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おと変化へんか

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音韻おんいん変化へんかから転送てんそう

おと変化へんか(おんへんか、えい: sound change)とは、歴史れきし言語げんごがくにおいて、発音はつおん時間じかんてき変化へんかである。

概要がいよう

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おと変化へんかは、ひとつの音素おんそひとつの弁別べんべつてき素性すじょう)のべつ音素おんそへの置換ちかん音素おんそ変化へんか)、および、2つのおと統合とうごうあたらしいおと産出さんしゅつなど既存きそん音声おんせい変化へんか音韻おんいん変化へんか)からなる。おと変化へんか環境かんきょうてき調整ちょうせいされうる。つまり、変化へんか一部いちぶおと環境かんきょうでのみ発生はっせいするが、環境かんきょうではおな音声おんせい変化へんか影響えいきょうけない。

おと変化へんか」という用語ようごは、つうてき変化へんか、つまり、言語げんごおとシステムの経時きょうじ変化へんかす。 一方いっぽう、「交替こうたい」とは、同期どうきして(隣接りんせつするおとおうじて、個々ここ話者わしゃ言語げんごないで)発生はっせいし、言語げんご基礎きそとなるシステムを変更へんこうしない変更へんこう(たとえば、英語えいごの-s)をす。 複数ふくすうは、bet [s]、bed [z]のように、どのおとつづくかによって発音はつおんことなる。これはおと変化へんかではなく、交替こうたいである)。 ただし、「おと変化へんか」は、交替こうたい歴史れきしてき導入どうにゅう場合ばあいがある(トスカーナ方言ほうげんでの母音ぼいんの/ k /など。かつては[k]はCarlo 'のdi [k] arlo'のようであったが、現在げんざいは[h] di [h] arlo、位置いちで[k]と交替こうたい:con [k] arlo'with Carlo ')。

おと変化へんか研究けんきゅう通常つうじょう変化へんか規則きそくてきこるという作業さぎょう仮定かていのもとでおこなわれる。つまり、音韻おんいん以外いがい要因よういん影響えいきょうける単語たんご意味いみなど)に関係かんけいなく、構造こうぞう条件じょうけんたされるたび機械きかいてき適用てきようされることが期待きたいされる。 ただし、方言ほうげん借用しゃくよう文法ぶんぽう類似るいじせい、またはその既知きちおよび未知みち原因げんいんにより、通常つうじょう変更へんこうたいするあきらかな例外れいがい発生はっせいする可能かのうせいがある。一部いちぶ変化へんかは「散発さんぱつてき」と表現ひょうげんされる。つまり、あきらかにてとれる規則きそくせいがなく、特定とくていの1つの単語たんごまたはいくつかの単語たんごにのみ影響えいきょうするものである。

条件じょうけん変化へんか無条件むじょうけん変化へんか

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日本語にほんごでは、かつてɸ(ファぎょう子音しいん)と発音はつおんしたハぎょう子音しいんは、kaɸa→kawaのように、母音ぼいんはさまれた条件じょうけんでwに変化へんかした。後述こうじゅつする口蓋こうがいは、i・eのようなぜんした母音ぼいんまえという条件下じょうけんかこる子音しいん変化へんかである。このような、前後ぜんごおと条件じょうけんによって変化へんかするれいおおくみられる。

一方いっぽう英語えいごだい母音ぼいん推移すいいは、かく音素おんそきた無条件むじょうけん変化へんかである。

正式せいしき表記ひょうき

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以下いか形式けいしきぶんである。

A > B

これは、「おとAがおとBに変化へんかする(またはえられる、反映はんえいされるなど)」とむ。そのため、Aはこの言語げんごふる段階だんかいぞくし、Bはあたらしい段階だんかいぞくする。 記号きごう「>」は、B<Aのようにぎゃくにすることができ、これは、(あたらしい) B が (ふるい) A" から派生はせいしたということも意味いみする。

POc. *t > Rot. f
これは「はらオセアニア(POc.) の*tはロトゥマン(Rot.)の[f]として反映はんえいされる」という意味いみである。

このようなぶん両側りょうがわ変化へんかはじまりとわりをしめしているだけで、さらなる中間ちゅうかん段階だんかいがある場合ばあいもある。うえれいは、実際じっさいには一連いちれん変化へんか完結かんけつにした説明せつめいである: *[t]最初さいしょ[θしーた]英語えいごあたま子音しいんthinのようなもの)に変化へんかし、その[f]しょうじたとすると、よりくわしくあらわすことができる:

t > [θしーた] > f

変更へんこう無条件むじょうけんに (すべての環境かんきょうで) 機能きのうする場合ばあいのぞき、変更へんこう適用てきようされる前後ぜんご関係かんけい指定していする必要ひつようがある。

A > B /X__Y
= 「AのまえにXがあり、そのにYがつづくと、AはBにわる。」

れい

It. b > v /[母音ぼいん]__[母音ぼいん]、これはつぎのように簡略かんりゃく可能かのう
It. b > v /V__V (Vは任意にんい母音ぼいん)
= 「母音ぼいんあいだにある [b] (ラテン語らてんご由来ゆらい) は イタリア では [v] になった。」(たとえば caballum, dēbet > cavalloうま」, deveりている (三人称さんにんしょう単数たんすう.)」'

2番目ばんめれいつぎしめす。

PIr. [−cont][−voi] > [+cont] /__[C][+cont]
=「はらイラン(PIr.)では、子音しいんまえ無声むせい継続けいぞくせい無声むせい閉鎖へいさおん)が、直後ちょくご継続けいぞくせい子音しいん共鳴きょうめいおんまたは摩擦音まさつおん)がつづくと、対応たいおうする無声むせい継続けいぞくせい子音しいん摩擦音まさつおん)に変化へんかした」。

インド・イラン祖語そご *pra 'まえへ' > アヴェスター fra; *trayasさん」 (男性だんせい主格しゅかく複数ふくすう)> Av. θしーたrayō; *čatwārasよん」 (男性だんせい主格しゅかく複数ふくすう) > Av. čaθしーたwārō; *pśawsいちひきうしの」 (主格しゅかく *paśu) > Av. fšāoš (主格しゅかく pasu).

なお、閉鎖へいさおんまえでは摩擦まさつこらず、そのため、*saptaなな」 > Av. hapta. となる。(ただし、古代こだいペルシアにつながるさまざまなイランぐんでは、すべての子音しいん連結れんけつ摩擦まさつこった: 古代こだいペルシアhaftaなな」)。

記号きごう「#」は単語たんご境界きょうかい (最初さいしょまたは最後さいごの) をあらわし、「/__#」という表記ひょうきは「単語たんご最後さいご」を意味いみし、「/#__」は「単語たんご最初さいしょ」を意味いみする。

Gk. [stop] > ∅ /__#
= "ギリシャ (Gk.) で語末ごまつ破裂はれつおんえた。

これは以下いかのように単純たんじゅんできる

Gk. P > ∅ / __#

ここでPは任意にんい破裂はれつおんあらわす。

様々さまざまおと変化へんか

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おおくのおと変化へんかは、発音はつおんしにくいおとらくにするための変化へんかである。しかし、どのような場合ばあい発音はつおんしにくいとかんじるかは、言語げんごにより、時代じだいによりことなってくる。たとえば日本語にほんごでは、かつては母音ぼいん連続れんぞくきらっていたため、れん母音ぼいん一方いっぽう脱落だつらくさせたりあいだ子音しいん挿入そうにゅうしたりしていたが、現在げんざいではこのような傾向けいこうはない。

同化どうかは、前後ぜんごおとのどちらかが他方たほう作用さようして、おとあるいはおなおんえてしまうことである。ぜんした母音ぼいんであるiやeの影響えいきょうで、そのまえにあるkやtがtʃやtɕに変化へんかする現象げんしょう口蓋こうがいばれ、おおくの言語げんごられる。たとえば沖縄おきなわくびさと方言ほうげんでは、「きも」がkimo→tɕimuに変化へんかするなど、kiがtɕiに変化へんかしている[1]。これはうしろのおとまえおと変化へんかさせるもので、逆行ぎゃっこう同化どうかう。これにたいし、まえおとうしろのおと変化へんかさせるものを順行じゅんこう同化どうかう。たとえば英語えいご複数ふくすうがた語尾ごび発音はつおんz/s/izは、直前ちょくぜんおとによる変化へんかである。また、日本語にほんごの「んで」というかたちは、「みて」に由来ゆらいするが、yomiteからiが脱落だつらくしたのち、mのゆうごえせい後続こうぞくのtに作用さようして、tが有声音ゆうせいおんdに変化へんかしている[2]隣接りんせつしていないおと同化どうかこることもあり、ゲルマンにおけるウムラウト有名ゆうめいである。たとえば英語えいごのfootの複数ふくすうがたfeetは、ふるくはfōtiであったものが、うしろのiの影響えいきょうでoːがeːに変化へんかしたものである(その、さらにだい母音ぼいん推移すいいでeː→iːの変化へんかこした)。

おなおとあるいはおと連続れんぞくすると、そのうちのどれかをちが種類しゅるいおと変化へんかさせることがあり、これを異化いかう。西欧せいおうでは、rが連続れんぞくしておなのなかにあらわれると、そのうちのひとつをlにえる傾向けいこうがある。たとえば英語えいごのpurpleは、ラテン語らてんごから借用しゃくようしたpurpuraが変化へんかしたものである[3]異化いかは、同化どうかくらべるとあまりおおくはこらず、規則きそくてきではなく散発さんぱつてきこる場合ばあいおお[4]

弱化じゃっかは、母音ぼいん子音しいんよわまる現象げんしょう母音ぼいん弱化じゃっかは、口腔こうくうない中央ちゅうおう付近ふきん調音ちょうおんされるあいまい母音ぼいん(ə)への変化へんか代表だいひょうてきで、おおくの場合ばあいアクセントかれない音節おんせつ発生はっせいする。子音しいん弱化じゃっかは、調音ちょうおんてんにおけるせばめがよわまる(調音ちょうおん器官きかんあいだ隙間すきまひろくなる)現象げんしょうである[5]調音ちょうおんてんにおけるせばめは破裂はれつおんやぶおと摩擦音まさつおん接近せっきんおんじゅんよわくなり、子音しいん弱化じゃっかはこのじゅんこる。日本語にほんごではハぎょう子音しいん破裂はれつおん p から摩擦音まさつおん ɸ と変化へんかしたれいがある。またzの摩擦音まさつおんよわまってrに変化へんかするれいがあり(ロータシズム)、たとえばゴートのmaizaが英語えいごでmore、ドイツでmehr変化へんかしている。弱化じゃっかすすむと、おと脱落だつらくきる。たとえば英語えいごのknifeはkの脱落だつらくきており、ラテン語らてんごのbuccaはスペインでbocaになった[6]

弱化じゃっかぎゃく強化きょうかは、弱化じゃっかくらべるとあまりこらないが、与那国よなぐにでは「やま」yama→dama、「若者わかもの」wakamono→bakamunuのように、接近せっきんおんyから破裂はれつおんd、接近せっきんおんwから破裂はれつおんbへの変化へんかられる[7]

おと脱落だつらくには、「いやだ」→「やだ」、「している」→「してる」などがある。脱落だつらくきても、もとながさをたもつために隣接りんせつするおとながくなることがある(代償だいしょう延長えんちょう)。たとえば英語えいごでは、語末ごまつのrが消失しょうしつしたが、そのぶん直前ちょくぜん母音ぼいんながくなった(れい:car[kar]→[kaː])。nightは[nixt]から[niːt]に変化へんかした(そのさらに[nait]に変化へんかした)。また、おなおんつづくと、「あしし」→「あし」(わるし)、「たいいく」→「たいく」(体育たいいく)のように、じゅうおと脱落だつらくきることがある。

おと挿入そうにゅうは、語頭ごとうかたりちゅう語尾ごびおと挿入そうにゅうされることである。語頭ごとう子音しいん連続れんぞく回避かいひするため、英語えいごのspiritは、フランス語ふらんすごではeをけてespritとなっている。かたりちゅうでも、おと挿入そうにゅうして発音はつおんらくにすることがある。たとえば、「たくあん(沢庵たくあん)」を「たくわん」と発音はつおんする場合ばあいでは、wが挿入そうにゅうされている。

おと転換てんかんは、かたりのなかのおと位置いちわることである。たとえば、日本語にほんごにおける「あらたし」→「あたらし」(あたらし)、「したつづみ」→「したづつみ」(舌鼓したつづみ)などがある。

あいだちがっているとわれる発音はつおんなおそうとするあまり、ただしい発音はつおんえてしまう場合ばあいがある。これを過剰かじょう修正しゅうせいう。日本語にほんご方言ほうげんでヒをシと発音はつおんする話者わしゃは、シをヒになおそうとする意識いしきはたらき、「しく(く)」を「ひく」にえてしまう、ひとしれいがある。

原因げんいん

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おと変化へんか原因げんいんについては,ふるくから様々さまざませつとなえられてきたが、代表だいひょうてきなものには以下いかがある[8]

基層きそう言語げんごせつ
2つの言語げんごかりにAとBとする)が接触せっしょくし、言語げんごAの話者わしゃ言語げんごBを不完全ふかんぜん習得しゅうとくしたとき言語げんごAの発音はつおん特徴とくちょう言語げんごBへがれる(母語ぼご転移てんい)とするせつ。すなわち、言語げんご交替こうたいさい基層きそう言語げんご発音はつおん特徴とくちょう残存ざんそんする。これは「基層きそう言語げんご仮説かせつ(substratum theory)」 とばれる。
音韻おんいん空間くうかんせつ
音韻おんいん空間くうかん(phonological space)」の観点かんてんから、なるべくおとたがいに体系たいけいない等間隔とうかんかくとなるようほろ調整ちょうせいはたらくとするせつ各種かくしゅ音韻おんいん過程かてい背後はいごには「調音ちょうおん容易たやすさ」という動機どうきづけがあり、日本語にほんごのように[i, e, u, o, ɑ]をもつ母音ぼいん体系たいけい均衡きんこうれた音韻おんいん空間くうかんであり比較的ひかくてき変化へんかしにくいが、均衡きんこうれていない音韻おんいん空間くうかんしめ言語げんご均衡きんこう目指めざして変化へんかしやすいとする。
過剰かじょう修正しゅうせいせつ
威信いしんある発音はつおんへの意識いしきつよすぎることによってしょうじる過剰かじょう修正しゅうせい原因げんいんとするせつ

おと法則ほうそく

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19世紀せいき青年せいねん文法ぶんぽう学派がくは言語げんご学者がくしゃは、おそらく物理ぶつり法則ほうそく模倣もほうして、恒常こうじょうてき変化へんか規則きそくすために「おと法則ほうそく」という用語ようご導入どうにゅうした[9]。「法則ほうそく」という用語ようごは、いまもなお、特定とくていおと変化へんかすものとして、研究けんきゅうしゃめいかんして使つかわれている(グリムの法則ほうそくグラスマンの法則ほうそくなど)。現実げんじつ世界せかいおと変化へんかはしばしば例外れいがいみとめられる。それにもかかわらず、法則ほうそく恒常こうじょうせいまたは例外れいがいいと想定そうていすることによって、歴史れきし言語げんご学者がくしゃ規則きそくてき対応たいおう概念がいねん定義ていぎすることが可能かのうになるため、それはヒューリスティック価値かちがある(比較ひかく方法ほうほう参照さんしょう)。

それぞれのおと変化へんかは、空間くうかん時間じかん制限せいげんがある。これは、かぎられた領域りょういきない特定とくてい方言ほうげんうち)で、かぎられた期間きかん機能きのうすることを意味いみする。これらの(およびの)理由りゆうから、「おと法則ほうそく」という用語ようごは、おと変化へんかかんして現実げんじつてき普遍ふへんせい含蓄がんちくするものとして批判ひはんされてきた[10]

脚注きゃくちゅう

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  1. ^ 日本語にほんご琉球りゅうきゅう諸語しょごによる歴史れきし比較ひかく言語げんごがく』、23ぺーじ
  2. ^ 日本語にほんご琉球りゅうきゅう諸語しょごによる歴史れきし比較ひかく言語げんごがく』、22-23ぺーじ
  3. ^ 言語げんごがく だい2はん』、180ぺーじ
  4. ^ 日本語にほんご琉球りゅうきゅう諸語しょごによる歴史れきし比較ひかく言語げんごがく』、31ぺーじ
  5. ^ 日本語にほんご琉球りゅうきゅう諸語しょごによる歴史れきし比較ひかく言語げんごがく』、28-29ぺーじ
  6. ^ 言語げんごがく入門にゅうもん』、161ぺーじ
  7. ^ 日本語にほんご琉球りゅうきゅう諸語しょごによる歴史れきし比較ひかく言語げんごがく』、28-29ぺーじ
  8. ^ Algeo, John, and Thomas Pyles. The Origins and Development of the English Language. 5th ed. Thomson Wadsworth, 2005. p34-p35.
  9. ^ Sihler, Andrew L. (2000). Language History: An Introduction. John Benjamins. p.50.
  10. ^ Anttila, Raimo (1989). Historical and Comparative Linguistics. John Benjamins. p. 85.

参考さんこう文献ぶんけん

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関連かんれん項目こうもく

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