マウンダー極小きょくしょう

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太陽たいよう黒点こくてんすうの400年間ねんかん歴史れきしにおけるマウンダー極小きょくしょう
炭素たんそ14生成せいせいりょう変遷へんせんからえがかれる過去かこ太陽たいよう活動かつどう

マウンダー極小きょくしょう(マウンダーきょくしょうき、Maunder Minimum)あるいはモーンダー極小きょくしょうは、おおよそ1645ねんから1715ねんにかけて太陽たいよう黒点こくてん観測かんそくすういちじるしく減少げんしょうし、太陽たいよう磁気じき活動かつどうよわまった期間きかん名称めいしょう[1]太陽たいよう天文学てんもんがく研究けんきゅうしゃ黒点こくてん現象げんしょう消失しょうしつについて過去かこ記録きろく研究けんきゅうしたエドワード・モーンダー名前なまえにちなむ。マウンダー極小きょくしょうちゅうの30年間ねんかんに、観測かんそくされた黒点こくてんすうは、たったやく50をかぞえるだけであった。通常つうじょうであれば4 - 5まん程度ていど観測かんそくによってかぞえられるであろう期間きかんである。

地球ちきゅうオゾンそう到達とうたつして吸収きゅうしゅうされる紫外線しがいせんったことで、寒冷かんれいをもたらしたと推測すいそくされている[2]

太陽たいよう黒点こくてん観測かんそく記録きろく[編集へんしゅう]

年代ねんだい 黒点こくてんすう
1610年代ねんだい 9
1620年代ねんだい 6
1630年代ねんだい 9
1640年代ねんだい 2
1650年代ねんだい 3
1660年代ねんだい 1
1670年代ねんだい 0
1680年代ねんだい 1

マウンダー極小きょくしょうの1645ねん - 1715ねんあいだは、太陽たいよう黒点こくてんかず非常ひじょうすくなく観測かんそくされた。これらの記録きろく期間きかんちゅう欠落けつらくなくあるのは、17世紀せいき活躍かつやくした二人ふたり天文学てんもんがくしゃジャン・ピカールフィリップ・ド・ラ・イールらのパリ天文台てんもんだいにおける組織そしきてき太陽たいようめん観測かんそく開始かいしされていたことがおおきい。1610ねん - 1681ねんまでのそれぞれ10ねんごとに区切くぎった期間きかんでの黒点こくてん観測かんそくすうは、右記うきとおりである。

マウンダー極小きょくしょうちゅうでも、太陽たいよう黒点こくてんすう11ねん周期しゅうき変化へんか太陽たいよう黒点こくてん個体こたいすう変化へんかからることができる。極大きょくだい1674ねん1684ねん1695ねん1705ねん1716ねん観測かんそくされた。この期間きかんちゅう太陽たいよう黒点こくてん活動かつどう太陽たいようめん南半球みなみはんきゅう集中しゅうちゅうしていた。マウンダー極小きょくしょう晩期ばんきの11ねん周期しゅうきは、例外れいがいてき北半球きたはんきゅうめんにもあらわれたことが記録きろくされている。なお、日本にっぽん名古屋大学なごやだいがく研究けんきゅうグループは放射ほうしゃせい同位どういたいである炭素たんそ1414C)の分析ぶんせきにより、周期しゅうきが14ねん変動へんどうしていたと報告ほうこくしている[3]

地球ちきゅう気候きこうへの影響えいきょう[編集へんしゅう]

マウンダー極小きょくしょう中世ちゅうせいにおけるしょうこおり中頃なかごろ寒冷かんれい遠因えんいんされ、この時期じきヨーロッパ北米ほくべい大陸たいりく、その温帯おんたい地域ちいきにおいてふゆいちじるしい酷寒こっかんふるえ、こよみうえでは夏至げしであってもなつらしさがおとずれないとしつづいた。北半球きたはんきゅう平均へいきん気温きおん極小きょくしょう前後ぜんごくらべて0.1 - 0.2低下ていかしたのではないかとされている[4]

2010ねん東京大学とうきょうだいがく名古屋大学なごやだいがく名古屋工業大学なごやこうぎょうだいがく研究けんきゅうチームが、この時期じき日本にっぽん江戸えど時代じだい初期しょき)は周期しゅうきてきあめおお湿潤しつじゅん気候きこうであったと奈良ならけんうちあるすぎなどの老木ろうぼく樹齢じゅれい390ねんちょう)の年輪ねんりん分析ぶんせきして結論けつろんけ、論文ろんぶんにまとめた[5]

なお太陽たいよう黒点こくてん活動かつどう低下ていかと、地球ちきゅう気温きおん変化へんかについてはまだよくからない部分ぶぶんのこっている。たとえば2010ねんごろ極小きょくしょうでは太陽たいよう放射ほうしゃ一方いっぽうで、スペクトル変化へんかによって大気たいきによる吸収きゅうしゅうがむしろえる可能かのうせい指摘してきされている[6][7]

観測かんそく記録きろく[編集へんしゅう]

炭素たんそ14変化へんかあかてん)と太陽たいよう黒点こくてんすう相関そうかんグラフ
太陽たいよう活動かつどう相関そうかん関係かんけいグラフ:太陽たいよう黒点こくてんすう地球ちきゅうがい起源きげん放射ほうしゃせい同位どういたい生成せいせいりょう変化へんか

マウンダー極小きょくしょうにおける太陽たいよう活動かつどう低下ていかは、地球ちきゅうへの宇宙うちゅうせん輻射ふくしゃりょう影響えいきょうおよぼした。これは14Cの生成せいせいりょう変動へんどうこし、考古学こうこがく発掘はっくつぶつ年代ねんだい同定どうていするためにもちいられる放射ほうしゃせい炭素たんそ年代ねんだい測定そくてい結果けっか修正しゅうせいさせることになった。

太陽たいよう活動かつどうベリリウムの同位どういたいひとつである10Beの生成せいせいりょうにも影響えいきょうおよぼす。また宇宙うちゅう起源きげん放射ほうしゃせい同位どういたいのバリエーションも、太陽たいよう活動かつどうとの相関そうかんせいしめす。

歴史れきしてき太陽たいよう黒点こくてん極小きょくしょうは、直接ちょくせつ観測かんそくもしくはこおりゆかコアなか14Cと年輪ねんりん解析かいせき作業さぎょうにより見出みいだされた[8]。これらにはシュペーラー極小きょくしょうや、多少たしょう顕著けんちょさをダルトン極小きょくしょう1790ねん - 1820ねん)などがふくまれる。その結果けっか過去かこ8,000年間ねんかんに18の極小きょくしょうがあり、現在げんざい太陽たいよう活動かつどう極小きょくしょうあいだの1/4をぎた時期じきにあることがわかった。

近年きんねんある論文ろんぶんによればヨハネス・ヘヴェリウスジョン・フラムスティード観測かんそく記録きろく分析ぶんせきし、マウンダー極小きょくしょう真最中まっさいちゅうである1666ねんから1700ねんけては太陽たいよう自転じてん周期しゅうきながくなっていると指摘してきした[9]

マウンダー極小きょくしょうにおけるオーロラは、普段ふだんわらず観測かんそくされたという。詳細しょうさい分析ぶんせきは、ウィルフリート・シュローダーWilfried Schröder)により提出ていしゅつされている[10][11]

くわえて、マウンダー極小きょくしょうについての基礎きそてき論文ろんぶんとしてはCase studies on the Spörer, Maunder and Dalton Minima.がある[12]

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ モーンダー極小きょくしょう”. 天文学てんもんがく辞典じてん. 日本にっぽん天文てんもん学会がっかい (2019ねん4がつ8にち). 2021ねん10がつ20日はつか閲覧えつらん
  2. ^ 科学かがくとびら元気げんきない太陽たいよう なつえる/相次あいつ異常いじょう気象きしょう はかれぬ影響えいきょう朝日新聞あさひしんぶん朝刊ちょうかん2018ねん7がつ16にちとびらめん)2022ねん5がつ5にち閲覧えつらん
  3. ^ 14C濃度のうど測定そくていによる過去かこせんねん太陽たいよう活動かつどう変遷へんせん研究けんきゅう 名古屋大学なごやだいがく地球ちきゅうすい循環じゅんかん研究けんきゅうセンター 21世紀せいきCOE「太陽たいよう地球ちきゅう生命せいめいけん相互そうご作用さようけい変動へんどうがく平成へいせい18年度ねんど報告ほうこくしょ特筆とくひつすべき研究けんきゅう成果せいか」pp.59-66 (PDF)
  4. ^ くらし☆解説かいせつ太陽たいよう異変いへん 地球ちきゅうさむくなる?」 | くらし☆解説かいせつ | 解説かいせつ委員いいんしつブログ:NHK
  5. ^ 黒点こくてん太陽たいよう磁場じば気候きこうえた―樹木じゅもく年輪ねんりんから解明かいめいした17-18世紀せいき急激きゅうげき太陽たいよう地球ちきゅう環境かんきょう変動へんどう東京大学とうきょうだいがく大気たいき海洋かいよう研究所けんきゅうじょ(2010ねん11月9にち)2022ねん5がつ5にち閲覧えつらん
  6. ^ Nature 467, 696–699(07 October 2010) doi:10.1038/nature09426
  7. ^ 活発かっぱつ太陽たいよう活動かつどう地球ちきゅう寒冷かんれいまねく?」『ナショナルジオグラフィック 日本語にほんごばん公式こうしきサイト』2010ねん10がつ7にち。2023ねん2がつ10日とおか時点じてんのオリジナルよりアーカイブ。2023ねん11月29にち閲覧えつらん
  8. ^ 10世紀せいきにおける宇宙うちゅうせんイベントの発見はっけん 名古屋大学なごやだいがく太陽たいよう地球ちきゅう環境かんきょう研究所けんきゅうじょ
  9. ^ Vaquero J.M., Sánchez-bajo F., Gallego M.C. (2002). “A Measure of the Solar Rotation During the Maunder Minimum”. Solar Physics 207 (2): 219. doi:10.1023/A:1016262813525. 
  10. ^ Schröder, Wilfried (1992). “On the existence of the 11-year cycle in solar and auroral activity before and during the so-called Maunder Minimum”. Journal of Geomagnetism and Geoelectricity 44 (2): 119–128. ISSN 00221392. 
  11. ^ Legrand, J. P.; Le Goff, M.; Mazaudier, C.; Schröder, W. (1992). “Solar and auroral activities during the seventeenth century”. Acata Geophysics and Geodetica Hungarica 27 (2–4): 251–282. 
  12. ^ Schröder, Wilfried (2005). Case studies on the Spörer, Maunder, and Dalton minima. Beiträge zur Geschichte der Geophysik und Kosmischen Physik. 6. Potsdam: AKGGP, Science Edition 

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]