解かい由よし状じょう

解かい由よし状じょう（げゆじょう）は、古代こだい日本にっぽんの律令制りつりょうせいにおける、官かん人じん交替こうたいの際さいの事務じむ引継ひきつぎ文書ぶんしょである。前任ぜんにん者しゃが役職やくしょくを果はたしたことを確認かくにんし後任こうにん者しゃへ交替こうたいする手続てつづきを解かい由よし（げゆ）と呼よんだ。平安へいあん時代じだい以降いこう、解かい由よし状じょうに基もとづいて行政ぎょうせい監査かんさを行おこなう勘かん解かい由よし使しが置おかれた。

概要がいよう

解かい由よし状じょうに関かんする規定きていは、根本ねもと法令ほうれいである大宝たいほう律令りつりょう・養老ようろう律令りつりょうには置おかれていなかった。

しかし、ほどなくして、行政ぎょうせいの不ふ徹底てっていを防止ぼうし・監督かんとくするため、官かん人じん交替こうたいのときに前任ぜんにん者しゃと後任こうにん者しゃが事務じむ引継ひきつぎを行おこない、前任ぜんにんの実績じっせきに問題もんだいがなければ、後任こうにんから前任ぜんにんへ事務じむ引継ひきつぎ完了かんりょうを証明しょうめいする文書ぶんしょを発給はっきゅうする制度せいどが導入どうにゅうされた。この引継ひきつぎ完了かんりょうの文書ぶんしょが解かい由よし状じょうである。前任ぜんにん者しゃは、解かい由よし状じょうを式部しきぶ省しょうへ提出ていしゅつして初はじめて、次つぎの官職かんしょくに就つくことができた。もし任務にんむの履行りこう不十分ふじゅうぶん（例れい：田租でんそ徴収ちょうしゅうの未み収納しゅうのうなど）により、後任こうにんから解かい由よし状じょうが発給はっきゅうされない場合ばあいは、任務にんむを完全かんぜんに遂行すいこう（例れい：未納みのう田租でんその徴収ちょうしゅう）すれば、解かい由よし状じょうが発給はっきゅうされることとなっていた。

解かい由よし状じょうの制度せいどの導入どうにゅう時期じきは明確めいかくでないが、天平てんぺい5年ねん（733年ねん）4月がつ5日にち、解かい由よし制せいを奨励しょうれいする詔みことのりが発令はつれいされている（『続ぞく日本にっぽん紀き』）。この詔みことのりには、天平てんぴょう3年ねん（731年ねん）に解かい由よし制せいの徹底てっていを通達つうたつしたにもかかわらず、後任こうにんの到着とうちゃく前まえに前任ぜんにん国司こくしが帰京ききょうしたり、後任こうにんが解かい由よし状じょうを発給はっきゅうしたりしないために前任ぜんにんが次つぎの官職かんしょくに任命にんめいされない、といった状況じょうきょうが発生はっせいしていたことが記しるされている。そこで、同どう詔みことのりによって、解かい由よし状じょうの発行はっこうと式部しきぶ省しょうへの提出ていしゅつを再さい徹底てっていすることが通達つうたつされたのである。なお、以上いじょうのような解かい由よし制せいは、主おもに国司こくしの事務じむ引継ひきつぎ（交替こうたい）を対象たいしょうとするものだった。

奈良なら時代じだい末期まっきから平安へいあん時代じだい初期しょきにかけての桓武かんむ天皇てんのうは、国司こくしの任務にんむ遂行すいこうの徹底てっていを企図きとして、延のべ暦れき元年がんねん（782年ねん）、後任こうにんが到着とうちゃくして120日はつか経過けいかしても解かい由よし状じょうを得えられない官かん司しは、厳きびしい処分しょぶんを受うけることが定さだめられた。さらに延のべ暦れき16年ねん（797年ねん）ごろ、解かい由よし状じょうの審査しんさに当あたる勘かん解かい由よし使しが新あらたに設置せっちされた。

その後ご、勘かん解かい由よし使しは一旦いったん廃止はいしされるが、天てん長ちょう元年がんねん（824年ねん）に再さい設置せっちされると、解かい由よし状じょうの制度せいどにも大おおきな変化へんかが生しょうじた。従前じゅうぜん、解かい由よし状じょうを必要ひつようとするのは国司こくしだけだったが、内うち官かん（京都きょうとの各かく官職かんしょく）も交替こうたいの際さいには解かい由よし状じょうの発給はっきゅうが必要ひつようとなり、勘かん解かい由よし使しの監査かんさ対象たいしょうに加くわえられた。また、事務じむ引継ひきつぎが不調ふちょうに終おわった場合ばあい、解かい由よし状じょうの代かわりに不ふ与あずか解かい由よし状じょう（ふよげゆじょう）を発給はっきゅうすることとし、勘かん解かい由よし使しの勘かん判ばんに委ゆだねることが定さだめられた。

『朝野ちょうや群ぐん載の』（巻まき26）には解かい由よしには、式しき解かい由よし（交替こうたい式しきに定さだめられた手続てつづきを完了かんりょうして正規せいきの解かい由よし状じょうが発給はっきゅうされる）・式しき代だい解かい由よし（不ふ与あずか解かい由よし状じょうが出だされたが、その原因げんいんは前任ぜんにん者しゃ以前いぜんに起因きいんし、前任ぜんにん者しゃ自身じしんの雑ざつ怠だる（不正ふせい・過失かしつ）が認みとめられなかったために解かい由よし状じょうが出だされる）・己おのれ分解ぶんかい由よし（不ふ与あずか解かい由よし状じょうが出だされたが、前任ぜんにん者しゃ自身じしんの雑ざつ怠だるに由来ゆらいする損失そんしつを弁償べんしょうしたために解かい由よし状じょうが出だされる）・会かい赦解由よし（不ふ与あずか解かい由よし状じょうが出だされたが、恩赦おんしゃによって雑ざつ怠だるが赦免しゃめんされたために解かい由よし状じょうが出だされる）の4種類しゅるいがあったことが知しられている。正規せいきの解かい由よしである式しき解かい由よし以外いがいの3つは9世紀せいき前半ぜんはんに成立せいりつし、その背景はいけいには延のべ暦れき14年ねん（795年ねん）に（当時とうじ解かい由よしの対象たいしょうであった）国司こくしが自己じこの公おおやけ廨稲をもって雑ざつ怠だるによる官かん物ぶつの不足ふそく分ぶんを補填ほてんすれば責任せきにんを問とわれないとする「差さ法ほう填はま納おさめ」が導入どうにゅうされたことがあったとされる。

解かい由よし状じょうは、平安へいあん前期ぜんきには有効ゆうこうに機能きのうしたと考かんがえられるが、平安へいあん中期ちゅうきから後期こうきになると、ある官職かんしょくを特定とくていの家系かけいが相伝そうでんする「官かん司しの家職かしょく化か」が進行しんこうしていき、内うち官かんの解かい由よし状じょうは次第しだいに形骸けいがい化かしていった（官かん司し請負うけおい制せい）。さらに鎌倉かまくら時代ときよ前期ぜんきには、受領じゅりょう支配しはいが有名ゆうめい無実むじつ化かしたため、受領じゅりょうの解かい由よし状じょうも消滅しょうめつしていった。

受領じゅりょう

→詳細しょうさいは「受領じゅりょう」を参照さんしょう

後任こうにんの国司こくしが赴任ふにん地ち（現地げんち）で前任ぜんにんの国司こくしから解かい由よし状じょうを受理じゅりすることを受領じゅりょう（ずりょう）と呼よんだ。これに伴ともない遙はるか任つとむではなく、現地げんちで行政ぎょうせい責任せきにんを負おった国司こくしを受領じゅりょうと呼よぶようになった。

関係かんけい項目こうもく

• 勘かん解かい由よし使し
• 受領じゅりょう