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五界説 - Wikipedia

かいせつ(ごかいせつ、Five-Kingdom System)は、生物せいぶつ分類ぶんるい体系たいけいのひとつで、生物せいぶつ全体ぜんたいいつつのさかいけるものである。とくロバート・ホイッタカーのものが有名ゆうめいで、非常ひじょうおおきな影響えいきょうあたえ、現在げんざいでも標準ひょうじゅんとしてあつかわれることもある。ただし、すでふるくなったかんがえであり、分類ぶんるいがく先端せんたんではみとめられることがない。

生物せいぶつ分類ぶんるいにおいて、まずこれを動物どうぶつ植物しょくぶつけるのはごく自然しぜんなものとかんがえられ、むしろ最初さいしょからこのふたつをべつ範疇はんちゅうとしてあつかうことがおおかった。ホイッタカーはこのてんについて、人間にんげん陸上りくじょう動物どうぶつであり、その周囲しゅうい生物せいぶつって光合成こうごうせいする植物しょくぶつと、運動うんどうしてえさをとる動物どうぶつにはっきりと区別くべつされるてんにその理由りゆうもとめている。いずれにせよ、まず植物しょくぶつ動物どうぶつ区別くべつがあり、そのなかでの分類ぶんるいすすめられた。やがてそれらをまとめて生物せいぶつであるとの解釈かいしゃく成立せいりつしたことから、それらを分類ぶんるい体系たいけいにおける最高さいこう階級かいきゅうとしてのさかいにまとめることがおこなわれるようになった。

それぞれのさかい分類ぶんるいがく進歩しんぽによって次第しだいにそれぞれの内容ないようひろがった。植物しょくぶつにおいては種子しゅし植物しょくぶつ以外いがいをすべて隠花植物いんかしょくぶつに、動物どうぶつでは脊椎動物せきついどうぶつ以外いがいをすべて脊椎動物せきついどうぶつにしてあったものが、それぞれおおくのもんけられていったのは、並行へいこうてきである。しかし、大型おおがた生物せいぶつかんしては、かいせつらぐことはすくなかった。藻類そうるいキノコ植物しょくぶつにまとめられることには抵抗ていこうすくなかった。

問題もんだいあきらかになったのは、いわゆる微生物びせいぶつ単細胞たんさいぼう生物せいぶつかんする知見ちけんあつまりはじめたころからである。たとえばミドリムシ有名ゆうめいであるが、みどりたいち、光合成こうごうせいおこな植物しょくぶつてきなものでありながら、同時どうじ運動うんどうせいがある動物どうぶつてきなものはおおくのれいがあり、なかには有機物ゆうきぶつれるものまであり、それらは動物どうぶつとも植物しょくぶつともつかない。このようなものはときには動物どうぶつときには植物しょくぶつあつかわれ、わばじゅう国籍こくせきっているようにあつかわれたこともある。

また、細菌さいきんあいるいのような原核げんかく細胞さいぼう位置付いちづけも問題もんだいとなる。

さかい見直みなおしの歴史れきし

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このような問題もんだい解決かいけつするためにさかい枠組わくぐみをえることがかんがえられた。そのもっとふるいものはジョン・ホッグによるもので、かれさかいとしてではないが、そのような下等かとうなものをまとめてプロトクチスタ(Protoctista)とぶことを提唱ていしょうした(1860)。また、ヘッケルはそれらをプロチスタかいとして区別くべつすることを提案ていあんした(1866)。

ただし、この下等かとう生物せいぶつさかいふくまれる生物せいぶつ範囲はんいかんしては、さまざまなちがいがあった。もっとせまった場合ばあい、そこには単細胞たんさいぼう生物せいぶつのみがふくまれ、ひろった場合ばあい細胞さいぼうであっても組織そしき程度ていどひくいものをもふくめた。ヘッケルの場合ばあい当初とうしょ海綿動物かいめんどうぶつ菌類きんるいふくめたが、のち単細胞たんさいぼう生物せいぶつ範囲はんいせばめた。

原核げんかく生物せいぶつかんしては、当初とうしょはそれが重要じゅうよう問題もんだいとは認識にんしきされず、ヘッケルもそれらをかれのプロチスタかいふくめている。しかし、細胞さいぼうない構造こうぞうとく微細びさい構造こうぞうあきらかになるにつれてそれがきわめておおきなであるとなされるようになり、これをけることが検討けんとうされるようになった。

もうひとつの問題もんだい菌類きんるいである。原生げんせい生物せいぶつ原核げんかく生物せいぶつ区別くべつするとすれば、動物どうぶつ植物しょくぶつ二元論にげんろんにこだわる必要ひつようはない。また、菌類きんるい藻類そうるい起源きげんつとのせつもあったが、次第しだいみとめられなくなった。そのため、菌類きんるい独立どくりつ生物せいぶつぐんなすれいてきた。あるいは、組織そしき形成けいせい菌類きんるいではられないことから、これをプロチスタかいれるれいた。

たとえばコープランドは1938ねん以降いこうなんかい枠組わくぐみを発表はっぴょうしたが、そこでは原核げんかく生物せいぶつ、プロトクチスタ、植物しょくぶつ動物どうぶつよんかいせつとなえられた。これにたいしてもさまざまな議論ぎろんがあった。

ホイッタカーのせつ

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ホイッタカーは、1969ねん論文ろんぶんで、あたらしい枠組わくぐみについて提唱ていしょうした。

ホイッタカーは上記じょうきのようなながれを概括がいかつし、さかい分類ぶんるい混乱こんらんし、見直みなおしが必要ひつよう状況じょうきょうであることをみとめた。そのうえで、かれ栄養えいよう摂取せっしゅ方法ほうほう生物せいぶつ進化しんか方向ほうこう把握はあくするじょう重要じゅうようであるとべた。栄養えいよう摂取せっしゅ生物せいぶつ生存せいぞんにとってもっと基本きほんてき特徴とくちょうであり、それ以外いがい形質けいしつはそれにわせて変化へんかするであろうからである。

ホイッタカーによると、動物どうぶつ植物しょくぶつ特徴とくちょうは、前者ぜんしゃ摂食せっしょく消化しょうか後者こうしゃ光合成こうごうせいによる栄養えいよう摂取せっしゅおこなう。ホイッタカーは、このふたつにくわえて、菌類きんるいられる表面ひょうめんでの吸収きゅうしゅうだいさん方向ほうこうであるとみとめた。それらの進化しんか以下いかのような方向ほうこうせいつ。

  • 光合成こうごうせいおこな植物しょくぶつ運動うんどうせいたず、光合成こうごうせいおこな組織そしきとそれをささえ、みずなどを供給きょうきゅうする組織そしき分化ぶんかうながす。
  • 摂食せっしょく消化しょうかおこな動物どうぶつは、移動いどうしてえささが生活せいかつおこない、それにともなって運動うんどう器官きかん感覚かんかく器官きかん発達はったつする。
  • 表面ひょうめんでの栄養えいよう吸収きゅうしゅうおこな菌類きんるいは、えさとなる基質きしつ表面ひょうめん固着こちゃくしてその表面ひょうめんひろがり、からだ表面ひょうめん最大限さいだいげんにするため、細長ほそなが菌糸きんし発達はったつさせる。

このみっつは生物せいぶつ進化しんかにおける重要じゅうよう方向ほうこうであり、それぞれが、生産せいさんしゃ消費しょうひしゃ分解ぶんかいしゃばれる。これが植物しょくぶつかい動物界どうぶつかい、それにきんかいである。

また、ホイッタカーはコープランドの体系たいけいにもれ、そこで菌類きんるい方向ほうこうせい無視むしされていることなどを批判ひはんした。そのうえで、かれ自身じしんかいせつしめしている。おおよそは以下いかのようなものである。

モネラかい Kingdom Monera
原核げんかく生物せいぶつ細菌さいきんるいおよあい藻類そうるい当時とうじはまだ細菌さいきんていない)
原生げんせい生物せいぶつかい Kingdom Protista
かく単細胞たんさいぼう生物せいぶつ、あるいは単細胞たんさいぼう集団しゅうだんなせるような細胞さいぼう生物せいぶつふくむ。ミドリムシ・黄金おうごんしょく藻類そうるいサカゲカビネコブカビるい胞子ほうしちゅう動物どうぶつせいむち毛虫けむしあしちゅう繊毛せんもうちゅうなど。
植物しょくぶつかい Kingdom Plantae
かく細胞さいぼう生物せいぶつで、細胞さいぼうかべがあり、光合成こうごうせいをする。組織そしき分化ぶんかする。生活せいかつたまき往々おうおうにしてたんしょうふくしょう交代こうたいする世代せだい交代こうたいがある。べにるい褐藻かっそうるい緑色みどりいろ植物しょくぶつ
きんかい Kingdom Fungi
かく細胞さいぼう生物せいぶつで、細胞さいぼうかべはあってうごかないが光合成こうごうせいおこなわない。表面ひょうめん吸収きゅうしゅうするかたち栄養えいよう摂取せっしゅする。きんたい下等かとうぐんではたんしょう高等こうとうなものではかくしょうおもである。ねばきんるいむちきん接合せつごうきん嚢菌担子きん
動物界どうぶつかい Kingdom Animalia
かく細胞さいぼう生物せいぶつで、細胞さいぼうかべ光合成こうごうせい機能きのうく。栄養えいよう摂取せっしゅ体内たいない空間くうかんでの消化しょうか吸収きゅうしゅうによる。組織そしき分化ぶんか程度ていどさかいよりはるかに高度こうどで、感覚かんかく運動うんどう伝達でんたつ構造こうぞう発達はったつする。たんしょう状態じょうたい生殖せいしょく細胞さいぼう以外いがいではほとんどられない。ちゅうせい動物どうぶつ海綿動物かいめんどうぶつ後生ごしょう動物どうぶつ

その特徴とくちょう

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ホイッタカーのせつ要点ようてんは、まず栄養えいよう摂取せっしゅ方法ほうほう中心ちゅうしんき、動物どうぶつ植物しょくぶつ菌類きんるいみっつをそのおおきな方向ほうこうとしてとらえたことであろう。そのうえで、まず原核げんかく生物せいぶつかく生物せいぶつけ、よく発達はったつしたものをそれぞれ動物界どうぶつかい植物しょくぶつかいきんかいとしてまとめた。しかし、組織そしき程度ていどひくいものについては、やはりこれをこのような方向ほうこうだけで区切くぎることができなかった。そこでやむなくこれをまとめてプロチスタかいとしたかんがある。その意味いみでは、この区分くぶん妥協だきょう産物さんぶつである。

ホイッタカー自身じしんも、たとえば緑藻類りょくそうるいでは単細胞たんさいぼうから細胞さいぼうまで、ほぼ連続れんぞくした体制たいせいのものがあることなどで、プロチスタと上級じょうきゅうぐんとの境目さかいめ問題もんだいがあること、またこのような発展はってん段階だんかい区切くぎったために上級じょうきゅうさかい系統けいとうとなっているてんなどをげて問題もんだいてんとしてみとめている。

評価ひょうか影響えいきょう

編集へんしゅう

このように、さまざまな問題もんだいはあるものの、これまでのさかい区分くぶん問題もんだいをさらえたうえでのこの体系たいけいは、旧来きゅうらいかいせつざん渣をあらとし、あらたな生物せいぶつ枠組わくぐみを提示ていじしたものとしてれられた。

当然とうぜんながら批判ひはん対案たいあんされたが、基本きほんてきにはこの枠組わくぐみはみとめられたというべきだろう。たとえばリン・マーギュリスらは独自どくじかいせつ提唱ていしょうしているが、その内容ないようとしては分類ぶんるいぐん出入でいりはあるものの、大筋おおすじではホイッタカーのものとさほどわらない。現在げんざいひろみとめられているかい体系たいけいは、このような複数ふくすうになるものであり、マーギュリスのかんする場合ばあいもあるが、ホイッタカーのえることがおおい。

いずれにせよ、かいせつあらたな生物せいぶつ世界せかい分類ぶんるい体系たいけいとして、ひろみとめられるにいたった。2011ねん現在げんざいにおいても、高校こうこう理科りか生物せいぶつではこのせつ基本きほんとしている。

あたらしいなみ

編集へんしゅう

ただし、現在げんざいにおいてこのせつみとめられているのは教育きょういくかいくらいである。実際じっさいにはじゅうせいまつおおきななみ状況じょうきょう完全かんぜんえてしまった。電子でんし顕微鏡けんびきょうによる微細びさい構造こうぞう研究けんきゅう微生物びせいぶつ分野ぶんや理解りかいおおきくひろげ、分子ぶんし遺伝いでんがく進歩しんぽ遺伝子いでんしから系統けいとう方法ほうほう提供ていきょうした。さらにコンピュータ進歩しんぽがそれらを利用りようした分岐ぶんき分類ぶんるいがく実用じつようした。それらの結果けっかおおきい。

ひとつは細菌さいきん発見はっけんであり、またそれと真正しんせい細菌さいきんかく生物せいぶつあいだ想像そうぞう以上いじょうおおきいことがかったことである。そのため、元来がんらいかく生物せいぶつ内部ないぶ最大さいだい区分くぶんであったさかいよりうえ階級かいきゅうかんがえざるをなくなった。これがドメインである。

分子ぶんし遺伝いでんがくてき研究けんきゅうは、プロチスタのなか多様たようせい想像そうぞう以上いじょうおおきいことをあきらかにし、植物しょくぶつというくくりが成立せいりつがたくなった。また、細胞さいぼうない共生きょうせい想像そうぞう以上いじょうひろがりが発見はっけんされた。それを反映はんえいするため、トーマス・キャバリエ=スミスはちかいせつなどもたが、すぐに変更へんこうせまられることとなり、さかいという階級かいきゅうそのものが使つかわれなくなりつつある。

参考さんこう文献ぶんけん

編集へんしゅう
  • R.H.Whittaker, 1969, New Concept of Kingdoms of Organisms,Science, Vol.163, pp.150-159.
  • 井上いのうえいさお,『藻類そうるい30おくねん自然しぜん』,(2006),東海大学とうかいだいがく出版しゅっぱんしゃ