ファストバック

ファストバック（英語えいご: fastback）は、自動車じどうしゃのスタイル・外観がいかんの分類ぶんるいの1つである。車体しゃたいにおける「バック」とは、背面はいめんおよび後こう面めん（合あわせて後背こうはい面めん）を指さし、屋根やねから車体しゃたい後ご端はしにかけて一いち続つづきの傾斜けいしゃを持もつことによって特徴付とくちょうづけられる。

かつてのレーシングカーに見みられた、屋根やねからの線せんが下さがりきらないまま後端こうたんをほぼ垂直すいちょくに切きり取とったようなスタイルをカムバック（カムテール）と呼よぶが、市販しはん車しゃではこれもファストバックの一種いっしゅとされており、さらに、米国べいこくでは、AMC・グレムリンのような後のち背面はいめんが比較的ひかくてき直立ちょくりつした「2ボックスカー」もカムバックと呼よんでいるため、これらの区別くべつは曖昧あいまいになっている。

フォード・マスタングやトヨタ・セリカ、トヨタ・カローラのような一部いちぶの車種しゃしゅには、同どう一いち世代せだいにファストバックのハードトップとノッチバックのクーペがあったが、消費しょうひ者しゃが嗜好しこうや用途ようとによって選えらべるよう、異ことなった性格せいかく付づけのうえ訴求そきゅうされていた。今日きょう、ファストバックセダンは、一般いっぱん的てきにトランクが付ついているものは「4ドアクーペ」、トランクではなくバックドアが付ついているものは「5ドアクーペ」、もしくは「5ドアセダン（サルーン）」としてブランディングされている。

定義ていぎ

ファストバックは、屋根やねから車両しゃりょうの後部こうぶにかけて単一たんいつの傾斜けいしゃを持もつものとして定義ていぎされることが多おおい。

より具体ぐたい的てきには、「ロード&トラック」誌しはファストバックを以下いかのように定義ていぎしている。

閉とじたボディスタイル。大抵たいていはクーペだがセダンの場合ばあいもある。屋根やねはフロントガラスから車くるまの後端こうたんまで途切とぎれずに徐々じょじょに傾斜けいしゃしている。ファストバックはハッチバック構成こうせいに適てきしているが、全すべてのハッチバックがファストバックではなく、その逆ぎゃくもまたしかりである。

フォード・マスタングの場合ばあいは、「ファストバック」という用語ようごはノッチバッククーペ（立たち気味ぎみのリアウインドウと水平すいへいに近ちかいトランクリッドを持もつ）と区別くべつするために使つかわれる。

1973年ねん（昭和しょうわ48年ねん）にトヨタ自動車とよたじどうしゃが作つくり出だした「リフトバック」という呼称こしょうは、背中せなかが持もち上あがるという意味いみのとおり、バックドアを持もったファストバッククーペを指さす（en:Liftback）。

歴史れきし

スタウト・スカラブ（1935年ねん）
最初さいしょ期きのファストバック車しゃ

1930年代ねんだいの自動車じどうしゃデザイナーは航空機こうくうきの空気くうき力学りきがくを応用おうようし、自動車じどうしゃにおいても流ながれ線形せんけい車両しゃりょうが流行りゅうこうするきっかけとなった（自動車じどうしゃの空気くうき力学りきがく）。こういったデザインの例れいには滴しずくのような流りゅう線形せんけいがあり、これは25年ねん後ごに「ファストバック」と呼よばれるようになるものと類似るいじした形態けいたいであった。メリアム＝ウェブスター辞典じてんは1954年ねんに「fastback」という用語ようごを初はじめて認みとめた。これは「ハッチバック」という用語ようご（1970年代ねんだいに辞書じしょに入はいった）が大衆たいしゅう化かするより何なん年ねんも前まえのことだった。これらの用語ようごが相互そうごに排他はいた的てきであるか否ひかについては意見いけんが分わかれている。

ファストバック車しゃの初期しょきの例れいには、1929年ねん式しきオーバーン・キャビン・スピードスター、1933年ねん式しきキャデラック・V-16エアロダイナミック・クーペ、1935年ねん式しきスタウト・スカラブ、1933年ねん式しきパッカード・1106トゥエルブ・エアロ・スポーツ・クーペ、ブガッティ・タイプ57SC アトランティーク・クーペ、タトラ・T87、ポルシェ・356、サーブ・92/96、スタンダード・ヴァンガード、GAZ-M20 ポピェーダ、ベントレー・コンチネンタルR-タイプなどがある。

北米ほくべいおよび欧州おうしゅう

キャデラック・シリーズ62

北米ほくべいでは、ファストバック車しゃのための広告こうこく表現ひょうげんとして「エアロセダン」、「クラブ・クーペ」、「セダネット」、「トーピード・バック」など様々さまざまな用語ようごが使つかわれた。これらの車くるまには、キャデラックのシリーズ61およびシリーズ62・クラブ・クーペや、ゼネラルモーターズ、フォード、クライスラーの様々さまざまなモデルがあった。1940年代ねんだい初頭しょとうから1940年ねんまでは、ほぼ全すべての米国べいこく国内こくないメーカーがモデルラインナップ内ないに少すくなくとも1つのファストバック車しゃを揃そろえていた。1960年代ねんだい中頃なかごろにファストバックスタイルがGMとフォードの多おおくの製品せいひんで復活ふっかつし、1970年代ねんだい中頃なかごろまで続つづいた。欧州おうしゅうでは、早はやければ1945年ねんにはリアに向むかって傾斜けいしゃした流ながれ線形せんけいの車くるまが存在そんざいした。フォルクスワーゲン・ビートルとポルシェ・356の形状けいじょうはこれらに由来ゆらいする。

オーストラリア

オーストラリアでは、ファストバック車しゃ（「スローパー "sloper"」と呼よばれた）は1935年ねんに導入どうにゅうされた。デザインを手掛てがけたのはGM傘下さんかのホールデンで、オールズモビルやシボレー、ポンティアックのシャシが使つかわれた。スローパーのデザインはオーストラリアのRichards Body Buildersによって、1937年ねんにダッジとプリムスブランドのモデルに取とり入いれられた。また、1939年ねんと1940年ねんにはフォード・オーストラリアにも採用さいようされた。自動車じどうしゃ史家しかのG・N・ジョルガノによれば、「スローパーは当時とうじ、先進せんしん的てきな車くるまだった」。

日本にっぽん

三菱みつびし・コルト1100F

マツダ・MAZDA3 FASTBACK

ホンダ・シビック（11代目だいめ）

トヨタ・プリウス（5代目だいめ）

日本にっぽん車しゃでは、トヨダ・AA型がた乗用車じょうようしゃ（1936年ねん）が初はじめてファストバックスタイルを採用さいようした。これはデソート・エアフロー（1933年ねん）に強つよく影響えいきょうされたものであった。その後ご、三菱みつびし・コルト800（1965年ねん）が戦後せんご初はつのファストバック車しゃとなり（次ついで3代目だいめトヨタ・コロナに追加ついか設定せっていされた5ドアセダン〈1965年ねん〉）、スバル・360（1958年ねん）は軽自動車けいじどうしゃで初はじめてファストバックスタイルを採用さいようした。その他た、1963年ねんにはプリンス自動車じどうしゃ工業こうぎょうがファストバックボディを持もつ「スカイライン1900スプリント」を開発かいはつしているが、市販しはんには至いたらなかった。

その後ごもホンダ・N360（1967年ねん）、トヨタ・カローラスプリンター（1968年ねん）、日産にっさん・サニークーペ（1968年ねん）、マツダ・ファミリアロータリークーペ（1968年ねん）、スズキ・フロンテ（1970年ねん）、ダイハツ・フェローMAX（1971年ねん）など、日本にっぽんの全ぜん自動車じどうしゃメーカーがファストバックを採用さいようした。1960年代ねんだいから1970年代ねんだいにかけては、アメリカのコークボトル・スタイリングが人気にんきを博はくした（トヨタ・セリカリフトバックなど）。

4ドアクーペ

メルセデス・ベンツ・CLSクラス（初代しょだい）

2004年ねんに初代しょだいメルセデス・ベンツ・CLSクラスが発売はつばいされると、決定的けっていてきな路線ろせん変更へんこうが行おこなわれた。CLSクラスは「4ドアクーペ」と銘打めいうって売うり出だされたが、この用語ようごはファストバックセダンを指さす純粋じゅんすいな広告こうこく表現ひょうげんであった。CLSクラスはこの市場いちば区分くぶんの先駆さきがけとみなされているが、以前いぜんからあったコンセプトを再さい解釈かいしゃくしただけである。同様どうようのレイアウトは、1992年ねん登場とうじょうの日産にっさん・レパード J.フェリーなどでもみられた。

アウディ・A7やBMW・6シリーズグランクーペなどの競合きょうごうモデルもこれに続つづき、さらにはフォルクスワーゲン・CC、アストンマーティン・ラピード、ポルシェ・パナメーラといった別べつセグメントのモデルもこの流行りゅうこうに追随ついずいした。

空気くうき力学りきがく的てき利点りてん

ファストバック（下した）はノッチバック（上うえ）スタイルよりも生成せいせいする抗力こうりょくが小ちいさい。

ファストバックスタイルは抗力こうりょく係数けいすうを低ひくく抑おさえられ、空気くうき力学りきがく的てき車両しゃりょうの開発かいはつにおいて優位ゆうい性せいがある。例たとえば、風洞ふうどう実験じっけんは行おこなわれなかったものの、ハドソンは第だい二に次じ世界せかい大戦たいせん後ごの車くるまを空気くうき力学りきがくの原理げんりを応用おうようしているように見みえるように設計せっけいし、「ナッシュによって後のちに行おこなわれた試験しけんでは、ハドソン車しゃが同どう時代じだいのノッチバックセダンよりもほぼ20 %抗力こうりょくが小ちいさいことが明あきらかにされた」。