クサノオウ

クサノオウ
ヨーロッパ産さん種しゅ(撮影さつえい場所ばしょ:ルーマニア)
分類ぶんるい
界さかい : 植物しょくぶつ界かい Plantae 門もん : 被子植物ひししょくぶつ門もん Magnoliophyta 綱つな : 双そう子葉しよう植物しょくぶつ綱つな Magnoliopsida 亜あ綱つな : モクレン亜あ綱つな Maganolidae 目め : ケシ目め Papaverales 科か : ケシ科か Papaveraceae 属ぞく : クサノオウ属ぞく Chelidonium 種たね : クサノオウ C. majus（広義こうぎ） 亜種あしゅ : クサノオウ C. m. subsp. asiaticum
学名がくめい
標準ひょうじゅん: Chelidonium majus L. subsp. asiaticum H.Hara (1949) 広義こうぎ: Chelidonium majus L. (1753)
シノニム
Chelidonium majus L. var. hirsutum Trautv. et C.A.Mey. (1856) Chelidonium majus L. var. asiaticum (H.Hara) Ohwi ex W.T.Lee (1953) Chelidonium asiaticum (H.Hara) Krahulc. (1982)
和名わみょう
クサノオウ
英名えいめい
Greater celandine

クサノオウ（広義こうぎの学名がくめい: Chelidonium majus）は、ケシ科かクサノオウ属ぞくに属ぞくする一いち年生ねんせい（越年えつねん草そう）の草本そうほん植物しょくぶつである。本ほん項こうでは属ぞくと種たねをあわせて解説かいせつする。

名称めいしょう

本ほん種しゅの和名わみょうクサノオウについては以下いかの3つの命名めいめい由来ゆらい説せつがある。

1. 植物しょくぶつ体たいを傷きずつけると黄色おうしょくから橙色だいだいいろの乳汁にゅうじゅうを滲出しんしゅつするので草くさの黄きであるという説せつ。
2. 皮膚ひふ疾患しっかんに有効ゆうこうな薬草やくそうという意味いみで瘡かさ（くさ）の王おうだという説せつ。
3. 皮膚ひふ疾患しっかん以外いがいにも鎮痛ちんつう剤ざいとして内臓ないぞう病びょうに用もちいられたことから、薬草やくそうの王様おうさまという意味いみで草くさの王おうである。という説せつ。

またイボクサ（疣いぼ草そう）、タムシグサ（田虫たむし草そう）、ヒゼングサ（皮癬ひぜん草そう）、チドメグサ（血止ちどめ草そう）などの地方ちほう名めいがあるが、いずれも皮膚ひふ病びょうの薬くすりとして用もちいたことに由来ゆらいする。 チドメグサの名なはまったく別種べっしゅの草本そうほんの標準ひょうじゅん和名わみょうでもある。（⇒チドメグサ）

属ぞくの学名がくめい Chelidonium は、ギリシャ語ごのツバメに由来ゆらいする。これは母はは燕つばめが本ほん種たねの乳汁にゅうじゅうでヒナの眼めを洗あらって視力しりょくを強つよめるという伝承でんしょうにもとづいている。薬効やっこうもあるが、有毒ゆうどく成分せいぶんも多おおく含ふくんでいるため、目めを洗あらうのは避さけるべきである。

分布ぶんぷ

種たねとしてのクサノオウ Chelidonium majus はユーラシア大陸たいりく一帯いったいとその周辺しゅうへんに広ひろく分布ぶんぷする植物しょくぶつで、ヨーロッパから北きたアメリカへも移植いしょくされ同地どうちにも広ひろく分布ぶんぷしている。日本にっぽんには北海道ほっかいどうから九州きゅうしゅうまで分布ぶんぷしている。日本にっぽんを含ふくめた東ひがしアジアの温帯おんたい域いきに分布ぶんぷするものはヨーロッパ産さん種しゅの1変種へんしゅとして扱あつかわれ var. asiaticum の変種へんしゅ名めいが付与ふよされている。ただ、The Plant Listでは C. majus var. asiaticum H.Hara は C. asiaticum (Hara) Krahulc. のシノニム扱あつかいとされている。草地くさち、林はやし縁ゆかり、道端みちばたなどに自生じせいする。

形態けいたい・生態せいたい

越年えつねん草そう。前年ぜんねんの秋あきに散布さんぷされた種子しゅしはすぐに発芽はつがして根ね出で葉はから成なるロゼットを形成けいせいし越冬えっとうする。春はるになると中空ちゅうくうの茎くきを直立ちょくりつさせ、草丈くさたけ40 - 80センチメートル (cm) 程度ていどまでに育そだつ。葉はは長ながい柄えをもって互生ごせいし、1 - 2回かい程度ていどで深ふか裂きれした羽はね状じょう複葉ふくようとなって30 cmまでに伸のびるが、複雑ふくざつな形かたちとも評ひょうされる。

花期かきは初夏しょか（5 - 7月がつ）。枝えだの先さきに数個すうこの花はなを咲さかせ、花はなは直径ちょっけい2 cm程度ていどの鮮あざやかで美うつくしい黄色おうしょくの4弁べん花はなで、稀まれに八重咲やえざきの株かぶがある。花はな姿すがたや色いろは、大おおきさに違ちがいはあるが、近きん縁えんのヤマブキソウ（ケシ科か）によく似にている。花はな蕾つぼみを包つつんでいた毛けの生はえた2枚まいの萼がく片へんは、開花かいかと同時どうじに散ちり落おちる。長ながさ3 - 4 cmの莢さいかちが上うえを向むいて実みのる。莢さいかち中ちゅうにある半球はんきゅう形がたの種子しゅしは黒くろく、同おなじケシ科かの植物しょくぶつタケニグサ、ケナシチャンパギクと同おなじように種子しゅし枕まくら（エライオソーム）が付着ふちゃくしており、これに誘引ゆういんされた蟻ありが餌えさとして持もち帰かえり、種子しゅし枕まくらを収穫しゅうかくした後のちは種子しゅし部分ぶぶんは廃棄はいきすることにより散布さんぷ、播種はしゅされる。

茎葉けいようを傷きずつけると、多種たしゅにわたる有毒ゆうどくアルカロイド成分せいぶんを含ふくむ、橙だいだい黄色おうしょくの乳汁にゅうじゅうを滲出しんしゅつさせる。この乳汁にゅうじゅうは皮膚ひふに触ふれると炎症えんしょうを起おこすことが多おおくある。皮膚ひふの弱よわい人ひとは植物しょくぶつ体たいも触ふれると炎症えんしょうを発生はっせいさせる場合ばあいがあるという。

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  クサノオウの葉は
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  上うえの葉はを千せん切きったところ。橙だいだい黄色おうしょくの乳液にゅうえきがにじみ出でる。
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  莢さいかち

人ひととの関係かんけい

本ほん項こうも種たねとしてのクサノオウについて記しるす。

毒草どくそうとして

白しろい毛けで覆おおわれた草くさ全体ぜんたいがやわらかく、いかにも食たべられそうにも見みえるが、全ぜん草くさに約やく21種しゅのアルカロイド成分せいぶんを含ふくみ、その多おおくが人ひとにとって毒性どくせいが強つよい有毒ゆうどく植物しょくぶつである。本ほん種しゅを特徴とくちょうづける黄色きいろい乳汁にゅうじゅうなどはその最さいたるものであるが、古ふるくから薬用やくように供きょうされており毒性どくせいが知しれわたっていたからか、誤あやま食しょくによる中毒ちゅうどく事故じこは少すくない。乳汁にゅうじゅうが皮膚ひふに触ふれると炎症えんしょうを起おこす場合ばあいがあり、誤あやま食しょくすると胃腸いちょうがただれ、昏睡こんすい、呼吸こきゅう麻痺まひ、感覚かんかく末梢まっしょう神経しんけい麻痺まひなどを起おこす可能かのう性せいがある。動物どうぶつ実験じっけんでは嘔吐おうとのデータがある。

クサノオウにはケリドニウムアルカロイドが多おおく含ふくまれる。本ほん種しゅに含ふくまれるアルカロイド成分せいぶんの1つ、ケリドニン（chelidonine）にはケシから採取さいしゅされるモルヒネに似にた中枢ちゅうすう神経しんけい抑制よくせい作用さようがある。もっともその効果こうかはモルヒネよりはるかに弱よわい。ちなみにケリドニンの名なの由来ゆらいは本ほん種しゅの属ぞく名めいである。このほかプロトピン（protopine）やケリジメリン (chelidimerine)、サンギナリン（sanguinarine）、ケレリトリン (chelerythrine)、リンゴ酸さん、ベルベリン（berberine）、ケリドン酸さん（chelidonic acid）などが含ふくまれる。観賞かんしょう用ように持もち込こまれているカナダケシも同おなじようなサンギナリンなどの成分せいぶんを含ふくんだ橙色だいだいいろの乳汁にゅうじゅうを出だす。

薬草やくそうとして

古ふるくから主おもに民間みんかん療法りょうほうにおいて薬草やくそうとして使用しようされてきた歴史れきしがある。漢方かんぽうではつぼみの頃ころに刈かり取とった地上ちじょう部ぶを乾燥かんそうさせたものを白しろ屈こごめ菜さいと称しょうし、特とくにいぼ取とりや、水虫みずむし、いんきんたむしといった皮膚ひふ疾患しっかん、外傷がいしょうの手当てあてに対たいして使用しようされた。また煎せんじて服用ふくようすると消炎しょうえん性せい鎮痛ちんつう剤ざいとして作用さようし胃病いびょうなど内臓ないぞう疾患しっかんに対たいして効果こうかがある、ともされている。しかし胃いなどの痛いたみ止どめとして用もちいる際さいには嘔吐おうとや神経しんけい麻痺まひといった副作用ふくさようも現あらわれる。湿疹しっしん、疥癬かいせん、たむし、いぼといった皮膚ひふ疾患しっかんの外用がいよう薬やくとしても有効ゆうこうだが、有毒ゆうどく植物しょくぶつであるために内服ないふく用ようも外用がいようも、素人しろうとが処方しょほうなしで用もちいるのは危険きけんである。ただ、三さん橋きょう (1998) はこのような危険きけん性せいについて断ことわり書がきを入いれたうえで、外用がいようする際さいの具体ぐたい的てきな使用しよう法ほうを以下いかのように紹介しょうかいしている。

• 湿疹しっしんの際さいには白しろ屈こごめ菜さいを約やく50グラム煎せんじた液えきで患部かんぶを洗浄せんじょうする。ただし、煎せんじるための水みずの量りょうが不明ふめいで危険きけんである。
• 打撲だぼく、腫はれ物もの、虫むしさされ、たむし、疥癬かいせんなどの場合ばあいには、花期かきの葉はを採取さいしゅして細こまかく刻きざんで焼酎しょうちゅうに漬つけたものを患部かんぶに塗布とふする。焼酎しょうちゅうの量りょうと漬つけ込こむクサノオウの量りょうが不明ふめいで危険きけんである。

現代げんだいにおいても効果こうか的てきな下剤げざいとして利用りよう可能かのうという説せつで評価ひょうかがされているが、毒性どくせいが強つよいのでその使用しようは専門せんもん家かの指導しどうを仰あおぐべきである。

西洋せいようではケリドニンの中枢ちゅうすう神経しんけい抑制よくせい作用さようを利用りようしてアヘンの代替だいたい品ひんとして用もちいられたり、癌がんの痛いたみ止どめにも使用しようされた。日本にっぽんでは晩年ばんねんに胃癌いがんを患わずらった尾崎おざき紅葉こうようがこの目的もくてきで使用しようしたことで特とくに有名ゆうめいであるが、本ほん種たね自体じたいが強つよい毒性どくせいを併あわせ持もつので現在げんざいは用もちいられない。

クサノオウ属ぞく

クサノオウ属ぞく Chelidonium は、1属ぞく1種しゅと考かんがえられているが、アジアには数すう種しゅが存在そんざいするとする見解けんかいもある。日本にっぽんと中国ちゅうごくに分布ぶんぷするヤマブキソウは本属ほんぞくに含ふくめられる場合ばあいがあるが、牧野まきの富太郎とみたろうの所有しょゆうしていた標本ひょうほんにはヤマブキソウ属ぞく Hylomecon の記入きにゅうもされており、牧野まきのの著あらわした牧野まきの植物しょくぶつ図鑑ずかんにおいても、本属ほんぞくではなくヤマブキソウ属ぞくに分類ぶんるいされている。ヤマブキソウについては、YListでは、ヤマブキソウ属ぞく Hylomecon を標準ひょうじゅんとし、クサノオウ属ぞく Chelidonium はシノニムとしている。

参考さんこう文献ぶんけん

• 磯田いそだ進すすむ 監修かんしゅう『薬草やくそう・毒草どくそうを見分みわける図鑑ずかん』誠まこと文ぶん堂どう新光しんこう社しゃ、2016年ねん2月がつ8日にち、98頁ぺーじ。ISBN 978-4-416-51651-5。 
• 金田かねだ初代はつよ、金田かねだ洋一郎よういちろう（写真しゃしん）『ひと目めでわかる! おいしい「山菜さんさい・野草やそう」の見分みわけ方かた・食たべ方かた』PHP研究所けんきゅうじょ、2010年ねん9月がつ24日にち、187頁ぺーじ。ISBN 978-4-569-79145-6。 
• 亀田かめだ龍吉りゅうきち『雑草ざっそうの呼よび名な事典じてん』世界文化社せかいぶんかしゃ、2012年ねん。ISBN 978-4-418-12400-8。 
• 亀田かめだ龍吉りゅうきち『ルーペで発見はっけん! 雑草ざっそう観察かんさつブック』世界文化社せかいぶんかしゃ、2019年ねん3月がつ15日にち、38 - 39頁ぺーじ。ISBN 978-4-418-19203-8。 
• 佐竹さたけ元吉もとよし 監修かんしゅう『日本にっぽんの有毒ゆうどく植物しょくぶつ』学研がっけん、2012年ねん、49頁ぺーじ。ISBN 978-4-05-405269-7。 
• 三橋みつはし博ひろし 監修かんしゅう『原色げんしょく牧野ぼくや和漢わかん薬草やくそう大だい圖鑑ずかん』北きた隆たかし館かん、1998年ねん、135頁ぺーじ。