 青色あおいろ
• 四よん酸素さんそ O₄
• 八はち酸素さんそ O₈ - 赤色あかいろ

窒素ちっそ

• 二に窒素ちっそ, N₂
• 四よん窒素ちっそ, N₄
• ポリ窒素ちっそ , N_∞
• 窒素ちっその固体こたいは、六方ろっぽう最さい密みつ充填じゅうてん構造こうぞうと立方りっぽう晶あきらのいずれかをとる。

硫黄いおう

• ゴム状じょう硫黄いおう（アモルファス硫黄いおう） S_n
• 斜はす方かた硫黄いおう S₈
• 単たん斜はす硫黄いおう S₈
• その他た、環状かんじょう硫黄いおう S₇ や S₁₂ など

セレン

• 赤色あかいろセレン Se₈
• 灰色はいいろセレン Se_n
• 黒色こくしょくセレン

ホウ素ほうそ

→詳細しょうさいは「ホウ素ほうその同素体どうそたい」を参照さんしょう

ホウ素ほうそには5種類しゅるいの結晶けっしょう性せいホウ素ほうそおよび2種類しゅるいのアモルファスホウ素ほうその合あわせて7種類しゅるいの同素体どうそたいが存在そんざいしており、通常つうじょうは粉末ふんまつ状じょうホウ素ほうそもしくはβべーた-菱ひし面めん晶あきらホウ素ほうその形かたちを取とる。αあるふぁ-正方まさかた晶あきら、βべーた-正方まさかた晶あきらおよびγがんま-斜はす方かた晶あきらは特殊とくしゅな条件下じょうけんかでのみ形成けいせいされる。

• 結晶けっしょう性せいホウ素ほうそ - αあるふぁ-菱ひし面体めんてい晶あきら、βべーた-菱ひし面体めんてい晶あきら、αあるふぁ-正方まさかた晶あきら、βべーた-正方まさかた晶あきら、γがんま-斜はす方かた晶あきら。黒色こくしょくで硬かたい（モース硬度こうど：9.3）。室温しつおんで弱よわい電気でんき伝導でんどう性せいを持もつ。
• アモルファスホウ素ほうそ - 粉末ふんまつ状じょう、ガラス状じょう

ゲルマニウム

• αあるふぁ-ゲルマニウム
• βべーた-ゲルマニウム - 高こう圧あつ時じ

ケイ素けいそ

• アモルファスシリコン - 茶色ちゃいろ粉末ふんまつ
• 結晶けっしょう性せいケイ素けいそ- - 金属きんぞく光沢こうたくのある暗くら灰色はいいろ。結晶けっしょう性せいケイ素けいその単たん結晶けっしょうはチョクラルスキー法ほうで成長せいちょうさせる方法ほうほうが知しられている。

ヒ素ひそ

• 黄色おうしょくヒ素ひそ As₄ - ニンニク臭しゅうのあるロウ状じょうの同素体どうそたい。
• 灰色はいいろヒ素ひそ - 重じゅう合体がったい。金属きんぞく光沢こうたくがある。半金はんきん属性ぞくせい。
• 黒色こくしょくヒ素ひそ - 金属きんぞく光沢こうたくを持もつ同素体どうそたい。半金はんきん属性ぞくせい。

アンチモン

• 青あお白色はくしょくアンチモン - 安定あんてい。半金はんきん属性ぞくせい。
• 黄色おうしょくアンチモン - 非金属ひきんぞく性せい。
• 黒色こくしょくアンチモン - 非金属ひきんぞく性せい。

金属きんぞく

天然てんねんに存在そんざいする金属きんぞく元素げんそのうち、Li,Be, Na, Ca, Sr, Ti, Mn, Fe, Co, Y, Zr, Sn, La, Ce, Pr, Nd, Sm, Gd, Tb, Dy, Yb, Hf, Tl, Po, Th, Pa, U の27種しゅは同素体どうそたいを持もつ。

チタン

チタンは882 °Cで六方ろっぽう最さい密みつ充填じゅうてん構造こうぞう（αあるふぁチタン）から体からだ心こころ立方りっぽう構造こうぞう（βべーたチタン）に転移てんいする。

スズ

→詳細しょうさいは「スズ § 性質せいしつ」を参照さんしょう

• 灰色はいいろスズ（αあるふぁスズ） - 面めん心こころ立方りっぽう格子こうし構造こうぞう。展性てんせいがなくもろい。βべーたスズからの転移てんい点てんは13.2 °Cだが、低温ていおん下かでない限かぎりは変化へんかは穏おだやか。
• 白色はくしょくスズ（βべーたスズ） - 常温じょうおんでの形態けいたい。金属きんぞく的てきで展性てんせいに富とむ。
• 斜はす方かたスズ（γがんまスズ） - 161 °C以上いじょう。
• σしぐまスズ - 高こう圧あつ下かのみ。

低温ていおん下かでのβべーたスズからαあるふぁスズへの転移てんいはスズペストとして知しられている。

鉄てつ

• フェライト（αあるふぁ鉄てつ） - 911 °C以下いかの温度おんど領域りょういきの相そう。体からだ心こころ立方りっぽう格子こうし構造こうぞうをとる。770 °Cまでは強つよ磁性じせい体たいであり、770 °Cを超こえると常つね磁性じせい体たいに変化へんかする。この温度おんどは鉄てつのキュリー温度おんどと呼よばれる。
• βべーた鉄てつ - かつて770 °C - 911 °Cの温度おんど領域りょういきにあるとみなされていた鉄てつの相そう。現在げんざいではαあるふぁ鉄てつに統一とういつされている。
• オーステナイト（γがんま鉄てつ） - 911 °C - 1392 °Cの温度おんど領域りょういきの相そう。面めん心こころ立方りっぽう格子こうし構造こうぞうをとる。
• デルタフェライト（δでるた鉄てつ） - 1392 °C - 1536 °C（融点ゆうてん）の温度おんど領域りょういきの相そう。体からだ心こころ立方りっぽう格子こうし構造こうぞうをとる。

ランタノイドとアクチノイド

• セリウム、サマリウム、テルビウム、ジスプロシウム、イッテルビウムはそれぞれ3種しゅの同素体どうそたいを持もつ。
• プラセオジム、ネオジム、ガドリニウム、テルビウムはそれぞれ2種しゅの同素体どうそたいを持もつ。
• プルトニウムは常つね圧あつ下かで6種しゅの同素体どうそたいを持もち、加工かこう処理しょりを複雑ふくざつにしている。高こう圧あつ下かではさらにもう1種しゅの同素体どうそたいがある。
• プロメチウム、アメリシウム、バークリウム、カリホルニウムもそれぞれ3種しゅの同素体どうそたいを持もつ。

関連かんれん項目こうもく

• 同位どうい体たい
• 異性いせい体たい

外部がいぶリンク

• http://www.physics.uoguelph.ca/summer/scor/articles/scor40.htm
• 『同素体どうそたい』 - コトバンク