「リーマン・ショック」は和製英語とされ、日本における通称であり、日本においては一連の金融危機における象徴的な出来事として捉えられているためこの語がよく使用される。英語では同じ事象をthe financial crisis of 2007–2008(「2007年から2008年の金融恐慌」)や the global financial crisis(「国際金融危機」)、 the 2008 financial crisis(「2008年の金融危機」)と呼称するのが一般的である。文脈にもよるが the financial crisis(「金融危機」)だけで「リーマン・ショック」を意味することも多い。
本項の英語版は「Bankruptcy of Lehman Brothers」(リーマン・ブラザースの破綻)という名称であり、同社の破綻を中心とした記述である。
戦後パックス・アメリカーナ世界秩序の中心を占めたアメリカの国内的成長連関の仕組みが60年代末に行き詰まったのに対し、企業・金融・情報のグローバル化と政府機能の新自由主義化により、EUや東アジア、インド、ロシア、ブラジルを巻き込みつつアメリカ経済のグローバル資本主義化が進んだ。その帰結として、90年代になると、ニューヨークに基軸通貨ドルによる国際決済機能が集中し、アメリカの膨大な輸入超過に伴う構造化された経常収支赤字が、黒字国からの膨大なドル資金流入で自動的にファイナンスされる、グローバル資金循環構造が出現した。ニューヨークに累積するドルを原資とし、商業銀行は信用創造の水増し的な拡大が可能となり、投資銀行や機関投資家、ヘッジファンドが関与して、デリバティブと金融工学を駆使した投機操作を含むレバレッジド・ファイナンスを膨張させた。こうしたメカニズムが、ニューヨークを筆頭に、ロンドン、フランクフルト、パリ、東京、シンガポール、香港等、世界の主要金融市場を舞台に、クロスボーダーな金融取引を拡大していった。この拡大の中心として、90年代末にインターネット・バブルの発展、及びその崩壊後の2000年代には住宅バブルの発展が進んだが、それらが内包した欠陥、とりわけ証券化メカニズムが直接の原因となってこの成長連関が破綻し、グローバル金融危機・経済危機を誘発したのである。
2000年代に入り、日本の株式市場も国際経済の波乱に翻弄された。2000年3月10日、IT(情報技術)関連銘柄を多く含む米ナスダック総合株価指数が取引時間中に1年前の2倍以上となる高値5132.52と付けた。「ドットコム・バブル」と呼ばれるインターネット関連株人気が頂点に達した後に、金融引き締めを背景にネット関連株は急落に転じた。ITバブル崩壊は日本にも波及し、2000年3月に2万円台に乗せていた日経平均は同年10月に1万5,000円を割り、2001年8月末には1万713円と1万円の大台割れ寸前まで下がった。
さらに、2001年9月11日に発生したアメリカ同時多発テロ事件が大きな影響を及ぼした。翌12日の東京市場で日経平均はあっさり1万円を割り、終値で前日比682円 (6.6%) 安い9610円まで下げた。一旦持ち直すが、2002年半ばから米国景気の悪化懸念などを背景に再び下げ足を速めてテロ後の安値を下回り、10月に9,000円を割った。翌2003年3月前半には米国の対イラク戦争が近づいた緊張感も加わって20年ぶりに8,000円を割り込んだ。
その後、株式相場は景気回復への期待から一旦上げに転じたが、2007年のアメリカ合衆国の住宅バブル崩壊をきっかけとして、サブプライム住宅ローン危機を始め、サブプライムローン、オークション・レート証券、カードローン関連債券など多分野にわたる資産価格の暴落が起こっていた。
2007年からの住宅市場の大幅な悪化と伴に、危機的状態となっていたファニー・メイやフレディ・マックなどの連邦住宅抵当公庫へは、政府支援機関における買取単価上限額の引上げや、投資上限額の撤廃など様々な手を尽くしていたものの、サブプライムローンなどの延滞率は更に上昇し、住宅差押え件数も増加を続けた。歯止めが効かないことを受け、2008年9月8日、アメリカ合衆国財務省が追加で約3兆ドルをつぎ込む救済政策が決定された。「大きすぎて潰せない (Too big to fail)」の最初の事例となる[4]。
- ^ 内閣府景気基準日付(第14循環)の景気後退期の名称として「リーマン不況」とも呼ばれている
- ^ 齋藤栄功による著書『リーマンの牢獄』では、この頃、日本で発覚していた斎藤自身や当時の丸紅課長であった人物によるリーマンに対する詐欺事件であるアスクレピオス事件について、その問題や損害にファルドが触れなかったことが、バフェットの不信を招き出資を断られることになったという説を紹介、この説に基づいている。
- ^ 2008年3月にベアー・スターンズへ公的資金を注入しており、これ以上の救済措置は近々行われる大統領選挙を控えた状況も踏まえると国民の理解が得られないこと、財政にかかる負担が大きいこと、ベアー・スターンズと違い突然の破綻ではなく以前から兆候があったこと、経済の先行きを考えた場合に前例を作りたくないなどの理由から。