フジは1日にち、TBSも5日にちのみ… テレビ局てれびきょくの国政こくせい選挙せんきょの軽視けいしと安直あんちょく報道ほうどうの増加ぞうか

　2021年ねんの衆議院しゅうぎいん議員ぎいん総そう選挙せんきょは、かつてない短期間たんきかんの間あいだに岸田きしだ新しん政権せいけんの発足ほっそく、解散かいさん、公示こうじから投開票とうかいひょうと慌あわただしく実施じっしされた。自民党じみんとうの苦戦くせんが伝つたえられていたものの蓋ぶたを開あけてみれば、自民党じみんとうだけで過半数かはんすうどころか安定あんてい多数たすうを獲得かくとく。野党やとう共闘きょうとうで統一とういつ候補こうほを増ふやした立憲りっけん民主党みんしゅとうが大おおきく議席ぎせき数すうを減へらした。

　テレビの報道ほうどう現場げんばで記者きしゃや番組ばんぐみ制作せいさく者しゃを長ながく務つとめ、現在げんざいは大学だいがく教員きょういんとして国政こくせい選挙せんきょのたびにテレビのニュース番組ばんぐみをくわしくチェックしている上智大学じょうちだいがくの水島みずしま宏明ひろあき教授きょうじゅは、テレビ局てれびきょくのニュース番組ばんぐみでは“選挙せんきょ軽視けいし”の姿勢しせいがかなり露骨ろこつなかたちで表あらわれたと解説かいせつする。

民放みんぽうのニュース番組ばんぐみで目立めだった“衆院しゅういん選せん軽視けいし”

――衆院しゅういん選せんに関かんするテレビ各局かくきょくの報道ほうどうを振ふり返かえってみると、どんなことがいえるでしょうか。

水島みずしま氏し　今回こんかいは衆院しゅういん選せんに入はいる前まえに、菅かん前ぜん首相しゅしょうの辞任じにんによって事実じじつ上新かみしん首相しゅしょうを選えらぶ自民党じみんとう総裁そうさい選挙せんきょが行おこなわれました。そのなかでコロナ対策たいさくや分配ぶんぱいなどの議論ぎろんが一いち通とおり出でて、テレビ各局かくきょくも視聴しちょう者しゃも「政治せいじネタでお腹はらいっぱい」という状況じょうきょうになってしまいました。衆議院しゅうぎいんの解散かいさん後ご、公示こうじ日びから投票とうひょう前日ぜんじつまでの選挙せんきょ期間きかんは今回こんかい、平日へいじつで9日間にちかんありました。私わたしは2012年ねん以降いこう、国政こくせい選挙せんきょのたびに各局かくきょくの夕方ゆうがたと夜よるのニュース番組ばんぐみにおける選挙せんきょ期間きかん中ちゅうの「選挙せんきょ」の扱あつかい方かたを記録きろくしています。

　今回こんかいも夜よるニュースで見みてみると、9日間にちかんのうち「選挙せんきょ」について報道ほうどうしたのはNHKの『ニュースウオッチ9』が9日間にちかん。ある意味いみで公共こうきょう放送ほうそうとして当然とうぜんともいえますが、民放みんぽうでも日本にほんテレビの『news zero』も9日間にちかんで毎回まいかい放送ほうそうしています。一方いっぽうでフジテレビの『FNN Live News αあるふぁ』は公示こうじ日びの10月がつ19日にちのたった1日にちだけ。選挙せんきょ期間きかん中ちゅう、テレビ局てれびきょくは有権者ゆうけんしゃに投票とうひょうするための材料ざいりょうを提供ていきょうするという大切たいせつな役割やくわりを担になっています。この現状げんじょうでは、公共こうきょうの電波でんぱを使つかって報道ほうどう番組ばんぐみも伝つたえるというテレビの使命しめい感かんが希薄きはくだといえると思おもいます。

　ただフジテレビだけかというと、「報道ほうどうのTBS」とまでいわれたTBSの看板かんばんニュース番組ばんぐみ『news23』も選挙せんきょについて報道ほうどうした日ひは5日にちのみ。想像そうぞうするに、選挙せんきょについてのニュースを報道ほうどうしても視聴しちょう率りつが取とれないからという理由りゆうで、番組ばんぐみとして減へらしたのだろうと思おもいます。おそらく番組ばんぐみプロデューサーが単独たんどくで決きめたというより、報道局ほうどうきょく長ちょうなども容認ようにんした末すえの結果けっかだろうと思おもいます。政治せいじに関かんする報道ほうどうでは、どこの会社かいしゃも報道局ほうどうきょくのトップが関与かんよして意思いし決定けっていするのが通常つうじょうですから。

　この番組ばんぐみはかつてジャーナリストの故こ・筑紫哲也ちくしてつやさんがキャスターを長ながく務つとめ、番組ばんぐみ制作せいさくの自由じゆうさと批判ひはん精神せいしんで「多事たじ争論そうろん」などのそれまでのテレビ報道ほうどうにはなかったコーナーが人気にんきを集あつめました。政権せいけん選択せんたくを問とう選挙せんきょの報道ほうどうをこれほど軽視けいしするなんて、もし筑紫つくしさんが存命ぞんめいだったらこんな状況じょうきょうをなんと言いうだろうかと思おもいました。TBSが取材しゅざいしたインタビューのビデオテープをオウム真理教おうむしんりきょうの幹部かんぶらに見みせたことが坂本さかもと弁護士べんごし一家いっか殺害さつがいにつながった「TBSビデオ事件じけん」のときに、「TBSは死しんだ」という言葉ことばを発はっした筑紫つくしさん。彼かれならきっと烈火れっかのごとく怒おこって同おなじ言葉ことばを発はっしたのではと想像そうぞうします。

経費けいひ節減せつげんや争点そうてん回避かいひで安易あんいな報道ほうどうが目立めだつ　典型てんけいは「センキョ割わり」

――選挙せんきょ報道ほうどうの回数かいすうが減へったこと以外いがいに選挙せんきょ報道ほうどうで変かわったことがありますか？

水島みずしま氏し　私わたしは選挙せんきょ報道ほうどうの「内容ないよう」についても放送ほうそう内容ないようを分類ぶんるいして記録きろくしています。そのデータを振ふり返かえると、第だい2次じ安倍あべ政権せいけん以降いこうの傾向けいこうとして、ニュース番組ばんぐみでは「争そう点てんについて当事とうじ者しゃの声こえをリアルに報道ほうどうすることを避さける」という傾向けいこうが進すすんできたように思おもいます。この要因よういんとしては、2014年ねんの衆院しゅういん選せん直前ちょくぜんに自由民主党じゆうみんしゅとうが各かくテレビ局てれびきょくに出だした「公平こうへい、中立ちゅうりつ、公正こうせい」の要望ようぼう書しょの影響えいきょうでテレビ局てれびきょく側がわが過度かどに与党よとうの反応はんのうを気遣きづかうようになったことがあります。

「争点そうてん」の報道ほうどうに替かわって多おおくなってきたのが、「争点そうてん以外いがい」のテーマについての報道ほうどうです。たとえば18歳さい選挙せんきょ権けんが認みとめられるようになった2016年ねんの参院さんいん選挙せんきょには激増げきぞうしました。それまで未成年みせいねんだった18歳さい、19歳さいの人ひとたちが初はじめて選挙せんきょ権けんを行使こうしすることになり、どんな仕組しくみになったのかや、高校こうこうなどでどんな教育きょういくが行おこなわれているのかなど、「争点そうてん」そのものには触ふれずに、制度せいどの仕組しくみを説明せつめいするなど、選挙せんきょの「周辺しゅうへん」についての報道ほうどうが目立めだつようになりました。

　その後ごもこうした「争点そうてん以外いがい」のテーマの報道ほうどうは毎回まいかい数多かずおおく、今回こんかいの衆院しゅういん選せんでは「期日きじつ前ぜん投票とうひょう」の報道ほうどうや投票とうひょう済ずみであることを証明しょうめいすれば商品しょうひんサービスなどで一定いっていの割引わりびきを受うけることができる「センキョ割わり」についての報道ほうどうが目めにつきました。

　かつて取材しゅざいする側がわにいた印象いんしょうでいうと、こうした「センキョ割わり」などの報道ほうどうは、商品しょうひんや商業しょうぎょう施設しせつを撮影さつえいすれば済すむので安易あんいに映像えいぞう素材そざいを集あつめることができるのです。議論ぎろんが分わかれるようなデリケートな問題もんだいは、取材しゅざいするときも放送ほうそうするときもものすごく気きを遣つかいますが、それと比くらべればあまり考かんがえなくてすみます。こうした「争点そうてん以外いがい」のテーマが毎年まいとし増ふえて、今回こんかいも国政こくせい選挙せんきょでは「18歳さい選挙せんきょ権けん」が初はじめて行使こうしされた2016年ねんの参院さんいん選せんに次ついで、こうした報道ほうどうの割合わりあいが高たかい国政こくせい選挙せんきょになりました。

“ネット連動れんどう”で積極せっきょく的てきな局きょくと消極しょうきょく的てきな局きょくに二分にぶん　NHKと日にっテレが積極せっきょく的てき

――若者わかものにはテレビを見みないでネットで情報じょうほうを得えるという人ひとが増ふえています。今いまのままのテレビ報道ほうどうでいいのでしょうか？

水島みずしま氏し　今回こんかいの選挙せんきょ報道ほうどうでは、これまでの国政こくせい選挙せんきょでは見みられなかった報道ほうどうに踏ふみ切きったテレビ局てれびきょくがありました。それは“ネット連動れんどう”です。限かぎられた放送ほうそう時間じかんの中なかですべてを伝つたえるのではなく、視聴しちょう者しゃに局きょくが制作せいさくした選挙せんきょ用ようのサイトをQRコードなどで示しめして「こちらで自分じぶんで確認かくにんしてください」と利用りようを促うながすやり方かたです。これまでの「公共こうきょう放送ほうそう」ではなく、「公共こうきょうメディア」だと公言こうげんしているNHKでは放送ほうそうだけでなくネットでも、という姿勢しせいを明あきらかにして“ネット連動れんどう型がた”の報道ほうどうを毎回まいかいのように行おこないました。

　視聴しちょう者しゃからすれば、自分じぶんの選挙せんきょ区くの候補者こうほしゃについて政策せいさくや経歴けいれきもわかるし、それぞれの政党せいとうの公約こうやくなどもわかるし、自分じぶんで調しらべることができて便利べんりなシステムだったと思おもいます。

　民間みんかん放送ほうそうでも日本にほんテレビが候補者こうほしゃにアンケートを実施じっしして、そのデータをサイトで公開こうかい、有権者ゆうけんしゃが自分じぶんの考かんがえに近ちかい候補者こうほしゃを見みつけることができるような仕組しくみをつくりました。この2つの局きょくが他たのテレビ局てれびきょくと比くらべて進すすんでいた印象いんしょうです。

　テレビ朝日てれびあさひ、TBS、フジテレビはここまで進すすんだ形かたちの“ネット連動れんどう”型がたの選挙せんきょ報道ほうどうはできず、次回じかいの国政こくせい選挙せんきょに課題かだいを残のこした格好かっこうになりました。

　NHKについては、放送ほうそう法ほうが改正かいせいされてネットに予算よさんを使つかうことが認みとめられるようになりました。一方いっぽうで民放みんぽうではネットに力ちからを入いれても、そのコストをどうやって回収かいしゅうするのかまだまだ先さきは不透明ふとうめいです。それでも日にっテレはそこにトライしました。ビジネスとして功こうを奏そうするかどうかはまだわかりませんが、日にっテレが他たの民放みんぽうよりも選挙せんきょ報道ほうどうで一いち歩ほ先さきに進すすんだということは言いえます。次つぎの大おおきな選挙せんきょで他たの民放みんぽうが追随ついずいするのではないかと思おもいます。

（協力きょうりょく＝水島みずしま宏明ひろあき／上智大学じょうちだいがく文学部ぶんがくぶ新聞しんぶん学科がっか教授きょうじゅ＜テレビ報道ほうどう論ろん＞）