ニトロゲナーゼ

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ニトロゲナーゼ
識別子しきべつし
EC番号ばんごう 1.18.6.1
CAS登録とうろく番号ばんごう 9013-04-1
データベース
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MetaCyc metabolic pathway
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遺伝子いでんしオントロジー AmiGO / QuickGO
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ニトロゲナーゼ (nitrogenase, EC 1.18.6.1) はリゾビウム (Rhizobium) ぞく根粒こんりゅうきん)など窒素ちっそ固定こていおこな細菌さいきんっている酵素こうそ大気たいきちゅう窒素ちっそアンモニア変換へんかんする反応はんのう触媒しょくばいする。全体ぜんたい構造こうぞう活性かっせい中心ちゅうしんゆうするニトロゲナーゼりょうからだおよびニトロゲナーゼりょうたい電子でんし供与きょうよするニトロゲナーゼ還元かんげん酵素こうそからなる。きわめて酸素さんそよわく、酸素さんそれるとすう分間ふんかん可逆かぎゃくてきしつかつする。そのため、ほん酵素こうそゆうする生物せいぶつにはそれぞれ空気くうきちゅう酸素さんそからニトロゲナーゼを隔離かくりする機構きこうられる。

反応はんのう[編集へんしゅう]

窒素ちっそ固定こてい反応はんのうにおいてもっと特徴とくちょうてきなのが、窒素ちっそ分子ぶんし強固きょうこ三重みえ結合けつごう解離かいり無機むき窒素ちっそ化合かごうぶつ変換へんかんするてんにある。この三重みえ結合けつごうきわめて安定あんていであり、化学かがくてき窒素ちっそからアンモニアを合成ごうせいするハーバー・ボッシュほう反応はんのう条件じょうけんによっても裏付うらづけられている。

N2 + 3H2 → 2NH3 (ΔでるたG = -8 kcal/mol N2; 450 ℃、200 atm)

上述じょうじゅつ条件じょうけんにおける反応はんのうはつエルゴンてきだが、高温こうおんだかあつ条件下じょうけんかのみでおこなわれる。一方いっぽう生物せいぶつによる窒素ちっそ固定こてい反応はんのう基本きほんてきには標準ひょうじゅん状態じょうたい(25 ℃、1 atm、pH 7.0)にておこなわれる。ニトロゲナーゼのにな標準ひょうじゅん状態じょうたいにおけるアンモニア生産せいさん反応はんのう下記かきしきにてあらわされる。

N2 + 6H+ + 6e- + 12ATP + 12H2O → 2NH3 + 12ADP + 12Pi (ΔでるたG’ = -136 kcal/mol N2)・・・反応はんのうしき1[1]

水素すいそわり、電子でんし供与きょうよたいフェレドキシンなど)からの電子でんしおよびこうエネルギーリンさん化合かごうぶつ加水かすい分解ぶんかいのエネルギーをもちいてアンモニア生産せいさん反応はんのうおこなう。ニトロゲナーゼけいにおける反応はんのう標準ひょうじゅん状態じょうたいであるにもかかわらずはつエルゴンてきであり、その自由じゆうエネルギー変化へんかきわめておおきい。

窒素ちっそ固定こてい[編集へんしゅう]

ニトロゲナーゼの窒素ちっそ固定こてい反応はんのう以下いかのようにあらわされる。大気たいきちゅう窒素ちっそ還元かんげんし、アンモニアとして固定こていする。アンモニアとして固定こていされた窒素ちっそ細菌さいきんによってグルタミン酸ぐるたみんさんしお硝酸しょうさんしお変換へんかんされ、植物しょくぶつ利用りよう可能かのうかたちとなる。

N2 + 8H+ + 8e- + 16 ATP → 2NH3 + H2 + 16ADP + 16Pi・・・反応はんのうしき2

上述じょうじゅつのアンモニア生産せいさん反応はんのうとの相違そういてんは、ニトロゲナーゼの反応はんのう特異とくいせいひくさによる。ニトロゲナーゼの代表だいひょうてきふく反応はんのうひとつとしてATPの加水かすい分解ぶんかい共役きょうやくしたプロトン還元かんげん活性かっせい水素すいそ生産せいさん)があり、ほん活性かっせい還元かんげんてきATPアーゼ活性かっせいばれている。

2H+ + 2e- + 4ATP + 4H2O → H2 + 4ADP + 4Pi・・・反応はんのうしき3

この還元かんげんてきATPアーゼ活性かっせい反応はんのうしき1がわさり、かけのニトロゲナーゼ活性かっせいであるはんおうしき2の反応はんのうられる。なお、反応はんのうしき2はいたりてき条件じょうけんにおけるしきであり、実際じっさい生理せいり状態じょうたいにおいては20 - 30ATPが必要ひつようであるとされている[2]

ふく反応はんのう[編集へんしゅう]

還元かんげんてきATPアーゼ活性かっせいにもしめされるようにニトロゲナーゼは反応はんのう特異とくいせいひくく、様々さまざま窒素ちっそあるいは有機ゆうき化合かごうぶつ触媒しょくばいできる。主要しゅようなものとして、一酸化いっさんか窒素ちっそシアンアセトニトリルアジドアセチレンシクロプロペンシアナミドそしてジアジリンなどがある[3]

上記じょうき反応はんのうなか窒素ちっそ生産せいさんする一酸化いっさんか窒素ちっそのみが拮抗きっこう阻害そがいざいであり、基質きしつ拮抗きっこう阻害そがいざいとなる。一酸化いっさんか窒素ちっそ還元かんげんによってしょうじた窒素ちっそは、そのまま通常つうじょう窒素ちっそ固定こてい反応はんのうもちいられる。アセチレン還元かんげん反応はんのうはニトロゲナーゼの簡易かんい測定そくていほうとして有効ゆうこうであり、しょうじたエチレンをガスクロマトグラフィーによって分析ぶんせきすることによってニトロゲナーゼ活性かっせい検出けんしゅつすることができる[2]。また、根粒こんりゅうきんによる窒素ちっそ固定こていについて、窒素ちっそ安定あんてい同位どういたいである15Nを蓄積ちくせきする現象げんしょうられているが、その理由りゆうについては現在げんざい説明せつめいられていない[4][5]

電子でんし供与きょうよたい[編集へんしゅう]

ニトロゲナーゼ反応はんのうもちいられる電子でんし主要しゅよう代謝たいしゃけい発酵はっこうピルビンさん酸化さんかなど)によって還元かんげんされた電子でんし伝達でんたつたいによって供与きょうよされる。嫌気いやけせいグラム陽性ようせいきんであるClostridium pasteurianumフェレドキシン電子でんし供与きょうよたいとしてもちいている[6]。また、Azotobacter vinelandiiのような共生きょうせいてき窒素ちっそ固定こてい微生物びせいぶつは、フェレドキシンとくらべて酸化さんか還元かんげん電位でんいたかフラボドキシンもちいている[7]。また、根粒こんりゅうきんThiocapsa roseopersicinaのような光合成こうごうせい細菌さいきんにおいては、還元かんげんてきATPアーゼ活性かっせいによってしょうじた水素すいそuptake-ヒドロゲナーゼによってさい酸化さんかし、電子でんし供与きょうよたいさい還元かんげんもちいている[8]

分布ぶんぷ[編集へんしゅう]

ニトロゲナーゼは原核げんかく生物せいぶつ細菌さいきん細菌さいきん)にひろ分布ぶんぷしており、ゲノム解析かいせき微生物びせいぶつ生態せいたいがくてきアプローチからもその分布ぶんぷ範囲はんい拡大かくだい一途いっとをたどっている[9]。しかしながら、窒素ちっそ固定こてい研究けんきゅうとくすすんでいる微生物びせいぶつぐんについては嫌気いやけせい細菌さいきんシアノバクテリアそして根粒こんりゅうきんしゅとしてあげられる。また、その生活せいかつ様態ようたいから共生きょうせいてき窒素ちっそ固定こてい生物せいぶつ共生きょうせいてき窒素ちっそ固定こてい生物せいぶつ分類ぶんるいされる[10]

共生きょうせいてき窒素ちっそ固定こてい生物せいぶつ

  1. 絶対ぜったい嫌気いやけせい細菌さいきん・・・Clostridium, Desulfovibrio, Desulfotomaculum
  2. 通性つうせい嫌気いやけせい細菌さいきん・・・Klebisiella, Bacillus
  3. こう気性きしょう細菌さいきん・・・Azotobacter, Azomonas, Beijerinckia
  4. 光合成こうごうせい細菌さいきん・・・Chromatium, Rhodospirillum, Rhodobacter
  5. シアノバクテリア・・・Anabaena, Nostoc, Gloeocapsa

共生きょうせいてき窒素ちっそ固定こてい細菌さいきん

  • 根粒こんりゅうきん(Rhizobium)
  1. エンドウ根粒こんりゅうきん・・・R. legminosarumエンドウソラマメ
  2. サイトウ根粒こんりゅうきん・・・R. phaseoliインゲン
  3. ダイズ根粒こんりゅうきん・・・R. japonicumダイズ
  4. クローバー根粒こんりゅうきん・・・R. trifoliiクローバー
  5. ルーピン根粒こんりゅうきん・・・R. lupiniルーピン
  6. アルファルファ根粒こんりゅうきん・・・R. melilotiウマゴヤシシナガワハギ
  7. カウピー根粒こんりゅうきん・・・“Cowpea rhizobia”カウピーナンキンマメアズキ

一方いっぽうかく生物せいぶつからはニトロゲナーゼけいふく窒素ちっそ固定こていけい見出みいだされていない[11]

分類ぶんるい[編集へんしゅう]

ニトロゲナーゼは活性かっせい中心ちゅうしんふくまれる金属きんぞく種類しゅるいによって3つに分類ぶんるいされる。主要しゅようなニトロゲナーゼぐんモリブデン活性かっせい中心ちゅうしんゆうするモリブデン含有がんゆうニトロゲナーゼである。おおくの窒素ちっそ固定こていきんほんニトロゲナーゼをゆうしており、自然しぜんかいにておこなわれている窒素ちっそ固定こていのほとんどはほん酵素こうそによるものとかんがえられている[11]のこふたつのぐんバナジウムおよびてつをそれぞれ活性かっせい中心ちゅうしんふくんでおり、それぞれバナジウム含有がんゆう(Vanadium containing)ニトロゲナーゼおよびてつがた(Fe-only)ニトロゲナーゼとばれている[12]。バナジウムおよびてつふくんでいるニトロゲナーゼは、その全体ぜんたい構造こうぞうふくめてモリブデン含有がんゆうニトロゲナーゼとほぼ同一どういつである。しかしながらその分布ぶんぷいちじるしくかたよっており、モリブデンがた主要しゅようなニトロゲナーゼであるのにたいして、バナジウムおよびてつがたニトロゲナーゼは代替だいたいニトロゲナーゼ(Alternative nitrogenase)とばれている。下記かき分布ぶんぷれいげる。

  • モリブデン、バナジウムおよびてつがたニトロゲナーゼのすべてをゆうする・・・Azotobacter vinelandii[13]
  • モリブデンおよびてつがたニトロゲナーゼをゆうする・・・Rhodobacter capsulatusRhodospirillum rubrum [14][15]
  • モリブデンおよびバナジウム含有がんゆうニトロゲナーゼをゆうする・・・Anabaena variablis[16]
  • モリブデン含有がんゆうニトロゲナーゼのみをゆうする・・・Krebsiella pneumoniae[17]

上述じょうじゅつのリストのとおり、すべての窒素ちっそ固定こていきんはモリブデン含有がんゆうニトロゲナーゼをゆうしており、バナジウムおよびてつがたニトロゲナーゼのみをゆうする窒素ちっそ固定こてい生物せいぶつはいまだつかっていない。また既存きそんのニトロゲナーゼとはまったことなる4つのグループが放線ほうせんきんStreptomyces thoermoautotrophicusからつかっている。ほん酵素こうそモリブドプテリン活性かっせい中心ちゅうしんゆうしており、サブユニット構成こうせいなど上述じょうじゅつのニトロゲナーゼとまったことなっている[18]

立体りったい構造こうぞう[編集へんしゅう]

ニトロゲナーゼは活性かっせい中心ちゅうしんゆうするニトロゲナーゼりょうたい(Dinitrogenase、Mo-Feタンパク質たんぱくしつ、component I)およびニトロゲナーゼりょうからだ還元かんげんするニトロゲナーゼ還元かんげん酵素こうそ(Dinitrogenase reductase、Feタンパク質たんぱくしつ、component II)からなる。機能きのう単位たんいはニトロゲナーゼりょうからだおよびニトロゲナーゼ還元かんげん酵素こうそりょうたいのヘテロよんりょうからだをとっているが、生体せいたいないにおける構造こうぞうはさらにヘテロよんりょうたいが2つ結合けつごうしヘテロはちりょうからだ構造こうぞうにて機能きのうしている(さい上部じょうぶの『ニトロゲナーゼの構造こうぞう図表ずひょう参照さんしょう)。なお、本節ほんぶしでは立体りったい構造こうぞうがよくられているモリブデン含有がんゆうニトロゲナーゼのみについて概説がいせつする[11]

ニトロゲナーゼりょうからだ[編集へんしゅう]

ニトロゲナーゼりょうたい遺伝子いでんしnifDおよびnifKであり、それぞれαあるふぁおよびβべーたサブユニットをコードしている。αあるふぁβべーた構造こうぞう機能きのう単位たんいだが、生体せいたいないにおいてはαあるふぁ2βべーた2構造こうぞうをとっており、分子ぶんしりょうは220 - 240 kDa程度ていどである。αあるふぁβべーた構造こうぞうないには、活性かっせい中心ちゅうしんであるてつ-モリブデン因子いんし(FeMo-co)および電子でんし伝達でんたつになうP-clusterがひとつずつはいしている。FeMo-coは[Mo-3Fe-3S]および[4Fe-3S]クラスターが3つの硫黄いおうリガンドによって結合けつごうし、[Mo-7Fe-6S]クラスター構造こうぞうゆうしている。さらにモリブデンはホモクエン酸くえんさんのC2カルボニルもととヒドロキシもと結合けつごうし、さらにαあるふぁサブユニットのシステインヒスチジン結合けつごうして安定あんていした構造こうぞうをとっている。一方いっぽう、P-clusterは2つの[4Fe-3S]クラスターが1つの硫黄いおうリガンドによって結合けつごうし、[8Fe-7S]クラスター構造こうぞうをとっている。それぞれのクラスターのりょうはしαあるふぁおよびβべーたサブユニットのシステインに結合けつごうし、はいされている。したがって、P-clusterはαあるふぁβべーたサブユニットあいだ配置はいちしている。

ニトロゲナーゼ還元かんげん酵素こうそ[編集へんしゅう]

ニトロゲナーゼ還元かんげん酵素こうそ遺伝子いでんしnifHである。機能きのう単位たんいはホモりょうたいであり、分子ぶんしりょうは120 kDaである。ニトロゲナーゼ還元かんげん酵素こうそないには1つの[4Fe-4S]クラスターおよび2つのMg-ATP結合けつごう部位ぶいゆうしている。[4Fe-4S]クラスターはホモりょうたいそれぞれのシステインによってはいされ、P-cluster同様どうようサブユニットあいだ配置はいちしている。一方いっぽう、Mg-ATP結合けつごう部位ぶいについては、ホモりょうたいのサブユニットそれぞれに存在そんざいしている。

反応はんのう機構きこう[編集へんしゅう]

ニトロゲナーゼの反応はんのう機構きこう

1960ねんにCarnahanらによってC. pasteurianum細胞さいぼうしるべひんによる窒素ちっそ固定こてい反応はんのう成功せいこうした[19][20]。その、モリブデン含有がんゆうニトロゲナーゼの精製せいせいて、ニトロゲナーゼがふたつのComponent(ニトロゲナーゼりょうからだおよびニトロゲナーゼ還元かんげん酵素こうそ)によって機能きのうすることがあきらかになった[21]。その精力せいりょくてき研究けんきゅうにより、ニトロゲナーゼは下記かきの5成分せいぶん存在そんざいにて窒素ちっそ固定こてい反応はんのうおこなうことがしめされた[22][23][24]

  1. 電子でんし供与きょうよたい(フェレドキシン、フラボドキシン)
  2. ニトロゲナーゼ還元かんげん酵素こうそ([4Fe-4S]クラスター)
  3. ATPおよび2金属きんぞくイオン(マグネシウム、カルシウムなど)
  4. ニトロゲナーゼりょうたい(P-Cluster、FeMo-co)
  5. 電子でんし受容じゅようたい窒素ちっそ

なお、上記じょうき順序じゅんじょ電子でんし伝達でんたつおこなわれる。以上いじょう5成分せいぶん窒素ちっそ固定こてい反応はんのう下記かき順序じゅんじょおこなわれる。

  1. ニトロゲナーゼ還元かんげん酵素こうそにATPおよびマグネシウムが結合けつごうし、ふく合体がったいをとる。このときニトロゲナーゼ還元かんげん酵素こうそ標準ひょうじゅん酸化さんか還元かんげん電位でんいは-400 mV付近ふきんまで低下ていかする。
  2. 電子でんし供与きょうよたいからニトロゲナーゼ還元かんげん酵素こうそ-MgATPふく合体がったい電子でんし伝達でんたつがおこなわれ、ほんふく合体がったい還元かんげんされる。
  3. ニトロゲナーゼ還元かんげん酵素こうそ-MgATPふく合体がったいのATPが加水かすい分解ぶんかいされよりてい電位でんい電子でんしとなる。結合けつごうしているATPはADPとなる。
  4. ニトロゲナーゼ還元かんげん酵素こうそ-MgADPふく合体がったいの[4Fe-4S]クラスターをつうじて、ニトロゲナーゼりょうたいのP-clusterに電子でんし伝達でんたつがおこなわれる。
  5. ニトロゲナーゼりょうのP-clusterからFeMo-coに電子でんし伝達でんたつがおこなわれる。
  6. FeMo-coが窒素ちっそを2電子でんし還元かんげんするとN2H2しょうじる。
  7. FeMo-coがN2H2をさらに2電子でんし還元かんげんするとN2H4しょうじる。
  8. FeMo-coがN2H4をさらに2電子でんし還元かんげんすると2アンモニアがしょうじる。
  9. 窒素ちっそ還元かんげんおこなっているさい同時どうじにプロトンも還元かんげんし、水素すいそ発生はっせいする。

以上いじょう反応はんのう化学かがくりょうろんしき以下いかのとおりである。

  1. ニトロゲナーゼ還元かんげん酵素こうそ + 2Mg2+ + 2ATP → ニトロゲナーゼ還元かんげん酵素こうそ-MgATPふく合体がったい酸化さんかがた
  2. 2ニトロゲナーゼ還元かんげん酵素こうそ-MgATPふく合体がったい酸化さんかがた) + 2e- → 2ニトロゲナーゼ還元かんげん酵素こうそ-MgATPふく合体がったい還元かんげんがた
  3. 2ニトロゲナーゼ還元かんげん酵素こうそ-MgATPふく合体がったい還元かんげんがた) + 2ATP → 2ニトロゲナーゼ還元かんげん酵素こうそ-MgADPふく合体がったい酸化さんかがた) + 2ADP + 4Pi + 2e-
  4. 1[4Fe-4S]クラスター(酸化さんかがた) + 2e- → 1[4Fe-4S]クラスター(還元かんげんがた)+ 1P cluster(酸化さんかがた) → 1[4Fe-4S]クラスター(酸化さんかがた) + 1P cluster(還元かんげんがた
  5. 1P cluster(還元かんげんがた) + 1FeMo-co(酸化さんかがた) → 1P cluster(酸化さんかがた) + 1FeMo-co(還元かんげんがた
  6. 1FeMo-co(還元かんげんがた) + N2 → N2H2
  7. (1~5の2かいサイクル)1FeMo-co(還元かんげんがた) + N2H2 → N2H4
  8. (1~5の3かいサイクル)1FeMo-co(還元かんげんがた) + N2H4 → 2NH3
  9. 2H+ + 2e- + 4ATP + 4H2O → H2 + 4ADP + 4Pi

なお、FeMo-co活性かっせい中心ちゅうしんにおける窒素ちっそ固定こてい反応はんのうスキームについてはいまだ決定けっていていない。現在げんざいのところFeが触媒しょくばいとなる経路けいろや、[Mo-3Fe-3S]および[4Fe-3S]のクラスターをつなぐ窒素ちっそ原子げんし触媒しょくばいとなる経路けいろ、あるいはモリブデンが触媒しょくばい部位ぶいとなる経路けいろなど4つのスキームが提案ていあんされている[25]

関連かんれん遺伝子いでんしおよび機能きのう[編集へんしゅう]

P clusterやFeMo-coといった複雑ふくざつ金属きんぞくクラスターは自発じはつてき構築こうちくされず様々さまざまタンパク質たんぱくしつ構築こうちく関与かんよしている。ニトロゲナーゼ構造こうぞう遺伝子いでんし発現はつげんタンパク質たんぱくしつないにクラスターがはいされる発現はつげんプロセッシングを活性かっせい発揮はっきするが、この一連いちれん現象げんしょう成熟せいじゅく(maturation)という。また、ニトロゲナーゼは発現はつげんさいして様々さまざま調節ちょうせつけており、それらにかかわる遺伝子いでんし多数たすう存在そんざいする。A. vinelandiiK. pneumoniaeのニトロゲナーゼ遺伝子いでんし機能きのう解析かいせきにより、ニトロゲナーゼにかかわる遺伝子いでんし全貌ぜんぼうあきらかになってきている[26][27][28]
下記かきに、これまであきらかになったニトロゲナーゼ関連かんれん遺伝子いでんしぐん名称めいしょうおよび機能きのう列挙れっきょする。

  • nifH・・・ニトロゲナーゼ還元かんげん酵素こうそ
  • nifD・・・ニトロゲナーゼりょうたいαあるふぁサブユニット
  • nifK・・・ニトロゲナーゼりょうたいβべーたサブユニット
  • nifT・・・機能きのう不明ふめい
  • nifY/nafY・・・ニトロゲナーゼりょうたいシャペロン。FeMo-coの挿入そうにゅうにかかわる。
  • nifE・・・FeMo-co構築こうちく
  • nifN・・・FeMo-co構築こうちく
  • nifX・・・FeMo-co構築こうちく
  • nifU・・・てつ硫黄いおうクラスター骨格こっかく
  • nifS・・・てつ硫黄いおうクラスターの不安定ふあんてい硫黄いおう運搬うんぱん
  • nifV・・・ホモクエン酸くえんさん合成ごうせい酵素こうそ
  • nifW・・・FeMo-co安定あんてい
  • nifZ・・・機能きのう不明ふめい
  • nifM・・・ニトロゲナーゼ還元かんげん酵素こうそ成熟せいじゅく
  • nifF・・・フラボドキシン
  • nifL・・・陰性いんせい調節ちょうせつ因子いんし
  • nifA・・・陽性ようせい調節ちょうせつ因子いんし
  • nifB・・・FeMo-co構築こうちく
  • fdnN・・・フェレドキシン
  • nifQ・・・FeMo-co構築こうちく
  • nifJ・・・ピルビンさん:フラボドキシン(フェレドキシン)オキシドレダクターゼ

なお、バナジウム含有がんゆうおよびてつがたニトロゲナーゼも、それぞれvnf遺伝子いでんしぐん(Vanadium Nitrogen Fixation)およびanf遺伝子いでんしぐん(Alternative Nitrogen Fixation)をそれぞれゆうし、機構きこう発現はつげんにかかわっているとかんがえられている[29]。また、いくつかの'nif'遺伝子いでんしはバナジウム含有がんゆうおよびてつがたニトロゲナーゼで共有きょうゆうされている[30]

発現はつげん調節ちょうせつ[編集へんしゅう]

まず、ニトロゲナーゼけい大量たいりょうのATPを要求ようきゅうするため、酸化さんかてきリン酸化さんかあるいはひかりリン酸化さんかがおこなわれる条件じょうけんでのみ窒素ちっそ固定こてい反応はんのうられる。さらにニトロゲナーゼ活性かっせい酵素こうそ発現はつげんりょう調節ちょうせつおよびADPの拮抗きっこう阻害そがいによっておこなわれる。ニトロゲナーゼは生産せいさんぶつであるアンモニアの存在そんざいによって発現はつげんりょう低下ていかする。アンモニア自体じたいはニトロゲナーゼ反応はんのう阻害そがい物質ぶっしつにはならない。ADPの拮抗きっこう阻害そがいについて、リボシルされたADPがニトロゲナーゼ還元かんげん酵素こうそ強力きょうりょく阻害そがいざいとなることがあきらかになっている[31]。ADPのリボシルはニトロゲナーゼ還元かんげん酵素こうそADPリボシル転移てんい酵素こうそ(DRAT: Dinitrogenase Reductase ADP-ribosyltransferase)がかかわっており、ほん酵素こうそくら条件じょうけんひかりリン酸化さんかがおこなわれない条件じょうけん)やアンモニウムしお添加てんかによって誘導ゆうどうされる。リボシルADPによって阻害そがいされたニトロゲナーゼ還元かんげん酵素こうそはニトロゲナーゼ還元かんげん酵素こうそ活性かっせいグリコヒドロキシラーゼ(DRAG: Dinitrogenase Reductase Activating Glycohydrolase)によってづけかつされ、さい活性かっせいする。DRATおよびDRAGはともに精製せいせいされ、性状せいじょう解析かいせきがおこなわれている[32]

酸素さんそたいせい機構きこう[編集へんしゅう]

窒素ちっそ固定こてい反応はんのうふるくからられていたが、1960ねんのCarnahanの細胞さいぼうしるべひん抽出ちゅうしゅつまでながらく生化学せいかがくてき性質せいしつあきらかではなかった[19][20]。Carnahanは酸素さんそ極力きょくりょく除去じょきょし、通常つうじょう4 ℃であつかタンパク質たんぱくしつしるべひんを20 ℃であつかうことによってニトロゲナーゼの活性かっせい残存ざんそんさせることに成功せいこうした。ニトロゲナーゼ還元かんげん酵素こうそおよびニトロゲナーゼりょうたいのいずれも酸素さんそたいして不可ふかぎゃくしつかつする。ニトロゲナーゼ還元かんげん酵素こうそ空気くうき暴露ばくろたいする半減はんげん(t1/2)は30びょう、そしてニトロゲナーゼりょうたいのt1/2は4ふんである[1]

上述じょうじゅつのように、嫌気いやけせいきん以外いがいにも通性つうせい嫌気いやけせいきんこう気性きしょうきんそして根粒こんりゅうきんがニトロゲナーゼ活性かっせいゆうしている。嫌気いやけせいきんについては完全かんぜん嫌気いやけ状態じょうたいでなければ窒素ちっそ固定こてい反応はんのうおこなわない。また通性つうせい嫌気いやけせいきんについては酸素さんそ濃度のうどが1キロパスカル以下いか条件じょうけんでなければ窒素ちっそ固定こてい反応はんのう同様どうようおこなわれない。また、A. vinelandiiのようなこう気性きしょう細菌さいきんについてはみずからのたか酸素さんそ呼吸こきゅう活性かっせいによって細胞さいぼう周辺しゅうへん酸素さんそ極力きょくりょく除去じょきょし、なおかつニトロゲナーゼの立体りったい構造こうぞうちがいによって酸素さんそ影響えいきょう回避かいひしている[2][33]

根粒こんりゅうきんについては酸素さんそたか親和しんわせいゆうするレグヘモグロビン根粒こんりゅう周囲しゅうい配置はいちすることによってニトロゲナーゼけいから酸素さんそ除去じょきょしている。レグヘモグロビンにとりこまれた酸素さんそはニトロゲナーゼけいれることなく、植物しょくぶつ吸収きゅうしゅうされ、体内たいない酸化さんかてきリン酸化さんかもちいられる[2]

シアノバクテリア光化学こうかがくけいのIとIIを同時どうじゆうし、酸素さんそ発生はっせいがた光合成こうごうせいをおこなう。したがって、ニトロゲナーゼけいとはきわめて相性あいしょうわるい。しかしながらAnabaenaぞくのような繊維状せんいじょうのシアノバクテリアは酸素さんそ発生はっせいする光化学こうかがくけいIIを細胞さいぼうから除去じょきょしたヘテロシスト異質いしつ細胞さいぼう)にニトロゲナーゼを発現はつげんし、窒素ちっそ固定こてい反応はんのうおこなっている[10]。しかしながら、繊維状せんいじょう形態けいたいをとらない単細胞たんさいぼうのシアノバクテリア(Trichodesmiumぞくなど)においてもニトロゲナーゼけいおよび窒素ちっそ固定こてい反応はんのう確認かくにんされている。そうしたシアノバクテリアは昼間ひるま光合成こうごうせいおこないATPを蓄積ちくせきしたのちに、夜間やかん窒素ちっそ固定こてい反応はんのうおこなうといった方法ほうほうをとっている[2]。ただし、光合成こうごうせい窒素ちっそ固定こてい同時どうじおこなうシアノバクテリアもつかっており、それらの機構きこうについてはいまだなぞつつまれている[34]

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

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