ミヤコタナゴ

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ミヤコタナゴ
ミヤコタナゴTanakia tanago
保全ほぜんじょうきょう評価ひょうか[1]
ENDANGERED (IUCN Red List Ver. 3.1 (2001))
分類ぶんるい
さかい : 動物界どうぶつかい Animalia
もん : 脊索せきさく動物どうぶつもん Chordata
もん : 脊椎動物せきついどうぶつもん Vertebrata
つな : じょうひれつな Actinopterygii
上目うわめ : ほね鰾上 Ostariophysi
: コイ Cypriniformes
: コイ Cyprinidae
: タナゴ Acheilognathinae
ぞく : アブラボテぞく Tanakia
たね : ミヤコタナゴ T. tanago
学名がくめい
Tanakia tanago
S. Tanaka, 1909
和名わみょう
ミヤコタナゴ
英名えいめい
Tokyo bitterling

ミヤコタナゴ鱮、学名がくめい:Tanakia tanago)は、コイコイタナゴアブラボテぞく小型こがた淡水魚たんすいぎょ一種いっしゅたね小名しょうみょうのtanagoは「タナゴ」を意味いみする[2]善福寺ぜんぷくじがわ文京ぶんきょうにある小石川こいしかわ植物しょくぶつえんいけなど東京とうきょうひろ分布ぶんぷしていたことが「ミヤコ」の和名わみょう由来ゆらいといわれる[3]地域ちいきめいほんしゅ方言ほうげん)としてミョーブタ・ジョンピー(千葉ちばけんみなみそう)、ベンタナ・オシャラクブナ(千葉ちばけん東総とうそう-みなみそう)、ナナイロ(埼玉さいたまけんにゅうあいだ比企ひき)、シャレブナ・オシャレブナ(栃木とちぎけん)などがある。このなかにはヤリタナゴとのこんしょうふくまれる。1974ねんくに天然記念物てんねんきねんぶつ、1994ねん国内こくない希少きしょう野生やせい動植物どうしょくぶつしゅ指定していされた[2]

形態けいたい[編集へんしゅう]

全長ぜんちょう7cm[4]一対いっついくちひげがあり、産卵さんらんあらわれるオスうつくしい婚姻こんいんしょくられる。オスはしりひれはらひれ縁取へりとりが黒色こくしょくで、その内側うちがわには赤色あかいろ白色はくしょくおびがある[5]

地域ちいきにより変異へんいがあり、那珂川なかがわ水系すいけい利根川とねがわ水系すいけい荒川あらかわ水系すいけい千葉ちばけん茂原もはら鶴見川つるみがわ水系すいけい千葉ちばけんいすみ御宿おんじゅくまち勝浦かちうらおおきく4つの系統けいとう存在そんざいする[6]以下いかのような相違そういてんほんたね密漁みつりょう捜査そうさ役立やくだつこともある[4]

  • 体高たいこうは、埼玉さいたまけんさんのものは産地さんちのものにくらひくく、神奈川かながわけんさんのものはたかい。
  • オスの婚姻こんいんしょくは、栃木とちぎけん大田原おおたわら付近ふきんさんのものはがわ青色あおいろつよ範囲はんいひろく、神奈川かながわけんさんのものはあか茶色ちゃいろつよい。
  • 背鰭せびれ黒色こくしょく縁取へりとりの内側うちがわは、通常つうじょう白色はくしょくだが、千葉ちばけん勝浦かちうらさんではピンク色ぴんくいろである。
  • しりひれ黒色こくしょく縁取へりとりの内側うちがわは、埼玉さいたまけんさんのものはみだれる。
  • 尾鰭おびれは、通常つうじょう大半たいはん赤色あかいろ縁取へりとりは黒色こくしょくだが、一宮川いちのみやがわ水系すいけいさんのものは大半たいはん黒色こくしょく一部いちぶ赤色あかいろである。
よくたね

よくたねとして同属どうぞくアブラボテヤリタナゴがいる。アブラボテはほんしゅ形態けいたい生態せいたいとも類似るいじするが、ほんたねほど湧水わきみず依存いぞんつよくないなど適応てきおう環境かんきょう幅広はばひろかんがある。また、アブラボテは西日本にしにほん分布ぶんぷする。ヤリタナゴはほんしゅ幼魚ようぎょころ酷似こくじするが、成魚せいぎょほんしゅはヤリタナゴより体高たいこうたかく、尾鰭おびれまるみをび、側線そくせん不完全ふかんぜんでありえらぶたうしろからむねひれうえあたりまでしかないことで区別くべつできる[3]

生態せいたい[編集へんしゅう]

雑食ざっしょくで、そこせい水生すいせい昆虫こんちゅうおもに、藻類そうるいなどをべる。

湧水わきみず水源すいげんとしたみず綺麗きれい細流さいりゅうぬま、それらと接続せつぞくしている小川おがわ生息せいそくし、おな水系すいけい生息せいそくするヤリタナゴより上流じょうりゅうにいる。

繁殖はんしょくは4-7がつで、鶏卵けいらんがたたまごマツカサガイヨコハマシジラガイなどのイシガイかいける。水温すいおん22-23場合ばあい48あいだ孵化ふかし、全長ぜんちょう8-9mmになると産卵さんらんははかいからく。[3]イシガイ利用りようしない[2]

寿命じゅみょう自然しぜんでは2ねん飼育しいくでは最長さいちょう5ねんである[7]

分布ぶんぷ[編集へんしゅう]

日本にっぽん固有こゆうしゅで、関東かんとう地方ちほう全域ぜんいき生息せいそくし、ごく普通ふつうられたが、神奈川かながわけん群馬ぐんまけん埼玉さいたまけん東京とうきょうでは絶滅ぜつめつし、現在げんざい千葉ちばけん栃木とちぎけん一部いちぶにのみ生息せいそくしている[8]茨城いばらきけん自然しぜん分布ぶんぷから除外じょがいする文献ぶんけんがあるが、標本ひょうほんやききと調査ちょうさ過去かこ土浦つちうら付近ふきん生息せいそくしていたことが判明はんめいしている[4]自然しぜん分布ぶんぷ東京とうきょう近郊きんこう偏在へんざいしているため、戦後せんご高度こうど成長せいちょう中心ちゅうしんとした都市とし生息せいそく環境かんきょう次々つぎつぎ破壊はかいされ個体こたいすう激減げきげん絶滅ぜつめつひんしている。日本にっぽん固有こゆうのタナゴのなかではもっと分布ぶんぷいきせま[2]

保全ほぜん状態じょうたい評価ひょうか[編集へんしゅう]

1974ねん天然記念物てんねんきねんぶつに、1994ねん国内こくない希少きしょう野生やせい動植物どうしょくぶつしゅ指定してい環境省かんきょうしょうレッドリストでは、絶滅ぜつめつ危惧きぐIAるい当初とうしょから指定していされている。したがって、許可きょかのない捕獲ほかく採集さいしゅう飼育しいく譲渡じょうと売買ばいばいきんじられている。ほとんどの生息せいそくにおいて地域ちいき社会しゃかいほんたね保全ほぜん関心かんしんち、生息せいそくによっては密漁みつりょう行為こうい監視かんし警察けいさつへの通報つうほう緊密きんみつおこなうなどしている。なお、近年きんねんでは新規しんき生息せいそく発見はっけんされても密漁みつりょうとうふせ意味いみ公開こうかいしないのが原則げんそくであるが、同時どうじ保護ほご地域ちいき社会しゃかい浸透しんとうできず、どこからか密漁みつりょうしゃもやってくるという悪循環あくじゅんかんなやまされている。

ほんしゅ湧水わきみずつづしょう水路すいろ水田すいでん耕作こうさくという自然しぜんつよ依存いぞんしており、産卵さんらんははかいであるマツカサガイ維持いじには定期ていきてき水路すいろげや農業のうぎょうよう溜池ためいけいけしなど手入ていれがかせず[3]、それを周知しゅうちできなかった過去かこにおいては保護ほごがうまくいかなかったというにが経験けいけんがある。すなわちほんたね生態せいたいは、人間にんげんによる耕作こうさく生産せいさん活動かつどう密接みっせつ不可分ふかぶん関係かんけいにあり、人手ひとで不足ふそく後継こうけいしゃなんによる耕作こうさく放棄ほうきなど農村のうそん社会しゃかい荒廃こうはいが、ほんしゅ将来しょうらいくらかげとしている。

また、ほんたね生息せいそくでのゴルフじょう開発かいはつ圃場ほじょう整備せいび事業じぎょう河川かせんコンクリート護岸ごがん直線ちょくせんなどの生息せいそく破壊はかいにつながる開発かいはつ許可きょか公共こうきょう事業じぎょうは、ほんしゅ希少きしょうせいひろられるようになった近年きんねんでもたない。

千葉ちばけんにある生息せいそく一部いちぶでは地域ちいきのヤリタナゴ(国内こくない外来がいらいしゅ)やタイリクバラタナゴの侵入しんにゅうもみられる[2]

一方いっぽうで、ほんしゅ本来ほんらい分布ぶんぷしていない場所ばしょ発見はっけんされることもあり、違法いほう飼育しいくしゃみつ放流ほうりゅううたがわれる[2]

くに許可きょかした神奈川かながわけんさん[9]埼玉さいたまけんさん[10][11]千葉ちばけんさん[12]栃木とちぎけんさん[13]のものは関東かんとう各地かくち水産すいさん試験場しけんじょう動物どうぶつえん水族館すいぞくかん博物館はくぶつかん大学だいがく一部いちぶ自治体じちたい関係かんけい機関きかんなどによって系統けいとう保存ほぞん復元ふくげん再生さいせい目的もくてきとした飼育しいく繁殖はんしょくやそれにともな一般いっぱん展示てんじおこなわれている[4][14]

脚注きゃくちゅう出典しゅってん[編集へんしゅう]

  1. ^ Hasegawa, K., Kanao, S., Miyazaki, Y., Mukai, T., Nakajima, J., Takaku, K. & Taniguchi, Y. 2019. Tanakia tanago. The IUCN Red List of Threatened Species 2019: e.T21383A110464790. doi:10.2305/IUCN.UK.2019-2.RLTS.T21383A110464790.en Accessed on 06 July 2022.
  2. ^ a b c d e f 北村きたむら内山うちやま(2020), p. 39.
  3. ^ a b c d 佐土さど松沢まつざわ(2011), p. 51.
  4. ^ a b c d 赤井あかいほか(2009).
  5. ^ 佐土さど松沢まつざわ(2011), p. 50.
  6. ^ 北村きたむら内山うちやま(2020), p. 40.
  7. ^ ミヤコタナゴふ観察かんさつ記録きろく”. 神奈川かながわけん. 2020ねん11月16にち時点じてんオリジナルよりアーカイブ。2020ねん11月14にち閲覧えつらん
  8. ^ 今泉いまいずみ(2014).
  9. ^ 神奈川かながわけんにおけるミヤコタナゴの保護ほご復元ふくげん”. 神奈川かながわけん. 2020ねん7がつ12にち時点じてんオリジナルよりアーカイブ。2020ねん11月14にち閲覧えつらん
  10. ^ 滑川なめかわまちエコミュージアムセンター”. 滑川なめかわまち. 2021ねん6がつ15にち時点じてんオリジナルよりアーカイブ。2022ねん7がつ6にち閲覧えつらん
  11. ^ ミヤコタナゴ”. 所沢ところざわ. 2021ねん4がつ19にち時点じてんオリジナルよりアーカイブ。2022ねん7がつ6にち閲覧えつらん
  12. ^ 絶滅ぜつめつ危惧きぐしゅ保護ほご回復かいふく”. 千葉ちばけん. 2021ねん12月9にち時点じてんオリジナルよりアーカイブ。2022ねん7がつ6にち閲覧えつらん
  13. ^ ミヤコタナゴの保護ほご”. 栃木とちぎけん. 2022ねん3がつ3にち時点じてんオリジナルよりアーカイブ。2022ねん7がつ6にち閲覧えつらん
  14. ^ 北村きたむら内山うちやま(2020), pp. 39, 41.

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

  • 赤井あかいひろし秋山あきやま信彦のぶひこ上野うえのあきらわたる葛島かずらしま一美かずみ鈴木すずき信洋のぶひろ増田ますだおさむ藪本やぶもとよしこう『タナゴ大全たいぜん』エムピージェー、2009ねん、p. 69ぺーじISBN 978-4-904837-08-5 
  • 佐土さど哲也てつや松沢まつざわよう『タナゴハンドブック』ぶんいち総合そうごう出版しゅっぱん、2011ねん、pp. 50-51ぺーじISBN 978-4-8299-8100-9 
  • 今泉いまいずみ忠明ただあき監修かんしゅう日本にっぽんにしかいないもの図鑑ずかん』PHP研究所けんきゅうじょ、2014ねん、p. 38ぺーじISBN 978-4-569-78426-7 
  • 北村きたむら淳一じゅんいち内山うちやまりゅう『日本にっぽんのタナゴ』やま渓谷社けいこくしゃ、2020ねん、pp. 38-45ぺーじISBN 978-4-635-06289-3 

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]