酸さん塩基えんき抽出ちゅうしゅつ

酸さん塩基えんき抽出ちゅうしゅつ（さんえんきちゅうしゅつ、英えい: acid–base extraction）は、その化学かがく的てき性質せいしつに基もとづいて、連続れんぞくする液えき液えき抽出ちゅうしゅつにより、混合こんごう物ぶつから酸さんと塩基えんきを精製せいせいする実験じっけん操作そうさである^[1]。

酸さん塩基えんき抽出ちゅうしゅつは、化学かがく合成ごうせいの後のちのワークアップや粗そ抽出ちゅうしゅつ物ぶつからのアルカロイド等ひとしの天然てんねん化合かごう物ぶつの単たん離はなれの後のちにルーチンとして行おこなわれる。生成せいせい物ぶつには、中性ちゅうせい及および酸性さんせいまたは塩基えんき性せいの不純物ふじゅんぶつの大だい部分ぶぶんはなくなるが、この単純たんじゅんな方法ほうほうでは、化学かがく的てきに類似るいじした酸さんまたは塩基えんきを分離ぶんりすることは困難こんなんである。

理論りろん

「酸さんと塩基えんき」を参照さんしょう

この技術ぎじゅつを支ささえる基礎きそ的てきな理論りろんは、イオン性せい化合かごう物ぶつである塩しおは水みずに溶とけやすく、中性ちゅうせい分子ぶんしは水みずに溶とけにくい傾向けいこうがあることである。

有機ゆうき塩基えんきと酸さんの混合こんごう物ぶつに酸さんを加くわえると、酸さんは非ひ荷電かでんのままであるが、塩基えんきはプロトン化かして塩しおを形成けいせいする。

カルボン酸さん等ひとしの有機ゆうき酸さんが十分じゅうぶん弱よわい場合ばあいは、酸さんを加くわえることで自己じこ解離かいりを抑おさえることができる。

逆ぎゃくに、有機ゆうき酸さんと塩基えんきの混合こんごう物ぶつに塩基えんきを加くわえると、塩基えんきは非ひ荷電かでんのままとなり、酸さんが脱だつプロトン化かして塩しおとなる。また同様どうように、強つよい塩基えんきの自己じこ解離かいりは、塩基えんきを加くわえることで抑おさえられる。

pKaまたはpKbの差さが十分じゅうぶん大おおきい場合ばあいは、強つよい酸すから非常ひじょうに弱よわい酸さんを分離ぶんりしたり、強つよい塩基えんきから非常ひじょうに弱よわい塩基えんきを分離ぶんりする時ときにも酸さん塩基えんき抽出ちゅうしゅつの手順てじゅんを用もちいることができる。例たとえば、

フェノール、2-ナフトール、4-ヒドロキシインドール等ひとしのようにフェノール性せい水酸基すいさんきを持もつ非常ひじょうに弱よわい酸さん（pKaは10程度ていど）を安息香あんそくこう酸さんやソルビン酸さん等ひとしのより強つよい酸さん（pKaは約やく4 - 5）から分離ぶんりする場合ばあい
カフェインや4-ニトロアニリン等ひとしの非常ひじょうに弱よわい塩基えんき（pKbは約やく13 - 14）をメスカリンやジメチルトリプタミン等ひとしのより強つよい塩基えんき（pKbは約やく3 - 4）から分離ぶんりする場合ばあい

通常つうじょう、pHは、分離ぶんりする化合かごう物ぶつのpKa（またはpKb）の大おおよそ間あいだの値ねに調整ちょうせいされる。中ちゅう程度ていどの酸性さんせいpH値ちのためにはクエン酸くえんさんやリン酸さん、希まれ硫酸りゅうさんのような弱酸じゃくさん、高たかい酸性さんせい度どのpH値ちのためには塩酸えんさんや濃こ硫酸りゅうさんが用もちいられる。同様どうように、中ちゅう程度ていどの塩基えんき性せいpH値ちのためにはアンモニアや炭酸たんさん水素すいそナトリウム等ひとしの弱じゃく塩基えんき、高たかい塩基えんき性せい度どのpH値ちのためには炭酸たんさんカリウムや水酸化すいさんかナトリウム等ひとしの強つよ塩基えんきが用もちいられる。

技術ぎじゅつ

通常つうじょう、混合こんごう物ぶつは、ジクロロメタンやジエチルエーテル等ひとしの適てきした溶媒ようばいに溶とかし、分ぶん液えき漏斗ろうとに注そそぐ。酸さんまたは塩基えんきの水溶液すいようえきを加くわえ、水みず相しょうのpHを目的もくてきの物質ぶっしつが望のぞみの形かたちで得えられる範囲はんいに調整ちょうせいする。攪拌して相あい分離ぶんりさせた後のち、目的もくてきの物質ぶっしつを含ふくむ相そうを集あつめる。さらに反対はんたいのpH範囲はんいでこの手順てじゅんを繰くり返かえす。手順てじゅんの順番じゅんばんは重要じゅうようではなく、繰くり返かえすことでより純度じゅんどを上あげることができるが、最終さいしゅう的てきに溶媒ようばいを蒸発じょうはつさせて生成せいせい物ぶつを得えるため、最後さいごの段階だんかいでは、目的もくてきの物質ぶっしつを有機ゆうき相しょうに溶解ようかいしておくことがしばしば行おこなわれる。

制限せいげん

この方法ほうほうは、荷電かでん状態じょうたいと非ひ荷電かでん状態じょうたいで溶解ようかい度どに大おおきな差さがある場合ばあいにしか行おこなえない。また、以下いかについても行おこなえない。

ほとんどのpH範囲はんいで水溶すいよう性せいを持もつグリシン、等とう一ひとつの分子ぶんしに酸性さんせいと塩基えんき性せいの両方りょうほうの官能かんのう基もとを持もつ双そう性せいイオン
トリフェニルアミンやトリヘキシルアミン（エスペラント語ご版ばん）のように、荷電かでん状態じょうたいでは水みず相しょうにほとんど溶解ようかいしない非常ひじょうに脂あぶら溶性ようせいの高たかいアミン
脂肪酸しぼうさんのように、荷電かでん状態じょうたいでは水みず相しょうにほとんど溶解ようかいしない非常ひじょうに脂あぶら溶性ようせいの高たかい酸さん
混和こんわ性せいまたは非常ひじょうに水溶すいよう性せいの高たかいアンモニア、メチルアミン、トリエタノールアミン等ひとしの低級ていきゅうアミン
酢酸さくさん、クエン酸くえんさんやほとんどの無機むき酸さん等ひとしの親水しんすい性せいの酸さん

代替だいたい

酸さん塩基えんき抽出ちゅうしゅつの代替だいたい方法ほうほうには、以下いかのようなものがある。

シリカゲルや酸化さんかアルミニウムを詰つめたフィルタに混合こんごう物ぶつを流ながすと、荷電かでん塩しおが担体に強つよく吸着きゅうちゃくして保持ほじされる。
イオン交換こうかんクロマトグラフィーにより、異ことなるpHでの担体とのアフィニティの差さを利用りようし、酸さんと塩基えんきの混合こんごう物ぶつを分離ぶんりすることができる。

出典しゅってん

[脚注きゃくちゅうの使つかい方かた]

^ Laurence M. Harwood, Christopher J. Moody (13 June 1989). Experimental organic chemistry: Principles and Practice (Illustrated ed.). WileyBlackwell. pp. 118-22. ISBN 978-0-632-02017-1

外部がいぶリンク

Acid base extraction

[Harwood-Moody-EOCPAP-1] Laurence M. Harwood, Christopher J. Moody (13 June 1989). Experimental organic chemistry: Principles and Practice (Illustrated ed.). WileyBlackwell. pp. 118-22. ISBN 978-0-632-02017-1

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