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グルコース - Wikipedia

グルコースえい: glucose)は、分子ぶんししき C6H12O6単純たんじゅんとうである。ブドウ糖ぶどうとうブドウとう葡萄糖ぶどうとう)ともばれる。三文字さんもじ表記ひょうき略称りゃくしょうGlcであり、ドイツのTraubenzucker(トラウベンツッカー:Trauben ブドウ、Zucker とう)からTzとも略記りゃっきされる。なお、しばしばもちいられるGluという表記ひょうきではグルタミン酸ぐるたみんさんなどをすことがあるため、すくなくとも化学かがくにおいて使つかわれることはあまりない。また、ブドウ糖ぶどうとう由来ゆらいは、「じゅくしたブドウの果汁かじゅうおおふくまれていたから」、「化学かがくしき形状けいじょうがブドウのぼうていたから」などのせつがある。

D-グルコース
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βべーた-D-グルコース
識別しきべつ情報じょうほう
略称りゃくしょう Glc
CAS登録とうろく番号ばんごう 50-99-7
492-62-6 (αあるふぁ-アノマー)
492-61-5 (βべーた-アノマー)
PubChem 5793
にち番号ばんごう J4.109B
EC番号ばんごう 200-075-1
KEGG C00031
C00221
C00267
特性とくせい
分子ぶんししき C6H12O6
モル質量しつりょう 180.16 g/mol
精密せいみつ質量しつりょう 180.063388
密度みつど 1.54 g/cm3
融点ゆうてん

αあるふぁ-D-グルコース: 146 ℃
βべーた-D-グルコース: 150℃

みずへの溶解ようかい 91 g/100 mL (25℃)
メタノールへの溶解ようかい 0.037 M
エタノールへの溶解ようかい 0.006 M
テトラヒドロフランへの溶解ようかい 0.016 M
ねつ化学かがく
標準ひょうじゅん生成せいせいねつ ΔでるたfHo −1271 kJ/mol
標準ひょうじゅん燃焼ねんしょうねつ ΔでるたcHo −2805 kJ/mol
標準ひょうじゅんモルエントロピー So 209.2 J K−1 mol−1
危険きけんせい
安全あんぜんデータシート(外部がいぶリンク) ICSC 0865
EU Index not listed
特記とっきなき場合ばあい、データは常温じょうおん (25 °C)・つねあつ (100 kPa) におけるものである。

グルコースは血糖けっとうとして動物どうぶつ血液けつえきちゅう循環じゅんかんしている。とう植物しょくぶつなどにふくまれるみどりたいにおいて、太陽光たいようこうからのエネルギーを使つかってみず二酸化炭素にさんかたんそから光合成こうごうせいによってつくられる。グルコースは細胞さいぼう呼吸こきゅう英語えいごばんのためのもっと重要じゅうようなエネルギーげんである。植物しょくぶつではデンプン動物どうぶつではグリコーゲンのようなポリマーとして貯蔵ちょぞうされる。

グルコースは6炭素たんそ原子げんしふくみ、たんとう下位かい区分くぶんであるヘキソース分類ぶんるいされる。D-グルコースは16種類しゅるいアルドヘキソース立体りったい異性いせいたいひとつである。Dかた異性いせいたいであるD-グルコースは、デキストロース(dextrose)ともばれ、天然てんねんひろ存在そんざいするが、L-かた異性いせいたいであるL-グルコースはそうではない。グルコースは乳糖にゅうとうショとう麦芽糖ばくがとうセルロース、グリコーゲンなどといった炭水化物たんすいかぶつ加水かすい分解ぶんかいによってることができる。グルコースは通常つうじょうコーンスターチから商業しょうぎょうてき製造せいぞうされている[2]

グルコースは世界せかい保健ほけん機関きかん必須ひっす医薬品いやくひんモデル・リストはいっている[3]。Glucoseという名称めいしょうは、「ワイン、ブドウ果汁かじゅう」を意味いみするギリシア γλυκός (glukós, 「あまい」を意味いみする γλυκύς (glykýs)に由来ゆらいする) からている[4][5]接尾せつびの "-ose" は炭水化物たんすいかぶつしめ化学かがく分類ぶんるいである。

発見はっけん歴史れきし

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グルコースはドイツ化学かがくしゃアンドレアス・マルクグラーフ英語えいごばんによって1747ねん葡萄ぶどうレーズン)からはじめてたんはなされた[6][7]。グルコースはおおくの生物せいぶつ基本きほんてき必需ひつじゅひんであるため、その化学かがく組成そせい構造こうぞうただしい理解りかいは、有機ゆうき化学かがく一般いっぱんてき進歩しんぽおおきく寄与きよした。この理解りかいだい部分ぶぶんはドイツの化学かがくしゃエミール・フィッシャー研究けんきゅう結果けっかである。フィッシャーはとう研究けんきゅうによって、1902ねんノーベル化学かがくしょう授与じゅよされた[8]

グルコースの合成ごうせいによって有機ゆうき物質ぶっしつ構造こうぞう確立かくりつし、その結果けっかとしてヤコブス・ヘンリクス・ファント・ホッフ化学かがく反応はんのう速度そくどろんと、炭素たんそふく分子ぶんしにおける化学かがく結合けつごう配置はいち理論りろんで、最初さいしょ決定的けっていてき検証けんしょうとなった[9]。1891ねんから1894ねん、フィッシャーはすべての既知きちとう立体りったい化学かがくてき配置はいち証明しょうめいし、ファント・ホッフのひとし炭素たんそ原子げんし理論りろん適用てきようすることで、可能かのう異性いせいたい正確せいかく予測よそくした。

所在しょざい製法せいほう

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グルコースは果実かじつ蜂蜜はちみつ体液たいえきなか遊離ゆうりして存在そんざいしている。工業こうぎょうてきには、デンプン加水かすい分解ぶんかいすることによって生成せいせいする。

物理ぶつりてき性質せいしつ

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常温じょうおんつねあつ白色はくしょく粉末ふんまつじょう結晶けっしょうみずけやすく甘味あまみがある。

化学かがくてき性質せいしつ

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たんとう一種いっしゅであり、ヘキソースろくすみとう)およびアルドース分類ぶんるいされる、アルドヘキソースである。光学こうがく活性かっせい物質ぶっしつであり、天然てんねん大量たいりょう存在そんざいするのはDからだである。

グルコースは以下いかのようなオリゴとうとう構成こうせい単位たんいである。グルコースを構成こうせい単位たんいとするとう総称そうしょうグルカンしょうする。

おもな誘導体ゆうどうたい

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  • キノボース(6-デオキシグルコース)キナの樹皮じゅひはいとうからだ
  • パラトース(3,6-デオキシグルコース)サルモネラ菌さるもねらきんのリポとう

アルコール発酵はっこう

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グルコースは、チマーゼばれる酵素こうそぐんによりエタノール二酸化炭素にさんかたんそ分解ぶんかいされる。この反応はんのうアルコール発酵はっこうという。

 

還元かんげんせい

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グルコースは水溶液すいようえきちゅうではごく一部いちぶくさりじょう構造こうぞうとなっている。この構造こうぞう末端まったんにはアルデヒドもと存在そんざいするため、グルコース水溶液すいようえき還元かんげんせいしめす。水溶液すいようえきちゅうでアルデヒドもとをもつたんとうはアルドースとばれる。

化学かがく構造こうぞう

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水溶液すいようえきなかでは、以下いかの3種類しゅるい構造こうぞう一定いってい割合わりあい存在そんざいする平衡へいこう状態じょうたいとなっている。

 
グルコースの平衡へいこう

水中すいちゅうにおいて平衡へいこう状態じょうたいたっしたとき、グルコースはほぼαあるふぁ-グルコース(αあるふぁ-ピラノース、38%、うえひだり)とβべーた-グルコース(βべーた-ピラノース、62%、うえみぎ)のかたち存在そんざいしており(アノマー効果こうか参照さんしょう)、異性いせいたいフラノースくさりじょうたいうえ中央ちゅうおう〉)はわせても1%にたない[注釈ちゅうしゃく 1]

αあるふぁ-ピラノースとβべーた-ピラノースは、さい結晶けっしょう溶媒ようばい条件じょうけんをきちんとえらべばそれぞれのじゅんひん結晶けっしょうつくけることができる。そのじゅんひん結晶けっしょうみずかすと平衡へいこう状態じょうたい移行いこうする過程かてい旋光変化へんかがみられる。この現象げんしょうへん旋光ばれる。

体内たいないでの役割やくわり

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食事しょくじから摂取せっしゅされた炭水化物たんすいかぶつ小腸しょうちょうでグルコースに分解ぶんかいされ、ナトリウム-グルコースども輸送ゆそうたいタンパクのSGLT-1およびSGLT-2により大量たいりょうのグルコースが体内たいない吸収きゅうしゅうされる。

グルコースは、小腸しょうちょうから吸収きゅうしゅうされてから、体内たいない主要しゅようなエネルギーげんとして利用りようされており、とくのうでの通常つうじょうのエネルギーげんとして利用りようされている。

グルコースの分子ぶんし極性きょくせいゆうするため、細胞さいぼうまく通過つうかするのには特別とくべつまく輸送ゆそうタンパク質たんぱくしつ必要ひつようとする。

グルコースが細胞さいぼうまれるとただちにリン酸化さんかこり、グルコース-6-リンさん生成せいせいされる。このリン酸化さんかは、グルコースが細胞さいぼうがい拡散かくさんしてしまうのをふせぐためである。リン酸化さんかにより電荷でんか導入どうにゅうされるので、グルコース-6-リンさん容易ようい細胞さいぼうまく通過つうかすることができない。リン酸化さんかされたグルコースはかいとうけいとう代謝たいしゃ経路けいろはいる。

体内たいないでのグルコースは、エネルギーげんとして重要じゅうようである反面はんめんこう濃度のうどのグルコースは生体せいたい有害ゆうがいであるため、インスリンなどによりその濃度のうど血糖けっとう)がつね一定いってい範囲はんいたもたれている。

食後しょくご大量たいりょうのグルコースが体内たいない吸収きゅうしゅうされるが、体内たいないのインスリンが十分じゅうぶん機能きのうしないと血糖けっとうのコントロールができなくなり病的びょうてき症状しょうじょうあらわれる。

グルコースには、そのアルデヒドもと反応はんのうせいたかさからタンパク質たんぱくしつ修飾しゅうしょくする作用さよう糖化とうか反応はんのうメイラード反応はんのう参照さんしょう)がある。グルコースによる修飾しゅうしょくおも細胞さいぼうがいタンパク質たんぱくしつたいしてしょうじる。細胞さいぼうないはいったグルコースはすぐにかいとうけいにより代謝たいしゃされてしまう。インスリンによる血糖けっとう制御せいぎょができず生体せいたいこう濃度のうどのグルコースにさらされるとタンパク質たんぱくしつ修飾しゅうしょくのためにとう毒性どくせいしょうじ、これがながつづくと糖尿とうにょうびょう合併症がっぺいしょうとされる微小びしょう血管けっかん障害しょうがいによってしょうじる糖尿とうにょうびょうせい神経しんけい障害しょうがい糖尿とうにょうびょうせい網膜もうまくしょう糖尿とうにょうびょうせいじんしょうなどを発症はっしょうする[10][11]

医療いりょうにおける利用りよう

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医薬品いやくひんとして様々さまざま濃度のうど(5 %、20 %、50 %など)のブドウ糖ぶどうとう注射ちゅうしゃ製剤せいざい複数ふくすう製薬せいやく会社かいしゃより製造せいぞう販売はんばいされている。日本にっぽん薬局方やっきょくほうにも記載きさいされ、ブランドとしてでなく「局方きょくほうひん」として調剤ちょうざいされることがおおい。医療いりょう現場げんばでは、しばしば「5プロとう」「ツッカー」(ドイツの「Zucker とう」に由来ゆらい)とばれる。

糖尿とうにょうびょう治療ちりょうやくりょう服用ふくようなどでてい血糖けっとうになったさいなどには、携帯けいたいしたブドウ糖ぶどうとう顆粒かりゅう経口けいこう摂取せっしゅがしばしばおこなわれる。ショとうではちゅうブドウ糖ぶどうとう濃度のうどすみやかに上昇じょうしょうしないため、ブドウ糖ぶどうとう摂取せっしゅこのましい。

血液けつえきないブドウ糖ぶどうとう濃度のうど血糖けっとう)は、健常けんじょうなヒトの場合ばあい空腹くうふく血糖けっとうでおおよそ80-100 mg/dL程度ていど食後しょくご若干じゃっかんたかしめす。血糖けっとう異常いじょうについては糖尿とうにょうびょうたいとうのう異常いじょう参照さんしょう

脚注きゃくちゅう

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注釈ちゅうしゃく

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  1. ^ ピラノースはろくいんたまき、フラノースはいんたまき環状かんじょうヘミアセタールである

出典しゅってん

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  1. ^ 奥山おくやまかく有機ゆうき化合かごうぶつ命名めいめいほう[リンク]
  2. ^ "glucose." The Columbia Encyclopedia, 6th ed.. 2015. Encyclopedia.com. 17 Nov. 2015 http://www.encyclopedia.com.
  3. ^ WHO Model List of Essential Medicines”. World Health Organization (October 2013). 22 April 2014閲覧えつらん
  4. ^ Online Etymology Dictionary”. Etymonline.com. 2016ねん11月25にち閲覧えつらん
  5. ^ Thénard, Gay-Lussac, Biot, and Dumas (1838) "Rapport sur un mémoire de M. Péligiot, intitulé: Recherches sur la nature et les propriétés chimiques des sucres" (Report on a memoir of Mr. Péligiot, titled: Investigations on the nature and chemical properties of sugars), Comptes rendus, 7 : 106–113. From page 109: "Il résulte des comparaisons faites par M. Péligot, que le sucre de raisin, celui d'amidon, celui de diabètes et celui de miel ont parfaitement la même composition et les mêmes propriétés, et constituent un seul corps que nous proposons d'appeler Glucose (1). … (1) γλευχος, moût, vin doux." It follows from the comparisons made by Mr. Péligot, that the sugar from grapes, that from starch, that from diabetes and that from honey have exactly the same composition and the same properties, and constitute a single substance that we propose to call glucose (1) … (1) γλευχος, must, sweet wine.
  6. ^ (英語えいご) Encyclopedia of Food and Health. Academic Press. (2015). p. 239. ISBN 9780123849533. https://books.google.com/books?id=O-t9BAAAQBAJ&pg=RA2-PA239 
  7. ^ Marggraf (1747) "Experiences chimiques faites dans le dessein de tirer un veritable sucre de diverses plantes, qui croissent dans nos contrées" [Chemical experiments made with the intention of extracting real sugar from diverse plants that grow in our lands], Histoire de l'académie royale des sciences et belles-lettres de Berlin, pages 79–90. From page 90: "Les raisins secs, etant humectés d'une petite quantité d'eau, de maniere qu'ils mollissent, peuvent alors etre pilés, & le suc qu'on en exprime, etant depuré & épaissi, fournira une espece de Sucre." (Raisins, being moistened with a small quantity of water, in a way that they soften, can be then pressed, and the juice that is squeezed out, [after] being purified and thickened, will provide a sort of sugar.)
  8. ^ Emil Fischer, Nobel Foundation, https://www.nobelprize.org/prizes/chemistry/1902/fischer/biographical/ 2009ねん9がつ2にち閲覧えつらん 
  9. ^ Fraser-Reid, Bert, “van't Hoff's Glucose”, Chem. Eng. News 77 (39): 8 
  10. ^ High Blood Glucose and Diabetes Complications: The buildup of molecules known as AGEs may be the key link, American Diabetes Association, (2010), ISSN 0095-8301, http://forecast.diabetes.org/magazine/features/high-blood-glucose-and-diabetes-complications 
  11. ^ 生体せいたい分子ぶんしこるよわい変化へんか 05-異常いじょうたんぱくしつはなぜえるのか? 健康けんこう長寿ちょうじゅ 2024ねん8がつ8にち閲覧えつらん

関連かんれん文献ぶんけん

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関連かんれん項目こうもく

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