アスモデウス

レンヌ＝ル＝シャトー(Rennes-le-Château)のアスモダイの像ぞう

『地獄じごくの辞典じてん』、アスモデ(Asmodée)の挿絵さしえ

アスモデウス（Asmodeus）は、ユダヤ教きょうとキリスト教きりすときょうの悪魔あくまのひとり。旧約きゅうやく聖書せいしょ外典げてんの『トビト記き』などに登場とうじょうする。

解説かいせつ

アスモデウスはラテン語らてんご形かたちで、『トビト記き』ではギリシア語ご形かたちアスモダイオス（Ἀσμοδαῖος）の名なで表あらわれる。またヘブライ語ご形かたちアシュメダイ（אַשְׁמְדַאי [’Ašməḏa’y]）に由来ゆらいするアスモダイ（Asmodai, Asmoday）とも呼よばれる。またグリモワールの中なかにはフランス語ふらんすご形かたちアスモデ（Asmodée）の表記ひょうきもみられる。

語源ごげんはゾロアスター教きょうの悪魔あくまアエーシュマで、その呼よび名なアエーシュモー・ダエーワ（怒おこれる悪魔あくま *aēšmō.daēva-）がギリシア語ごやヘブライ語ごにはいり、それぞれアスモダイオス、アシュメダイ等とうになったという説せつが有力ゆうりょくである。アエーシュモー・ダエーワという語形ごけいは残存ざんそんしているアヴェスター語ご文献ぶんけんには確認かくにんできないが、そもそも現在げんざい残のこっている文献ぶんけんの数かずは非常ひじょうに少すくなく、またアヴェスター語ご文献ぶんけんを翻訳ほんやくしたと思おもわれるパフラヴィー語ご文献ぶんけんにはヘーシュム・デーウ（Xēšm Dēw）という語形ごけいが見みられる（この語かたりから派生はせいしたという説せつもある）。『トビト記き』全体ぜんたいがイランの大おおきな影響えいきょう下かにあることも、この説せつを補強ほきょうしている。

また、ヘブライ語ごで「滅ほろぼす、破壊はかいする」を意味いみする語根ごこん√שםד [√ŠMD]に由来ゆらいするという説せつもあるが、民間みんかん語源ごげん説せつのようである。

『トビト記き』のアスモデウス

"Wedding Night of Tobias and Sarah", ピーテル・ラストマン(1611)

『トビト記き』に書かかれた物語ものがたりによれば昔むかし々、アスモデウスはサラという美うつくしい娘むすめに取とり憑き、サラが結婚けっこんするたびに初夜しょやに夫おっとを絞しめ殺ころした。そんなことが7度ども起おきたため、サラは悪魔あくま憑きと呼よばれるようになった。

そんなある日ひ、トビアとアザリアという二人ふたりの若者わかものが街まちを訪おとずれた。アザリアはトビアに「サラと結婚けっこんしろ」というが、トビアは「自分じぶんは一人ひとりっ子こだ」と言いって一旦いったんは断ことわる。しかしアザリアに「魚さかなの内臓ないぞうを香炉こうろに入いれておけば大丈夫だいじょうぶだ」と言いわれ、いやいやながら結婚けっこんを承諾しょうだくした。

結婚けっこんの初夜しょや、トビアがサラの部屋へやでアザリアに言いわれた通とおりに香炉こうろを焚たいたところ、アスモデウスは部屋へやから逃にげ出だし、そのあとをアザリアが追おいかけた。アザリアの正体しょうたいは大だい天使てんしラファエルであり、天使てんしの姿すがたを現あらわした彼かれは首尾しゅびよくアスモデウスを捕とらえ、エジプトの奥地おくちに幽閉ゆうへいしたという。ちなみにアスモデウスはサラ自身じしんには手てを出ださなかったという。

悪魔あくま憑き事件じけんでのアスモデウス

ルーダンの悪魔あくま憑き事件じけん(Loudun possessions)で、アスモデウスは修道院しゅうどういん長ちょうジャンヌ・デ・ザンジュ(Jeanne des Anges)に取とり憑ひょういた。悪魔あくま払ばらいを受うけたアスモデウスは、明日あしたの午後ごご五ご時じにデ・ザンジュの身体しんたいから出でていくという契約けいやく書しょを残のこしたとされる。

グリモワールにおけるアスモデウス

『ゴエティア』に記しるされたアスモダイ(Asmoday)のシジル

悪魔あくま学がくによると、彼かれは元もとが激怒げきどと情欲じょうよくの魔神まじんのためか、キリスト教きょうの七ななつの大罪だいざいでは色欲しきよくを司つかさどる。悪魔あくまになる前まえは智さとし天使てんしだったとされる。

グリモワールのひとつ『ゴエティア』では悪霊あくりょうの72人にんの頭目とうもくの一人ひとりに挙あげられている。アマイモン配下はいかの東方とうほうの悪魔あくまの首座しゅざで、72の軍団ぐんだんを率ひきいる序列じょれつ32番ばんの大おおいなる王おうとされる。

姿すがたかたちは牛うし・人にん・羊ひつじの頭あたまとガチョウの足あし、毒蛇どくへびの尻尾しっぽを持もち、手てには軍旗ぐんきと槍やりを持もって地獄じごくの竜りゅうに跨またがり、口くちから火ひを噴ふくという。 姿すがたを見みても恐おそれずに敬意けいいを払はらって丁寧ていねいに応対おうたいすれば非常ひじょうに喜よろこび、指輪ゆびわやガチョウの肉にくをくれたり、幾何きか学がくや天文学てんもんがくなどの秘術ひじゅつを教おしえてくれるという。

『術じゅつ士しアブラメリンの聖せいなる魔術まじゅつの書しょ』によると、ラビの一部いちぶは、アスモデウスはカインの子孫しそんであるトバルカインとその妹いもうとナアマの近親きんしん相姦そうかんによって生うまれたと考かんがえた。

文学ぶんがく作品さくひんでのアスモデウス

『跛ちんばの悪魔あくま』

1641年ねん、スペインの劇げき作家さっかで小説しょうせつ家かであるベレス・デ・ゲバラ(Vélez de Guevara)の風刺ふうし小説しょうせつ『跛ちんばの悪魔あくま(El diablo cojuelo)』の悪魔あくまアスモデは、悪戯いたずら心しんと風刺ふうしの天才てんさいとして描えがかれた。

ルサージュ『跛ちんばの悪魔あくま(Le diable boiteux)』の挿絵さしえ。解放かいほうされたアスモデ(左ひだり)とドン・クレオファス(右みぎ)

1707年ねん、フランスの作家さっかアラン＝ルネ・ルサージュはゲバラの小説しょうせつに着想ちゃくそうを得えて、『跛ちんばの悪魔あくま(Le diable boiteux)』を書かいた。マドリッドの学生がくせいドン・クレオファスは、ある夜よる、悪魔あくまアスモデを解放かいほうする。解放かいほうの礼れいとして、アスモデはドン・クレオファスをマドリッドの街まちへと連つれ出だし、数々かずかずの奇き譚たんを見みせる。『跛ちんばの悪魔あくま』のアスモデは山羊やぎの脚あしを持もつ醜みにくい姿すがたを持もつ。また愛あいと欲望よくぼうの悪魔あくまであり、詩人しじんたちより神かみクピードーと呼よばれていると述のべる。

劇げき

ルサージュは無言むごん劇げきにもアスモデを出演しゅつえんさせている。サン・ローランの定期ていき市しで1713年ねんに初演しょえんされた無言むごん劇げき『目めに見みえないアルルカン』(Arlequin invisible, 一幕ひとまく劇げき)は『跛ちんばの悪魔あくま』の続編ぞくへんでもある。この劇げきでのアスモデはアルルカンに尽つくす存在そんざいであり、アルルカンの頼たのみを受うけ帽子ぼうしに羽根はねを付つけることで彼かれを透明とうめいにする魔術まじゅつを使つかう。羽根はねつき帽子ぼうしの着脱ちゃくだつにより可視かし化かと不可視ふかし化かを切きり替かえられるようになったアルルカンが、北京ぺきんの王宮おうきゅうを自由自在じゆうじざいに行動こうどうする。

1938年ねん、フランソワ・モーリアックは戯曲ぎきょく『アスモデ』を書かいている。

挿絵さしえ本ほんでのアスモデ

J・J・グランヴィル画が『パリの悪魔あくま』第だい1巻かんの扉絵とびらえ(1845年ねん)。パリの地図ちずを睥睨へいげいするアスモデ。

『跛ちんばの悪魔あくま』で家々いえいえの屋根やねを剥はがして覗のぞき込こむアスモデの姿すがたは印象いんしょう的てきで、以後いご、都市とし探訪たんぼう記事きじにアスモデが頻出ひんしゅつするようになる。19世紀せいきに流行りゅうこうした挿絵さしえ本ほんでは、『パリ、１０１人にんの書しょ』第だい1巻かんにはアスモデの口上こうじょうが掲載けいさいされており、1845年ねん刊行かんこうの『パリの悪魔あくま』でも開巻かいかんすぐに大おおきな籠かごを背負せおいパリを睥睨へいげいするアスモデの姿すがたを見みることができる。

ギャラリー

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  "The Marriage bed of Tobias and Sarah", ヤン・ステーン(1660年ねん頃ごろ)
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  フランシス・バレット著ちょ『メイガス(The Magus)』(1801)のアスモデウス
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  レンヌ＝ル＝シャトー（Rennes-le-Château）のアスモダイ像ぞう
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  『アスモデウス』、ゴヤの「黒くろい絵え」の一いち作さく
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  『この分野ぶんやでもっとも有名ゆうめいな画家がかによる魔術まじゅつ的てき芸術げいじゅつの希少きしょうな集大成しゅうたいせい』のアスモダイ

参考さんこう文献ぶんけん

• S.L. MacGregor Mathers and Aleister Crowley, The Lesser Key of Solomon(1904),p32 The Internet Sacred Text Archive 内ないの文書ぶんしょ（英文えいぶん）

関連かんれん項目こうもく

• 悪魔あくまの一覧いちらん