先さき軍ぐん政治せいじ

先さき軍ぐん政治せいじ（せんぐんせいじ、朝鮮ちょうせん語ご: 선군정치）とは、朝鮮民主主義人民共和国ちょうせんみんしゅしゅぎじんみんきょうわこく（北朝鮮きたちょうせん）の特とくに金きむ正日じょんいる政権せいけんにおいて用もちいられた公式こうしきイデオロギーで、すべてにおいて軍事ぐんじを優先ゆうせんし、朝鮮人民軍ちょうせんじんみんぐんを社会しゃかい主義しゅぎ建設けんせつの主力しゅりょくとみなす政治せいじ思想しそうである。先さき軍ぐん思想しそう（선군사상）とも呼よばれる。2009年ねんの憲法けんぽう改正かいせいによって主体しゅたい思想しそう（チュチェ思想しそう）とともに、指導しどう思想しそうとして北朝鮮きたちょうせん憲法けんぽうに明記めいきされるようになった。

「선군정치의 위대한 승리 만세（先さき軍ぐん政治せいじの偉大いだいな勝利しょうり万まん歳さい）」と記しるされた壁画へきが

先さき軍ぐん政治せいじ
各種かくしゅ表記ひょうき
チョソングル：	선군정치
漢字かんじ：	先さき軍ぐん政治せいじ
発音はつおん：	ソングンチョンチ
日本語にほんご読よみ：	せんぐんせいじ
MR式しき： 2000年ねん式しき： 英語えいご：	Songun chongchi seongun jeongchi sengun

金きむ正日じょんいる政権せいけん

先さき軍ぐん政治せいじという言葉ことばが北朝鮮きたちょうせんのマスメディアに登場とうじょうしたのは金きむ正日じょんいるが朝鮮ちょうせん労働党ろうどうとう中央ちゅうおう委員いいん会かい総そう書記しょきに就任しゅうにんした1997年ねん（主体しゅたい86年ねん）である。そして、金きむ正日じょんいるは先さき軍ぐん政治せいじについて「先さき軍ぐん政治せいじは私わたしの基本きほん的てきな政治せいじ方式ほうしきであり、我々われわれの革命かくめいを勝利しょうりに導みちびくための、万能ばんのうの宝剣ほうけんです」と述のべたとされる（『労働ろうどう新聞しんぶん』1999年ねん6月16日にち付記ふき事ごと）。また、「人民じんみん軍隊ぐんたいは我々われわれの革命かくめいの柱はしらであり、チュチェ革命かくめい偉業いぎょう完成かんせいの主力しゅりょく軍ぐんです」と述のべたとされる。こうしたことから、社会しゃかい主義しゅぎ建設けんせつにおいてプロレタリアートの役割やくわりを最さい重視じゅうしするマルクス・レーニン主義しゅぎとは根本こんぽん的てきに異ことなる。

「プロレタリア独裁どくさい#概念がいねんの変容へんよう」および「金きむ正日じょんいる#最高さいこう指導しどう者しゃとして」も参照さんしょう

そして、北朝鮮きたちょうせんで出版しゅっぱんされた文献ぶんけんをみると、他たの社会しゃかい主義しゅぎ国こくは、労働ろうどう者しゃ階級かいきゅうの党とう（共産党きょうさんとうなど）がまず建設けんせつされ、それに基もとづき軍ぐんが建設けんせつされるという「先さき党とう後ご軍ぐん」の「先さき労ろう政治せいじ方式ほうしき」を採とっているが、北朝鮮きたちょうせんでは逆ぎゃくに、金きむ日成いるそん主席しゅせきによって朝鮮人民軍ちょうせんじんみんぐんの前身ぜんしんである朝鮮ちょうせん人民じんみん革命かくめい軍ぐんがまず創建そうけんされ、祖国そこく解放かいほうを成なし遂とげた後のちに朝鮮ちょうせん労働党ろうどうとうが創建そうけんされ、続つづいて軍ぐんを正規せいき武力ぶりょくに強化きょうか発展はってんさせ、建国けんこく偉業いぎょうを成なし遂とげたとしている。

詳細しょうさいは「東北とうほく人民じんみん革命かくめい軍ぐん#沿革えんかく」および「朝鮮人民軍ちょうせんじんみんぐん#創設そうせつ」を参照さんしょう

また、ソ連それんやルーマニアの社会しゃかい主義しゅぎ政権せいけん崩壊ほうかいを例れいに挙あげ、それらの国々くにぐにでは軍事ぐんじの問題もんだいを正ただしく解決かいけつしなかったことで、軍ぐんが反はん革命かくめいに同調どうちょうしてしまい、政権せいけん崩壊ほうかいに導みちびいたと分析ぶんせきしている。

「ソ連それん地上ちじょう軍ぐん#ソ連それんの崩壊ほうかい後ご」および「ルーマニア革命かくめい (1989年ねん)#前史ぜんし」も参照さんしょう

先さき軍ぐん政治せいじが北朝鮮きたちょうせんのメディアで喧伝けんでんされるようになるにつれ、金きむ正日じょんいるによる軍ぐんの視察しさつも盛さかんに報ほうじられるようになった。そして、2002年ねん9月17日にち、金きむ正日じょんいるが日にち朝ちょう平壌ぴょんやん宣言せんげんに調印ちょういんした際さいも、「朝鮮ちょうせん労働党ろうどうとう総そう書記しょき」ではなく「朝鮮民主主義人民共和国ちょうせんみんしゅしゅぎじんみんきょうわこく国防こくぼう委員いいん会かい委員いいん長ちょう」という肩書かたがきを用もちいた。こうしたことから、北朝鮮きたちょうせん問題もんだいのアナリストである重村しげむら智計ともよしは、朝鮮ちょうせん労働党ろうどうとうの支配しはいがすでに形骸けいがい化かしており、党とうが軍ぐんを指導しどうするのではなく、軍ぐんが党とうを指導しどうする状態じょうたいになっている、即すなわち事実じじつ上じょうの軍事ぐんじ政権せいけんと化かしていたと指摘してきした。ただし、実際じっさいは金きむ正日じょんいるが事実じじつ上部じょうぶ長ちょう兼務けんむだった党とう中央ちゅうおう委員いいん会かい政務せいむ局きょく組織そしき指導しどう部ぶが権勢けんせいを振ふるっていたことから、党とう中央ちゅうおうの軍ぐんに対たいする統率とうそつ支配しはいはその後ごも維持いじされていたとする分析ぶんせきもある。

詳細しょうさいは「朝鮮民主主義人民共和国ちょうせんみんしゅしゅぎじんみんきょうわこく#支配しはい政党せいとうと軍ぐんの関係かんけい」および「朝鮮ちょうせん労働党ろうどうとう組織そしき指導しどう部ぶ#概要がいよう」を参照さんしょう

金きむ正ただし恩おん政権せいけん

2016年ねん（主体しゅたい105年ねん）6月がつ29日にちの最高さいこう人民じんみん会議かいぎ第だい13期き第だい4回かい代議員だいぎいん会議かいぎで憲法けんぽう改正かいせいが行おこなわれ、それまでの国防こくぼう委員いいん会かいは廃止はいしされ新あらたに国務こくむ委員いいん会かいが設置せっちされた。国防こくぼう委員いいん会かいが先さき軍ぐん体制たいせいの中心ちゅうしん機関きかんとみられていたことから、これを廃止はいしすることによってそれまでの軍部ぐんぶへの傾倒けいとうを改あらため、即すなわち共和きょうわ国こくの指導しどう体系たいけいを金きむ日成いるそん時代じだいのような労働党ろうどうとう中央ちゅうおう中心ちゅうしん主義しゅぎに戻もどしていこうとする変化へんかとみられている。これに伴ともない朝鮮人民軍ちょうせんじんみんぐんの長老ちょうろうの呉ご克かつ烈れつと李り勇武ゆうぶの二人ふたりが更迭こうてつされ、国務こくむ委員いいん会かい副ふく委員いいん長ちょうに党人とうじんないしは労働ろうどう者しゃ階級かいきゅう出身しゅっしんの党とう政治せいじ局きょく常務じょうむ委員いいんである崔ちぇ竜りゅう海うみ（党とう副ふく委員いいん長ちょう）と朴ほお奉たてまつ珠たま（首相しゅしょう）が任命にんめいされた。

「崔ちぇ竜りゅう海うみ#有力ゆうりょく幹部かんぶへ」および「朴ほお奉たてまつ珠たま#略歴りゃくれき」も参照さんしょう

国防こくぼう委員いいん会かい廃止はいし以降いこうは「先さき軍ぐん政治せいじ」という表現ひょうげんを避さけて「軍事ぐんじ優先ゆうせん」の表現ひょうげんが使つかわれるようになったと指摘してきされている。

関連かんれん書籍しょせき

• キム・チョル『金きむ正日じょんいる将軍しょうぐんの先さき軍ぐん政治せいじ』（平壌ぴょんやん外国がいこく文ぶん出版しゅっぱん社しゃ、2000年ねん）
• 重村しげむら智計ともよし『最新さいしん・北朝鮮きたちょうせんデータブック　先さき軍ぐん政治せいじ、工作こうさくから核かく開発かいはつ、ポスト金きむ正日じょんいるまで』（講談社こうだんしゃ〈講談社こうだんしゃ現代新書げんだいしんしょ〉、2002年ねん ISBN 4061496360）

関連かんれん項目こうもく

• 武臣ぶしん政権せいけん - 朝鮮ちょうせん史しにおける武人ぶじんが政治せいじを掌握しょうあくした事例じれい。
• 軍国ぐんこく主義しゅぎ