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グリニャール試薬 - Wikipedia

グリニャール試薬しやく

有機ゆうき金属きんぞく試薬しやく

グリニャール試薬しやく(グリニャールしやく、えい: Grignard reagent)はヴィクトル・グリニャール発見はっけんした有機ゆうきマグネシウムハロゲン化物ばけもので、一般いっぱんしきが R−MgX とあらわされる有機ゆうき金属きんぞく試薬しやくである(R は有機ゆうきもと、X はハロゲンしめす)。多彩たさい用途ようとち、有機ゆうき金属きんぞく化学かがく黎明れいめいささえた試薬しやくであり、いまもなお有機ゆうき合成ごうせいにはかせない有機ゆうき反応はんのう試薬しやくとして、近代きんだい有機ゆうき化学かがくとおして非常ひじょう重要じゅうよう位置いちめている[1][2]

その調製ちょうせい比較的ひかくてき容易よういであり、ハロゲンアルキルエーテル溶媒ようばいちゅう金属きんぞくマグネシウム作用さようさせると、炭素たんそ-ハロゲン結合けつごう炭素たんそ-マグネシウム結合けつごうわりグリニャール試薬しやく生成せいせいする。生成せいせいする炭素たんそ-マグネシウム結合けつごうでは炭素たんそ陰性いんせい、マグネシウムが陽性ようせいつよ分極ぶんきょくしているため、グリニャール試薬しやく有機ゆうきもとつよもとめかく試薬しやく (形式けいしきてきには R)としての性質せいしつしめす。

また、強力きょうりょく塩基えんきせいしめすため、酸性さんせいプロトンが存在そんざいすると、さん塩基えんき反応はんのうによりグリニャール試薬しやく炭化たんか水素すいそになってしまう。そのため、みず存在そんざいではあつかうことができず、グリニャール試薬しやく合成ごうせいするさいには原料げんりょう器具きぐ十分じゅうぶん乾燥かんそうさせておく必要ひつようがある。これらの反応はんのうせいあつかいはアルキルリチウム類似るいじしている。

調整ちょうせいずみのグリニヤール試薬しやく市販しはんされており、工業こうぎょうてきスケールで使用しようすることができる[3]

発見はっけん

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ヴィクトル・グリニャール(1871ねん - 1935ねん

グリニャール試薬しやく発見はっけんまでは1849ねんエドワード・フランクランドによって発見はっけんされたジアルキル亜鉛あえんがアルキルざいとして使用しようされていた。しかしジアルキル亜鉛あえんには空気くうきれると容易ようい発火はっかする、調製ちょうせいできるアルキルもとかぎられている、反応はんのうせいがあまりたかくないといった問題もんだいてんがあった。

ヴィクトル・グリニャールの師匠ししょうであったフィリップ・バルビエールカルボニル化合かごうぶつとハロゲンアルキルの混合こんごうぶつをマグネシウムに作用さようさせると、ハロゲンアルキルのアルキルもとがカルボニル化合かごうぶつ付加ふかしたアルコールられることを発見はっけんしていた。しかしはんおう再現さいげんせいわるかったため、グリニャールによりくわしい検討けんとうおこなうようにすすめた。

フランクランドはジアルキル亜鉛あえんをエーテルちゅう調製ちょうせいする方法ほうほうこころみていた。しかしこの方法ほうほうではジアルキル亜鉛あえんにエーテルがはいした化合かごうぶつ沈殿ちんでんしてしまい利用りよう困難こんなんであった。1900ねんにグリニャールはこの方法ほうほうをマグネシウムに適用てきようし、亜鉛あえん場合ばあいとはことなり均一きんいつ有機ゆうき金属きんぞく化合かごうぶつ溶液ようえきられてくること、この有機ゆうき金属きんぞく化合かごうぶつおおくのカルボニル化合かごうぶつ反応はんのうすることを発見はっけんした[4]

この有機ゆうき金属きんぞく化合かごうぶつは R−MgX の組成そせいつとかんがえられ、この化合かごうぶつはグリニャール試薬しやくばれるようになった。1912ねんにグリニャールはこの業績ぎょうせきによりノーベル化学かがくしょう受賞じゅしょうした。

調製ちょうせい

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グリニャール試薬しやく調製ちょうせいほう

  • ハロゲンアルキルとマグネシウムの反応はんのう
  • 酸性さんせいたか炭化たんか水素すいそのグリニャール試薬しやく作用さようさせる
  • ハロゲンアルキルとのグリニャール試薬しやく金属きんぞく-ハロゲン交換こうかん反応はんのう
  • 有機ゆうき金属きんぞく化合かごうぶつとハロゲンマグネシウムとのトランスメタル反応はんのう

などがられている。

ハロゲンアルキルとマグネシウムの反応はんのう

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一般いっぱんてきなグリニャール試薬しやくはハロゲンアルキルとマグネシウムの反応はんのう調製ちょうせいされる。これは以下いかのようにおこなう。

  1. 乾燥かんそう活性かっせいガス(窒素ちっそ、アルゴン)で置換ちかんした反応はんのう容器ようきにマグネシウムをれる。ここで撹拌かくはんしてマグネシウムをすこ破砕はさいしておくとグリニャール試薬しやく生成せいせいがスムーズになる[5]
  2. ここにマグネシウムがひた程度ていどのエーテルけい溶媒ようばいくわえる。おおくの場合ばあいジエチルエーテルテトラヒドロフラン使用しようされる。
  3. ヨウもと1,2-ジブロモエタンといった活性かっせいざい少量しょうりょう添加てんかして加熱かねつ撹拌かくはんする。これらの活性かっせいざいはマグネシウム表面ひょうめん酸化さんかぶつ皮膜ひまく溶解ようかいさせて活性かっせいする。
  4. 少量しょうりょうのハロゲンアルキルのエーテル溶液ようえき添加てんか撹拌かくはんする。おおくの場合ばあい反応はんのう溶液ようえき一旦いったんにごったのち、グリニャール試薬しやく生成せいせいともな急激きゅうげき温度おんど上昇じょうしょうともなって黒色こくしょくから褐色かっしょく透明とうめい溶液ようえきになる。グリニャール試薬しやく生成せいせい触媒しょくばい反応はんのうであるとされており急激きゅうげき反応はんのうとなる。そのためグリニャール試薬しやく生成せいせいともな発熱はつねつこるまえに、ハロゲンアルキルをおおくわえすぎているとグリニャール試薬しやく生成せいせいこったさい発熱はつねつおおきすぎて反応はんのう暴走ぼうそうし、あたりに反応はんのう溶液ようえきらされる結果けっかとなってしまう。
  5. のこりのハロゲンアルキルのエーテル溶液ようえき適切てきせつ反応はんのう温度おんどたもつスピードで滴下てきかしていく。

ハライドの反応はんのうせい

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グリニャール試薬しやく生成せいせいさい反応はんのうせいはヨウアルキル > においアルキル > 塩化えんかアルキルのじゅんでフッ化物ばけもの普通ふつう調製ちょうせいほうではグリニャール試薬しやく生成せいせいしない。またおなじハロゲン原子げんしにおいては反応はんのうせいだい1きゅうハライド > だい2きゅうハライド > だい3きゅうハライドのじゅんである。

ぎゃくにグリニャール試薬しやく自身じしんもとめかくせい塩化えんかぶつ > 臭化物しゅうかぶつ > ヨウ化物ばけものであるので、適切てきせつなハロゲン化物ばけもの選択せんたく重要じゅうようとなる場合ばあいもある。

マグネシウム

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グリニャール試薬しやく調製ちょうせいにはけずくずじょうマグネシウム (magnesium turning) を使用しようすることがおおい。粉末ふんまつじょうのマグネシウムでは反応はんのう速度そくどはやくなりすぎて局所きょくしょてき加熱かねつによるウルツカップリングこりやすくなり、おさむりつ低下ていかするためである。

マグネシウムの活性かっせいには、機械きかいてき撹拌かくはんや、あるいはヨウもとや1,2-ジブロモエタンの添加てんかおこなわれる。ヨウもとはマグネシウムの酸化さんかまく切削せっさくする。1,2-ジブロモエタンがマグネシウムと反応はんのうするとにおいマグネシウムとエチレンを生成せいせいする。また、グリニャール試薬しやく生成せいせい触媒しょくばい反応はんのうであることを利用りようして、以前いぜん調製ちょうせいしたグリニャール試薬しやく開始かいしざいとして添加てんかする場合ばあいもある。

溶媒ようばい

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もちいるエーテルけい溶媒ようばい選択せんたく重要じゅうようである。マグネシウムへのはいりょくたか溶媒ようばいほどグリニャール試薬しやく生成せいせいさい反応はんのうせいたかめる。そのためジエチルエーテルよりテトラヒドロフランや1,2-ジメトキシエタンのほうがグリニャール試薬しやく生成せいせい反応はんのうせいたかい。このためアルケニルハライドやアリールハライドのような反応はんのうせいひくいハライドからのグリニャール試薬しやく調製ちょうせい普通ふつうテトラヒドロフランちゅうおこなわれる。しかしぎゃくに、テトラヒドロフランはウルツカップリングを促進そくしんするので、反応はんのうせいたかいヨウアルキルやハロゲンアリル、ハロゲンベンジルからグリニャール試薬しやく調製ちょうせいする場合ばあいにはおさむりつおおきく低下ていかする場合ばあいがある。これらのテトラヒドロフラン溶液ようえき必要ひつよう場合ばあいには、一旦いったんジエチルエーテルちゅうでグリニャール試薬しやく調製ちょうせいおこなってから溶媒ようばい置換ちかんおこなほうがよい。

ジオキサンはエーテルけい溶媒ようばいであるものの、マグネシウムハライドと不溶性ふようせい錯体さくたいつくるため、後述こうじゅつするシュレンク平衡へいこうによりグリニャール試薬しやく反応はんのうせいひくいジアルキルマグネシウムへと変化へんかしてしまう。そのため、グリニャール試薬しやく調製ちょうせいにはもちいない。

グリニャール試薬しやく自体じたいトルエンなどの芳香ほうこうぞくけい溶媒ようばいにも溶解ようかいし、反応はんのうもちいることができるが、芳香ほうこうぞくけい溶媒ようばいちゅうではグリニャール試薬しやく生成せいせいきわめておそ調製ちょうせい困難こんなんである。そのため芳香ほうこうぞくけい溶媒ようばい必要ひつよう場合ばあいにはエーテルけい溶媒ようばいでグリニャール試薬しやく調製ちょうせいおこなったのち溶媒ようばい置換ちかんおこなうのが普通ふつうである。

トリエチルアミンなどのだい3きゅうアミンちゅうでもグリニャール試薬しやく調製ちょうせい可能かのうであるが、生成せいせいしたグリニャール試薬しやく反応はんのうせいひくいため、あまり使用しようされることはない。

溶媒ようばい使用しようりょうは、一般いっぱんてきなグリニャール試薬しやくでは 1 mol/L 程度ていど濃度のうどになるようにすることがおおい。すぎるとグリニャール試薬しやく析出せきしゅつしてしまい、後述こうじゅつするぎゃく滴下てきかほう不可能ふかのうになる場合ばあいもある。ウルツカップリングがこりやすい反応はんのうせいたかいハライドからの調製ちょうせいではもっと希釈きしゃくした濃度のうど調製ちょうせいおこなわれる。

反応はんのう温度おんど

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反応はんのう温度おんどおおくの場合ばあい、−20 ℃ 程度ていどからテトラヒドロフラン還流かんりゅう程度ていど温度おんどおこなわれる。反応はんのうしにくいハライドほどたか温度おんど必要ひつようとなる。反応はんのう温度おんどたかいほどウルツカップリングが促進そくしんされるので、ウルツカップリングをこしやすいハライドではなるべく低温ていおん反応はんのうさせる。一方いっぽう反応はんのうせいひくいハライドでは反応はんのう温度おんどひくすぎるとグリニャール試薬しやく生成せいせい停止ていししてしまい、温度おんどげた途端とたん反応はんのう再開さいかいして暴走ぼうそうすることがあるので注意ちゅうい必要ひつようである。

反応はんのう機構きこう

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ハロゲンアルキルと金属きんぞくマグネシウムはいち電子でんし移動いどうによって発生はっせいするラジカルちゅうあいだたい経由けいゆして反応はんのうするとされる[6]機構きこう以下いかしめす。しきちゅう された分子ぶんしはラジカルしゅであることをしめす。

 
 
 
 

まずハロゲンアルキル R−X が金属きんぞくマグネシウムから電子でんし1個いっこうばい、ラジカルアニオン R−X•− となる。発生はっせいしたラジカル R−X•− からハロゲンアニオンがだつはなれし、アルキルラジカル R となる。だつはなしたハロゲンアニオンとさき発生はっせいした1のマグネシウムカチオンは XMg形成けいせいし、これと R結合けつごうすることによって RMgX が生成せいせいする。以上いじょう反応はんのう金属きんぞくマグネシウムの表面ひょうめんじょうこるとされている。

酸性さんせいたか炭化たんか水素すいそからの調製ちょうせい

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この方法ほうほうがとられるのはおも末端まったんアルキニルのグリニャール試薬しやくである。末端まったんアルキンにアルキルグリニャール試薬しやく(エチルグリニャール試薬しやく使用しようされることがおおい)を反応はんのうさせると、グリニャール試薬しやく塩基えんきとしてはたらき、末端まったんアルキンからプロトンがかれてアルキニルグリニャール試薬しやく生成せいせいする[7]

金属きんぞく-ハロゲン交換こうかん反応はんのうによる調製ちょうせい

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この方法ほうほう室温しつおんではグリニャール試薬しやく反応はんのうしてしまうエステルニトリルなどの官能かんのうもと芳香ほうこうぞく化合かごうぶつのグリニャール試薬しやく調製ちょうせいするために利用りようされる。−40 ℃ 以下いか低温ていおんで、芳香ほうこうぞくハロゲン化物ばけものにイソプロピルグリニャール試薬しやくのようなかさたかいグリニャール試薬しやく反応はんのうさせると金属きんぞく-ハロゲン交換こうかん反応はんのうによりアリールグリニャール試薬しやく生成せいせいする[8]

トランスメタルによる調製ちょうせい

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有機ゆうき金属きんぞく化合かごうぶつにマグネシウムハライドを作用さようさせるとトランスメタルによりグリニャール試薬しやく生成せいせいする。この方法ほうほう室温しつおんではグリニャール試薬しやく反応はんのうしてしまうエステルニトリルなどの官能かんのうもとつグリニャール試薬しやく調製ちょうせいするのに使用しようされることがある。

グリニャール試薬しやく通常つうじょう R−MgX の形式けいしきかれるが、実際じっさいには複雑ふくざつ組成そせいっているとされている。このことを最初さいしょ指摘してきしたのはヴィルヘルム・シュレンクであり、溶液ようえきちゅうでジアルキルマグネシウムとの平衡へいこう存在そんざいすることを指摘してきした[9]

 

この平衡へいこうシュレンク平衡へいこうばれる。

さらにマグネシウムは通常つうじょう4はいをとるため、グリニャール試薬しやくのマグネシウムには溶媒ようばいであるエーテル分子ぶんし酸素さんそはいしている。また、グリニャール試薬しやく濃度のうど溶媒ようばい種類しゅるいによっては、溶媒ようばいやハロゲン原子げんしかいして複数ふくすうのマグネシウムが架橋かきょうしたふくかく錯体さくたい形成けいせいしている。はいりょくつよいテトラヒドロフランや1,2-ジメトキシエタンではたんかく錯体さくたいであるが、ジエチルエーテルちゅうでは濃度のうどたか場合ばあいにはかく錯体さくたい濃度のうどひく場合ばあいにはたんかく錯体さくたいとなっているとされている。

反応はんのう

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つよもとめかくせいつよし塩基えんきせいにより反応はんのうせいむため、様々さまざま化合かごうぶつ合成ごうせいするのに有用ゆうようである。

反応はんのうおこなう方法ほうほうにはおもに3つの方式ほうしきがある。これらを総称そうしょうしてグリニャール反応はんのうという。

  • グリニャール試薬しやく溶液ようえき反応はんのうさせる基質きしつ滴下てきかする。
  • グリニャール試薬しやく調製ちょうせいするさいに、ハロゲンアルキルとともに基質きしつ滴下てきかする(バルビエールほう)。
  • グリニャール試薬しやく溶液ようえき反応はんのうさせる基質きしつ溶液ようえき滴下てきかする(ぎゃく滴下てきかほう)。

バルビエールほうはウルツカップリングをこしやすいアリルやベンジルのグリニャール試薬しやく反応はんのうさせる場合ばあい使用しようされる。ぎゃく滴下てきかほうは2とうりょう以上いじょうのグリニャール試薬しやく反応はんのう可能かのう基質きしつたいして、1とうりょうだけグリニャール試薬しやく作用さようさせたい場合ばあいなどに使用しようされる。たとえばカルボンさんクロリドからケトンを合成ごうせいしたい場合ばあいなどである。

以下いか反応はんのうれいしめす。

もとめかくざいとしての反応はんのう

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カルボニル化合かごうぶつとの反応はんのう

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  • ホルムアルデヒド (HCHO) と反応はんのうさせさん処理しょりするとだいいちきゅうアルコール (R−CH2OH) が生成せいせいする。
  • アルデヒド (R'−CHO) と反応はんのうさせさん処理しょりするとだいきゅうアルコール (R−CR'(OH)H) が生成せいせいする[10][11]
  • ケトン (R'−C(=O)−R'') と反応はんのうさせさん処理しょりするとだいさんきゅうアルコール (R−CR'(R'')OH) が生成せいせいする[12]
  • エステル (R'−C(=O)O−R'') とグリニャール試薬しやく2とうりょう反応はんのうさせさん処理しょりするとだいさんきゅうアルコール (R'−CR2OH) が生成せいせいする。このときアルコール (R''−OH) もられる[13][14]
  • ハロゲンアシル (R'−C(=O)−X)、カルボンさん水物みずものカルボンさんチオエステルと −78 ℃でグリニャール試薬しやく反応はんのうさせるとケトン (R−C(=O)−R') が生成せいせいする。温度おんどたか場合ばあいにはさらに生成せいせいしたケトンへの付加ふかすす[15]
  • 一般いっぱんてきだいさんきゅうカルボンさんアミドとの反応はんのう反応はんのうせいひくいためあまりもちいられないが、ホルムアミドとの反応はんのうはアルデヒドの合成ごうせいほうとしてられる。また、ワインレブアミドとの反応はんのうはケトンを合成ごうせいする方法ほうほうとしてられている。
  • 二酸化炭素にさんかたんそ反応はんのうさせ、さん処理しょりするとカルボンさん (R−C(=O)OH) を生成せいせいする[16][17][18]
  • αあるふぁ,βべーた-飽和ほうわカルボニル化合かごうぶつとの反応はんのうでは、通常つうじょう 1,2-付加ふか優先ゆうせんするが、カルボニルもと立体りったいてき障害しょうがいされている場合ばあいには 1,4-付加ふかこる。1,2-付加ふか選択せんたくてきおこないたい場合ばあいにはセリウムしお添加てんかが、1,4-付加ふか選択せんたくてきおこないたい場合ばあいにはどうしお添加てんか有効ゆうこうである。
     
    カルボニル化合かごうぶつとの反応はんのう
反応はんのう機構きこう
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すでべたようにグリニャール試薬しやく反応はんのう溶液ようえきちゅうシュレンク平衡へいこうこしているため、反応はんのう機構きこう速度そくどろんもとづいて検討けんとうすることはむずかしく、完全かんぜんには理解りかいされていない。一般いっぱんてきには (A) 4いん環状かんじょう遷移せんい状態じょうたい協奏きょうそうてきなもの、(B) ラジカルを経由けいゆする段階だんかいてきなものの2つが提案ていあんされており、もちいる基質きしつによってこれらのうちいずれかの機構きこうがとられるとかんがえられている。

 
グリニャール反応はんのう機構きこう

アルキルもとなど電子でんしもとめ引性のよわ置換ちかんもとをもつケトンとの反応はんのう場合ばあいはAを、あるいは立体りったい障害しょうがいおおきいカルボニル化合かごうぶつやグリニャール試薬しやくもちいた場合ばあいはBを経由けいゆすることがられている[19]

その付加ふか置換ちかん反応はんのう

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  • アリルハライドやベンジルハライドとはSN2反応はんのうによりカップリング反応はんのうこす[20]。そののハロゲンアルキルとはそのままでは反応はんのうしにくいが、どうしお添加てんかすると反応はんのう進行しんこうする。
  • エポキシドとSN2反応はんのうしてアルコールを生成せいせいする。付加ふか立体りったいてきいているがわ炭素たんそじょう進行しんこうする[21]
  • 酸素さんそ反応はんのうしてヒドロペルオキシドアルコール生成せいせいする。
  • N-アルキルイミンとグリニャール試薬しやく反応はんのうではアミンが生成せいせいする[22]
  • ニトリル (R'−CN) とグリニャール試薬しやく (RMgX) を反応はんのうさせさん処理しょりするとケトン (R−C(=O)−R') が生成せいせいする。ニトリルの場合ばあいには付加ふか生成せいせいするイミダート (R−C(=NMgX)−R') への2段階だんかい付加ふかきわめておそいため、そのままさん加水かすい分解ぶんかいでケトンが生成せいせいする[23]
  • 単体たんたい硫黄いおうとの反応はんのうではチオール生成せいせいする[24]
  • ジスルフィドとの反応はんのうでは S−S 結合けつごうひらけきれさせて、チオールとスルフィド生成せいせいする。
     
    その付加ふか置換ちかん反応はんのう

塩基えんきとしての反応はんのう

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グリニャール試薬しやくつよ塩基えんきであるため、みずアルコールアミンといったブレンステッドさんからプロトンをいて、アルコキシドアミド生成せいせいする。末端まったんアルキンにたいしてアルキルグリニャール試薬しやく作用さようさせると、塩基えんきとして作用さようしてアルキニルグリニャール試薬しやく生成せいせいする[25]

かさたかいケトンにたいして、イソプロピルや tert-ブチルといったかさたかいグリニャール試薬しやく作用さようさせると、一部いちぶ塩基えんきとして作用さようしてエノラート生成せいせいする。またαあるふぁ-水素すいそつニトリルでも一部いちぶおなじように反応はんのうする。これらの生成せいせいしたアニオンはもとめかく付加ふかけず、反応はんのう終了しゅうりょうさんによる加水かすい分解ぶんかい原料げんりょうもどる。

還元かんげんざいとしての反応はんのう

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かさたかいケトンにたいしてグリニャール試薬しやく作用さようさせると、おおくの場合ばあいもとめかく付加ふかこさずにケトンが還元かんげんされてアルコールになった生成せいせいぶつられる。

この反応はんのうはグリニャール試薬しやくβべーた-水素すいそがカルボニルもと転位てんいしてこる。グリニャール試薬しやくのマグネシウムにケトンがはいしたのちメーヤワイン・ポンドルフ・バーレイ還元かんげん類似るいじした6いんたまき遷移せんい状態じょうたい経由けいゆしてこっている反応はんのう機構きこうかんがえられている。ゆえに、βべーた-水素すいそたないメチルグリニャールではこの反応はんのうこらない。

そのほかの反応はんのう

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金属きんぞく化合かごうぶつとトランスメタルこすため、任意にんいのアルキル金属きんぞく錯体さくたい調製ちょうせいする原料げんりょうとして重要じゅうようである。

また、ニッケル触媒しょくばい存在そんざいでアルケニルハライドやアリールハライドとクロスカップリング反応はんのうのひとつである熊田くまだたま反応はんのうこす。

アルキルグリニャール試薬しやくとうモルりょうアルキルリチウム作用さようさせると R3MgLi のかたちアート錯体さくたい発生はっせいする。これはもとめかくせいたか試薬しやくとして、低温ていおんでの選択せんたくてきなハロゲン-メタル交換こうかん反応はんのう利用りようされる[26]

参考さんこう文献ぶんけん

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  1. ^ Smith, M. B.; March, J. Advanced Organic Chemistry, 5th ed.; John-Wiley & Sons: New York, 2001. ISBN 0-471-58589-0 - グリニャール試薬しやくもちいた反応はんのう網羅もうらしている。
  2. ^ Kürti, L.; Czakó, B. Storategic Applications of Named Reactions in Organic Chemistry; Elsevier: Amsterdam, 2005; pp 188–189. ISBN 0-12-429785-4 - グリニャール反応はんのうかんする論文ろんぶんなど38の参考さんこう文献ぶんけん記載きさいされている。
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関連かんれん文献ぶんけん

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  • 萩原はぎはら秀樹ひでき江口えぐち久雄ひさお「グリニャール試薬しやくとクロスカップリング反応はんのう反応はんのう開発かいはつ歴史れきし産業さんぎょう利用りようについて—」『化学かがく教育きょういくだい67かんだい3ごう日本にっぽん学会がっかい、2019ねん、126-129ぺーじdoi:10.20665/kakyoshi.67.3_126 

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