シトクロムP450

Cytochrome P450 Oxidase (CYP2C9)

シトクロムP450（英語えいご: Cytochrome P450）は特定とくていの酸化さんか還元かんげん酵素こうそファミリーに属ぞくする酵素こうその総称そうしょうである。単たんにP450あるいはCYP（シップ）と呼よばれることがある。様々さまざまな基質きしつを酸化さんかし、多おおくの役割やくわりを果はたす。肝臓かんぞうにおいて解毒げどくを行おこなう酵素こうそとして知しられているとともに、ステロイドホルモンの生なま合成ごうせい、脂肪酸しぼうさんの代謝たいしゃや植物しょくぶつの二に次じ代謝たいしゃなど、生物せいぶつの正常せいじょう活動かつどうに必要ひつような様々さまざまな反応はんのうに関与かんよしている。NADPHなどの電子でんし供与きょうよ体たいと酸素さんそを用もちいて基質きしつを酸化さんかすることも共通きょうつうである。シトクロムP450は細胞さいぼう内うちの小しょう胞体に多おおく、一部いちぶはミトコンドリアに存在そんざいする。動物どうぶつでは肝臓かんぞうに多おおく、特とくによく研究けんきゅうされている。

ゲノムプロジェクトによって一部いちぶの細菌さいきんを除のぞく大だい部分ぶぶんの生物せいぶつ（大腸菌だいちょうきんには見みつかっていない）にその遺伝子いでんしがあることが明あきらかにされた。例たとえばヒトには57個この遺伝子いでんしがある。また、植物しょくぶつのシトクロムP450は基質きしつ特異とくい性せいが高たかく、多おおくの種類しゅるいが存在そんざいするとされている、例たとえばイネにおいては候補こうほ遺伝子いでんしが400以上いじょうも発見はっけんされている。しかし、機能きのうがわかっているものは少すくない。

構造こうぞう

すべてのシトクロムP450は約やく500アミノ酸あみのさん残ざん基もとからなり、活性かっせい部位ぶいにヘムを持もつ。保存ほぞんされたシステイン残ざん基もとと水みず分子ぶんしがヘムの鉄てつ原子げんしにリガンドとして配はい位いする。基質きしつが酵素こうそに結合けつごうすると、水みずがはずれ酸素さんそが結合けつごうできるようになる。シトクロムとは以上いじょうのような構造こうぞう的てき特徴とくちょう、および反応はんのう過程かていで鉄てつが酸化さんか・還元かんげんを受うける点てんで類似るいじ性せいがあるが、シトクロムは一般いっぱんに酵素こうそでなく電子でんし伝達でんたつタンパク質たんぱくしつであって機能きのうが異ことなる。 一酸化いっさんか炭素たんそが還元かんげん型がたの酵素こうその活性かっせい部位ぶいの鉄てつ原子げんしに結合けつごうすると、450ナノメートル（可視かし光こう領域りょういき）の波長はちょうを持もつ電磁波でんじはに対たいし吸収きゅうしゅう極大きょくだいを示しめすので、ピグメント（色素しきそ）450という意味いみで大村おおむら恒雄つねおと佐藤さとう了りょうにより1964年ねんに命名めいめいされた。

分類ぶんるい・命名めいめい

シトクロムP450はアミノ酸あみのさん配列はいれつの相あい同性どうせいに基もとづいて分類ぶんるいされ、40%以上いじょう相あい同どうのものをファミリー、55%以上いじょう相あい同どうのものをサブファミリーとして分類ぶんるいする。 たとえば「CYP1A1」というように表記ひょうきし、最初さいしょの数字すうじ1は「ファミリー1」、Aは「サブファミリーA」、最後さいごの数字すうじ1が特定とくていの蛋白質たんぱくしつ（遺伝子いでんしはCYP1A1と斜体しゃたいで表記ひょうきする）を示しめす（別べつの生物せいぶつ種しゅでも明あきらかに対応たいおうする場合ばあいには同おなじ名めいにする）。

ヒトの主おもなCYPの分類ぶんるい

群ぐん	亜あ群ぐん	分子ぶんし種しゅ	主おもな基質きしつ
1	A	CYP1A1	ベンゾピレン
		CYP1A2	アセトアミノフェン、プロプラノロール、カフェイン、テオフィリン
2	A	CYP2A6	テガフール、ニコチン
	B	CYP2B6	シクロホスファミド、ケタミン
	C	CYP2C8	パクリタキセル
		CYP2C9	イブプロフェン、ジクロフェナク、フェニトイン、ワルファリン
		CYP2C19	ジアゼパム、オメプラゾール、ランソプラゾール、クロピドグレル
	D	CYP2D6	タモキシフェン、フルボキサミン、ハロペリドール、プロプラノロール、コデイン
	E	CYP2E1	ハロタン、エンフルラン、アセトアミノフェン、アセトン、エタノール、トルエン、ベンゼン
3	A	CYP3A4	アミオダロン、カルバマゼピン、エリスロマイシン、タクロリムス、タモキシフェン、パクリタキセル、ドセタキセル
		CYP3A5	テストステロン、クラリスロマイシン

機能きのう

異物いぶつ代謝たいしゃ（解毒げどく作用さようなど）

さまざまなシトクロムP450の基質きしつは脂あぶら溶性ようせいで、蓄積ちくせきすると毒どくになるものが多おおい。たとえば、ポリ塩化えんかビフェニル(PCB)、フェノバルビタールをはじめとする薬物やくぶつ、ステロイドなどである。これら基質きしつの多おおくにはシトクロムP450の発現はつげんを誘導ゆうどうする性質せいしつもある。シトクロムP450はこれらの分子ぶんしを水酸化すいさんかして、排出はいしゅつされやすい水溶すいよう性せいの物質ぶっしつに変かえる。一方いっぽう、ベンゾピレンなどの発癌はつがん物質ぶっしつでは逆ぎゃくにシトクロムP450による水酸化すいさんかで発癌はつがん性せいが生しょうじることが明あきらかにされている。

薬物やくぶつ相互そうご作用さよう

「薬物やくぶつ相互そうご作用さよう」も参照さんしょう

カルシウム拮抗きっこう剤ざいなどでグレープフルーツジュースとの併用へいようにより副作用ふくさようが増強ぞうきょうすることがある。これはCYP3A4の活性かっせいが阻害そがいされ薬物やくぶつの代謝たいしゃが遅おそくなるためとされ酵素こうそ阻害そがいと呼よばれる。逆ぎゃくにセイヨウオトギリはCYP3A4を誘導ゆうどうし薬物やくぶつの代謝たいしゃを速はやめ酵素こうそ誘導ゆうどうと呼よばれる。このほかにもシトクロムP450が関係かんけいした薬物やくぶつの相互そうご作用さようがありうるので注意ちゅういが必要ひつようである。その他た、CYP2D6などの遺伝いでん的てき多た型がたにより各種かくしゅ薬物やくぶつの代謝たいしゃ速度そくどに個人こじん差さが現あらわれることが知しられている。

コレステロール生せい合成ごうせいなど

CYP51は現在げんざいシトクロムP450の存在そんざいが知しられるすべての生物せいぶつ種しゅに見みつかっており最もっとも基本きほん的てきな分子ぶんし種しゅと考かんがえられている。これは多おおくの生物せいぶつでステロイド生なま合成ごうせいの基本きほんとなるステロール14αあるふぁ-脱だつメチル化か酵素こうそ活性かっせいを有ゆうしており、特とくに真ま菌きんでは生存せいぞんに必要ひつようなエルゴステロールの合成ごうせいに関与かんよするため、アゾール系けいなどのシトクロムP450阻害そがい剤ざいが殺菌さっきん剤ざい・抗こう真ま菌きん薬やくとして用もちいられる。

動物どうぶつのステロイドホルモン合成ごうせいにおいてもエストロゲン合成ごうせいに関かかわるCYP19（アロマターゼ）など重要じゅうようなものがある。またプロスタサイクリン（プロスタグランジンPGI₂）などの合成ごうせいにも関与かんよするものがある。

転写てんしゃ調節ちょうせつ

CYP1-CYP4はそれぞれ薬物やくぶつ代謝たいしゃに関与かんよする（上記じょうき参照さんしょう）が、これらの酵素こうその誘導ゆうどうは薬物やくぶつがリガンドとしてある受容じゅよう体たいに結合けつごうすることにより行おこなわれる。関与かんよする受容じゅよう体たいは以下いかの通とおりである。

• CYP1ファミリー→芳香ほうこう族ぞく炭化たんか水素すいそ受容じゅよう体たい(Aryl Hydrocarbon Receptor、AhR)
• CYP2ファミリー→構成こうせい的てきアンドロスタン受容じゅよう体たい (constitutive androstane Recptor、CAR)
• CYP3ファミリー→プレグナンX受容じゅよう体たい(pregnane X Recptor、PXR)
• CYP4ファミリー→ペルオキシソーム増殖ぞうしょく剤ざい応答おうとう性せい受容じゅよう体たい(αあるふぁ-Peroxisome Proliferated-Activated Receptor αあるふぁ、PPARαあるふぁ)

これらの受容じゅよう体たいがリガンド結合けつごう後ご、DNA上じょうのプロモーター領域りょういきに結合けつごうして各かくCYP遺伝子いでんしの転写てんしゃ亢進こうしんを行おこなう。

出典しゅってん

• 吉成よしなり浩一こういち、チトクロムP-450の阻害そがいに基もとづく薬物やくぶつ相互そうご作用さよう 日本にっぽん薬理やくり学がく雑誌ざっし 2009年ねん 134巻かん 5号ごう p.285-288, doi:10.1254/fpj.134.285
• 中村なかむら成夫しげお、薬物やくぶつ代謝たいしゃの化学かがく反応はんのう―シトクロムP450反応はんのうを中心ちゅうしんとして 日本医科大学にほんいかだいがく医い学会がっかい雑誌ざっし Vol.9 (2013) No.1 p.25-30, doi:10.1272/manms.9.25

関連かんれん項目こうもく

• 酸化さんか酵素こうそ
• 廣こう部ぶ雅昭まさあき
• 青あおいバラ (サントリーフラワーズ)

外部がいぶリンク

• シトクロムP450分類ぶんるいの最新さいしん情報じょうほう （英語えいご）
• P450データ集しゅう Webサイト「生活せいかつ環境かんきょう化学かがくの部屋へや」