枝えだ角かく

成熟せいじゅくしたアカシカ, Denmark (2009)

枝えだ角かく（えだつの、Antler）またはアントラーは、シカ科かの角かくである。骨ほね、軟骨なんこつ、線維せんい組織そしき、皮膚ひふ、神経しんけい、血管けっかんで構成こうせいされる単一たんいつの構造こうぞうで、一般いっぱん的てきにオスにのみに見みられる（トナカイ を除のぞく）。枝えだ角かくは毎年まいとし落おちて再さい成長せいちょうし、主おもに性的せいてきディスプレイとして、またハーレムを制御せいぎょするためのオス間あいだの戦たたかいの武器ぶきとして用もちいられる。

構造こうぞう

アカシカの角かく。ベルベットが成長せいちょう中ちゅうの角かくを覆おおってい、酸素さんそと栄養分えいようぶんを供給きょうきゅうする血液けつえきが流ながれる。

枝えだ角かくはシカに固有こゆうのものである。枝えだ角かくは、角すみ座骨ざこつ(pedicle)と呼よばれる頭蓋骨ずがいこつの先端せんたんから成長せいちょうする。枝えだ角かくが成長せいちょうしている間あいだ、それはベルベットと呼よばれる血管けっかんの多おおい皮膚ひふで覆おおわれ、成長せいちょうしている骨ほねに酸素さんそと栄養素えいようそを供給きょうきゅうする。枝えだ角かくは、動物界どうぶつかいで雄ゆうの第だい二に次じ性徴せいちょうの最もっとも誇張こちょうされたケースの1つと見みなされており、他たの哺乳類ほにゅうるいの骨ほねよりも速はやく成長せいちょうする。成長せいちょうは先端せんたんで起おこり、最初さいしょは軟骨なんこつであり、後のちに骨ほね組織そしきに置おき換かわる。枝えだ角かくがフルサイズに達たっすると、ベルベットが失うしなわれ、枝えだ角かくの骨ほねが死しぬ。この死しんだ骨ほねの構造こうぞうが成熟せいじゅくした枝えだ角かくである。ほとんどの場合ばあい、根元ねもとの骨ほねは破やぶ骨ほね細胞さいぼうによって破壊はかいされ、枝えだ角かくはある時点じてんで脱落だつらくする。ほとんどの北極ほっきょくおよび温帯おんたいの種たねでは、枝えだ角かくの成長せいちょうと脱落だつらくは一いち年生ねんせいであり、日光にっこうの長ながさによって制御せいぎょされる。枝えだ角かくは毎年まいとし再さい成長せいちょうするが、そのサイズは多おおくの種たねで、齢よわいによって異ことなり、最大さいだいサイズに達たっするまでは数すう年ねんにわたって毎年まいとし増加ぞうかする。熱帯ねったいの種たねでは、枝えだ角かくは一年中いちねんじゅう生はえ換かわる可能かのう性せいがあり、サンバーなどの一部いちぶの種たねでは、枝えだ角かくは複数ふくすうの要因よういんに応おうじて一いち年ねんの異ことなる時期じきに生はえ換かわる。赤道せきどう域いきに分布ぶんぷする一部いちぶのシカは、枝えだ角かくが生はえ換かわらない。枝えだ角かくは、支配しはいと性的せいてきディスプレイとして機能きのうし、オス間あいだの闘争とうそうの武器ぶきとして、時ときには相手あいてに深刻しんこくな傷きずを負おわせることもある。

機能きのう

性せい選択せんたく

ほとんどの種たねで、枝えだ角かくの進化しんかの主おもな手段しゅだんは性せい淘汰とうたであり、これは雄お同士どうしの競争きょうそう（行動こうどう的てき、生理学せいりがく的てき）と雌めすの配偶はいぐう者しゃ選択せんたくという2つのメカニズムを介かいして機能きのうする。

外敵がいてきからの防御ぼうぎょ

イエローストーン国立こくりつ公園こうえんのオオカミは、枝えだ角かくのないオスのヘラジカ、または少すくなくとも1匹ひきのオスが枝えだ角かくのないヘラジカの群むれを攻撃こうげきする可能かのう性せいが3.6倍ばい高たかいという結果けっかがある。

雪ゆきかき

トナカイは、枝えだ角かくを使用しようして雪ゆきを取とり除のぞき、下したの植生しょくせいを食たべることができる。これは、トナカイの雌めすが角かくを進化しんかさせた理由りゆうの一ひとつとされる。

聴覚ちょうかくアンテナ

ヘラジカでは、枝えだ角かくは大おおきな補聴器ほちょうきとして機能きのうする場合ばあいがある。

多様たよう性せい

枝えだ角かく、体からだの大おおきさ、牙きばの多様たよう化かは、生息せいそく地ちと行動こうどう（戦たたかいと交尾こうび）の変化へんかに強つよく影響えいきょうされてきた。

シカ亜あ科か

• 
  ギガンテウスオオツノジカ（絶滅ぜつめつ種しゅ）
• 
  アカシカ（ベルベット付づけ）
• 
  ダマジカ
• 
  ワピチ
• 
  サンバー
• 
  アクシスジカ

オジロジカ亜あ科か

• 
  トナカイ
• 
  ミュールジカ
• 
  オジロジカ
• 
  ヘラジカ

枝えだの相あい同性どうせいと進化しんか

枝えだ角かくの系統けいとう進化しんか

現在げんざい発見はっけんされている最古さいこの枝えだ角かくの化石かせき記録きろくは、約やく1,700万まん年ねん前まえの中新ちゅうしん世よ初期しょきである。初期しょきの枝えだ角かくは小ちいさく、２分岐ぶんきであった 。枝えだ角かくが進化しんかするにつれて、長ながくなり、多おおくの枝えだを獲得かくとくし、より複雑ふくざつになっていった。枝えだの相あい同性どうせいは1900年代ねんだい以前いぜんから議論ぎろんされているが、最近さいきん、枝えだの分岐ぶんき構造こうぞうと相あい同性どうせいを記述きじゅつする新あらたな方法ほうほうが考案こうあんされた。

枝えだ角かくと動物どうぶつや人間にんげんの関かかわり

動物どうぶつ

生はえ落おちた角かくにはカルシウム、リン、その他たのミネラルが含ふくまれているため、リス、ヤマアラシ、ウサギ、マウスなどの小しょう動物どうぶつが摂取せっしゅする。特とくにミネラルが土壌どじょうに少すくない場所ばしょでは顕著けんちょである。

人間にんげん

生はえ落おちる角かくを犬いぬを使つかって探索たんさくしたり、餌えさと網あみなどを使つかった罠わなで収集しゅうしゅうしたりする。また、奈良公園ならこうえんでは人間にんげんや他たの鹿しかに怪我けがをさせないよう、一いち年ねんに一いち度ど切きり落おとしを行おこなう。それとは別べつに、トロフィーハンティングとして鹿しかを仕留しとめた景品けいひんとして切きり落おとされる。

アメリカでは販売はんばいが許可きょかされているが、カナダでは自然しぜんで消費しょうひされる物資ぶっしとみなされ、取引とりひきすると罰ばっせられる。

人間にんげんが手てに入いれた角かくは、道具どうぐ、武器ぶき、装飾そうしょく品ひん、おもちゃを作つくるための材料ざいりょうとされる。ヨーロッパの後期こうき旧石器時代きゅうせっきじだいの歴史れきし資料しりょうとして発見はっけんされ、後ごの時代じだいには象牙ぞうげの代替だいたい品ひんとして利用りようされた。

アジアでは伝統でんとう医学いがくや栄養えいよう補助ほじょ食品しょくひんとされた（漢方薬かんぽうやくの鹿しか茸だけ、鹿角かづのなど）。ヨーロッパでも気付きつけ薬やくなどの材料ざいりょうとされた。

関連かんれん項目こうもく

• 骨ほね角かく器き
• 鹿角かつの霜しも
• 袋ふくろ角かく - 春はるから夏なつにかけて角かくを覆おおい成長せいちょうさせる皮膚ひふ。体温たいおん調節ちょうせつ機能きのうがある。漢方薬かんぽうやくでは鹿しか茸だけと呼よばれる。