過去かこ3000年ねんのオーロラ出現しゅつげん地域ちいきを計算けいさん、文献ぶんけんとも一致いっち

【2021年ねん9月がつ13日にち 国立こくりつ極地きょくち研究所けんきゅうじょ】

オーロラは太陽たいようから飛来ひらいしたプラズマが地球ちきゅうの大気たいきに衝突しょうとつすることで発光はっこうする現象げんしょうだ。プラズマは地球ちきゅうの磁力じりょく線せんに沿そって地球ちきゅうの南北なんぼく両極りょうきょく付近ふきんへ運はこばれるため、オーロラも高緯度こういど地域ちいきで見みられる。ただし、地球ちきゅうの磁力じりょく線せんが集あつまる「磁極じきょく」は自転じてん軸じくの極きょくからややずれていて、北半球きたはんきゅうではグリーンランド北部ほくぶ、南半球みなみはんきゅうでは南極大陸なんきょくたいりくのドームC付近ふきんにある。さらに、磁極じきょくの位置いちは年々ねんねん変化へんかしている。オーロラ帯たいは磁極じきょくを卵たまごのような輪郭りんかくのドーナツ形がたに取とり囲かこんでいて、地磁気ちじきの変化へんかに伴ともなって形かたちを変かえ続つづけてきた。

現在げんざいの日本にっぽんではオーロラが見みえることはほぼないが、過去かこの文献ぶんけんにはオーロラと思おもわれる記録きろくが残のこされている。たとえば、藤原ふじわら定家さだいえは『明月めいげつ記き』の中なかで1204年ねん2月がつに京都きょうとで「赤あか気き」が見みえたと記しるしており、これはオーロラを指さしていたことが明あきらかになっている（参照さんしょう：「『明月めいげつ記き』の記録きろくなどから解明かいめい、平安へいあん・鎌倉かまくら時代じだいの連発れんぱつ巨大きょだい磁気嵐じきあらしの発生はっせいパターン」）。日本にっぽんは少すくなくとも過去かこ1万まん年ねんの間あいだはオーロラ帯たいに入はいったことがないが、磁極じきょくが今いまよりも日本にっぽんに近ちかかったときに太陽たいよう活動かつどうによる磁気嵐じきあらしが発生はっせいすれば、このようにオーロラが見みえたのだと考かんがえられる。

ただ、オーロラ帯たいの変化へんかを示唆しさする記録きろくは見みつかっているものの、数すう千せん年ねんにわたる変動へんどうが計算けいさんによって求もとめられたことはなかった。そこで、国立こくりつ極地きょくち研究所けんきゅうじょの片岡かたおか龍りゅう峰みねさんと統計数理研究所とうけいすうりけんきゅうしょの中野なかの慎也しんやさんは、過去かこのデータと合あうような地磁気ちじきの計算けいさんモデルを見みつけ出だし、これを適用てきようすることで、過去かこ3000年ねんのオーロラ帯たいの変化へんかを連続れんぞく的てきに再現さいげんすることに成功せいこうした。

過去かこ3000年ねんのオーロラ帯たいの変化へんか（左ひだり：北極ほっきょく域いき／右みぎ：南極なんきょく域いき）。動うごいている楕円だえんの線せんは外側そとがわから、磁気じき緯度いど40度ど、60度ど、65度ど、70度どを示しめす。磁気じき緯度いど65度どと70度どの間あいだがオーロラ帯たい（提供ていきょう：国立こくりつ極地きょくち研究所けんきゅうじょリリース、以下いか同どう）

北きた極点きょくてんを中心ちゅうしんとした地図ちず上じょうに示しめしたオーロラ帯たい。（左ひだり）北極ほっきょく域いきにおける2010年ねんのオーロラ帯たい。（右みぎ）今回こんかいの研究けんきゅうにより明あきらかになった1200年ねん時点じてんのオーロラ帯たい。赤あかと青あおの塗ぬりつぶし部分ぶぶんがそれぞれ年代ねんだいのオーロラ帯たい。色いろの線せんは外側そとがわから、磁気じき緯度いど40度ど、60度どを示しめす

再現さいげんの結果けっか、オーロラ帯たいが日本にっぽんに最もっとも近ちかかったのは12世紀せいきごろで、『明月めいげつ記き』の時期じきとほぼ重かさなることが確認かくにんされた。また、同どう時期じきのノルウェーで書かかれた『散文さんぶんのエッダ』や『王おうの鏡かがみ』に見みられるオーロラの記述きじゅつも、再現さいげんされたオーロラ帯たいの位置いちと整合せいごうしていた。

再現さいげん結果けっかはさらに、19世紀せいきのドイツの科学かがく者しゃヘルマン・フリッツがまとめた18～19世紀せいきのオーロラ目撃もくげき事例じれいとも一致いっちしている。フリッツが作成さくせいした地図ちずでは、オーロラ帯たいがイギリスの方ほうへ膨ふくらんでいるという特徴とくちょうが見みられたが、この膨ふくらみは計算けいさん結果けっかでも再現さいげんされた。

（左ひだり）フリッツによる、1700年ねんから1872年ねんのオーロラの目撃もくげき例れいから集計しゅうけいしたオーロラ地図ちず。（右みぎ）本ほん研究けんきゅうにより再現さいげんした1700年ねん～1870年ねんのオーロラ帯たい（積算せきさん値ち）

将来しょうらい、激はげしい太陽たいよう活動かつどうに伴ともなって大だい規模きぼな磁気嵐じきあらしが起おこれば、オーロラが広範囲こうはんいで発生はっせいし、そのオーロラの誘導ゆうどう電流でんりゅうによって主要しゅよう都市としの電力でんりょくネットワークが破壊はかいされるなど、深刻しんこくな被害ひがいが引ひき起おこされる危険きけん性せいが高たかまる。今回こんかいの研究けんきゅうは、現在げんざいから過去かこ3000年間ねんかんの最もっとも精緻せいちで信頼しんらいできるオーロラ帯たいの世界せかい地図ちずを獲得かくとくしたという点てんで、将来しょうらいの世界せかい的てきな停電ていでんなどの被害ひがいを想定そうていするためのハザードマップの基礎きそをなす成果せいかといえる。