御内おんうち人じん

御内おんうち人じん（みうちびと、みうちにん）は、鎌倉かまくら時代ときよに執権しっけん北条ほうじょう氏しの家督かとく・得とく宗むねに仕つかえた、武士ぶし、被官ひかん、従者じゅうしゃ。御内おんうち人じんの名なは同どう時代じだい史料しりょうにあるもので、佐藤さとう進一しんいちは学術がくじゅつ用語ようごとして得とく宗むね被官ひかん（とくそうひかん）と名付なづけている。多おおくは鎌倉かまくら幕府ばくふ将軍しょうぐんの直ちょく臣しんである御家人ごけにんの身分みぶんを持もっていた。

御内おんうち人じんの語源ごげん

「御内おんうち」とは、元々もともとは家政かせい・所領しょりょうなどを意味いみする用語ようごである。従者じゅうしゃを指さして身内みうちとする場合ばあいには、その家いえに代々だいだい使つかえる譜代ふだい的てきな従者じゅうしゃを指さしていた。よって、本来ほんらいは主人しゅじんを冠かんして「（誰々だれだれ）御内おんうち」と表記ひょうきするのが正ただしい。

しかし北条ほうじょう家か惣領そうりょうである得とく宗むねの政治せいじ的てき・経済けいざい的てき・社会しゃかい的てき影響えいきょう力りょくが突出とっしゅつした結果けっか、鎌倉かまくら時代ときよ後期こうきには単たんに「御内おんうち」と言いえば「得とく宗むねの御内おんうち」と理解りかいされるようになり、「御内おんうち人じん」も「得とく宗むねの従者じゅうしゃ」を意味いみするようになった。ただし『吾妻あづま鏡きょう』では用もちいられておらず、惣領そうりょうをふくむ北条ほうじょう家かの人物じんぶつに仕つかえる御家人ごけにんに対たいしては、「祗候しこう人じん」という表現ひょうげんを用もちいている。北条ほうじょう氏しには伊豆いず時代じだいから仕つかえてきた「主おも達たち」と呼よばれる家臣かしん層そうが存在そんざいしていたが、彼かれらに対たいしては「祗候しこう人じん」という表現ひょうげんは用もちいられていない。「主おも達たち」が御家人ごけにんに昇格しょうかくすることは源実朝みなもとのさねともによって拒絶きょぜつされており、その後ごも明確めいかくに確認かくにんされた例れいはない。細川ほそかわ重男しげおは「御内おんうち人じん」という表記ひょうきは「御内おんうち祗候しこう人じん」が縮ちぢまったものであるとしている。

かつては、得とく宗むねの従者じゅうしゃとその他た北条ほうじょう氏しの従者じゅうしゃを区別くべつすること無なく「御内おんうち人じん」と呼よんだり、現在げんざいでは両者りょうしゃをまとめて「北条ほうじょう氏し被官ひかん」とする場合ばあいもある。しかし、北条ほうじょう氏し庶家と得とく宗家そうけ、それぞれの従者じゅうしゃは殆ほとんど一致いっちしておらず庶家は独自どくじに従者じゅうしゃを獲得かくとくしている事ことや、北条ほうじょう氏し各かく家いえは独立どくりつ採算さいさん制せいをとっている事こと、何なにより鎌倉かまくら時代じだい当時とうじ「御内おんうち人じん」は得とく宗むねの従者じゅうしゃに限定げんていして用もちいられている事ことから、「御内おんうち人じん」は得とく宗むねの従者じゅうしゃのみに限かぎって用もちいられるべきだと考かんがえられる。この場合ばあい、たとえば日蓮にちれんの有力ゆうりょく檀越だんおちとして知しられる四条しじょう金吾きんごは、北条ほうじょう氏し庶流の名越なごや光ひかり時ときの執事しつじであったが、御内おんうち人じんには含ふくまれないことになる。

中世ちゅうせい史家しかの奥富おくとみ敬之たかゆき・五味ごみ文彦ふみひこ・海津かいづ一朗いちろうは御内おんうち人じんは将軍しょうぐんの家臣かしんである北条ほうじょう氏しの家臣かしん、いわば陪臣ばいしんであるとしている。奥富おくとみは「一般いっぱん御家人ごけにんより一いち段だん下位かいだということで、平常へいじょうから軽視けいしされている」としている。ただし、細川ほそかわ重男しげおは北条ほうじょう家かの従者じゅうしゃの多おおくは御家人ごけにんであったとしている。史料しりょう上じょうにおいても鎌倉かまくら時代じだいを通つうじて有力ゆうりょくな御内おんうち人じんは御家人ごけにん役やくを勤つとむ仕つかまつし続つづけ、幕府ばくふ内ないの儀礼ぎれいである垸飯や的てき始はじめに参加さんかしており、御家人ごけにんとして扱あつかわれている。御内おんうち人じんの中なかでも南条なんじょう氏し、長崎ながさき氏し（平たいら氏し）については「主おも達たち」の身分みぶんから御家人ごけにんになったのではないかとされることが多おおかったが、南条なんじょう氏しについては源みなもと頼朝よりとも時代じだいから御家人ごけにんであったことが『吾妻あづま鏡きょう』によって確認かくにんされており、長崎ながさき氏しについても活動かつどう内容ないようから御家人ごけにんであったとみられている。

歴史れきし

最初さいしょに北条ほうじょう氏しの従者じゅうしゃとなったのが確認かくにんできる御家人ごけにんは、北条ほうじょう義よし時ときの側近そっきんであった金きむ窪くぼ行こう親おやと安東あんどう忠ただし家かである。

御内おんうち人じんの職務しょくむは北条ほうじょう宗家そうけである北条ほうじょう得とく宗家そうけの家政かせいを取とり扱あつかう「得とく宗家そうけ公文こうぶん所しょ」で行おこなわれていた。執事しつじを世襲せしゅうしていた平たいら氏し（後のちに長崎ながさき氏しを称しょうする）を中心ちゅうしんに、所領しょりょう安堵あんど・訴訟そしょう通どおり扱あつかい・裁許さいきょ等とうの文書ぶんしょを発給はっきゅう、年貢ねんぐ管理かんり、仏事ぶつじや得とく宗家そうけ子女しじょの教育きょういくなど多岐たきにわたる職務しょくむを行おこなっていた。また京都きょうとの朝廷ちょうていとの交渉こうしょうを行おこなう東ひがし使しも重要じゅうような職務しょくむである。北条ほうじょう氏しの一門いちもんが守護しゅごとなった国くにでは守護しゅご代だいを務つとめた。また平たいら氏しは幕府ばくふにおいては侍さむらい所しょ所司しょしを務つとめ、侍さむらい所しょ別当べっとうである執権しっけんの補佐ほさにあたった。侍さむらい所しょは承久じょうきゅうの乱らん以降いこう幕府ばくふの軍事ぐんじ的てき役割やくわりを握にぎっており、元もと寇の弘安ひろやすの役やくにおいては、作戦さくせん指令しれいが執権しっけん北条ほうじょう時宗じしゅうの名なで出だされ、得とく宗むね被官ひかんたる御内おんうち人じんが戦場せんじょうに派遣はけんされて御家人ごけにんを主体しゅたいとする軍ぐんの指揮しきにあたった。

この結果けっか、得とく宗家そうけの勢力せいりょくが強化きょうかされ、それに伴ともない御内おんうち人じんも幕府ばくふ内うちで権勢けんせいを持もつようになった。そのため、将軍しょうぐんの従者じゅうしゃである御家人ごけにんは、御内おんうち人じんに対たいして「外様とざま」と称しょうされるようになる。有力ゆうりょくな御内おんうち人じんの家系かけいは藤ふじ姓せい安東あんどう氏し、平ひら姓せい安東あんどう氏し・諏訪すわ氏し・長崎ながさき氏し・尾藤びとう氏し・工藤くどう氏しが著名ちょめいである。

北条ほうじょう貞時さだときの時代じだいになると、御内おんうち人じんの筆頭ひっとうである平頼綱たいらのよりつなは内うち管領かんりょう（御内おんうち頭あたま人じん）と呼よばれるようになった。頼綱よりつなは幕府ばくふの実質じっしつ的てきな首脳しゅのう部ぶである寄合よりあい衆しゅうのメンバーとなり、外戚がいせきで有力ゆうりょく御家人ごけにんである安達あだち泰盛やすもりを滅亡めつぼうさせるなど（霜月しもづき騒動そうどう）、幕政ばくせいに絶大ぜつだいな影響えいきょう力りょくを及およぼした。日蓮にちれんは書状しょじょうの中なかで頼綱よりつなのことを「天下てんかの棟梁とうりょう」と書かいている。頼綱よりつなは正せい応おう6年ねん（1293年ねん）の平ひら禅門ぜんもんの乱らんによって誅殺ちゅうさつされたものの、得とく宗そう貞時さだときが正せい応おう6年ねん（1235年ねん）の嘉よしみ元もとの乱らん以降いこう政務せいむを放棄ほうきしたこともあって、内うち管領かんりょうをはじめとする御内おんうち人じんの権勢けんせいはより強つよまった。

北条ほうじょう高だか時じの時代じだいには頼綱よりつなの一族いちぞくである長崎ながさき円えん喜きが内うち管領かんりょうとなり、その子この高こう資しとともに権勢けんせいをふるった。滞とどこおる幕府ばくふへの訴訟そしょうを早はやく有利ゆうりに解決かいけつしたい当事とうじ者しゃ達たちは、得とく宗むね権力けんりょくを行使こうしする御内おんうち人じんに賄賂わいろを贈おくり、また得とく宗むね領内りょうないで貿易ぼうえきや金銭きんせんの貸かし付つけ、土地とちの売買ばいばいを行おこなうなど、困窮こんきゅうしていく御家人ごけにんと対照たいしょう的てきに、御内おんうち人じんは新あらたな富裕ふゆう層そうとなっていった。これはすなわち幕政ばくせいの腐敗ふはいであり、御家人ごけにんの不満ふまんが高たかまるとともに諸国しょこくで悪党あくとうが活動かつどうを活発かっぱつ化かさせ、倒幕とうばくへと結むすびついていった。

鎌倉かまくら幕府ばくふ末期まっきには、嘉よしみ暦れきの騒動そうどうの結果けっか、御内おんうち人じん五大ごだい院いん宗そう繁しげる（高こう繁しげる）の妹いもうとを母ははとする太郎たろう邦くに時ときが得とく宗むね高だか時じの後継こうけいとなり、ついには得とく宗むね外戚がいせきの地位ちいをも手てに入いれようとしていた。『太平たいへい記き』は元弘もとひろの乱らんにおける幕府ばくふ軍ぐんで、実際じっさいに軍勢ぐんぜいを指揮しきする「侍大将さむらいだいしょう」の地位ちいに御内おんうち人じんである南条なんじょう高直たかなおと長崎ながさき高貞たかさだが任にんじられたとしている。1933年ねんの幕府ばくふ滅亡めつぼうにおいては長崎ながさき円えん喜き父子ふしをはじめとする多おおくの御内おんうち人じんが最後さいごの得とく宗むね北条ほうじょう高だか時じに殉じゅんじている。

鎌倉かまくら幕府ばくふ滅亡めつぼう後ご、御内おんうち人じんの中なかには建たて武たけし政権せいけんに抵抗ていこうして北条ほうじょう氏しの復活ふっかつを図はかる者ものと反対はんたいに建たて武たけし政権せいけんの鎌倉かまくら将軍しょうぐん府ふなどに出仕しゅっしして建たて武たけし政権せいけんの下したで幕府ばくふ体制たいせいそのものの再建さいけんを図はかろうとする者ものがいた。御内おんうち人じんの1人ひとりであった諏訪すわ頼よりゆき重じゅうが北条ほうじょう時じ行ぎょうを擁ようして起おこした中ちゅう先代せんだいの乱らんでは結果けっか的てきには御内おんうち人じん同士どうしが分裂ぶんれつして戦たたかうことになった。後者こうしゃの中なかには飯尾いいお氏しなどのように鎌倉かまくら将軍しょうぐん府ふから足利あしかが将軍家しょうぐんけに仕つかえて、室町むろまち幕府ばくふ・鎌倉かまくら府ふで活躍かつやくする者ものもいた。

その後ご工藤くどう氏し（伊東いとう氏し）・安倍あべ姓せい安東あんどう氏し（秋田あきた氏し）・諏訪すわ氏しの一部いちぶは室町むろまち時代ときよ、戦国せんごく時代じだいも生いき抜ぬき、江戸えど時代じだいの近世きんせい大名だいみょうとして存続そんぞくし、そのまま廃藩置県はいはんちけんに至いたるまで明治維新めいじいしんを迎むかえることとなった。また大だい名家めいかや江戸えど幕府ばくふの直ちょく臣しんとして家いえを伝つたえた家系かけいも多おおく見みられる。

御内おんうち人じんを出だした氏族しぞく

細川ほそかわ重男しげおは鎌倉かまくら時代じだい後期こうきには得とく宗むね被官ひかんが「特権とっけん的てき支配しはい層そう」とそれ以外いがいに分わかれていたとする。細川ほそかわは得とく宗むね被官ひかんを「執事しつじ家か」（寄合よりあい衆しゅう家か）、「執事しつじ補佐ほさ家か」、得とく宗家そうけで公文こうぶん所しょの事務じむ作業さぎょうを行おこなう下級かきゅう職員しょくいんである「奉行ぶぎょう人じん層そう」、在地ざいちであった「一般いっぱん得とく宗むね被官ひかん」に分類ぶんるいしている。特権とっけん的てきな地位ちいを持もった「御内おんうち人じん」は「執事しつじ家か」・「執事しつじ補佐ほさ家か」が該当がいとうする。執事しつじ家かには平たいら氏し（長崎ながさき氏し）、尾藤びとう氏し、諏訪すわ氏しが該当がいとうし、執事しつじ補佐ほさ家かには執事しつじ家かの庶流と工藤くどう氏し・安東あんどう氏しなどが含ふくまれていた。

執事しつじ家か

• 平たいら氏し（長崎ながさき氏し）
• 尾藤びとう氏し
• 諏訪すわ氏し

その他たの御内おんうち人じん氏族しぞく

• 工藤くどう氏し
• 藤ふじ姓せい安東あんどう氏し
• 平ひら姓せい安東あんどう氏し
• 南条なんじょう氏し
• 宿屋やどや氏し
• 関せき氏し
• 金きむ窪くぼ氏し
• 紀きの氏し
• 飯尾いいお氏し
• 三浦みうら氏し
• 和田わだ氏し
• 安達あだち氏し
• 黒沼くろぬま氏し
• 五大ごだい院いん氏し

脚注きゃくちゅう

参考さんこう文献ぶんけん

• 佐藤さとう進一しんいち『鎌倉かまくら幕府ばくふ訴訟そしょう制度せいどの研究けんきゅう』 畝傍うねび書房しょぼう、1943年ねん。新版しんぱん岩波書店いわなみしょてん、1993年ねん。ISBN 978-4-0000-2806-6。
• 北条ほうじょう氏し研究けんきゅう会かい『北条ほうじょう氏し系譜けいふ人名じんめい辞典じてん』 新人物往来社しんじんぶつおうらいしゃ、2001年ねん、ISBN 978-4-4040-2908-9。
• 細川ほそかわ重男しげお「御内おんうち人じんと鎌倉かまくら期き武家ぶけの主従しゅうじゅう制せい」『思想しそう』No.969、岩波書店いわなみしょてん、2005年ねん1月がつ、121-138頁ぺーじ。 
• 梶川かじかわ貴子たかこ「得とく宗むね被官ひかんの歴史れきし的てき性格せいかく ―『吾妻あづま鏡きょう』から『太平たいへい記き』へ―」『創価大学そうかだいがく大学院だいがくいん紀要きよう』第だい34巻かん、創価大学そうかだいがく大学院だいがくいん、2012年ねん、ISSN 03883035、NAID 120005302771。