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セントエルモの火 - Wikipedia コンテンツにスキップ

セントエルモの

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』
帆船はんせんあらわれたセントエルモのえがいた。マストの先端せんたん発光はっこうしょうじている。
雷雲らいうんけて飛行ひこうする航空機こうくうき発生はっせいしたセントエルモの
航空機こうくうき発生はっせいしたセントエルモののストリーマじょう放電ほうでん拡大かくだい
映像えいぞう外部がいぶリンク
Watch: St. Elmo’s Fire Weather Phenomenon as Hurricane Idalia Approaches | WSJ - 2023ねんハリケーンイダリア付近ふきん飛行ひこうちゅう航空機こうくうきとらえたセントエルモの映像えいぞう
Pilots capture rare footage of lightning-like electrical phenomena(2023ねん)- CNN

セントエルモの(セントエルモのひ、えい: St. Elmo's fire)は、天候てんこう悪化あっかかみなりくもちかづいているときなどに、つよ電場でんじょう電位でんい勾配こうばい)によって、おもとがった物体ぶったい先端せんたんから青白あおじろ発行はっこうする放電ほうでんしょうじる現象げんしょう[1][2]先端せんたん放電ほうでん[3]。もとは地中海ちちゅうかい船乗ふなのりのあいだでは時々ときどきふねマストさきしょうじるこれを「セントエルモの」とび、ふね以外いがいにももちいるようになった[2][4]

名称めいしょう

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日本語にほんごやくとしては「せいエルモの[5]、「檣頭しょうとう電光でんこう(しょうとうでんこう)」[6]ぶこともある。檣頭しょうとうはマストの先端せんたんのこと[6]

以下いかのような異称いしょうもある。

St. Elmo's light(セントエルモのひかり
ダーウィンによる[注釈ちゅうしゃく 1]
カストルとポルックス/ヘレナ
上記じょうきのように、だいプリニウスが『博物はくぶつ』においてギリシア古典こてん呼称こしょうとして記述きじゅつしている。
corposant(コルポサント)
英語えいごでの別名べつめい[7]ポルトガルの「corpo santo」を仲立なかだちとしてラテン語らてんご「corpus sanctum」を語源ごげんとしている。「聖体せいたい」を意味いみする。

原理げんり性質せいしつ

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晴天せいてんには、大気たいきちゅう鉛直えんちょく電位でんい電位でんい勾配こうばい)は5 V/m地表ちひょうちかくでは100 V/m程度ていどとなっているが、対流たいりゅうくも雷雲らいうんちかづくと電位差でんいさおおきくなる。1000 V/cm程度ていど[注釈ちゅうしゃく 2]になると地表ちひょうとがった物体ぶったい先端せんたん大気たいきあいだコロナ放電ほうでんしょうじるようになる。これがセントエルモのである。なお、かみなり放電ほうでんはじまるころには10000 V/cmにたっする[4][1][2]

金属きんぞくなどの導体どうたい表面ひょうめん垂直すいちょくしょうじる電界でんかい強度きょうどは、きょくりつ半径はんけいった近似きんじする。とがった導体どうたいきょくりつ半径はんけいちいさいため電界でんかい強度きょうどおおきく、放電ほうでんしょうじやすい。ただ、良導体りょうどうたい金属きんぞくでなくとも放電ほうでんしょうじる[2]

1750ねんベンジャミン・フランクリンが、この現象げんしょうおなじように、雷雨らいうさいさきのとがったてつぼう先端せんたん発光はっこうすることをあきらかにした。

航海こうかいちゅうふねのマストのさきだけでなく、教会きょうかいとうアンテナ建物たてもの屋根やね避雷針ひらいしん送電そうでんせん山頂さんちょう尾根おねいわなどにもしょうじる。また付近ふきんにいる人間にんげんにもおよび、うでげたときなどにその指先ゆびさきしょうじたり、かみ逆立さかだってその先端せんたんしょうじたり、さら登山とざんピッケルなどけたもの先端せんたんしょうじたりする[1][2][8][9][10]

なお、ながれる電流でんりゅうきわめてちいさいので、人体じんたい影響えいきょうはないとされている[2]

上空じょうくう航行こうこうする航空機こうくうきにもしょうじる。航空機こうくうきはもともと飛行ひこうちゅう塵埃じんあいくもちゅうこおりあきらによる摩擦まさつ帯電たいでんきやすく、現在げんざい航空機こうくうきは、帯電たいでんがす放電ほうでんさくのほか帯電たいでん低減ていげんするさまざまな対策たいさくおこなっている。しかし、雷雲らいうん接近せっきんするとつばさやプロペラ、風防ふうぼう、アンテナのさきなど機体きたいのさまざまな部位ぶいから放電ほうでんしょうじることがある[10][11][12]気温きおん0 ℃から−2 ℃のときもっともよくみられる[13]。これは飛行船ひこうせんでもこりうる。

放電ほうでんいろ青白あおじろいもののほか、あお紫色むらさきいろ紫色むらさきいろ緑色みどりいろ場合ばあいや、しらみがつよ場合ばあいがある[2][7][9]ネオンひかりにも[11]よるでもひかってえ、あかりやほのおともったようにえることもある[1][2]先端せんたんきょく場合ばあいせいきょく場合ばあいとでは、形状けいじょうことなる。

雷雲らいうんちかづき放電ほうでんつよまったときなどに、「シュー」というおとともな場合ばあいがある[2][7]。また航空機こうくうき無線むせん通信つうしんでは、発生はっせい音程おんてい上下じょうげさせながらシューというおとものをするときのようなおとこえることがあるという[11]

登山とざんときなどは、雷雲らいうん接近せっきんしてきた段階だんかい退避たいひすることがより安全あんぜんではあるが[14]、もしセントエルモの遭遇そうぐうした場合ばあいは、より落雷らくらい危険きけんたかまっている目安めやすで、一種いっしゅ警告けいこくとなる[1]

航空機こうくうき場合ばあい火山かざん噴火ふんかによる噴煙ふんえん突入とつにゅうしたときにも機体きたい火山灰かざんばい摩擦まさつでセントエルモのしょうじる。ブリティッシュ・エアウェイズ9便びんエンジン故障こしょう事故じこ(1982ねん)ではつばさやエンジンにしょうじたセントエルモの目撃もくげきされている[15][16]

由来ゆらい

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「セントエルモの」のは、船乗ふなのりの守護しゅご聖人せいじんであるせいエルモ(エラスムス)由来ゆらいする[2]かれはイタリアにかうふね乗船じょうせんちゅうあらし見舞みまわれ、ふね転覆てんぷく危険きけんにさらされる。聖人せいじん熱心ねっしんかみいのると、あらしはおさまる。そして帆柱ほばしら先端せんたんあおほのおおどした、とつたえられているからである[17]イタリアガエータせいエラスモだい聖堂せいどうit:Cattedrale dei Santi Erasmo e Marciano e di Santa Maria Assunta)でよくられたためにこのがついたというのは俗説ぞくせつである。

セントエルモのは、カエサルの『アフリカ戦記せんき』(De Bello Africo)、だいプリニウスの『博物はくぶつ』(Naturalis Historia)、メルヴィルの『白鯨はくげい』、ダーウィンヘンズローおくったビーグルごうでの経験けいけんいた書簡しょかん[18]コールリッジの『ろう水夫すいふぎょう』(The Rime of the Ancient Mariner)、マゼラン世界せかい周航しゅうこう随行ずいこうしたピガフェッタ航海こうかいカモエンス叙事詩じょじしルシアダス』などにおいて言及げんきゅうされている。

あらし波浪はろうまえあらわれることがおおく、吉兆きっちょうとされていたとする文献ぶんけんもあるが[2][10]遭難そうなん警告けいこくする凶兆きょうちょうとされていたとする文献ぶんけんもある[19]

だいプリニウスによれば、古典こてんギリシアでは[よう出典しゅってん]発光はっこうひとつの場合ばあいヘレナ」、ふたつの場合ばあいカストルポルックス」とんだ[注釈ちゅうしゃく 3]アルゴーせん神話しんわによると、同船どうせんんでいたカストルとポルックスの頭上ずじょうひかりともったところあらししずまったので、この双子ふたご航海こうかい守護神しゅごじんとあがめられ、船乗ふなのりのあいだではセントエルモのふた出現しゅつげんするとあらしおさまるとしんじられたという。

脚注きゃくちゅう

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注釈ちゅうしゃく

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  1. ^ Darwin, Charles R., (1839) Narrative of the surveying voyages of His Majesty's Ships Adventure and Beagle between the years 1826 and 1836, describing their examination of the southern shores of South America, and the Beagle's circumnavigation of the globe. Journal and remarks. 1832-1836., London: Henry Colburn, pp. 619.
    44ぺーじでダーウィンは、"On a second night we witnessed a splendid scene of natural fireworks; the mast-head and yard-arm ends shone with St. Elmo's light; and the form of the vane could almost be traced, as if it had been rubbed with phosphorus." とべている(強調きょうちょう引用いんようしゃ)。
  2. ^ 現象げんしょうのスケールがことなるためことなる単位たんいちょう説明せつめいしている。100 V/m = 1 V/cm。
  3. ^ しかしプリニウスはこうした発光はっこう現象げんしょうてんほし区別くべつしておらず、これらの発光はっこうほしんでいる

出典しゅってん

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  1. ^ a b c d e 図解ずかい気象きしょうだい百科ひゃっか 1997, p. 166.
  2. ^ a b c d e f g h i j k ひかり百科ひゃっか事典じてん 2011, p. 681(著者ちょしゃ:柴田しばた清孝きよたか
  3. ^ さん崎方さきがたろう先端せんたん放電ほうでん」『小学しょうがくかん日本にっぽんだい百科全書ひゃっかぜんしょ(ニッポニカ)』』https://kotobank.jp/word/%E5%85%88%E7%AB%AF%E6%94%BE%E9%9B%BB-550633#w-1555267コトバンクより2024ねん10がつ14にち閲覧えつらん 
  4. ^ a b 図解ずかい気象きしょうだい百科ひゃっか 1997, p. 156.
  5. ^ しん英和えいわちゅう辞典じてん研究けんきゅうしゃhttps://ejje.weblio.jp/content/st.+elmo%27s+fire2024ねん10がつ14にち閲覧えつらん 
  6. ^ a b かず西にし海洋かいよう辞典じてん 檣頭しょうとう電光でんこう」『海洋かいよう総合そうごう辞典じてん中内なかうち清文きよふみhttp://www.oceandictionary.jp/jjss/js-abc/jssho.html2024ねん10がつ14にち閲覧えつらん 
  7. ^ a b c セントエルモの」『平凡社へいぼんしゃ百科ひゃっか事典じてんマイペディア』』https://kotobank.jp/word/%E3%82%BB%E3%83%B3%E3%83%88%E3%82%A8%E3%83%AB%E3%83%A2%E3%81%AE%E7%81%AB-88707#w-847551コトバンクより2024ねん10がつ14にち閲覧えつらん 
  8. ^ 飯田いいだ 2005, p. 97-102.
  9. ^ a b 北川きたがわ信一郎しんいちろうセントエルモの」『小学しょうがくかん日本にっぽんだい百科全書ひゃっかぜんしょ(ニッポニカ)』』https://kotobank.jp/word/%E3%82%BB%E3%83%B3%E3%83%88%E3%82%A8%E3%83%AB%E3%83%A2%E3%81%AE%E7%81%AB-88707#w-1180378コトバンクより2024ねん10がつ14にち閲覧えつらん 
  10. ^ a b c Saint Elmo’s fire, ブリタニカ百科ひゃっか事典じてん
  11. ^ a b c St Elmo's Fire” (英語えいご). SKYbrary. 欧州おうしゅう航空こうくう航法こうほう安全あんぜん機構きこう(EUROCONTROL). 2024ねん10がつ14にち閲覧えつらん
  12. ^ 75 Years of Innovation: Electrostatic discharge rods” (英語えいご). SRIインターナショナル. 2024ねん10がつ14にち閲覧えつらん
  13. ^ Descriptions of clouds as observed from aircraft > Cumulonimbus” (英語えいご). International Cloud Atlas. WMO. 2024ねん10がつ14にち閲覧えつらん
  14. ^ かみなりからいのちまもるための心得こころえ”. 日本にっぽん大気たいき電気でんき学会がっかい. 2024ねん10がつ14にち閲覧えつらん
  15. ^ Steven D. Jaffe (2016) (英語えいご). Airspace Closure and Civil Aviation: A Strategic Resource for Airline Managers. Taylor & Francis. pp. 149-150. doi:10.4324/9781315566511. ISBN 9781315566511 
  16. ^ Ruwantissa Abeyratne (2012) (英語えいご). Strategic Issues in Air Transport: Legal, Economic and Technical Aspects. Springer. doi:10.1007/978-3-642-21960-3. ISBN 978-3-642-21960-3 
  17. ^ Erhard Gorys : Lexikon der Heiligen. München: Deutscher Taschenbuch Verlag, 6. Aufl. 2005 (ISBN 3-423-34149-1), S. 106-107.
  18. ^ Letter 178 — Darwin, C. R. to Henslow, J. S., (23 July – ) 15 August (1832)(Darwin Correspondence Project)
  19. ^ 藤高ふじたか邦宏くにひろ岡本おかもといと高橋たかはし理恵りええいべい文化ぶんか背景はいけいえいべいじん迷信めいしん俗信ぞくしんこう(2) II「」ーその1「前兆ぜんちょう」『岡山理科大学おかやまりかだいがく紀要きよう B:人文じんぶん社会しゃかい科学かがくだい29かん、1994ねん、64ぺーじCRID 1050001339272242176 

参考さんこう文献ぶんけん

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  • 二宮にのみやこうさん ちょ二宮にのみやこうさん新田にったしょう山岸やまぎしよね二郎じろう へん図解ずかい気象きしょうだい百科ひゃっかム社むしゃ、1997ねん7がつ、156ぺーじISBN 4-274-02352-4 
  • 飯田いいだあつし治郎じろう日本にっぽん気象きしょう : うみやま役立やくだ気象きしょう知識ちしきかじしゃ、2005ねんISBN 4-8072-1512-4 
  • 谷田貝やたがい豊彦とよひこ ほか へんひかり百科ひゃっか事典じてん丸善まるぜん出版しゅっぱん、2011ねんISBN 978-4-621-08463-2 
  • Saint Elmo’s fire” (英語えいご). Encyclopædia Britannica(ブリタニカ百科ひゃっか事典じてん (2024ねん9がつ13にち). 2024ねん10がつ14にち閲覧えつらん

関連かんれん項目こうもく

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