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ノックスの十戒じっかい

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』

ノックスの十戒じっかい(ノックスのじっかい、えい: Knox's Ten Commandments)は、ロナルド・ノックスが、1928ねん編纂へんさん刊行かんこうしたアンソロジー THE BEST DETECTIVE STORIES OF THE YEAR 1928 (ヘンリー・ハリントンと共編きょうへん[1]序文じょぶんにおいて発表はっぴょうした、推理すいり小説しょうせつさいのルールである[2]。「探偵たんてい小説しょうせつ十戒じっかい」(えい: Detective Story Decalogue[3][4]ともいう。ほん記事きじではたんに「十戒じっかい」と表記ひょうきする。

S・S・ヴァン=ダインによる「ヴァン・ダインのじゅうのり」とならんで推理すいり小説しょうせつ基本きほん指針ししんとなっている。

日本にっぽんでは探偵たんてい小説しょうせつ甲賀こうが三郎さぶろうが1935ねん雑誌ざっし月刊げっかん探偵たんてい』で紹介しょうかい(「探偵たんてい小説しょうせつ入門にゅうもん」1935ねん12がつごう、1936ねん1がつごう、4がつごう)、よく1936ねん3がつには評論ひょうろん翻訳ほんやく井上いのうえ良夫よしおが、ノックス『陸橋りっきょう殺人さつじん事件じけん』の翻訳ほんやく柳香りゅうこう書院しょいん世界せかい探偵たんてい名作めいさく全集ぜんしゅうだい5かん)の訳者やくしゃ序文じょぶん[5]紹介しょうかいした[6]戦後せんご江戸川えどがわ乱歩らんぽが1951ねん刊行かんこう評論ひょうろんしゅう幻影げんえいじょう冒頭ぼうとうおさめた「探偵たんてい小説しょうせつ定義ていぎ類別るいべつ」でげている[7]

なお、「十戒じっかい」を意図いとてきやぶった作品さくひんや、「十戒じっかい」の記述きじゅつ逆手さかてにとったトリックもちいた作品さくひん数多かずおお存在そんざいしている。ノックス自身じしん「すべての作家さっかにルール厳守げんしゅのぞむわけではなく、げんにこの選集せんしゅう採録さいろくしたいくへんにも、ルール違反いはんあきらかに見受みうけられる」[8]みとめている。ノックス自身じしんも「十戒じっかい」をやぶった作品さくひん発表はっぴょうしており[ちゅう 1]、ユーモア精神せいしんから冗談じょうだん半分はんぶんかれたとする見方みかたおおい。[よう出典しゅってん]

内容ないよう

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  1. 犯人はんにんは、物語ものがたり当初とうしょ登場とうじょうしていなければならない。ただしそのしんうごきが読者どくしゃみとれている人物じんぶつであってはならない。
  2. 探偵たんてい方法ほうほうに、ちょう自然しぜん能力のうりょくもちいてはならない。
  3. 犯行はんこう現場げんばに、秘密ひみつあな通路つうろふた以上いじょうあってはならない(ひと以上いじょう、とするのは誤訳ごやく)。
  4. 発見はっけん毒薬どくやく難解なんかい科学かがくてき説明せつめいようする機械きかい犯行はんこうもちいてはならない。
  5. 主要しゅよう人物じんぶつとして「中国人ちゅうごくじん」を登場とうじょうさせてはならない。
  6. 探偵たんていは、偶然ぐうぜん第六感だいろっかんによって事件じけん解決かいけつしてはならない。
  7. 変装へんそうして登場とうじょう人物じんぶつだま場合ばあいのぞき、探偵たんてい自身じしん犯人はんにんであってはならない。
  8. 探偵たんていは、読者どくしゃ提示ていじしていないがかりによって解決かいけつしてはならない。
  9. サイドキック[ちゅう 2]は、自分じぶん判断はんだんすべ読者どくしゃらせねばならない。また、その知能ちのうは、一般いっぱん読者どくしゃよりもごくわずかにひくくなければならない。
  10. 双子ふたご一人ひとりやくは、あらかじ読者どくしゃらされなければならない。

補足ほそく

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だい1戒

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ノックスはアガサ・クリスティ作品さくひんのいくつか(具体ぐたいてき作品さくひんめいげられていない)が違反いはんれいになるとしている[9]江戸川えどがわ乱歩らんぽ具体ぐたいれいとして「物語ものがたり記述きじゅつしゃ犯人はんにん」のケースをげている[4]

だい2戒

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ノックスはブラウン神父しんぷものについて、「犯罪はんざい魔力まりょくによるものとおもわせることで読者どくしゃあざむく」ことを批判ひはんしている[9]江戸川えどがわ乱歩らんぽ具体ぐたいれいとして「神託しんたく読心術どくしんじゅつなど」をげている[4]

だい3戒

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ノックスは、秘密ひみつ通路つうろ許容きょようされるケースについて「事件じけん舞台ぶたいとなる建物たてものに、そのような設備せつびがあってもおかしくない場合ばあいかぎってゆるされる」としている[10]

だい4戒

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ノックスは違反いはんれいとしてソーンダイク博士はかせものをげている[10]

だい5戒

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ノックス自身じしん説明せつめい以下いかとおりである。

なぜこれがルールのーつであるのか、筆者ひっしゃ自身じしんにも明確めいかく説明せつめいができかねるが、われわれ西欧せいおうじんのあいだには、“中国人ちゅうごくじん頭脳ずのう優秀ゆうしゅうでありながら、モラルのてんおとものおおい”との偏見へんけん根強ねづよい。したがって――筆者ひっしゃ観察かんさつした事実じじつ指摘してきするだけだが――“チン・ルーのなが”といった描写びょうしゃ出合であったら、即座そくざにページをじるのが賢明けんめい処置しょちであろう。それは出来できのよい作品さくひんではないのである。筆者ひっしゃおもかぶ唯一ゆいいつ例外れいがいは――まだほかにもすうへんはあるのだろうが――アーネスト・ハミルトンきょう英語えいごばんの『メムワースのよっつの悲劇ひげき』だけである。 [11]

江戸川えどがわ乱歩らんぽは「西洋せいようじんには中華ちゅうかじんママ〕はなんとなくちょう自然しぜんちょう合理ごうりかんじをあたえるからであろう」という解釈かいしゃくしめしている[12]

だい7戒

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ノックスは「このルールの適用てきようは、探偵たんてい物語ものがたり真実しんじつ意味いみにおいて探偵たんていであることを、作者さくしゃ自身じしん保証ほしょうしている場合ばあいにかぎる」としている[13]

だい10戒

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ノックスは補足ほそくとして、犯人はんにん人並ひとなはずれた変装へんそう能力のうりょくたせることもみとめるべきではない、ただし、舞台ぶたい経験けいけんがあるなどといったことをあらかじめ読者どくしゃにほのめかしている場合ばあいのぞく、としている[14]

評価ひょうか

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江戸川えどがわ乱歩らんぽは『幻影げんえいじょう』において、ヴァン・ダインのじゅうそくとともに「このふたつの戒律かいりつは、わば探偵たんてい小説しょうせつ初等しょとう文法ぶんぽうであって、力量りきりょうのある作家さっかはこういう文法ぶんぽう無視むししてすぐれた作品さくひんいているれいおおく、現在げんざいではもう戒律かいりつなどの時代じだいとおりすぎているのだが、いちきゅうはちねんごろには、えいべいともなぞ小説しょうせつ愛好あいこうしん高潮こうちょうし、こういう戒律かいりつまでうまれたというてんふか興味きょうみがある」とひょうしている[12]

派生はせい作品さくひん

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だい5戒は、その奇妙きみょう内容ないようからいくつかの小説しょうせつ題材だいざいとなっている。

小林こばやし信彦のぶひこは「クアラルンプールの密室みっしつ」(『超人ちょうじん探偵たんてい新潮社しんちょうしゃ、1981ねん所収しょしゅう)で、イギリスじんにとって中国人ちゅうごくじん見分みわけがつかないのであつかいにこまる、という解釈かいしゃくしめしている。

ほうがつ綸太ろうの『ノックス・マシン』(角川書店かどかわしょてん、2013ねん)は、だい5戒のなぞをSF仕立したてで解明かいめいする、という設定せってい作品さくひんである[15]

また、玩具おもちゃどうライトノベルである『探偵たんていくんとするど山田やまださん』(KADOKAWA、2020ねん)では、ノックスの十戒じっかいおよヴァン・ダインのじゅうのりのっとり、ほんさくキャラクター作中さくちゅう登場とうじょうする推理すいり小説しょうせつを、中身なかみまずに表紙ひょうしカバーにかれたあらすじと登場とうじょう人物じんぶつだけを犯人はんにん特定とくていするシーンがある。

脚注きゃくちゅう

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注釈ちゅうしゃく

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  1. ^ ヴァン・ダインのじゅうのり同様どうよう
  2. ^ 探偵たんてい助手じょしゅとなるもの、いわゆるワトスンやくのこと。

出典しゅってん

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  1. ^ 日本語にほんごやく宇野うのとしやすし深町ふかまち眞理子まりこわけ探偵たんてい小説しょうせつ十戒じっかい晶文社しょうぶんしゃ、1989ねんISBN 4-7949-5797-1抄訳しょうやく
  2. ^ The Rules of the Game
  3. ^ ノックス 2003, p. 94.
  4. ^ a b c 江戸川えどがわ 1979, p. 32.
  5. ^ ノックス 1936.
  6. ^ 真田さなだ 2017, p. 260.
  7. ^ 江戸川えどがわ 1979, p. 32-33.
  8. ^ ノックス 1989, p. 13.
  9. ^ a b ノックス 1989, p. 14.
  10. ^ a b ノックス 1989, p. 15.
  11. ^ ノックス 1989, pp. 15–16.
  12. ^ a b 江戸川えどがわ 1979, p. 33.
  13. ^ ノックス 1989, p. 16.
  14. ^ ノックス 1989, pp. 17–18.
  15. ^ 真田さなだ 2017, p. 270.

参考さんこう文献ぶんけん

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関連かんれん項目こうもく

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