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NAVi5 - Wikipedia

NAVi-5(ナビファイブ、New Advanced Vehicle with Intelligence 5-Speed)は、いすゞ自動車ずじどうしゃ開発かいはつした自動車じどうしゃようオートマチックトランスミッション(AT)を中心ちゅうしんとしたシステムの名称めいしょうである。

世界せかいはつ電子でんし制御せいぎょしき自動じどう5そくトランスミッションで、変速へんそくのみではなく、オートクルーズ機能きのうや、坂道さかみち発進はっしん補助ほじょ装置そうち (Hill.Start.Aid) などの機構きこうふくまれる。

1983ねんなつごろ概要がいよう発表はっぴょうされ、1984ねん9月に同社どうしゃ乗用車じょうようしゃである初代しょだいアスカはじめて搭載とうさいされて市販しはんされた。のちに同社どうしゃの2代目だいめジェミニや4代目だいめエルフキュービックにも搭載とうさいされた。

NAVi-5の技術ぎじゅつは、のちに同社どうしゃのトラックよう電子でんし制御せいぎょトランスミッションであるスムーサー発展はってんし、スムーサーEは小型こがたトラックのエルフ (ELF)、スムーサーFは中型ちゅうがたトラックのフォワード (FORWARD)、スムーサーGは大型おおがたトラックのギガ (GIGA) にそれぞれ搭載とうさいされた。

概要がいよう

編集へんしゅう
 
シフトパターン
(D4レンジ追加ついかまえ)

NAVi-5の機構きこうトルクコンバータプラネタリーギアもちいた一般いっぱんてきなATとはまったことなり、マニュアルトランスミッション(MT)と基本きほんてきおなクラッチ変速へんそくを、コンピュータが機械きかいてき制御せいぎょして自動じどう変速へんそくするオートメイテッドマニュアルトランスミッション(AMT)となっている。クラッチの断続だんぞく変速へんそく操作そうさ油圧ゆあつアクチュエータにない、アクセルペダルのりょう、スロットルひらき、エンジン回転かいてんすう走行そうこう速度そくどなどからコンピュータが最適さいてきなギアを選択せんたくする。というのが自動じどう変速へんそくとしての基本きほんてきなシステムである。スロットル制御せいぎょドライブ・バイ・ワイヤとなっている。

これらのエンジン、スロットル、ギア、ブレーキなどの統合とうごう制御せいぎょもちいていたことから、それを利用りようしてクルーズコントロール機構きこう比較的ひかくてき容易ようい設定せっていすることができ、NAVi-5搭載とうさいしゃには当時とうじ一般いっぱんてきには高級こうきゅうしゃにしか装備そうびされていなかったクルーズコントロールが標準ひょうじゅん搭載とうさいされていた。

シフトレバーは、一般いっぱんてきなATの直線ちょくせんてきなゲートとはことなり、手動しゅどう変速へんそくでの運転うんてんたのしめるように4そくMTさまのシフトパターンをつ。ポジションは

  • 「1」(4M/Tの1そく位置いち):1そく固定こてい
  • 「2」(2そく位置いち):2そく固定こてい
  • 「D3」(3そく位置いち):1 - 3そく自動じどう変速へんそく
  • 「D5」(4そく位置いち):1 - 5そく自動じどう変速へんそく
  • 「R」(Rの位置いち):リバース

である。
その初代しょだいアスカや2代目だいめジェミニの最終さいしゅうがたでは「D4」レンジが追加ついかされ

  • 「1」(5M/Tの1そく位置いち):1そく固定こてい
  • 「2」(2そく位置いち):2そく固定こてい
  • 「D3」(3そく位置いち):1 - 3そく自動じどう変速へんそく
  • 「D4」(4そく位置いち):1 - 4そく自動じどう変速へんそく
  • 「D5」(5そく位置いち):1 - 5そく自動じどう変速へんそく
  • 「R」(Rの位置いち):リバース

と、結果けっかとして一般いっぱんてきな5そくMTとおなじシフトパターンとなった。「マニュアルモード」が設定せっていされ、かくギアを任意にんいえらぶ「クラッチレスMT」として走行そうこうできるようになった。ただし、コンピュータが危険きけんであると判断はんだんした場合ばあいはシフトレバーを操作そうさしても実際じっさいには変速へんそくされない。

トランスミッション本体ほんたいはMTしゃ同一どういつで、使用しようする油脂ゆし一般いっぱんてきオートマチックトランスミッションフルード (ATF) ではなく、のいすゞせい乗用車じょうようしゃおなじMTくるまようミッションオイルである。しかし変速へんそく制御せいぎょけい油圧ゆあつ回路かいろには、BESCO NAVi5ばれる専用せんよう油脂ゆしもちいられた。この油脂ゆし元々もともとあぶらぬるによる特性とくせい変化へんかすくない航空機こうくうき作動さどうであり、変速へんそく速度そくどあぶらゆたか変化へんかしないようにするためのさくであった。そのためATF販売はんばいメーカーによっては、NAVi-5フルードが航空機こうくうき作動さどうであることを明記めいきしたうえで、絶対ぜったいにATFの注入ちゅうにゅうおこなわないよう注意ちゅういしているれいられる[1]

2019ねん現在げんざい、NAVI-5の油圧ゆあつ回路かいろ使用しよう可能かのうなオイルの名称めいしょうBESCO TILT UP OILである。

開発かいはつ経緯けいい背景はいけい

編集へんしゅう

NAVi-5の開発かいはつは、「カメラやオーディオなど生活せいかつ隅々すみずみにまで進出しんしゅつしているコンピュータを、クルマのはしりやあじわいにかすことはできないだろうか」という一人ひとりのエンジニアの素朴そぼくゆめからはじまったといわれる。やす時間じかん雑談ざつだんわかいエンジニアたちの共感きょうかんび、プロジェクトはスタートした。ただし、この時点じてんでは具体ぐたいてきなに研究けんきゅう開発かいはつするかはまっていなかったというが、討議とうぎかさねるうちに「マニュアルトランスミッションのちょう能力のうりょく感性かんせいロボット運転うんてん」にテーマが収束しゅうそくした。具体ぐたいてきなイメージとしては、人間にんげん感覚かんかく感性かんせい理解りかいしたロボットが人間にんげんわってギアシフト、クラッチ、アクセル操作そうさおこなうというものである。

いすゞの藤沢ふじさわ工場こうじょうにある研究けんきゅう部門ぶもん研究けんきゅうがスタートし、廃車はいしゃ寸前すんぜんの1だいのジェミニをゆず実験じっけんだいもちいた。この段階だんかいでは、クラッチ、ギアシフトを圧搾あっさく空気くうき作動さどうさせるべくエアボンベやエアシリンダーをもちいた操作そうさけい改造かいぞうされ、メンバーの一人ひとりは、3だん弁当べんとうのごとく巨大きょだいなコンピュータユニットを製作せいさくし、一方いっぽう、プログラムのもととなる操作そうさロジックの検討けんとうかさねるメンバーもいた。こうして、開始かいしから6ヶ月かげつほどぎたころ実験じっけんしゃ一応いちおう完成かんせいし、がりなりにも走行そうこうすること成功せいこうした。

この時点じてんまでは、このプロジェクトは会社かいしゃ正式せいしき業務ぎょうむではなく、あくまでも「有志ゆうしによる私的してき研究けんきゅう」(クラブ活動かつどうてきな)であり、研究けんきゅうやす時間じかん終業しゅうぎょう休日きゅうじつなどにおこなわれていたが、走行そうこう成功せいこうしたころ休日きゅうじつ工場こうじょう敷地しきちない走行そうこう実験じっけんをしていたさい、たまたまとおりかかった社長しゃちょうにとまり、半年はんとしにもう一度いちど社長しゃちょうみずか試乗しじょうしたいとのはなしとなった。これを開発かいはつメンバーが上司じょうしつたえたところ、社内しゃないでも注目ちゅうもくあつめ、正式せいしき業務ぎょうむとしてのプロジェクトに昇格しょうかくした。

この背景はいけいには、

  • いすゞは当時とうじGMの「グローバルカー(世界せかい戦略せんりゃくしゃ構想こうそう」に参加さんかしており、Jカー(いすゞばん初代しょだいアスカ)の開発かいはつではマニュアルトランスミッションの開発かいはつ製造せいぞう担当たんとうし、世界せかい各地かくち生産せいさんされるJカーにMTを供給きょうきゅうしていたが、このクラスでもATしゃ比率ひりつたかまり、将来しょうらいてきにはMTの需要じゅよう減退げんたいすること予想よそうされた。
  • 日本にっぽんではアスカのライバルたちのATは高度こうど多段ただんしき電子でんし制御せいぎょなどをそなえた4そくAT)に移行いこうしつつあったが、アスカには旧式きゅうしきな3だんATしかく、しかも、完成かんせいたか輸入ゆにゅうひん(GMせい)にたよっていた[2]

などのいすゞ社内しゃない事情じじょうがあった。のちにNAVi-5として結実けつじつするMTベースのATにより、ていコストで高度こうど多段ただんしきATをれ、しかもMT需要じゅよう減退げんたいにも対処たいしょできるとかんがえられたため、NAVi-5の開発かいはつにゴーサインがたのである。

評価ひょうかとその展開てんかい

編集へんしゅう

NAVi-5はトルクコンバータ方式ほうしきくら変速へんそくがより直接的ちょくせつてきであり、動力どうりょく伝達でんたつロスの減少げんしょう燃費ねんぴ改善かいぜんなどが期待きたいされたが、当時とうじ電子でんし制御せいぎょ技術ぎじゅつではきめのこまかい制御せいぎょができず、自動じどう変速へんそくモードでは多様たよう運転うんてんパターンにうまく対応たいおうできない場面ばめんもあった。また手動しゅどう変速へんそくモードではレバーの操作そうさ実際じっさい変速へんそくされるまでに微妙びみょうなタイムラグがしょうじ、一般いっぱんてきなATのようなクリープ現象げんしょうこらないなど運転うんてんには多少たしょうれが必要ひつようであった。さらに、イルムシャーなどNAVi-5に対応たいおうできなかった車種しゃしゅ(グレード)もあり、初代しょだいアスカ、2代目だいめジェミニともに、かならずしもすべてのグレードにNAVi-5が設定せっていされていたとはかぎらなかった。販売はんばい期間きかんちゅう改良かいりょうもD4レンジとマニュアルモードの追加ついかとどまっている。

販売はんばい不振ふしんもあって、乗用車じょうようしゃでは初代しょだいアスカと2代目だいめジェミニ以外いがいでは採用さいようされなかった。どう時期じき販売はんばいされていたファーゴ初代しょだいジェミニ(ディーゼルのみ)、初代しょだいピアッツァビッグホーンミューといったFRもしくは4WDレイアウトの車種しゃしゅについては、FFよう設計せっけいされたNAVi-5を搭載とうさいすることは物理ぶつりてき不可能ふかのうであった。3代目だいめジェミニと2代目だいめピアッツァでは、コストを削減さくげんすることができる電子でんし制御せいぎょなどをそなえたジヤトコせい油圧ゆあつしき4ATが採用さいようされている。

その、いすゞは乗用車じょうようしゃ開発かいはつ生産せいさん縮小しゅくしょう最終さいしゅうてきには撤退てったい)したため、乗用車じょうようしゃようシステムとしては発展はってんしなかった。一方いっぽうでトラックようとしては開発かいはつつづけられ、エルフに搭載とうさいされたものは世界せかいはつのダイヤルしきセレクタースイッチを採用さいようした。中型ちゅうがたしゃ大型おおがたしゃには発展はってんがたのNAVi-6を810やフォワードに搭載とうさいした。現在げんざいではスムーサーE・F・Gへと発展はってんてき継承けいしょうされ、12そく制御せいぎょまで進化しんかたしている。

バスようとしてはキュービックに採用さいようされ、横浜よこはま交通こうつうきょく京王帝都電鉄けいおうていとでんてつげん京王けいおう電鉄でんてつバス)など、機械きかいしきATくるまこの一部いちぶバス事業じぎょうしゃ集中しゅうちゅうてき納入のうにゅうされた。当初とうしょ油圧ゆあつ駆動くどうであったが、1995ねんのマイナーチェンジ以降いこうフィンガーシフトとほぼどういち構造こうぞうのエアしきとなり、2000ねん生産せいさん終了しゅうりょうまで設定せっていされていた。後継こうけいエルガには6そくAMT採用さいようされている。

NAVi-5の生産せいさん終了しゅうりょう乗用車じょうようしゃでは1990年代ねんだいよりルノー・トゥインゴがイージーシステム(自動じどう変速へんそく機構きこうたないクラッチ操作そうさのみ自動じどうされたAMT)を採用さいようしたのを皮切かわきりに、フェラーリ・F355のF1システム、BMW・M3といったハイパフォーマンスカーに乾式かんしきクラッチしきAMTが搭載とうさいされはじめる。2000年代ねんだい後半こうはんには、欧州おうしゅうしゃ中心ちゅうしんとして乾式かんしきクラッチしきのAT(DCTなど)がひろがりをせた。

NAVi-5以降いこう日本にっぽんせい乗用車じょうようしゃへの目立めだった搭載とうさいはなかったが、トヨタ・MR-SBOSCHせいAMT制御せいぎょ機構きこう[注釈ちゅうしゃく 1]採用さいようされ、2010年代ねんだいにはスズキ簡素かんそした同様どうようマニエッティ・マレリせいAMT「AGS」を軽自動車けいじどうしゃ搭載とうさいするなど、類似るいじのトランスミッションを採用さいようする事例じれいがみられた。

脚注きゃくちゅう

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注釈ちゅうしゃく

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  1. ^ 変速へんそく自体じたいアイシンせいで、アクチュエータやECUとうがBOSCHせい

出典しゅってん

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  1. ^ 油脂ゆし製品せいひん 千代田ちよだデンソー株式会社かぶしきがいしゃ
  2. ^ カーグラフィック1984ねん11がつごうのいすゞ・アスカNAVI-5より。

関連かんれん項目こうもく

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外部がいぶリンク

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