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認知にんち言語げんごがく

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』

認知にんち言語げんごがく(にんちげんごがく、英語えいご:cognitive linguistics)は、なま成文法せいぶんほうとの対立たいりつからまれた言語げんごがく分野ぶんやおよびそのしょ理論りろんゲシュタルトてき知覚ちかく視点してん投影とうえい移動いどう、カテゴリーなどの人間にんげん一般いっぱんてき認知にんち能力のうりょく反映はんえいとして言語げんごとらえることをおもとする。

概説がいせつ

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認知にんち言語げんごがくチャールズ・フィルモア格文法かくぶんぽうフレーム意味いみろんレイコフ(George Lakoff) らが1970年代ねんだい提唱ていしょうし、いわゆる「言語げんごがく論争ろんそう」にまで発展はってんしたなま成文法せいぶんほう左派さは生成せいせい意味いみろん、そしてロナルド・ラネカー(Ronald W. Langacker)が独自どくじ研究けんきゅうすすめていった空間くうかん文法ぶんぽう(space grammar:認知にんち文法ぶんぽう)などがもととなって融合ゆうごうてき発展はってんした分野ぶんやである。ノーム・チョムスキーなま成文法せいぶんほうとの対決たいけつなかからしょうじた[1]

1987ねんに、はじめての認知にんち言語げんごがくほんってよいジョージ・レイコフの"Women, Fire, and Dangerous Things"(邦訳ほうやく認知にんち意味いみろん』、池上いけがみ嘉彦よしひこ河上かわかみちかいさくやく)とロナルド・ラネカーの"Foundations of Cognitive Grammar"(かんほんだいいちかん)が相次あいついで出版しゅっぱんされた[2]

レイコフを中心ちゅうしんとしたメタファーメトニミーイメージスキーマImage schema)をもちいて言語げんご実態じったい究明きゅうめいしていく理論りろんとく認知にんち意味いみろんい、ラネカーを中心ちゅうしんとした、概念がいねん用法ようほう基盤きばんモデルから文法ぶんぽう構築こうちくしていく研究けんきゅうとく認知にんち文法ぶんぽう(cognitive grammar)とうことがある。認知にんち言語げんごがくなかでも、平面へいめんてきともせい重視じゅうしする従来じゅうらいかんがかたたいして、つうてき観点かんてんんで空間くうかんてき語句ごく意味いみ変化へんかあきらかにしようとするメタ・プロセス理論りろんあらわれている。

理念りねん

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個々ここ研究けんきゅうしゃによってさまざまなちがいはあるものの、以下いかてんおおくの認知にんち言語げんご学者がくしゃはその理念りねん共有きょうゆうしている(Croft and Cruse 2004)。

  1. 言語げんご現象げんしょう記述きじゅつ説明せつめいにおいて、チョムスキーが仮定かていした普遍ふへん文法ぶんぽう仮説かせつのような「認知にんち能力のうりょく還元かんげんできない生得しょうとくてき言語げんご知識ちしき」というようなものをくのではなく、一般いっぱんてき認知にんち能力のうりょく発現はつげんとしてとらえ、記述きじゅつ説明せつめいする。
  2. 意味いみ静的せいてきなものではなく事態じたい把握はあくかたりようろんてきめんふくめたダイナミックな「概念がいねん」として記述きじゅつする。
  3. 言語げんご運用うんようというめんから言語げんご実態じったい見直みなおす。

1.を重視じゅうしするため、記号きごう、カテゴリー、ゲシュタルト知覚ちかく、イメージスキーマ、身体しんたいせい、メタファー・メトニミーなどから言語げんご記述きじゅつ説明せつめいする。また2.のテーゼより、分化ぶんか焦点しょうてんプロファイル推論すいろんなどの作用さようによって言語げんご意味いみ発現はつげんするというスタンスにつながる。また3.はいわゆる「用法ようほう基盤きばんモデル」で、言語げんご単位たんい定着ていちゃく慣習かんしゅう頻度ひんどなどのめんから言語げんご現象げんしょう分析ぶんせきなおすものである。その言語げんご運用うんよう立場たちばから記述きじゅつすることで、これまでいわゆる言語げんご知識ちしき(competence)とかんがえられてきたものがじつ言語げんご運用うんよう(performance)から説明せつめい可能かのうであることをしめすモデルである。よってかたりようろん談話だんわ分析ぶんせきとも近接きんせつせいゆうするパラダイムであるといえる。

なま成文法せいぶんほうとの共通きょうつうてん差異さい

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両者りょうしゃ共通きょうつうてんは、言語げんご習得しゅうとく言語げんご使用しよう可能かのうにしている知識ちしきのありかた解明かいめいすることを目的もくてきとしており、その言語げんご知識ちしきしん仕組しくみの一環いっかんとしてとらえているてんである[3]なま成文法せいぶんほうでは、言語げんご知識ちしき心的しんてき機能きのう密接みっせつ関係かんけいしながらも、自立じりつした機能きのう単位たんい(「しんてき器官きかん」)を形成けいせいしているとかんがえる[4]たいして、認知にんち言語げんごがくでは、言語げんご能力のうりょくしんうごきとかちがたむすびついているため、言語げんご知識ちしきのありかた解明かいめいするためには、言語げんご以外いがいしんうごきまで考慮こうりょれる必要ひつようがあるとかんがえる[4]。 また、生成せいせい文法ぶんぽう認知にんち言語げんごがくでは、そもそもなに問題もんだいかんがえるかにもちがいがある[5]

認知にんち言語げんごがく研究けんきゅう対象たいしょう

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  • 間接かんせつ受身うけみ
  • 多義たぎせい問題もんだい-多義たぎせいとは、ひとつのかたりがいくつか区別くべつできる意味いみち、かつその意味いみあいだ関連かんれんせいかんじることができる場合ばあいをさす[6]。その多義たぎせいしょうじさせる原理げんりとはなにかを解明かいめいするのは認知にんち言語げんごがく問題もんだいである[6]
  • 所有しょゆう表現ひょうげん問題もんだい[7]

主要しゅよう概念がいねん

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メタファー

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従来じゅうらいメタファー(隠喩いんゆ文章ぶんしょう技巧ぎこう問題もんだいとされてきたが、ジョージ・レイコフマーク・ジョンソン(哲学てつがくしゃによって、メタファーはたんなるぶんいろどりではなく、我々われわれ基本きほんてき認知にんち能力のうりょくのうちのひとつ(概念がいねんメタファー)である、ととらえなおされた。また、メトニミーシネクドキーなどの定義ていぎ解釈かいしゃく、それらが表層ひょうそうにあらわれた言語げんご現象げんしょう説明せつめいは、認知にんち意味いみろんでもっともさかんな研究けんきゅうテーマのひとつである。

また、ジル・フォコニエとなえるメンタルスペース理論りろんは、出発しゅっぱつてんことなるものの、しんてき領域りょういきあいだのマッピング(写像しゃぞう)を想定そうていするてん共通きょうつうしている。

カテゴリー

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認知にんち言語げんごがくにおけるカテゴリー議論ぎろんエレノア・ロッシュらの研究けんきゅうはしはっするものであり、認知にんち言語げんごがくすきっかけのひとつとなった。ぜん成員せいいん共通きょうつうする属性ぞくせいによってカテゴリーを規定きていしようとする古典こてんてきなカテゴリーかんわり、プロトタイプ理論りろん基本きほんレベルカテゴリー概念がいねん提唱ていしょうしており、それらにもとづいて言語げんご記述きじゅつしている。

またかたり意味いみは、そのかたり使用しよう想起そうきする典型てんけいてき状況じょうきょう百科ひゃっか事典じてんてき知識ちしき世界せかい知識ちしき)とはなすことができないとされる。チャールズ・フィルモアらのフレーム意味いみろんや、ジョージ・レイコフ理想りそう認知にんちモデルは、このかんがえにもとづいた議論ぎろんである。

認知にんち文法ぶんぽう

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認知にんち文法ぶんぽうロナルド・ラネカー提唱ていしょうした理論りろんであり、ゲシュタルト心理しんりがくにおいて展開てんかいされてきた空間くうかん認知にんち能力のうりょく、カテゴリー、イメージスキーマを抽出ちゅうしゅつする能力のうりょく焦点しょうてん能力のうりょく参照さんしょうてん能力のうりょくなど、言語げんご以外いがいでも観察かんさつされる人間にんげん一般いっぱんてき認知にんち能力のうりょく反映はんえいとして、文法ぶんぽう包括ほうかつてき説明せつめいすることを目的もくてきとする理論りろん。イメージスキーマなどは、Diagram(認知にんち図式ずしき)というもちいて説明せつめいするため、曖昧あいまい主観しゅかんてきという批判ひはんがある。また、言語げんご構造こうぞうは、意味いみきょく音韻おんいんごく、そしてそれを統合とうごうした記号きごうユニットしかみとめない、という言語げんご理論りろんなかでもかなりきびしい内容ないよう要件ようけんしている。統語とうご統語とうごろんてきには、他派たはられるような抽象ちゅうしょうされた一般いっぱんてき規則きそくとしての統語とうご(syntax)といったようなものに批判ひはんてきで、使用しようれいからのスキーマ抽出ちゅうしゅつというかたち出現しゅつげんする、具体ぐたいからはなされない construction構文こうぶん、ないし、構造こうぞう)が、統語とうご相当そうとうするという用法ようほう基盤きばんモデルをとる(つぎべる構文こうぶん文法ぶんぽう)。

レナード・タルミen:Force dynamics理論りろんは、人間にんげんによる状況じょうきょう言語げんご物理ぶつりてき因果いんが関係かんけいのモデルにもとづいておこなわれるとするものである。

構文こうぶん文法ぶんぽう

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構文こうぶん文法ぶんぽう(construction grammar)は文法ぶんぽうを、慣習かんしゅうされたconstructionの集合しゅうごうたい、としてとらえる立場たちばである。ここでいうconstructionとは、ことわざのような固定こていした表現ひょうげんからいわゆる「SVOがた」のように単語たんご自由じゆうわるものまで、連続れんぞくてきであって(派閥はばつでよくられるような)語彙ごい品詞ひんしなどとして不連続ふれんぞく分離ぶんりできるものではないと認知にんち言語げんごがくでは主張しゅちょうされる。すなわち、用法ようほう基盤きばんモデルによるのがここでいうconstructionである。チャールズ・フィルモア格文法かくぶんぽうフレーム意味いみろん)、アデル・ゴールドバーグ、ウィリアム・クロフトらが主要しゅよう論客ろんかくとしてられている。

構文こうぶん文法ぶんぽうとするのが construction grammar の定訳ていやくとなっているが、言語げんごがくほか分野ぶんやでの定訳ていやくである 「 構文こうぶん == syntax 」 ではないことに注意ちゅうい結果けっか構文こうぶん == resultative construction などの場合ばあいの「構文こうぶん」)。

著名ちょめい認知にんち言語げんご学者がくしゃ

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脚注きゃくちゅう出典しゅってん

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参考さんこう文献ぶんけん

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  • 西村にしむら義樹よしき,野矢のや茂樹しげき言語げんごがく教室きょうしつ中央公論ちゅうおうこうろんしんしゃ中公新書ちゅうこうしんしょ〉、2013ねん