キリエ

キリエ（Kyrie）はギリシア語ごの κύριος（kyrios - 主あるじ（しゅ））の呼よび格かくκύριεをラテン文字もじで表あらわしたもので「主おもよ」を意味いみする。また、「キリエ」（もしくは「キリエ・エレイソン」）はキリスト教きりすときょうの礼拝れいはいにおける重要じゅうような祈いのりの一ひとつ。日本にっぽんのカトリック教会きょうかいでは第だい2バチカン公こう会議かいぎ以降いこう典礼てんれいの日本語にほんご化かに伴ともない、憐あわれみの賛歌さんか（あわれみのさんか）と呼よばれる。日本にっぽん正教会せいきょうかいでは「主おも、憐あわれめよ」と訳やくされる。

東方とうほう教会きょうかい

「イイススの祈いのり」および「連れん祷いのり」も参照さんしょう

東方とうほう教会きょうかい（正教会せいきょうかい、東方とうほう諸しょ教会きょうかい、東方とうほう典礼てんれいカトリック教会きょうかいなど）の奉たてまつ神かみ礼あや（典礼てんれい）では「主おも憐あわれめよ」(ギリシア語ご: Κύριε ἐλέησον、キリエ・エレイソン) 、もしくはこれに相当そうとうする文言もんごんはもっとも頻繁ひんぱんに唱となえられる文言もんごんである。この祈いのりはイイススの祈いのりの短縮たんしゅく版ばんとされる。イイススの祈いのりは東方とうほうの教派きょうはでよく用もちいられ、現在げんざいでは西方せいほう教会きょうかいでもしばしば用もちいられている。

正教会せいきょうかい系けいでよく用もちいられる連れん祷いのりでは、信徒しんとは「主おも、憐あわれめよ」（日本にっぽんハリストス正教会せいきょうかいの訳わけ）と応答おうとうする（1回かい、もしくは3回かい繰返くりかえす）。連れん祷いのりの種類しゅるいによっては、12回かい、あるいは40回かいも「主おも、憐あわれめよ」を繰返くりかえすものもある。なお、増ぞう連れん祷いのり（ぞうれんとう）では途中とちゅうから「主おも、賜たまえよ」に応答おうとうの言葉ことばが替かわる。

また「キリエ・エレイソン」の文言もんごんは、コプト正教会せいきょうかいでも古ふるくから用もちいられている。

西方せいほう教会きょうかい

西方せいほう教会きょうかいでいう「キリエ」の祈いのりは、「キリエ」ではじまり三さん節せつからなる祈祷きとう文ぶんである。「キリエ」の祈いのりはカトリック教会きょうかいのミサや、ルター派はやアングリカン・コミュニオンの多おおくなどの他ほかの宗派しゅうはの典礼てんれいの中なかで用もちいられ、司祭しさいなどの先導せんどうで信徒しんと（会衆かいしゅう）により復唱ふくしょうされる。ヨセフ・アンドレアス・ユングマンをはじめとする神学しんがく者しゃによれば、カトリックのミサにおける「キリエ」は、ミサの最初さいしょに行おこなわれていた東方とうほう教会きょうかいのものとよく似にた連れん祷いのり（リタニ）の名残なごりであると推測すいそくされている。西方せいほう教会きょうかいでは現在げんざいでは、「キリエ」は通常つうじょう、現地げんち語ごで唱となえられるが、歴史れきし的てきにはギリシャ語ごをラテン語らてんごに翻こぼし字じしたものを、ラテン語らてんごミサで用もちいていた。

Κύριε ἐλέησον, Χριστὲ ἐλέησον, Κύριε ἐλέησον.

Kyrie eleison; Christe eleison; Kyrie eleison.

発音はつおん ['kir.i.e e'le.i.son 'kris.te e'le.i.son 'kir.i.e e'le.i.son]

主おもよ 憐あわれみたまえ / キリスト 憐あわれみたまえ / 主おもよ 憐あわれみたまえ

伝統でんとう的てきには、各かく文ぶんが3回かいずつ唱となえられる。3行ぎょうが3回かいずつ歌うたわれることは三位一体さんみいったいを念頭ねんとうに置おくものである。

ローマ典礼てんれいでは、「キリエ」は通常つうじょう文ぶんの早はやい段階だんかい、「悔くい改あらための祈いのり」の次つぎに唱となえられる。ただし、第だい2バチカン公こう会議かいぎでの改革かいかく以降いこうのミサ（パウロ6世せいミサ）では、「悔くい改あらための祈いのり」のC形かたちに「キリエ」の文言もんごんが含ふくまれるので、この形かたちを用もちいる時ときには「キリエ」は重かさねて唱となえることはしない。

「悔くい改あらための祈いのり」のC形かたち

司祭しさい: [短みじかいその日ひの祈いのりの言葉ことばの後のち] 主おもよ、憐あわれみたまえ。

会衆かいしゅう: 主おもよ、憐あわれみたまえ。

司祭しさい: [短みじかいその日ひの祈いのりの言葉ことばの後のち] キリスト、憐あわれみたまえ。

会衆かいしゅう: キリスト、憐あわれみたまえ。

司祭しさい: [短みじかいその日ひの祈いのりの言葉ことばの後のち] 主おもよ、憐あわれみたまえ。

会衆かいしゅう: 主おもよ、憐あわれみたまえ。

また洗礼せんれい時どきの灌水の儀式ぎしきでは、「悔くい改あらための祈いのり」と「キリエ」は共ともに略りゃくされる。

1969年ねんまで広ひろく行おこなわれていた第だい2バチカン公こう会議かいぎ以前いぜんのトリエント・ミサでは、「キリエ」は通常つうじょう文ぶんの中なかで最初さいしょに歌唱かしょうされる祈いのりであり、ミサ曲きょくの必須ひっす要素ようそであった。ミサ曲きょくの「キリエ」は、典礼てんれい文ぶんの対称たいしょう構造こうぞうを反映はんえいした三さん部ぶ形式けいしき (ABA) の構造こうぞうを取とることが多おおい。今日きょうでも、「キリエ」はカントル、合唱がっしょう隊たい、信徒しんとによって歌うたわれることがあり、その形かたちはグレゴリオ聖歌せいかからフォークソングまで幅広はばひろい。

ミサ曲きょくのキリエ

「キリエ」は聖歌せいかの歌詞かしとして非常ひじょうに人気にんきがあった。226のグレゴリオ聖歌せいかの旋律せんりつが残のこされており、そのうち30は『リベル・ウズアリス』（特とくによく歌うたわれるものを編纂へんさんしたグレゴリオ聖せい歌集かしゅう）に収おさめられている。もっとも古ふるい形かたちと考かんがえられている聖歌せいかでは、同おなじ旋律せんりつが8回かい繰返くりかえされた後のち、その変形へんけいが最後さいごに歌うたわれる（すなわち、AAA AAA AAA'の形かたちをとる）。こういった繰くり返かえしは、ローマ数字すうじを用もちいて、 "iij" （3回かい）や "ij" （2回かい）などと示しめされる。『リベル・ウズアリス』に収おさめられるレクイエムミサのための「キリエ」ではこの形かたちがとられている。より後代こうだいの「キリエ」では、AAA BBB AAA' や AAA BBB CCC' 、あるいは ABA CDC EFE' など、より複雑ふくざつな形式けいしきをとっているが、ここでも、最終さいしゅう行ぎょうは常つねになんらかの変形へんけいを施ほどこされている。場合ばあいによっては、これは続つづくグロリアへの滑なめらかな移行いこうのためとも解釈かいしゃくされうる。また『リベル・ウズアリス』のほぼ全すべての「キリエ」では、テキストが全すべて「エレイソン」で終おわることを反映はんえいし、ほとんど全すべての行くだりの最後さいごにおなじフレーズがおかれている。

テキストが非常ひじょうに短みじかいことから、「キリエ」はしばしばメリスマを凝こらしたものとなっている。このことが一因いちいんとなり、後ごの作曲さっきょく家かたちは、メリスマに言葉ことばを足たしたり、メリスマを引ひき伸のばして「キリエ」からトロープスを作曲さっきょくした。実際じっさいには、多おおくの「キリエ」は楽譜がくふの成立せいりつ年代ねんだいが遅おそいために、その「キリエ」の旋律せんりつが先さきに成立せいりつしたのか、トロープスのテキストが先さきに成立せいりつしたのか明あきらかでない場合ばあいが多おおく、シラブル様式ようしきの歌うたが「キリエ」のメリスマに転用てんようされた可能かのう性せいも否定ひていできない。場合ばあいによっては、「キリエ」（もしくは「クリステ」）と「エレイソン」の間あいだにもそれぞれトロープスの歌詞かしが挿入そうにゅうされる。

参考さんこう文献ぶんけん

• Hoppin, Richard. Medieval Music. New York: W. W. Norton and Co., 1978. ISBN 0-393-09090-6. Pages 133–134 (Gregorian chants), 150 (tropes).

関連かんれん項目こうもく

• コンボスキニオン

外部がいぶリンク

• List of Greek phrases（英語えいご版ばんウィキペディア）
• Catholic Encyclopedia（英文えいぶん）