トルエン

トルエン（英えい: toluene）は、芳香ほうこう族ぞく炭化たんか水素すいそに属ぞくする有機ゆうき化合かごう物ぶつで、ベンゼンの水素すいそ原子げんしの1つをメチル基もとで置換ちかんした構造こうぞうを持もつ。無色むしょく透明とうめいの液体えきたいで、水みずには極きわめて難なん溶だが、アルコール類るい、油あぶら類るいなどには極きわめて可か溶なので、溶媒ようばいとして広ひろく用もちいられる。

トルエン
別称べっしょう フェニルメタン メチルベンゼン
略称りゃくしょう	PhMe BnH
識別しきべつ情報じょうほう
CAS登録とうろく番号ばんごう	108-88-3
ChemSpider	1108
RTECS番号ばんごう	XS5250000
SMILES Cc1ccccc1
特性とくせい
化学かがく式しき	C7H8
モル質量しつりょう	92.14 g/mol
示しめせ性せい式しき	C6H5CH3
外観がいかん	無色むしょく透明とうめいの液体えきたい
密度みつど	0.8669 g/mL, 液体えきたい
融点ゆうてん	−94.97 °C
沸点ふってん	110.63 °C
水みずへの溶解ようかい度ど	0.47 g/L (20–25 °C)
粘ねば度たび	0.590 cP at 20 °C
構造こうぞう
双極そうきょく子こモーメント	0.36 D
危険きけん性せい
安全あんぜんデータシート(外部がいぶリンク)	ICSC 0078 ScienceLab.com
GHSピクトグラム
GHSシグナルワード	危険きけん(DANGER)
主おもな危険きけん性せい	高たかい可燃かねん性せい ( F )
経口けいこう摂取せっしゅでの危険きけん性せい	高たかい
呼吸こきゅう器きへの危険きけん性せい	高たかい
眼めへの危険きけん性せい	高たかい
皮膚ひふへの危険きけん性せい	高たかい
NFPA 704	3 2 0
Rフレーズ	R11, R38, R48/20, R63, R65, R67
Sフレーズ	(S2), S36/37, S29, S46, S62
引火いんか点てん	4 °C / 39.2 °F
発火はっか点てん	不明ふめい
関連かんれんする物質ぶっしつ
関連かんれんする芳香ほうこう族ぞく炭化たんか水素すいそ	ベンゼン キシレン ナフタレン
関連かんれん物質ぶっしつ	メチルシクロヘキサン
特記とっきなき場合ばあい、データは常温じょうおん (25 °C)・常つね圧あつ (100 kPa) におけるものである。

常温じょうおんで揮発きはつ性せいがあり、引火いんか性せいを有ゆうする。消防しょうぼう法ほうによる危険きけん物ぶつ（危険きけん物ぶつ#第だい4類るい第だい1石油せきゆ類るい）に指定していされており、指定してい数量すうりょうの20 %以上いじょうの貯蔵ちょぞうには消防署しょうぼうしょへの届出とどけでが必要ひつようである。人体じんたいに対たいしては麻酔ますい作用さようがある他ほか、毒性どくせいが強つよく、日本にっぽんでは毒物どくぶつ及および劇げき物ぶつ取締とりしまり法ほうにより劇げき物ぶつに指定していされている。管理かんり濃度のうどは、20ppmである。

歴史れきし

トルエンの名なは、南みなみアメリカに分布ぶんぷする Myroxylon balsamum という木きから得えられたトルーバルサムとよばれる樹脂じゅしを乾留かんりゅうして得えられたことに由来ゆらいする。イェンス・ベルセリウスが命名めいめいした。

化学かがく的てき性質せいしつ

トルエンは通常つうじょうの芳香ほうこう族ぞく炭化たんか水素すいそと同様どうように芳香ほうこう族ぞく求もとめ電子でんし置換ちかん反応はんのうの基質きしつとなる。メチル基もとの存在そんざいにより、ベンゼンの約やく25倍ばいの反応はんのう性せいを持もっている。

特徴とくちょう的てきな臭気しゅうきを持もち、無色むしょく。沸点ふってんは約やく111度ど、融点ゆうてんは約やく−95度どであり、通常つうじょうでは液体えきたいである。水みずを1としたときの比重ひじゅうは0.87。

トルエンは穏おだやかなスルホン化かによりp-トルエンスルホン酸さんを生成せいせいする。また酸化さんか鉄てつ(III)の存在そんざい下か、塩素えんそにより塩素えんそ化か反応はんのうを起おこし、オルト・パラアイソマーのクロロトルエンを生成せいせいする。ニトロ化かではオルト・パラアイソマーのニトロトルエンを生成せいせいするが、加熱かねつすることでジニトロトルエン、最終さいしゅう的てきには爆発ばくはつ性せいのトリニトロトルエン (TNT) を生成せいせいする。ハロゲン化か反応はんのうはフリーラジカル条件下じょうけんかでも進行しんこうし、そのときハロゲンはメチル基もとに入はいる。例たとえばトルエン中ちゅうにNBSとAIBNを加くわえ加熱かねつすると、臭におい化かベンジルが生成せいせいする。

トルエンのメチル基もとも他たの反応はんのう試ためし剤ざいにより酸化さんか反応はんのうが進行しんこうする。トルエンは酸化さんかにより反応はんのう中ちゅう間あいだ体たいであるベンジルカチオンを生しょうじさせ、続つづく水みずとの反応はんのうによりベンジルアルコールを生成せいせいすることができる。生しょうじたベンジルアルコールはさらに酸化さんかされベンズアルデヒドさらには安息香あんそくこう酸さんとなる。またトルエンは過かマンガン酸さんカリウムにより安息香あんそくこう酸さんを生成せいせいするが、その一方いっぽうでクロム酸化さんかによりベンズアルデヒドを生成せいせいする。

トルエンの触媒しょくばい的てき水素すいそ化かはその芳香ほうこう族ぞく性せいのため進行しんこうしにくいが、高こう圧あつの水素すいそ添加てんかによりメチルシクロヘキサンを生成せいせいする。

製造せいぞう

トルエンは原油げんゆ中ちゅうにも少量しょうりょう存在そんざいするが、通常つうじょうは粗製そせいガソリンであるナフサのエチレンプラントでの熱ねつ分解ぶんかい、石炭せきたんからのコークス製造せいぞうで生成せいせいする粗あら軽油けいゆやコールタールのクラッキングにより製造せいぞうする。エチレンプラントで副ふく生せいする分解ぶんかいガソリンや、粗そ軽油けいゆ・コールタールのクラッキングによる生成せいせい物ぶつはベンゼン・トルエン・キシレン等ひとしの混合こんごう物ぶつであるため分留ぶんりゅうによりそれぞれを分離ぶんり精製せいせいする。その精製せいせいプラントは代表だいひょう的てきな産品さんぴんの頭文字かしらもじを取とり、BTXプラントと呼よばれる。

純じゅんトルエンの2016年度ねんど日本にっぽん国内こくない生産せいさん量りょうは1 984 735 t、工業こうぎょう消費しょうひ量りょうは1 006 165 tである。

用途ようと

トルエンは溶媒ようばいとして一般いっぱん的てきに用もちいられ、ペンキ、塗料とりょう用ようシンナー、多おおくの化学かがく物質ぶっしつ、ゴム、印刷いんさつ用ようインク、接着せっちゃく剤ざい、マニキュア、皮かわなめし、殺菌さっきん剤ざい等ひとし、様々さまざまなものを溶解ようかいすることができる。フラーレンの指示しじ薬やくとしても用もちいることが可能かのうである。ポリウレタンの原料げんりょうであるトルエンジイソシアナートをはじめ、フェノール、トリニトロトルエン等ひとしの有機ゆうき化合かごう物ぶつの原料げんりょうである。また内燃ないねんガソリンエンジンのオクタン価おくたんか向上こうじょう剤ざいとしても用もちいることができる。工業こうぎょう的てきには脱だつアルキル化かによるベンゼン生成せいせい、不ふ均ひとし化かによるベンゼンとキシレンの生成せいせいなどが挙あげられる。火薬かやく・爆薬ばくやくとしても用もちいられ、特とくに化合かごう物ぶつのトリニトロトルエンは爆薬ばくやくとして有名ゆうめいであり、自衛隊じえいたいでは1号ごうTNT爆破ばくは薬やくという装備そうび品ひんがある。

地球ちきゅう温暖おんだん化か防止ぼうし対策たいさくとして水素すいその利用りようが進すすむ中なか、トルエンに水素すいそを反応はんのうさせてメチルシクロヘキサン（前述ぜんじゅつ）に転換てんかんして貯蔵ちょぞう、運搬うんぱんする技術ぎじゅつが注目ちゅうもくされている。

毒性どくせいと代謝たいしゃ

トルエン蒸気じょうきの吸入きゅうにゅうには中毒ちゅうどく性せいがあり、強つよい吐はき気けを催もよおす。長期ちょうきにわたり繰くり返かえし吸入きゅうにゅうを続つづけた場合ばあい、回復かいふく不能ふのうの脳のう障害しょうがいを負おうことが確認かくにんされている。また耳みみ毒性どくせいも確認かくにんされている。

トルエンは液体えきたいからの蒸気じょうき吸入きゅうにゅうだけではなく土壌どじょう汚染おせん、地下水ちかすい汚染おせん等ひとしにより経けい皮がわ・経口けいこうで体内たいないに入はいる可能かのう性せいがある。また、塗料とりょうや樹脂じゅしなどの建材けんざいの溶剤ようざいとして用もちいられたトルエンが室内しつないに放出ほうしゅつされることがあり、シックハウス症候群しょうこうぐんの原因げんいん物質ぶっしつの1つであると言いわれている。また排気はいきガス等ひとしにも含ふくまれている。

トルエンは代謝たいしゃによりその大だい部分ぶぶんが排出はいしゅつされる。ただし、トルエンは水みずへの溶解ようかい度どが低ひくいため、汗あせや尿にょうといった通常つうじょうの経路けいろでは排出はいしゅつすることができない。そのため、代謝たいしゃによって、より水溶すいよう性せいの高たかい物質ぶっしつになる必要ひつようがある。トルエンのメチル基もとは芳香ほうこう環たまき部分ぶぶんと比較ひかくして酸化さんかされやすい。そのためヒトの体内たいないに吸収きゅうしゅうされたトルエンの95 %は、シトクロムP450によりメチル基部きぶ分ぶんが酸化さんかされてベンジルアルコールとなる。この代謝たいしゃ経路けいろでは残のこりの5 %が環たまきが酸化さんかされたエポキシドとして残留ざんりゅうする。このエポキシドの大だい部分ぶぶんはグルタチオンと複ふく合体がったいを形成けいせいするが、細胞さいぼうに対たいする深刻しんこくな毒性どくせいは避さけられない。

トルエンの代謝たいしゃ経路けいろ

トルエンが酸化さんかされて生しょうじたベンジルアルコールは、アルコールデヒドロゲナーゼなどの作用さようによってさらに酸化さんかされ、最終さいしゅう的てきに安息香あんそくこう酸さんとなる。こうして生成せいせいした安息香あんそくこう酸さんは、グリシン抱合ほうごうを受うけて馬うま尿にょう酸さんとなり、これが尿にょう中ちゅうへと排出はいしゅつされる。このため、ヒトの尿にょう中ちゅうに馬うま尿にょう酸さんが存在そんざいすることは、トルエンに曝露ばくろされたことの指標しひょうとされる場合ばあいもある。

ベンジルアルコールの代謝たいしゃ経路けいろ

日本にっぽんの食品しょくひん安全あんぜん委員いいん会かいでは、耐たい容よう一いち日にち摂取せっしゅ量りょうを、体重たいじゅう1 kgに対たいして149 μみゅーgと定さだめている。

参考さんこう文献ぶんけん

• 化学かがく物質ぶっしつファクトシート2011年版ねんばん トルエン（環境省かんきょうしょう）[1]

関連かんれん項目こうもく

• ベンゼン
• キシレン
• トリニトロトルエン
• サッカリン