クリグラー・ナジャール症候群しょうこうぐん

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クリグラー・ナジャール症候群しょうこうぐん
ビリルビン
概要がいよう
診療しんりょう 小児しょうに科学かがく, 肝臓かんぞうがく
分類ぶんるいおよび外部がいぶ参照さんしょう情報じょうほう
ICD-10 E80.5
ICD-9-CM 277.4
OMIM 218800 606785
DiseasesDB 3176
MedlinePlus 001127
eMedicine med/476
Patient UK クリグラー・ナジャール症候群しょうこうぐん
MeSH D003414

クリグラー・ナジャール症候群しょうこうぐん(クリグラー・ナジャールしょうこうぐん、クリグラー・ナジャー症候群しょうこうぐんとも、英語えいご: Crigler–Najjar syndrome)は、赤血球せっけっきゅう破壊はかいともなってしょうじる化学かがく物質ぶっしつであるビリルビン代謝たいしゃかんする希少きしょう疾患しっかんである。この疾患しっかん溶血ようけつせい黄疸おうだん先天せんてんせい疾患しっかんかたちをとってしょうじ、抱合ほうごうがたビリルビンのちゅう濃度のうど高値たかねになって、しばしば小児しょうにではのう障害しょうがいかく黄疸おうだん)へといたる。

この疾患しっかんは、IがたとIIがたの2つに分類ぶんるいされる。後者こうしゃはときに「アリアス症候群しょうこうぐん (Arias syndrome)」ともばれる。この2つのかたのクリグラー・ナジャール症候群しょうこうぐんは、ジルベール症候群しょうこうぐんデュビン・ジョンソン症候群しょうこうぐんローター症候群しょうこうぐんならんで、ビリルビン代謝たいしゃにおける遺伝いでんてき異常いじょうしょう代表だいひょうてきな5疾患しっかんとしてられる。ジルベール症候群しょうこうぐんとはことなり、クリグラー・ナジャール症候群しょうこうぐん症例しょうれいすうひゃくれいしかられていない。

Iがた[編集へんしゅう]

クリグラー・ナジャール症候群しょうこうぐんのIがたきわめてめずらしい疾患しっかんであり(出生しゅっしょうすう1,000,000にんにつき0.6から1.0にん見積みつもられている)、近親きんしんこんはこの危険きけんせいげる(希少きしょう疾患しっかんもありうる)。遺伝いでん様式ようしきつね染色せんしょくたい劣性れっせい遺伝いでんである。

はげしい黄疸おうだん症状しょうじょう誕生たんじょう当日とうじつからしょうじ、その継続けいぞくする。Iがたは、血漿けっしょうビリルビンが一般いっぱんに345µmol/Lをえる(そうビリルビンの基準きじゅんは2-14µmol/Lである)ことが特徴とくちょうである。

かん組織そしきうちUDP-グルクロンさん転移てんい酵素こうそUGT1A1)の活性かっせいまった探知たんちできないため、フェノバルビタール酵素こうそ一種いっしゅCYP450誘導ゆうどうする)をもちいた治療ちりょうたいする反応はんのうがない[1]だい部分ぶぶん患者かんじゃ(IAがた)では、共通きょうつうエクソン(2から5)のうちの1つに変異へんいしょうじていて、ほかのいくつかの基質きしついく種類しゅるいかの薬品やくひん生物せいぶつ異体いたい)を抱合ほうごうする機能きのううしなわれている。よりすくない割合わりあい患者かんじゃ(IBがた)では、変異へんいはビリルビンにとくしたA1エクソンにかぎられている。このれいでは抱合ほうごう喪失そうしつはほぼビリルビンそのものにかぎられる。

光線こうせん療法りょうほう利用りようできるようになるまえは、これらの患児はかく黄疸おうだん(ビリルビン脳症のうしょう)で死亡しぼうしたり、青年せいねんまでびてもあきらかな神経しんけいがくてき障害しょうがいっていた。今日きょうでは、治療ちりょう以下いか手段しゅだんもちいられている。

  • 出生しゅっしょう直後ちょくご体液たいえき交換こうかん療法りょうほう
  • 1にち12あいだ光線こうせん療法りょうほう
  • ヘム酸素さんそ添加てんか酵素こうそ阻害そがいざい投与とうよし、こうビリルビンしょう一時いちじてき悪化あっか緩和かんわする(ただしときがたつにつれこの効果こうかげんじゃくする)
  • カルシウムリンさんとカルボンさん経口けいこう投与とうよし、ちょうないでビリルビンとふく合体がったい形成けいせいさせる。
  • のう障害しょうがいしょうじたり、成長せいちょうして光線こうせん療法りょうほう効果こうかおよぼさなくなったりするまえに、かん移植いしょくおこなう。

IIがた[編集へんしゅう]

クリグラー・ナジャール症候群しょうこうぐんIIがたは、いくつかのめんでIがたとはことなっている。

  • ビリルビンおおくの場合ばあい345 µmol/Lを下回したまわる(100-430µmol/L、したがってIがたとの重複じゅうふくはある)。症例しょうれいによってはかなり成長せいちょうしてからないと発見はっけんされないこともある。
  • 血漿けっしょうビリルビンひくめなので、IIがたではかく黄疸おうだんれいすくない。
  • 胆汁たんじゅうは、無色むしょくであるIがたのものとはことなり、いろびていたり正常せいじょうのものとおなじくくらいろをしていたりする。たん抱合ほうごうがた胆汁たんじゅう抱合ほうごうだい部分ぶぶんめる。
  • UGT1A1は、たん塩基えんきたい突然変異とつぜんへんいのために、減少げんしょうしているものの検知けんちできるレベル(典型てんけいてきには正常せいじょうの10%以下いか)で存在そんざいしている。
  • このため、フェノバルビタールによる治療ちりょう効果こうかてきであり、ちゅうビリルビンをすくなくとも25%減少げんしょうさせることができる。よって、フェノバルビタールの投与とうよは、IがたとIIがた鑑別かんべつするのに、要素ようそわせてもちいられることがある。
  • クリグラー・ナジャール症候群しょうこうぐんIIがた遺伝いでん様式ようしき決定けっていするのはむずかしいが、一般いっぱんてきにはつね染色せんしょくたい劣性れっせい遺伝いでんかんがえられている[2]

鑑別かんべつ診断しんだん[編集へんしゅう]

新生児しんせいじ黄疸おうだんは、敗血症はいけつしょうてい酸素さんそしょうてい血糖けっとうしょう甲状腺こうじょうせん機能きのう低下ていかしょう肥大ひだいせい幽門ゆうもん狭窄きょうさくしょうガラクトースしょうフルクトースしょうなどの存在そんざい進展しんてんしうる。

抱合ほうごうがたこうビリルビンしょう要因よういんとなりうるのは以下いかのようなものがある。

クリグラー・ナジャール症候群しょうこうぐんとジルベール症候群しょうこうぐんでは、定型ていけいてきかん機能きのう測定そくていおこなわれるのが一般いっぱんてきであり、きも組織そしき検査けんさ一般いっぱんてきおこなわれる。溶血ようけつについての確証かくしょうっていない。薬物やくぶつ誘導ゆうどうがた症例しょうれいでは、摂取せっしゅ中断ちゅうだんすることであきらかに減衰げんすいする。生理学せいりがくてき新生児しんせいじ黄疸おうだんでは85–170 µmol/Lまで上昇じょうしょうするが、その2週間しゅうかん以内いない通常つうじょう成人せいじんちゅう濃度のうどまで減少げんしょうする。早産そうざんれいでは比較的ひかくてきこう濃度のうどになる。

研究けんきゅう[編集へんしゅう]

クリグラー・ナジャール症候群しょうこうぐんIがたゆうする10さい少女しょうじょが、かん細胞さいぼう移植いしょく成功せいこうした[3]

単一たんいつ遺伝子いでんし系列けいれつのGunn系列けいれつラットは、UDP-グルクロンさん転移てんい酵素こうそ (UDPGT)をいており、クリグラー・ナジャール症候群しょうこうぐん研究けんきゅう動物どうぶつモデルに利用りようされる。正常せいじょうはたらきをしていない酵素こうそひとつだけなので、クリグラー・ナジャール症候群しょうこうぐん遺伝子いでんし治療ちりょう研究けんきゅうすすめられている理論りろんてき選択肢せんたくしである[4]

  • Gunn系列けいれつラット:1994ねんにトロントのコンノート研究所けんきゅうじょでC.H.ガン博士はかせ突然変異とつぜんへんいのラットを発見はっけんした。このラットは黄疸おうだんていし、この形質けいしつつね染色せんしょくたい劣性れっせい遺伝いでん遺伝いでんした。遺伝いでん学者がくしゃであったガン博士はかせは、コンノート研究所けんきゅうじょでこのラットを飼育しいくし、のちにカナダ・プリンスエドワードアイランドしゅうのサマーサイドに移動いどうしてCanadian Experimental Fox Ranchの所長しょちょうとなった。ガン系列けいれつラットはクリグラー・ナジャール症候群しょうこうぐん研究けんきゅう治療ちりょう発達はったつきわめて有用ゆうようである。

名称めいしょう由来ゆらい[編集へんしゅう]

この症候群しょうこうぐん名称めいしょうは、米国べいこく小児科しょうにかのジョン・フィールディング・クリグラーと、レバノンけい米国べいこくじん小児科しょうにかのヴィクター・アサド・ナジャールによってづけられた[5][6]

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ Jansen PL (December 1999). “Diagnosis and management of Crigler–Najjar syndrome”. European journal of pediatrics 158 (Suppl 2): S89–S94. doi:10.1007/PL00014330. PMID 10603107. 
  2. ^ Chowdhury, J. R.; Wolkoff, A. W.; Chowdhury, N. R.; Arias, I. M.: "Hereditary jaundice and disorders of bilirubin metabolism." In: Scriver, C. R.; Beaudet, A. L.; Sly, W. S.; Valle, D. (eds.): The Metabolic and Molecular Bases of Inherited Disease. Vol. 2. New York: McGraw-Hill (8th ed.) 2001. Pp. 3063–3101.
  3. ^ Fox IJ, Chowdhury JR, Kaufman SS, Goertzen TC, Chowdhury NR, Warkentin PI, Dorko K, Sauter BV, Strom SC (May 1998). “Treatment of the Crigler–Najjar syndrome type I with hepatocyte transplantation”. The New England Journal of Medicine 338 (20): 1422–6. doi:10.1056/NEJM199805143382004. PMID 9580649. http://content.nejm.org/cgi/pmidlookup?view=short&pmid=9580649&promo=ONFLNS19. 
  4. ^ Toietta G, Mane VP, Norona WS, Finegold MJ, Ng P, Mcdonagh AF, Beaudet AL, Lee B (March 2005). “Lifelong elimination of hyperbilirubinemia in the Gunn rat with a single injection of helper-dependent adenoviral vector”. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 102 (11): 3930–5. doi:10.1073/pnas.0500930102. PMC 554836. PMID 15753292. http://www.pnas.org/cgi/pmidlookup?view=long&pmid=15753292. 
  5. ^ Crigler JF Jr., Najjar VA (February 1952). “Congenital familial nonhemolytic jaundice with kernicterus; a new clinical entity”. A.M.A. American Journal of Diseases of Children 83 (2): 259–60. ISSN 0096-8994. PMID 14884759. 
  6. ^ synd/86 - Who Named It?

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]