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ホライモリ

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ホライモリ
ホライモリ Proteus anguinus
保全ほぜんじょうきょう評価ひょうか[1]
VULNERABLE
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類ぶんるい
ドメイン : かく生物せいぶつ Eukaryota
さかい : 動物界どうぶつかい Animalia
もん : 脊索せきさく動物どうぶつもん Chordata
もん : 脊椎動物せきついどうぶつもん Vertebrata
つな : 両生りょうせいつな Amphibia
: 有尾ありお Caudata/Urodela
: ホライモリ Proteidae
ぞく : ホライモリぞく
Proteus Laurenti, 1768[2]
たね : ホライモリ P. anguinus
学名がくめい
Proteus anguinus Laurenti, 1768[1][2]
シノニム
  • Siren anguina Shaw, 1802
  • Hypochthon zoisii Fitzinger, 1850
  • Proteus zoisii Cope, 1866
  • Proteus carrarae Cope, 1866
  • Proteus xanthostictus Cope, 1866
  • Proteus schreibersii Cope, 1866
  • Proteus anguinus freyeri
    Anonymous, 1922
  • Proteus zoisii McCrady, 1954
  • Proteus anguinus parkelj
    Sket & Arntzen, 1994
和名わみょう
ホライモリ[3]
英名えいめい
Olm[2][3][4]

分布域

ホライモリ(Proteus anguinus)は、両生りょうせいつな有尾ありおホライモリホライモリぞく分類ぶんるいされる有尾ありおるい現生げんなましゅではほんしゅのみでホライモリぞく構成こうせいする。

ヨーロッパられる洞穴どうけつせい生物せいぶつ洞穴どうけつ生物せいぶつ)として唯一ゆいいつ脊椎動物せきついどうぶつである。アホロートルのようにようがた成熟せいじゅくすることが特徴とくちょうで、生涯しょうがいわたってそとえらみずからることはない。ディナル・アルプス山脈さんみゃくカルスト洞穴どうけつ固有こゆうしゅで、スロベニアからイタリアトリエステながれるソカかわ英語えいごばん流域りゅういきから、クロアチア南西なんせいボスニア・ヘルツェゴビナ分布ぶんぷする[5]洞穴どうけつへの適応てきおうとして、発達はったつしないが聴覚ちょうかく嗅覚きゅうかく電気でんき機械きかい受容じゅようなどは非常ひじょう鋭敏えいびんである。前肢ぜんし後肢あとあしゆび通常つうじょう両生類りょうせいるいよりすくない[6]

からだしょくしろ白人はくじんはだていることから、スロベニアでは"じんさかな"を意味いみするスロベニア: človeška ribicaまたはクロアチア: čovječja ribicaばれる。英語えいごでは "olm"・"proteus"(プロテウス)・"cave salamander"・"white salamander"ともばれる[7]。スロベニアでは"湿しめくぐもの"を意味いみするmočeril というもある[8]ほんしゅかんする最初さいしょ言及げんきゅうは1689ねんヤネス・ヴァイカルト・ヴァルヴァソル著作ちょさくさかのぼる。 ほんしゅドラゴン幼体ようたいであるとする民間みんかん伝承でんしょうもあり、ドラゴンズベビーとのもある。 クロアチア天然記念物てんねんきねんぶつであり、ほんたね日本にっぽん唯一ゆいいつられるのは、あい地球ちきゅうはくでの展示てんじ寄贈きぞうされた、愛知あいちけん碧南へきなんにある碧南へきなん海浜かいひん水族館すいぞくかんだけである。

形態けいたい

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フランスの生物せいぶつ学者がくしゃガストン・ボニエによるイラスト (1907)

全長ぜんちょう20 - 30センチメートル[3]全長ぜんちょう30センチメートル以上いじょうたっすることはまれだが、亜種あしゅP. a. parkeljとされた個体こたい全長ぜんちょう40センチメートル以上いじょうたっすることもある[4]胴体どうたい円筒えんとうがたで、がわひらたする[3]からだうす皮膚ひふおおわれ、わずかなリボフラビン色素しきそ[9]によって黄白こうはくしょくからピンク色ぴんくいろ着色ちゃくしょくする[6]体側たいそくめんはいしわあばらじょう)は、左右さゆうに25-27ほんずつ[3]からだしょく通常つうじょうしろいが、灰色はいいろ黄色おうしょく・ピンクがかる個体こたいもいる[3]あかりしょ飼育しいくされた個体こたい色素しきそができるため、からだしょくあお灰色はいいろになる[3]色素しきそ沈着ちんちゃくした個体こたいは、後述こうじゅつのように亜種あしゅP. a. parkeljとして記載きさいされたこともある[4]ひかりしたでは腹部ふくぶ内臓ないぞう器官きかんけてえる。からだしょく白人はくじん皮膚ひふていることから、いくつかの言語げんごでは「ひとさかな」を意味いみするばれる。幼生ようせい着色ちゃくしょくしていることがある。頭部とうぶ洋梨ようなしがたで、みじかたてひらたした吻をつ。くち開口かいこうちいさく、微小びしょうふるいじょうとなり、水中すいちゅうおおきな粒子りゅうしる。鼻孔びこう判別はんべつできないほどちいさく、吻端のがわかた位置いちする。退すさちぢみしており、皮膚ひふそうおおわれる。呼吸こきゅう頭部とうぶ後方こうほうにある、2つの分岐ぶんきしたぼうからなるそとえらおこなわれる[6]そとえら酸素さんそ血液けつえき皮膚ひふしにえるため、赤色あかいろである。簡易かんいはいつが、その呼吸こきゅう機能きのう補助ほじょてきなものにぎない。

は、皮下ひかうずもれる[3]そとえらはサーモンピンク[3]前肢ぜんしゆびは3ほん後肢あとあしの趾は2ほん[3][4]

オスのそう排泄はいせつあな隆起りゅうきは、メスよりも大型おおがた細長ほそなが[4]

洞穴どうけつせい動物どうぶつひかり環境かんきょう生息せいそくするため、適応てきおうともに、視覚しかくによらない感覚かんかくけい発達はったつさせることがもとめられる[10]ほんしゅ地下水ちかすい生息せいそくするため、両生類りょうせいるいよりも視覚しかく以外いがい感覚かんかく発達はったつさせている。ほんしゅ成体せいたいでも幼生ようせい形態けいたい維持いじしているために頭部とうぶおおきく、多数たすう感覚かんかく受容じゅようつことが可能かのうとなっている[11]

退化たいかしているが、ひかりへの感受性かんじゅせいのこっている。幼体ようたい通常つうじょうつが、すぐに成長せいちょう停止ていしして退すさちぢみはじめ、4ヶ月かげつには最終さいしゅうてき萎縮いしゅくする[12]まつはてたいにも、退すさちぢみしてはいるがひかりかんじる細胞さいぼうがあり、同様どうよう視覚しかく色素しきそ保持ほじしている。まつはてたい生理学せいりがくてきプロセスの制御せいぎょにもある程度ていどかかわっている[13]行動こうどうがくてき実験じっけんによって、皮膚ひふ自体じたいにもひかりかんじる能力のうりょくがあることがしめされている[14]外皮がいひひかり感受性かんじゅせい特殊とくしゅした細胞さいぼうメラノフォア)にあるひかり受容じゅようたいメラノプシン)によるもので、予備よびてき免疫めんえき細胞さいぼう化学かがくてき解析かいせきによってもこの結果けっか裏付うらづけられている[15][16]

頭部とうぶ前方ぜんぽうには鋭敏えいびん化学かがく機械きかい電気でんき受容じゅよう存在そんざいする。

水中すいちゅう非常ひじょうてい濃度のうど有機ゆうき化合かごうぶつ検出けんしゅつでき、しつりょう両面りょうめんにおいて、両生類りょうせいるいより獲物えものにおいを検出けんしゅつする能力のうりょくたか[17]鼻孔びこう内面ないめんヤコブソン器官きかん裏打うらうちする嗅上がわは、両生類りょうせいるいよりあつくなっている[18]口内こうない粘膜ねんまく上皮じょうひにはあじつぼみがあり、ほとんどはした上面うわつらえらしつくちあつまっている。した上面うわつらあじつぼみえさあじわい、えらしつあじつぼみ水中すいちゅう化学かがく物質ぶっしつかん役割やくわりがあるとかんがえられる[19]

内耳ないじ感覚かんかく上皮じょうひ非常ひじょう特殊とくしゅしており、水中すいちゅう音波おんぱ地面じめん振動しんどう同様どうようることができる。感覚かんかく細胞さいぼう複雑ふくざつ機能きのう形態けいたいてき配置はいちによって、音源おんげん方向ほうこう特定とくていすることもできる[20][21]ようがた成熟せいじゅくするため、ほんしゅ空気くうきちゅうおと機会きかいすくないとかんがえられる。行動こうどうがくてき研究けんきゅうからは、感度かんど周波数しゅうはすうは10から15,000ヘルツ測定そくていされている[22]側線そくせん近傍きんぼうみずうごきを検出けんしゅつし、とくてい周波しゅうは領域りょういき内耳ないじ機能きのうおぎなっている[10][22]

ほんしゅ頭部とうぶからはひかり電場でんじょう反応はんのうするあたらしいタイプの感覚かんかく器官きかん発見はっけんされており、"ampullary organ"とばれている[23]

基底きていてき脊椎動物せきついどうぶつでもられることがあるが、ほんしゅよわ電場でんじょう検出けんしゅつできる[11]。また、いくつかの行動こうどうがくてき研究けんきゅうからは、地磁気ちじき人工じんこうてき磁場じばからだ沿わせる行動こうどうることもしめされた[24]

分類ぶんるい

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ことなった地下水ちかすいけい生息せいそくする個体こたいぐんは、からだ各部かくぶのサイズ・いろ顕微鏡けんびきょうてき特徴とくちょうがかなりことなっている。かつての研究けんきゅうしゃはこれをたねレベルの差異さいかんがえてほんたねを5しゅ分割ぶんかつしていたが、近年きんねんではこれらの特徴とくちょうは、栄養えいよう状態じょうたい疾病しっぺい要因よういんによってどういち個体こたいぐんないでもおおきく変化へんかすることがわかっており、この5しゅすべ同一どういつたねとみなされている。頭部とうぶながさは個体こたいぐんあいだもっと変動へんどうおおきく、たとえばスロベニア、Stičnaの個体こたいぐんは、トルジッチイストリア半島はんとう個体こたいぐんくらべて頭部とうぶみじか[25]

parkelj 亜種あしゅ頭部とうぶみじか発達はったつすることが特徴とくちょうである。
チュルノメリ近郊きんこう、Jelševnikでの水質すいしつそこしつ調査ちょうさparkelj 亜種あしゅ行動こうどう赤外線せきがいせんカメラによって撮影さつえいされる。

Proteus anguinus parkelj Sket & Arntzen, 1994(Black Proteus)は唯一ゆいいつみとめられている亜種あしゅで、スロベニア、チュルノメリちかい100km2よりせま領域りょういき固有こゆうである。この亜種あしゅは1986ねんベラ・クライナ地方ちほうのDobličice karst springを探索たんさくしていたSlovenian Karst Research Instituteのメンバーにより発見はっけんされた[26]

この亜種あしゅはいくつかの特徴とくちょうによってもと亜種あしゅ区別くべつされる[27]。これらの特徴とくちょうは、parkelj 亜種あしゅ地下水ちかすいけい移行いこうした時期じきおそく、洞穴どうけつせい特徴とくちょうのこしていることを示唆しさしている。

部位ぶい anguinus 亜種あしゅ parkelj 亜種あしゅ 備考びこう
皮膚ひふ 色素しきそ 色素しきそち、くら褐色かっしょくからくろ もっと明瞭めいりょう差異さい
頭部とうぶ 細長ほそなが みじかくてふとく、頭頂とうちょうには強力きょうりょくあご筋肉きんにくかたまり確認かくにんできる。
脊椎せきついこつかず 29–32 34-35 両生類りょうせいるい脊椎せきついこつすう変動へんどうがある。
四肢しし なが みじか
からだくらなが からだくらみじか
退化たいかする 両生類りょうせいるいよりちいさいが、ほぼ正常せいじょう発達はったつする。はん透明とうめい皮膚ひふおおわれ、まぶたはない。 もと亜種あしゅ免疫めんえき染色せんしょくでは、きりたい細胞さいぼうからあか敏感びんかんなオプシンのみが検出けんしゅつされた。だがparkelj 亜種あしゅでは、きりたい細胞さいぼうにはあかあお紫外線しがいせんかくいろ敏感びんかんなオプシンがそれぞれ発見はっけんされ、桿体細胞さいぼう確認かくにんされた。
感覚かんかく器官きかん 特殊とくしゅし、非常ひじょう鋭敏えいびん いくつかの感覚かんかく器官きかんとく電気でんき受容じゅよう感度かんどひく 明瞭めいりょう差異さいではない

生態せいたい

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からだをくねらせてへびのようにおよぐ。

夏季かき水温すいおん9-10℃、冬季とうき水温すいおん5-6℃の鍾乳洞しょうにゅうどううち水中すいちゅう地下ちかにあるみずたまりなどに生息せいそくする[3]

たまご孵化ふかには140にちせい成熟せいじゅくにはその14ねんかかる。幼生ようせいはおよそ4ヶ月かげつでほぼ成体せいたいおな外見がいけんとなるが、成長せいちょう水温すいおん影響えいきょうつよける[28]歴史れきしてきには、ほんしゅ胎生たいせいだとかんがえられていたこともあったが、めす体内たいないには魚類ぎょるい卵生らんせい両生類りょうせいるい同様どうようの、卵嚢らんのう分泌ぶんぴつするせん存在そんざいする[29]。また、水温すいおんひくときには幼体ようたいむとされていたこともあるが、厳格げんかく観察かんさつから、ほんしゅ完全かんぜん卵生らんせいであると結論けつろんづけられている[30]

12 - 70たまごいしした[3]たまご直径ちょっけいやく12mmで、たまごいわあいだかれ、めすまもられる。孵化ふかした幼生ようせいは2cm程度ていどで、1ヶ月かげつほどは消化しょうかかん細胞さいぼうたくわえた卵黄らんおうによって成長せいちょうする[31]

ほんしゅなどの洞穴どうけつせい両生類りょうせいるいは、そのどきせいによって特徴付とくちょうづけられる。ほんしゅからだ細胞さいぼう成熟せいじゅくおくらせ、生殖せいしょく細胞さいぼう成熟せいじゅくはやめることで変態へんたいおこなわず、幼生ようせい特徴とくちょうのこしたようがた成熟せいじゅくばれる状態じょうたいにある。両生類りょうせいるいでは、変態へんたい甲状腺こうじょうせんから分泌ぶんぴつされるチロキシンによって制御せいぎょされる。ほんしゅ甲状腺こうじょうせん正常せいじょう発達はったつして機能きのうしており、変態へんたいおこなわれないのは組織そしきがチロキシンに応答おうとうしないことによる[13]

頭部とうぶながく、そとえらつ。

遊泳ゆうえいからだをくねらせることによっておこない、四肢しし補助ほじょてきもちいられるのみである。肉食にくしょくせいで、ちいさなカニ巻貝まきがいまれ昆虫こんちゅうべる[6]えさむことはできないため丸呑まるのみする。地下ちか環境かんきょうへの適応てきおうとして、長期間ちょうきかん飢餓きがえることができる。また、いち大量たいりょうえさべることもでき、余剰よじょう栄養えいよう肝臓かんぞう脂質ししつグリコーゲンかたち沈着ちんちゃくする。えさすくないときには代謝たいしゃ活動かつどうレベルをとし、深刻しんこく場合ばあいには自身じしん組織そしきさい吸収きゅうしゅうすることもできる。実験じっけんてきには、えさなしで10年間ねんかん生存せいぞんしたれいがある[32]

群居ぐんきょせいであり、いししたなどに集合しゅうごうする[33]繁殖はんしょく可能かのうゆう例外れいがいで、縄張なわばりをつ。地下ちか環境かんきょうではえさすくないため直接ちょくせつたたかいはコストがたかく、通常つうじょう同士どうしあらそいはディスプレイのみでおこなわれる[29]

繁殖はんしょく行動こうどう飼育しいくでのみ観察かんさつされている[29]繁殖はんしょく可能かのうゆうそう排泄はいせつあなふくらみ、からだしょくあかるくなり、側面そくめんせん出現しゅつげんし、ひれ屈曲くっきょくする。めすにはこのような変化へんかられない。ゆうめす存在そんざいしない場合ばあいでも繁殖はんしょく行動こうどうはじめ、ゆう縄張なわばりからはらい、めすせるフェロモン分泌ぶんぴつする。めすちかづくとゆうはそのまわりをまわり、みずおくる。そのゆうは吻をめすからだれ、めすは吻をゆうそう排泄はいせつあなれる。そのゆうからだふるわせながら前方ぜんぽうすすみ、めすはそれにつづく。ゆうせいつつみ放出ほうしゅつし、めすそう排泄はいせつあなしらげつつみ付着ふちゃくさせて前進ぜんしんめる。精子せいしそう排泄はいせつあなからめす体内たいないはいり、受精じゅせいする。この行動こうどう数時間すうじかんにわたってすうかいかえされる[29]

寿命じゅみょうは58ねん程度ていど推定すいていされていたが[34]、2010ねん研究けんきゅうでは、平均へいきんで68.5ねん最大さいだいで100ねん推定すいていされている。寿命じゅみょう非常ひじょうながいため、寿命じゅみょうからだサイズのにおいて、ほんしゅ両生類りょうせいるいからはずれたたかしめ[35]

歴史れきし

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最初さいしょほんしゅ言及げんきゅうした書物しょもつヤネス・ヴァイカルト・ヴァルヴァソル英語えいごばんThe Glory of the Duchy of Carniola (1689) で、幼体ようたいドラゴンとされていた。豪雨ごううほんたね地下水ちかすいからながしてくることがあり、ここから、地下ちかには巨大きょだいなドラゴンがみ、ほんしゅはその幼体ようたいなのだという民間みんかん伝承でんしょうまれた。ヴァルヴァソルはこのような民間みんかん伝承でんしょうほんしゅかんするおおくの神話しんわとともにまとめ、ほんしゅについて "1スパンとどくかとどかないかのおおきさで、トカゲにみじかい蠕虫さましょう動物どうぶつ" といている[36]

ヨセフス・ニコラウス・ローレンティSpecimen Medicum, Exhibens Synopsin Reptilium Emendatam cum Experimentis circa Venena (1768) によるスケッチ

最初さいしょ生体せいたい入手にゅうしゅした研究けんきゅうしゃは、イドリヤ博物はくぶつ学者がくしゃジョヴァンニ・アントニオ・スコポリである。かれはその標本ひょうほんとイラストを同業どうぎょうしゃヨセフス・ニコラウス・ローレンティおくった。ローレンティは1768ねん、この標本ひょうほんもとほんたねを、現在げんざいもちいられるProteus anguinus学名がくめい記載きさいした。18世紀せいきわるまえに、ウィーン自然しぜん博物館はくぶつかんカール・フランツ・リッター・フォン・シュライバースほんしゅ解剖かいぼうがくかんする研究けんきゅうはじめ、ジグムント・ゾイスから標本ひょうほん入手にゅうしゅした。1801ねん、シュライバースは研究けんきゅう成果せいかロンドン王立おうりつ協会きょうかい発表はっぴょうし、のちパリでも発表はっぴょうした。すぐにほんしゅ世界せかいてきられて注目ちゅうもくあつめるようになり、すうせん個体こたい採集さいしゅうされてぜん世界せかい研究けんきゅうしゃ収集しゅうしゅうへとおくられるようになった。スロベニアでのほんしゅ機能きのう形態けいたいがくてき研究けんきゅうは1980年代ねんだいはじまり、その20ねんにはリュブリャナ大学だいがく生物せいぶつがく部門ぶもんほんたね研究けんきゅう牽引けんいんするグループのひとつとなっている[37]ほんしゅはフランスのアリエージュけん、イングランドのトーキー、ベルギーのナミュールしゅう、ハンガリーのボルショド・アバウーイ・ゼンプレーンけんなどの洞穴どうけつ導入どうにゅうされ、研究けんきゅうもちいられた。ドイツのヘルマンスヘーレ、イタリアのヴィチェンツァけん洞穴どうけつでは、ほんしゅ現在げんざい生存せいぞんしている[38][39]

チャールズ・ダーウィンの「たね起源きげん」において、ほんしゅ使用しようされない器官きかん退化たいかしたいちれいとしてもちいられた[40]

保護ほご

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特定とくてい洞穴どうけつ環境かんきょう適応てきおうしているため、環境かんきょう変化へんか極端きょくたん脆弱ぜいじゃくである。カルストのみず環境かんきょうすべての汚染おせん非常ひじょう敏感びんかんであり[41]地下水ちかすい工業こうぎょうプロセスにもちいられている有機ゆうき塩素えんそけい殺虫さっちゅうざい肥料ひりょうPCBなどの有機ゆうき汚染おせん物質ぶっしつ水銀すいぎんなまり・カドミウム・ヒ素ひそなどの重金属じゅうきんぞくによって汚染おせんされる。これらの物質ぶっしつ環境かんきょうちゅう永続えいぞくするか、ほとんど分解ぶんかいされず、生体せいたい蓄積ちくせきされた場合ばあいには毒性どくせいしめす。地下水ちかすいけい自浄じじょう作用さようについてはあまり理解りかいされていない部分ぶぶんおおい。

ほんしゅ採集さいしゅうによって違法いほう捕獲ほかくされることがある[1]ほんしゅはEUの生息せいそく指令しれい (92/43/EEC) において、附属ふぞくしょIIとIVにふくまれている[42]附属ふぞくしょIIは保護ほご地域ちいき指定していすることをとおして、動植物どうしょくぶつをその生息せいそくとともに良好りょうこう保全ほぜん状態じょうたいたもつことを意図いとしたもので、その地域ちいきNatura 2000ネットワークを構成こうせいする。附属ふぞくしょIVはさらに、"厳格げんかく保護ほご必要ひつようで、地域ちいき社会しゃかい関心かんしんあつめる動植物どうしょくぶつ"を定義ていぎしており、ほんしゅ捕獲ほかくかぎられたかずのみが、地方自治体ちほうじちたいによる厳密げんみつ管理かんりした許可きょかされる。

スロベニアでの保護ほご活動かつどうは1922ねんに、すべての洞穴どうけつせい生物せいぶつ保護ほご活動かつどうとともにはじまったが、これはあまり効果こうかてきではなく、かなりのかず個体こたい捕獲ほかくされて流通りゅうつうしていた。1982ねんにはほんしゅは、取引とりひき禁止きんしされる希少きしょう絶滅ぜつめつ危惧きぐしゅのリストにふくめられた。スロベニアの欧州おうしゅう連合れんごう加盟かめいは、ほんしゅがEUの生息せいそく指令しれいふくまれていることから、これにじゅんずる枠組わくぐみが設定せっていされた。スロベニアのレッドリストでは、ほんしゅ絶滅ぜつめつ危惧きぐとされる[43]。ポストイナ鍾乳洞しょうにゅうどうふくむ、ほんしゅ生息せいそくする洞穴どうけつはNatura 2000ネットワークにふくまれている。しかし、2016ねんにはポストイナ鍾乳洞しょうにゅうどうでの養殖ようしょく成功せいこうしており、絶滅ぜつめつからはいちとおのいた。[44]

クロアチアでは両生類りょうせいるい保護ほごのための法律ほうりつによって保護ほごされており[45]採集さいしゅう研究けんきゅう目的もくてきでのみ許可きょかされている。ボスニア・ヘルツェゴビナモンテネグロでの保全ほぜんじょうきょう不明ふめいである。

文化ぶんか

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ほんしゅはスロベニアの自然しぜん遺産いさんにおけるシンボルとなっている。その発見はっけんから300ねんった現在げんざいでも、科学かがくしゃおおくの住民じゅうみん洞穴どうけつ環境かんきょうたいする熱意ねついつよい。ポストイナ鍾乳洞しょうにゅうどうほんたねLeptodirus hochenwartii などのめずらしい洞穴どうけつ生物せいぶつ存在そんざいすることから、洞穴どうけつ生物せいぶつがく発祥はっしょうひとつであり、スロベニアはほんしゅのイメージを利用りようしてポストイナやスロベニアのほかのカルストにおけるエコツーリズム推進すいしんすることに成功せいこうしている。ポストイナ鍾乳洞しょうにゅうどうのツアーでは、洞穴どうけつ生物せいぶつがくステーションの周辺しゅうへんほんしゅ生体せいたい展示てんじおこなうことで、洞穴どうけつ環境かんきょうべつ側面そくめんから表現ひょうげんしている[46]

ほんしゅはスロベニアの10トラール貨幣かへいえがかれていた[47]。また、1933ねん出版しゅっぱんされたスロベニア最初さいしょ科学かがく雑誌ざっしは、ほんしゅぞくめいから Proteus名付なづけられた[48]

出典しゅってん

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参考さんこう文献ぶんけん

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  • しばむべひろし、アンドレイ・ベケシュ、山崎やまざき信一しんいち編著へんちょ『スロヴェニアをるための60しょう明石書店あかししょてん、2017ねん9がつ10日とおかISBN 978-4-7503-4560-4 

関連かんれん項目こうもく

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外部がいぶリンク

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