コノハチョウ

コノハチョウ
	伊丹いたみ市立しりつ昆虫こんちゅう館かんにて
分類ぶんるい
学名がくめい
	Kallima inachus (Boisduval, 1846)
和名わみょう
	コノハチョウ
英名えいめい
	Orange Oakleaf
亜種あしゅ
	K. i. eucerca（Fruhstorfer）;

コノハチョウ（木この葉蝶はちょう・Kallima inachus）は、チョウ目め（鱗翅りんし目め）・タテハチョウ科かに分類ぶんるいされるチョウの一種いっしゅ。翅の裏面りめんが枯葉かれはのように見みえることからこの名ながあり、隠蔽いんぺい擬態ぎたいをする代表だいひょう的てきな昆虫こんちゅうの一ひとつに挙あげられる。沖縄おきなわ県けん指定してい天然記念物てんねんきねんぶつ（1969年ねん）、準じゅん絶滅ぜつめつ危惧きぐ（NT）（環境省かんきょうしょうレッドリスト）。

特徴とくちょう

成虫せいちゅうの前翅ぜんし長ちょうは45-50mm。翅の裏面りめんは枯葉かれはに非常ひじょうによく似にた模様もようを持もつ。模様もようは個体こたい変異へんいが多おおく、1匹ひきずつ模様もようが異ことなると言いってもよい。さらに前翅ぜんしの先端せんたんは広葉樹こうようじゅの葉は先さきのように尖とがり、後翅こうしの後端こうたんは葉柄ようへいのように細ほそく突出とっしゅつする。一方いっぽう、翅の表側おもてがわは藍色あいいろで、前翅ぜんしに太ふとい橙色だいだいいろの帯おびが入はいり、裏側うらがわとは対照たいしょう的てきな鮮あざやかな配色はいしょくである。

翅の裏側うらがわが枯葉かれはに似にるため、擬態ぎたいの典型てんけい例れいとしてよく知しられている昆虫こんちゅうである。

習性しゅうせい

暗くらい熱帯ねったい雨林うりん内うちに生息せいそくする。成虫せいちゅうは1年ねんのうちに数すう回かい発生はっせいを繰くり返かえし、ほぼ年中ねんじゅう見みられる。この種たねを含ふくめ、タテハチョウ科かはあまり花はなには訪おとずれず、樹液じゅえきや腐くさった果実かじつ、獣しし糞くそなどにやって来きて汁しるを吸すう。

幼虫ようちゅうはキツネノマゴ科かのオキナワスズムシソウ、セイタカスズムシソウ、オギノツメなどを食しょく草そうとする。

擬態ぎたいへの疑問ぎもん

擬態ぎたいではないとする説せつもある。「もしも枯葉かれはに似にせた姿すがたを擬態ぎたいとして用もちいるならば、枯葉かれはを背景はいけいに羽根はねの裏うらを見みせるか、枯かれ枝えだに葉はのような姿すがたで止とまるべきだと考かんがえられるが、この蝶ちょうは葉はの上うえで翅を広ひろげるか、太ふとい幹みきに頭あたまを下したに向むけて止とまるため、枯葉かれはに似にせる意味いみがないだろう」と云ゆった議論ぎろんがあり、実際じっさいにこの擬態ぎたいが発揮はっきされる状況じょうきょうは少すくない、というのである^[1]。

はねを閉とじると枯葉かれはそっくりではあるが、樹液じゅえきなどに飛来ひらいした際さいは、はねを広ひろげて表面ひょうめんを見みせている。これでは捕食ほしょく者しゃである鳥とりの目めをごまかすのは不可能ふかのうに思おもわれる。また鳥とりがその「枯葉かれは」を食たべ物ものだと認識にんしきしてしまうと、それを記憶きおくしてしまう可能かのう性せいがあり「枯葉かれは」だけでは安全あんぜんとは考かんがえ難がたい。そこで本ほん種たねの生存せいぞん戦略せんりゃくとして考かんがえられるのが、「目めくらまし」である。すなわち、本ほん種たねを追おう鳥とりの攻撃こうげきをタテハチョウ類るいの迅速じんそくかつ不規則ふきそくな飛とび方かたでかわし、暗くらい場所ばしょに入はいって枯葉かれは模様もようを出だして静止せいしすることで、鳥とりが発見はっけんすることを困難こんなんにする一種いっしゅの目めくらましとしている、とする。さらに同どう一いち個体こたいの鳥とりは攻撃こうげきに失敗しっぱいした記憶きおくによりコノハチョウを攻撃こうげきしなくなる。つまり、鮮あざやかな色彩しきさいの表側おもてがわを見みせるのは「狙ねらっても無駄むだだ」と教おしえており、生存せいぞん戦略せんりゃく上じょう、目立めだつ表おもてばねを持もつことこそ有利ゆうりであると考かんがえられる^[2]。

分布ぶんぷ・種たね内ない分類ぶんるい

インド北部ほくぶからヒマラヤ、インドシナ半島いんどしなはんとう、中国ちゅうごく、台湾たいわん、先さき島とう諸島しょとうから沖縄諸島おきなわしょとう^[3]、奄美あまみ群島ぐんとうの沖永良部島おきのえらぶしま（人為じんい的てきな放ひ蝶ちょうと推定すいていされている^[4]）と徳之島とくのしま^[5]にかけて分布ぶんぷする^[6]^[7]。コノハチョウ属ぞく（Kallima 属ぞく）の中なかでは最もっとも広ひろい分布ぶんぷ域いきを持もつ。分布ぶんぷ域内いきないでいくつかの亜種あしゅに分わかれており、日本にっぽんに分布ぶんぷするものは亜種あしゅ K. i. eucerca Fruhstorfer, 1898 とされる。

沖縄おきなわ県内けんないでは天然記念物てんねんきねんぶつ指定していのため採集さいしゅうできない。

近きん縁えん種しゅ

コノハチョウ属ぞく（Kallima 属ぞく）はインド、東南とうなんアジア地域ちいきを中心ちゅうしんに10種しゅが知しられる。

K. albofasciata Moore, 1877 - アンダマン・ニコバル諸島しょとう
K. alompra Moore, 1879 - インドシナ半島いんどしなはんとう
K. buxtoni Moore, 1879 - インドネシア
K. horsfieldi Kollar, 1844 - インド、ヒマラヤ山脈ひまらやさんみゃく南部なんぶ
コノハチョウ K. inachus (Boisduval, 1846) - インド、ヒマラヤ、インドシナ半島いんどしなはんとう、中国ちゅうごく、台湾たいわん、日本にっぽん（北限ほくげんは徳之島とくのしま）
K. limborgii Moore, 1879 - インドシナ半島いんどしなはんとう
K. knyvetti de Nicéville, 1886 - インドシナ半島いんどしなはんとう北部ほくぶ
K. paralekta (Horsfield, 1829) - インドネシア
K. philarchus (Westwood, 1848) - インド
K. spiridiva Grose-Smith, 1885 - インドネシア

類似るいじ種しゅ

また、属ぞくが異ことなるが以下いかの2種類しゅるいも翅裏が枯かれ葉は状じょうで、和名わみょうに「コノハ」とつく。これらは迷チョウとしてまれに記録きろくされる。

イワサキコノハ Doleschallia bisaltide (Cramer, 1777): Doleschallia polibetaとする文献ぶんけんもある。前翅ぜんし長ちょう35mmほどで、コノハチョウよりやや小型こがた。翅の表側おもてがわの地色じいろは橙色だいだいいろをしており、前翅ぜんしの先端せんたんが黒褐色こっかっしょく、橙色だいだいいろの斑点はんてんが入はいる。インド、インドシナ半島いんどしなはんとう、ニューギニア島とう、フィリピンなどに分布ぶんぷする。日本にっぽんでは南西諸島なんせいしょとう各地かくちでフィリピン亜種あしゅ D. b. philippensis Fruhstorfer, 1912が記録きろくされる。和名わみょうの「イワサキ」は、石垣島いしがきじまの生物せいぶつ研究けんきゅうに功績こうせきを残のこした岩崎いわさき卓たく爾なんじに因ちなんだものである。
キオビコノハ Yoma sabina (Cramer, 1780): 前翅ぜんし長ちょう40mmほど。コノハチョウよりはタテハモドキに近きん縁えんで、翅の縁えんは葉状ようじょうにならず角かくばる。前翅ぜんしの表側おもてがわの地色じいろは褐色かっしょくで、和名わみょう通どおり橙色だいだいいろの太ふとい帯おびが翅の中央ちゅうおう部ぶを前後ぜんごに貫つらぬく。インドシナ半島いんどしなはんとう、インドネシア、ニューギニア、フィリピンなどに分布ぶんぷする。日本にっぽんでは先さき島とう諸島しょとうから沖縄諸島おきなわしょとうにかけて少数しょうすうが記録きろくされる。

出典しゅってん

^ 高桑たかくわ(1995)
^ 高桑たかくわ正敏まさとし (1995年ねん9月がつ15日にち). “コノハチョウは木この葉はに擬態ぎたいしているのか？ータテハチョウ類るいの生存せいぞん戦略せんりゃくを考かんがえるー”. 神奈川かながわ県立けんりつ生命せいめいの星ほし・地球ちきゅう博物館はくぶつかん. 2023年ねん7月がつ27日にち閲覧えつらん。
^ “コノハチョウ(このはちょう)とは？意味いみや使つかい方かた”. コトバンク. DIGITALIO. 2024年ねん8月がつ16日にち閲覧えつらん。 “日本にっぽんでは沖縄おきなわ本島ほんとう，石垣いしがき島とう，西表島いりおもてじまにみられる。”
^ 白水しろうず隆たかし. “コノハチョウ(このはちょう)とは？意味いみや使つかい方かた”. コトバンク. DIGITALIO. 2024年ねん8月がつ16日にち閲覧えつらん。
^ 福田ふくだ, 晴夫はるお; 中峯なかみね, 芳郎よしお; 大坪おおつぼ, 博文ひろぶみ; 岡崎おかざき, 幹人みきひと (2009). “奄美諸島あまみしょとうの徳之島とくのしまで発生はっせいしたコノハチョウ”. やどりが 2009 (221): 18–23. doi:10.18984/yadoriga.2009.221_18.
^ “コノハチョウの擬態ぎたい”. つやま自然しぜんのふしぎ館かん【推おし】ブログ. つやま自然しぜんのふしぎ館かん (2024年ねん3月がつ2日にち). 2024年ねん8月がつ16日にち閲覧えつらん。 “コノハチョウ（中略ちゅうりゃく）分布ぶんぷ域いき　インド、インドシナ半島いんどしなはんとう、ニューギニア島とう、フィリピン、日本にっぽんでは先さき島とう諸島しょとうから沖縄諸島おきなわしょとう、奄美あまみ群島ぐんとうなど”
^ “コノハチョウ”. 石垣いしがき市し. 2024年ねん8月がつ16日にち閲覧えつらん。 “コノハチョウは国外こくがいではヒマラヤからネパール、インド、タイ、中国ちゅうごく南部なんぶ、台湾たいわんなどに広ひろく分布ぶんぷしているが、国内こくないでは沖縄おきなわ本島ほんとうを北限ほくげんとして、石垣いしがき島とう、西表島いりおもてじまに生息せいそくしている蝶ちょうである（鹿児島かごしま県けん沖永良部おきのえらぶ島とうでも記録きろく有ゆう）。”

参考さんこう文献ぶんけん

北きた隆たかし館かん「学生がくせい版ばん日本にっぽん昆虫こんちゅう図鑑ずかん」 ISBN 4-8326-0040-0
実業之日本社じつぎょうのにほんしゃ「西表島いりおもてじまフィールド図鑑ずかん」横塚よこつか眞しん己おのれ人にん ISBN 4-408-61119-0
南方みなかた新しん社しゃ「昆虫こんちゅうの図鑑ずかん採集さいしゅうと標本ひょうほんの作つくり方かた」福田ふくだ晴夫はるお他ほか ISBN 4-86124-057-3
Lepidoptera and some other life forms（英語えいご）
奄美諸島あまみしょとうの徳之島とくのしまで発生はっせいしたコノハチョウ　福田ふくだ晴夫はるお他た　やどりが(日本にっぽん鱗翅りんし学会がっかい誌し)221(2009年ねん9月がつ).18-24
高桑たかくわ正敏まさとし、(1995).コノハチョウは木この葉はに擬態ぎたいしているのか？　―夕ゆうテハチョウ類るいの生存せいぞん戦略せんりゃくを考かんがえる―.自然しぜん科学かがくのとびら Vol.1(2),[1]

[1] 高桑たかくわ(1995)

[2] 高桑たかくわ正敏まさとし (1995年ねん9月がつ15日にち). “コノハチョウは木この葉はに擬態ぎたいしているのか？ータテハチョウ類るいの生存せいぞん戦略せんりゃくを考かんがえるー”. 神奈川かながわ県立けんりつ生命せいめいの星ほし・地球ちきゅう博物館はくぶつかん. 2023年ねん7月がつ27日にち閲覧えつらん。

[3] “コノハチョウ(このはちょう)とは？意味いみや使つかい方かた”. コトバンク. DIGITALIO. 2024年ねん8月がつ16日にち閲覧えつらん。 “日本にっぽんでは沖縄おきなわ本島ほんとう，石垣いしがき島とう，西表島いりおもてじまにみられる。”

[4] 白水しろうず隆たかし. “コノハチョウ(このはちょう)とは？意味いみや使つかい方かた”. コトバンク. DIGITALIO. 2024年ねん8月がつ16日にち閲覧えつらん。

[5] 福田ふくだ, 晴夫はるお; 中峯なかみね, 芳郎よしお; 大坪おおつぼ, 博文ひろぶみ; 岡崎おかざき, 幹人みきひと (2009). “奄美諸島あまみしょとうの徳之島とくのしまで発生はっせいしたコノハチョウ”. やどりが 2009 (221): 18–23. doi:10.18984/yadoriga.2009.221_18.

[6] “コノハチョウの擬態ぎたい”. つやま自然しぜんのふしぎ館かん【推おし】ブログ. つやま自然しぜんのふしぎ館かん (2024年ねん3月がつ2日にち). 2024年ねん8月がつ16日にち閲覧えつらん。 “コノハチョウ（中略ちゅうりゃく）分布ぶんぷ域いき　インド、インドシナ半島いんどしなはんとう、ニューギニア島とう、フィリピン、日本にっぽんでは先さき島とう諸島しょとうから沖縄諸島おきなわしょとう、奄美あまみ群島ぐんとうなど”

[7] “コノハチョウ”. 石垣いしがき市し. 2024年ねん8月がつ16日にち閲覧えつらん。 “コノハチョウは国外こくがいではヒマラヤからネパール、インド、タイ、中国ちゅうごく南部なんぶ、台湾たいわんなどに広ひろく分布ぶんぷしているが、国内こくないでは沖縄おきなわ本島ほんとうを北限ほくげんとして、石垣いしがき島とう、西表島いりおもてじまに生息せいそくしている蝶ちょうである（鹿児島かごしま県けん沖永良部おきのえらぶ島とうでも記録きろく有ゆう）。”

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