小泉こいずみ今日子きょうこ“念願ねんがん”の作品さくひん「ピエタ」開幕かいまく　音楽おんがくと共ともに時ときを超こえる願ねがい“むすめたち、よりよく生いきよ”

小泉こいずみ今日子きょうこがプロデュースを手てがける、asatte produce「ピエタ」が昨日きのう7月がつ27日にちに東京とうきょう・本多劇場ほんだげきじょうで開幕かいまくした。

本ほん作さくは大島おおしま真寿美ますみの小説しょうせつ「ピエタ」を舞台ぶたい化かした作品さくひん。小泉こいずみの念願ねんがんだったという今回こんかいの舞台ぶたい版ばんでは、ペヤンヌマキが脚本きゃくほん・演出えんしゅつ、向島むかいしまゆり子こが音楽おんがく監督かんとくを担になう。なお本ほん作さくは2020年ねんに上演じょうえん予定よていだったが、新型しんがたコロナウイルスの影響えいきょうで中止ちゅうしになり、同年どうねんにリーディング公演こうえんが披露ひろうされた。

本ほん作さくは、「四季しき」で知しられる作曲さっきょく家かヴィヴァルディが、孤児こじの養育よういく施設しせつ・ピエタ慈善じぜん院いんの少女しょうじょたちに音楽おんがくを教おしえていたという史実しじつをベースにした作品さくひん。ヴィヴァルディの死しをきっかけに、彼かれと関かかわりのあった境遇きょうぐうの異ことなる8人にんの女性じょせいたちが出会であい、心しんの深ふかいところで結むすび付ついていく様子ようすが描えがかれる。舞台ぶたいは18世紀せいきのイタリア・ベネチア。孤児こじとしてピエタで育そだったエミーリア（小泉こいずみ）は、かつてピエタで共ともに音楽おんがくを学まなんだ貴族きぞくのヴェロニカ（石田いしだひかり）から、とある楽譜がくふを探さがす手伝てつだいを頼たのまれる。少女しょうじょ時代じだい、その楽譜がくふに自作じさくの詩しを書かき込こんだというヴェロニカは、その詩しに「何なにかとても大事だいじなことを書かいた気きがするの」と話はなす。彼女かのじょたちは楽譜がくふを探さがし、ヴィヴァルディの家族かぞくや彼かれの愛弟子まなでしのもとを訪おとずれるうち、高級こうきゅう娼婦しょうふのクラウディア（峯村みねむらリエ）に出会であい……。

ステージには、上手じょうず前まえから下手へた奥おくに向むけてだんだんと高たかくなるように、段差だんさが設もうけられている。キャストたちがそれらの段差だんさをさまざまな向むきで昇のぼり降おりする様子ようすは、まるで運河うんがや路地ろじが入いり組くんだベネチアの街並まちなみを進すすんでいるかのような印象いんしょうを与あたえた。

劇げき中ちゅうでは、ヴィヴァルディの楽曲がっきょくや音楽おんがく監督かんとくの向島むこうじまが本ほん作さくのために作つくった曲きょく、小鳥ことりのさえずりや水みずの音おとなどが、バイオリンやピアノ、小道具こどうぐなどにより奏かなでられ、情景じょうけいの変化へんかが音おとで伝つたえられる。演奏えんそうスペースとなる下手へた奥おくのエリアはゴンドラのような箱はこ型がたになっており、五線譜ごせんふを思おもわせる手てすりも設もうけられた。また衣裳いしょうは、白しろを基調きちょうとしたエレガントなドレスで統一とういつされているが、登場とうじょう人物じんぶつのキャラクターや職業しょくぎょう、立場たちばによって異ことなるデザインとなっている。

本ほん作さくでは、それぞれの葛藤かっとうを抱かかえながら清廉せいれんに生いきようとする女性じょせいたちの姿すがたが、出演しゅつえん者しゃたちにより生いき生いきと立たち上あげられた。小泉こいずみが演えんじるエミーリアは、自分じぶんが育そだったピエタの事務じむ仕事しごとを担になう真面目まじめな女性じょせい。小泉こいずみは、周囲しゅういを尊重そんちょうする聡明そうめいさを感かんじさせる繊細せんさいな演技えんぎを見みせ、個性こせい的てきな登場とうじょう人物じんぶつたちの中なかで調和ちょうわを担になう存在そんざいとして、エミーリアを立たち上あげた。かつてはエミーリアら孤児こじに混まざって音楽おんがくを学まなび、今いまは未亡人みぼうじんの貴族きぞくとなったヴェロニカを演えんじたのは石田いしだ。少女しょうじょのようにかわいらしく澄すんだ声こえの中なかに、石田いしだはヴェロニカの気品きひんや誇ほこりを感かんじさせた。峯村みねむら演えんじる高級こうきゅう娼婦しょうふクラウディアは、ヴィヴァルディの元もと恋人こいびとで、教養きょうようとやんちゃさを併あわせ持もつ女性じょせい。峯村みねむらは、エミーリアやヴェロニカたちにとって大おおきな存在そんざいとなる彼女かのじょの生いき様ざまを、凛りんとした佇たたずまいで演えんじ切きった。

広岡ひろおか由里子ゆりこはヴィヴァルディの愛弟子まなでしのプリマドンナ・ジロー嬢じょうを支ささえる、献身けんしん的てきな姉あねパオリーナ、伊勢いせ志摩しまは貧まずしい中なかで病気びょうきの姉あねを看病かんびょうして暮くらす、ヴィヴァルディの妹いもうとザネータ、高野たかのゆらこはエミーリアらと同おなじピエタ出身しゅっしん者しゃで、薬屋くすりやを切きり盛もりして暮くらす心しん優やさしいジーナを、それぞれの個性こせいを生いかして好演こうえん。ジロー嬢じょう役やくにキャスティングされたソプラノ歌手かしゅ・橋本はしもと朗子あきこと、一流いちりゅうの演奏えんそう家かとしてピエタを経済けいざい的てきに支ささえるアンナ・マリーア役やくにキャスティングされたバイオリニスト・会田あいだ桃子ももこは、セリフを伴ともなう演技えんぎに挑戦ちょうせんしつつ、歌唱かしょうシーンや演奏えんそうシーンで活躍かつやく。物語ものがたりにリアリティを与あたえた。

最後さいごに彼女かのじょたちが見みつけた詩しにつづられていたのは、“むすめたち、よりよく生いきよ”というメッセージ。少女しょうじょヴェロニカが自分じぶんたちに向むけて書かいたこの言葉ことばは、大人おとなになった彼女かのじょたちの姿すがたと重かさなり、生いきることへの祝福しゅくふくに満みちた幕切まくぎれとなった。果はたして、この詩しはどこで見みつかるのか、謎なぞの行方ゆくえをぜひ劇場げきじょうで確たしかめてみては。

上演じょうえん時間じかんは約やく2時じ間あいだ30分ふん。東京とうきょう公演こうえんは8月がつ6日にちまで。その後ご、9・10日にちに愛知あいち・穂ほの国くにとよはし芸術げいじゅつ劇場げきじょうPLAT 主ぬしホール、19・20日にちに富山とやまのオーバード・ホール 中ちゅうホール、26日にちに岐阜ぎふ・ぎふ清流せいりゅう文化ぶんかプラザ 長良川ながらがわホールで上演じょうえんされる。