国くに地頭じとう（読よみ）くにじとう

鎌倉かまくら幕府ばくふのはじめ，1185年ねん（文治ぶんじ1）11月，源みなもと頼朝よりともの代官だいかん北条ほうじょう時政ときまさの奏請そうせいによって，五ご畿山陰さんいん山陽さんよう南海なんかい西海にしうみの諸国しょこくを対象たいしょうに，国こくごとにおかれた地頭じとう。このとき謀反ぼうほん人じんとなって逃亡とうぼうした源みなもと義経よしつね・同行どうこう家かを追つい捕と（ついぶ）するために，これらの国くにに地頭じとうをおき，（1）荘園しょうえん・公おおやけ領りょうをとわず，反別たんべつ5升しょうの兵へい粮米を徴収ちょうしゅうすること，（2）一いち国こくの田地たじを知行ちぎょうすること，（3）国衙こくがの在庁ざいちょうや荘そう・公おおやけの下職したしょく（現地げんちの役人やくにん）・惣そう押領使しなどからなる地頭じとうの輩やからを幕府ばくふの支配しはい下かにくみこむことなどが予定よていされていた。しかし兵へい粮米をめぐる現地げんちの混乱こんらんがひどくなり，翌年よくねん3月がつには北条ほうじょう時政ときまさが自分じぶんの7ヵ国かこくの地頭じとう職しょくの辞退じたいを後こう白河しらかわ院いんに申もうし出でて惣そう追おい捕と使つかいになったのをはじめ，頼朝よりともが兵へい粮米の徴収ちょうしゅうを全面ぜんめん的てきに停止ていしし，さらに6月がつには九州きゅうしゅうをのぞいて西国さいこく37ヵ国かこくで，平家ひらか没ぼつ官かん領りょう・謀反むほん人じん所帯じょたい跡あとをのぞいて地頭じとうの権限けんげんをとどめ，武士ぶしたちによる田地たじ知行ともゆきなどの濫妨が禁止きんしされたのを機会きかいに，それまでの国くに地頭じとうは実際じっさい上じょう，廃止はいしされるにいたった。以後いご，国くにには惣そう追おい捕と使つかいがおかれ，やがて守護しゅご（人ひと）と呼よばれるようになった。国くに地頭じとうは北条ほうじょう時政ときまさの7ヵ国かこくのほかに，梶原かじはら景時かげときが播磨はりま・美作みさく，土肥どい実みのる平へいが備前びぜん・備中びっちゅう・備後びんご，天野あまの遠景えんけいが九州きゅうしゅう諸国しょこくを管かんしたと推定すいていされる。国くに地頭じとうの存続そんぞく期間きかんは短みじかかったが，その特色とくしょくは後ごの守護しゅごと異ことなって，国衙こくがの行政ぎょうせい（国務こくむ）に公然こうぜんと干渉かんしょうした点てんにあり，朝廷ちょうてい側がわの不満ふまんもここに集中しゅうちゅうしたらしい。これよりさき，頼朝よりともは1184年ねん（元もと暦こよみ1）4月がつ，木曾きそ義仲よしなか滅亡めつぼう後ごの北陸ほくりく道どう諸国しょこくに鎌倉かまくら殿どの勧すすむ農のう使し＝地頭じとうとして比企ひき藤ふじ内ない朝宗ともむねを派遣はけんし，85年ねん8月がつ，伊予いよ守もりになった源義経みなもとのよしつねに国務こくむをとらせず，地頭じとうを派遣はけんして国務こくむをおこなわせたりしたが，11月の国くに地頭じとうはこれらの経験けいけんをふまえて実施じっしされたものである。国くに地頭じとう問題もんだいで時政ときまさの相談役そうだんやくであった九きゅう条じょう家かの侍さむらい左近さこん将監しょうげん伊沢いさわ家か景けいが，のちに頼朝よりともに召めしかかえられて，奥州おうしゅう合戦かっせん後ごの陸奥みちのく国こく留守るす職しょくとなり，奥州おうしゅう経営けいえいにあたることになった。
執筆しっぴつ者しゃ：大山おおやま 喬たかし平たいら