嫌気いやけ性せい生物せいぶつ

嫌気いやけ性せい生物せいぶつ（けんきせいせいぶつ）は増殖ぞうしょくに酸素さんそを必要ひつようとしない生物せいぶつである。多おおくは細菌さいきんであるが、古こ細菌さいきんや真ま核かく微生物びせいぶつの中なかにも存在そんざいする。

これらは主おもに、酸素さんそ存在そんざい下かで酸素さんそを利用りようできる通性つうせい嫌気いやけ性せい生物せいぶつと、大気たいきレベルの濃度のうどの酸素さんそに暴露ばくろすることで死滅しめつする偏へん性せい嫌気いやけ性せい生物せいぶつに分わけられる。酸素さんそを利用りようすることはできないが、大気たいき中ちゅうでも生存せいぞんに影響えいきょうがない生物せいぶつは、耐酸たいさん素性すじょう細菌さいきんなどと呼よばれる。

エネルギーの獲得かくとく

偏へん性せい嫌気いやけ性せい生物せいぶつは発酵はっこうおよび嫌気いやけ性せい呼吸こきゅうを行おこなう。通性つうせい嫌気いやけ性せい生物せいぶつは酸素さんその存在そんざい下かでは好こう気き呼吸こきゅうを行おこない、酸素さんそがない場合ばあいには発酵はっこうを行おこなうものもあれば嫌気いやけ性せい呼吸こきゅうを行おこなうものもある。耐酸たいさん素性すじょう細菌さいきんは厳格げんかくに発酵はっこう的てきである。

微ほろ好こう気性きしょう生物せいぶつは好こう気き呼吸こきゅうを行おこない、それらのうちのあるものは嫌気いやけ性せい呼吸こきゅうをも行おこなうことができる。

嫌気いやけ的てき発酵はっこう反応はんのうにはいくつかの化学かがく式しきがある。発酵はっこう的てき嫌気いやけ性せい生物せいぶつの多おおくは乳酸にゅうさん発酵はっこう経路けいろを利用りようする。

{\ce {{C6H12O6}+{2ADP}+2{\it {phosphate}}->{2lacticacid}+2ATP}}

（ブドウ糖ぶどうとう 1分子ぶんし＋ ADP 2分子ぶんし＋リン酸さん 2分子ぶんし → 乳酸にゅうさん 2分子ぶんし＋ ATP 2分子ぶんし）

この化学かがく式しきにおいて糖とうから放出ほうしゅつされるエネルギーは1モル当あたりおよそ150 kJである。このエネルギーにより、ブドウ糖ぶどうとう1分子ぶんし当あたり2分子ぶんしのATPがADPより再生さいせいされる。これは典型てんけい的てきな好こう気き的てき反応はんのうによって糖とう1分子ぶんしから産うみ出だされるエネルギーのほんの5%にすぎない。

植物しょくぶつおよび真ま菌きん（たとえば酵母こうぼ）は、酸素さんそが限かぎられている場合ばあいには一般いっぱんにアルコール（エタノール）発酵はっこうを利用りようする。

{\ce {{C6H12O6}+{2ADP}+2{\it {phosphate}}->{2C2H5OH}+{2CO2}+2ATP}}

（ブドウ糖ぶどうとう 1分子ぶんし＋ ADP 2分子ぶんし＋リン酸さん 2分子ぶんし → エタノール 2分子ぶんし＋二酸化炭素にさんかたんそ 2分子ぶんし＋ ATP 2分子ぶんし）

ここで糖とうから放出ほうしゅつされるエネルギーは1モル当あたり約やく180 kJである。このエネルギーにより、ブドウ糖ぶどうとう1分子ぶんし当あたり2分子ぶんしのATPがADPより再生さいせいされる。

嫌気いやけ性せい細菌さいきんと古こ細菌さいきんは、たとえばプロピオン酸さん発酵はっこう、酪酸発酵はっこう、混合こんごう酸さん発酵はっこう、ブタンジオール発酵はっこう、Stickland発酵はっこう、酢酸さくさん生成せいせい経路けいろ、またはメタン生成せいせい経路けいろなどのような、これらとは異ことなるいくつかの発酵はっこう経路けいろを利用りようしている、

毒素どくそ産さん生せい能のう

いくつかの嫌気いやけ性せい細菌さいきんは、人ひとを含ふくむ高等こうとう生物せいぶつに対たいして極きわめて危険きけんな毒素どくそ（たとえば破傷風はしょうふう毒素どくそやボツリヌス毒素どくそのような）を産さん生せいする。

菌きん体内たいない酵素こうその欠損けっそん

酸素さんそが存在そんざいすることによって細胞さいぼう内ないに形成けいせいされる致死ちし性せいのスーパーオキシドを変化へんかさせるスーパーオキシドディスムターゼやカタラーゼを欠かくことにより、偏へん性せい嫌気いやけ性せい生物せいぶつは酸素さんその存在そんざい下かでは死滅しめつする。

汚水おすい処理しょり施設しせつでの利用りよう

汚水おすいを浄化じょうかさせるための汚水おすい処理しょり施設しせつでは、曝気槽そうの前段ぜんだんに脱だつ窒を目的もくてきとして嫌気いやけ槽そうを設もうけることがある。嫌気いやけ槽そうには嫌気いやけ性せいの微生物びせいぶつが利用りようされている。

新あたらしいエネルギー源げん

下水げすいや廃棄はいき物ぶつなどに含ふくまれる有機物ゆうきぶつを嫌気いやけ性せい生物せいぶつにより分解ぶんかいすることにより燃料ねんりょうとして使つかえる炭化たんか水素すいそガスを生成せいせいする試こころみが各地かくちで進すすめられている。^[1]^[2]^[3]^[4]

多た細胞さいぼう生物せいぶつ

嫌気いやけ性せい代謝たいしゃでは十分じゅうぶんなエネルギーが確保かくほできないため、多た細胞さいぼう生物せいぶつの嫌気いやけ性せい生物せいぶつはほとんどいない。

2010年ねん、地中海ちちゅうかいの海底かいていで酸素さんそ不要ふようの多た細胞さいぼう生物せいぶつが初はじめて見みつかった。^[5]

脚注きゃくちゅう

^ 不用ふようのメタンガスを利用りようした発電はつでん
^ メタンガスで自家じか発電はつでん計画けいかく
^ 下水げすい汚泥おでいからメタンガス急速きゅうそく抽出ちゅうしゅつ
^ 嫌気いやけ性せい排水はいすい処理しょり（メタン発酵はっこう）技術ぎじゅつの研究けんきゅう動向どうこう
^ “酸素さんそ不要ふようの多た細胞さいぼう生物せいぶつを初はじめて発見はっけん”. natgeo.nikkeibp.co.jp. 2021年ねん9月がつ26日にち閲覧えつらん。