ベクター画像がぞう

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ベクトル形式けいしきから転送てんそう

ベクター画像がぞう(ベクターがぞう、えい: vector graphics)は、コンピュータグラフィックスなどにおいて、画像がぞうえん直線ちょくせんなどのような解析かいせき幾何きかがくてきな「図形ずけい」のあつまりとして表現ひょうげんする表現ひょうげん形式けいしきである。平面へいめんスキャンし、そのかくてん濃淡のうたんあつまりによって画像がぞう表現ひょうげんする「ビットマップ画像がぞう」(ラスター形式けいしき)と対置たいちされる。それを描画びょうがする操作そうさとして(仮想かそうの)絵筆えふでうごかすようなスタイルになることから、ドロー形式けいしき、ドローグラフィックなどともばれる。

座標ざひょう[編集へんしゅう]

ビットマップ画像がぞう通常つうじょう[ちゅう 1]、データの順序じゅんじょによって座標ざひょう間接かんせつてきしめすのとことなり、ベクター画像がぞうはオブジェクトごとに座標ざひょう明示めいじてき指定していするものがおおい。

直交ちょっこう座標ざひょう極座標きょくざひょう[編集へんしゅう]

縦横じゅうおう位置いちあらわす「直交ちょっこう座標ざひょう」と、方向ほうこう距離きょりあらわす「極座標きょくざひょう」がある。極座標きょくざひょうのほうが便利べんり場合ばあいもあり、たとえば一般いっぱん回転かいてんかくについてなど、厳密げんみつ結果けっか保存ほぞんするために極座標きょくざひょう必要ひつようなこともあるが、通常つうじょう直交ちょっこう座標ざひょうのほうがあつかいやすい。また円弧えんこ指定していなどでも併用へいようされる。

絶対ぜったい座標ざひょう相対そうたい座標ざひょう[編集へんしゅう]

つねにグローバルな原点げんてんをベースとする「絶対ぜったい座標ざひょう」と、オブジェクトからの位置いち関係かんけいや、最終さいしゅう参照さんしょう位置いちとの相対そうたいあらわす「相対そうたい座標ざひょう」がある。

たとえば、LOGOなどの「タートルグラフィックス」では、もともと、コンピュータから制御せいぎょされる、実体じったいったロボット(みぎ写真しゃしん参照さんしょう)を制御せいぎょするというモデルをベースとしていたこともあり、相対そうたい座標ざひょう基本きほんである。

この2種類しゅるいもやはり併用へいようされることもおおい。全体ぜんたいたいする(グローバルな)絶対ぜったい座標ざひょうによりあるオブジェクト(図形ずけいのグループ)の原点げんてん座標ざひょうけい)を指定していし、そのグループない図形ずけいはその(ローカルな)座標ざひょうけい使つかって定義ていぎする、といったかんじである。そのようにすると、たとえば、ローカルな座標ざひょうけいたい移動いどう変換へんかんけるだけで、そのグループ自体じたいには干渉かんしょうすることなくその全体ぜんたい移動いどう変形へんけいさせることができる。

オブジェクト[編集へんしゅう]

プリミティブとふくあい[編集へんしゅう]

複数ふくすう図形ずけいのグループや、ステンシルとしての使用しようなど複数ふくすう図形ずけいわせる方法ほうほうと、それらのもとになるプリミティブが用意よういされていることがおおい。

プリミティブ[編集へんしゅう]

プリミティブのれいとしては、ライン(線分せんぶん)やポリゴン(多角たかくがた)、サークル(えん)、カーブ(円弧えんこえん一部いちぶ)などがある。高機能こうきのうなアプリケーションにおいてはベジェ曲線きょくせん自由じゆう操作そうさできる。その代表だいひょうてき製品せいひんAdobe IllustratorCorelDRAWがある。

これ以外いがいにもスプライン曲線きょくせんなどの図形ずけい基本きほん図形ずけいとして使つかえるアプリケーションもある。また、ビットマップもオブジェクトとしてあつかえるようになっている場合ばあいおおい。

パス[編集へんしゅう]

てんむすばれたせん図形ずけいあらわす。むすばれたせん終点しゅうてん始点してんかさなった、四角よつかどえん多角たかくがたなどのじた図形ずけい内部ないぶ領域りょういきを「めん」とぶ。てん座標ざひょうと、せん属性ぞくせいせんふとさ、いろ破線はせん実線じっせんなど)、せんかこまれためん属性ぞくせいいろや、パターンなど)、で表現ひょうげんされる。てんせんめんのそれぞれのさまざまな性質せいしつ、たとえば、せんおこり終点しゅうてん位置いち曲線きょくせんであればそのがりかたふとさ、いろ、それらせんかこまれためんいろ、などの変化へんかのしかたなどを数値すうちあらわす。SVGでは、任意にんいのアウトラインを表現ひょうげんするために、このプリミティブを大量たいりょうのデータをともなって多用たようすることを考慮こうりょしたデータ形式けいしき(path要素ようそのd属性ぞくせい)となっている。

文字もじ[編集へんしゅう]

文字もじ(ないし文字もじれつ)もオブジェクトとしてあつかえることがおおい。文字もじ自身じしん文字もじコード座標ざひょうほかフォント、サイズ、いろ変形へんけい方法ほうほうなどが指定していできることがおおい。サイズにはのオブジェクト同様どうようの、座標ざひょうやミリ単位たんいほかに、ポイントなど文字もじとしてあつかいやすい単位たんい使つかえることがおおい。

ビットマップ[編集へんしゅう]

ビットマップ画像がぞうもひとつのオブジェクトとしてあつかうことができるものもおおい。えがかれる座標ざひょう縦横じゅうおう表示ひょうじじょうのサイズ(または縦横じゅうおう解像度かいぞうど拡大かくだいりつ)をつ。場合ばあいによっては、描画びょうが方向ほうこう回転かいてん角度かくど反転はんてんじく)、アフィン変換へんかんなどの変形へんけい情報じょうほうつこともある。ビットマップデータは、埋込うめこ方式ほうしきのものもあれば、外部がいぶのファイルなどを参照さんしょうする方式ほうしきもある。おおきな画像がぞうデータなどでは後者こうしゃ方法ほうほうあつかえたほうがまわしがいが、ファイル1個いっこ必要ひつようすべてのデータがはいっていない不便ふべんもある。

変換へんかん[編集へんしゅう]

おおくのドローソフトあるいはデータ形式けいしきでは、これらのオブジェクトにたいし、拡大かくだい縮小しゅくしょう回転かいてんなどをけることができる。一般いっぱんしてアフィン変換へんかんとしているものがおおい。共通きょうつう部分ぶぶん差分さぶんす、いわゆるブーリアン演算えんざんいているものがおおい。グラデーションや透明とうめい(アルファ、あるいは不透明ふとうめいopacity)などをあつかえるドローソフトやグラフィックフォーマットもある。透明とうめいふくんだ合成ごうせいかんする詳細しょうさいアルファチャンネル記事きじ参照さんしょう

ベクタイメージは、デバイス依存いぞん図形ずけい画像がぞう記述きじゅつするのにすぐれている。ラスタライズや印刷いんさつ処理しょりプログラムとうかくデバイスけにつくることができ、それぞれの描画びょうが指示しじのもととなる図形ずけい情報じょうほうだけをデータとしてあつかうことができるからである。このようなかんがかたからPostScriptPDFといったページ記述きじゅつ言語げんご描画びょうがモデルはベクタベースである。

3次元じげんコンピュータグラフィックスでは3次元じげん空間くうかんじょう多角たかくがたポリゴン)や曲面きょくめんひとしとして形状けいじょう作成さくせいする。これは2次元じげん図形ずけいであるベクタイメージを作成さくせいするとき、基本きほん図形ずけいわせて複雑ふくざつ図形ずけいイメージをつくることと非常ひじょうている。この3次元じげん図形ずけいイメージを透視とうし図法ずほうなどで2次元じげんのビットマップに変換へんかんする作業さぎょうレンダリングぶが、これは、形状けいじょう位置いちのほかに、ひかりのあたり具合ぐあいなども計算けいさんしなければならないので、2次元じげんのラスタライズの処理しょりくらべはるかに複雑ふくざつである。そのためゲームなどの速度そくどようするレンダリングでは、曲面きょくめんもちいずに平面へいめんであるポリゴンあつまりで物体ぶったい表現ひょうげんするのが普通ふつうである。

フォーマット[編集へんしゅう]

macOS使つかわれるQuickDrawDTP使つかわれるPostScriptCADきゃど使つかわれるHP-GLなどがある。PostScriptやHP-GLなど「図形ずけい処理しょり言語げんご」とばれるものは、形状けいじょう表現ひょうげんだけではなくプログラミング言語げんごてき機能きのうつものがある(とくに、PostScriptはほとんど汎用はんよう言語げんごみの能力のうりょくがある)。アプリケーションだけでなく、プリンタ内部ないぶにもそれらの言語げんご処理しょりけい用意よういされ、スピーディにラスタライズできる機種きしゅがある。

アプリケーション[編集へんしゅう]

ドローソフトばれる。以下いかには、ドローソフトの機能きのうそなえる汎用はんようのグラフィックソフトをふくむ。

画像がぞうフォーマット[編集へんしゅう]

ビットマップ画像がぞうとの変換へんかん[編集へんしゅう]

ベクター画像がぞうのラスター[編集へんしゅう]

ベクター画像がぞうのイメージデータは容易よういにビットマップ画像がぞう変換へんかんできる。おおくの場合ばあいOSにその機能きのうAPIがあるので、アプリケーションはその機能きのうすだけでよい。ディスプレイのなんばいもの画素がそすうであっても、内部ないぶ仮想かそうフレームバッファ設定せっていすれば可能かのうとなるが、そのためにはおおきなメモリ必要ひつようである。

ビットマップ画像がぞうのベクター[編集へんしゅう]

ぎゃく一般いっぱんむずかしい。なぜなら、ぎゃく問題もんだいだからである。一部いちぶ高度こうどなソフトにはベクター機能きのうつものもあるが、かならずしも万能ばんのうではない。2016ねん現在げんざいでも、あたらしい手法しゅほう提案ていあんなどが学会がっかいとうでの研究けんきゅう発表はっぴょうられる分野ぶんやである。

パフォーマンス[編集へんしゅう]

ベクタイメージ ビットマップ
ベクタイメージ ビットマップ
ベクタイメージ ビットマップ
ベクタイメージ ビットマップ
ベクタイメージは品質ひんしつ劣化れっかなくサイズを変更へんこう可能かのう

画像がぞうをピクセルの集合しゅうごう表現ひょうげんしようとするビットマップとくらべ、拡大かくだい縮小しゅくしょう、その変形へんけいほどこしても図形ずけいイメージが基本きほんてき劣化れっかしないという特性とくせいつ。単純たんじゅん図形ずけい構成こうせいされている場合ばあい、ビットマップ画像がぞうよりもデータサイズはちいさい。

しかしながら、写真しゃしんのような画像がぞうからせんめん抽出ちゅうしゅつして数値すうちすることは現在げんざい技術ぎじゅつでは困難こんなんであり、実際じっさいには、はじめからグラフィックソフトウェア使用しようしてベクタイメージを作成さくせいする場合ばあいのぞいては、画像がぞうアプリケーションには使つかわれない。すなわち、ロゴやリアリスティックなイラストにはくが、そのほかの一般いっぱん画像がぞうには不向ふむきである。ぎゃく文字もじフォントデザインにおいては、拡大かくだい縮小しゅくしょうその変形へんけい容易よういなことから、多用たようされる。このようなベクタイメージの手法しゅほうもちいた文字もじフォントを「アウトラインフォント」とぶ。

出力しゅつりょく[編集へんしゅう]

ディスプレイ[編集へんしゅう]

ラスタースキャンディスプレイにはラスタライズして表示ひょうじされる。

1950〜1980年代ねんだいのコンピュータでは、ラスタースキャンでのこう精細せいさい表示ひょうじ高価こうかにつき(ラスタースキャンに必要ひつようなフレームバッファを構成こうせいできる性能せいのう容量ようりょうのメモリなどのため)むずかしいことから、図形ずけい表示ひょうじ目的もくてきに、ベクタースキャンディスプレイがもちいられていた(また当時とうじプロッター活用かつようされた)。CADきゃどなどで使つかわれた。ベクタースキャンでは、スキャンのはやさをえることでも輝度きどえることができる。これにたいしラスタースキャンでは、ブラウン管ぶらうんかん電子でんしじゅう表示ひょうじめん均等きんとう走査そうさするのであって、輝度きど電子でんしじゅうからの電子でんしせんつよさを変調へんちょうすることで表現ひょうげんしている。

かみへの出力しゅつりょく[編集へんしゅう]

プリンターおおくもディスプレイ同様どうよう、ラスタスキャンをおこなっている。それゆえアウトラインフォントのテキストやベクタイメージを印刷いんさつするときは、OSうえもしくはプリンターの内部ないぶで、こう解像度かいぞうどにラスタライズされてから印刷いんさつしている。

プロッターは、ベクター画像がぞうのデータを直接ちょくせつ印刷いんさつする。これはペンなどを移動いどうさせて作図さくずしており、図形ずけい処理しょり言語げんご座標ざひょう指定していして作図さくずすることからX-Yプロッタともばれる。プロッターは設計せっけい図面ずめん印刷いんさつなどにもちいられる。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

注釈ちゅうしゃく[編集へんしゅう]

  1. ^ ビットマップ画像がぞうでも、部分ぶぶんてき差分さぶんなどのために座標ざひょういているデータもすくなくない。