位相いそう (言語げんご学がく)

位相いそう（いそう、英語えいご: phase）は、その言語げんごを、どういう集団しゅうだんがどういう場面ばめんで使つかうかによって異ことなる、言語げんごの様相ようそう。日本語にほんご学がくで用もちいられる用語ようご。位相いそうごとの言語げんごの特徴とくちょうの違ちがいを「位相いそう差さ」、位相いそうの違ちがいによって表現ひょうげんに変異へんいが見みられる語かたりを「位相いそう語ご」と称しょうする。

来歴らいれき

「位相いそう」の概念がいねんを日本語にほんご学がくに初はじめて取とり入いれたのは菊沢きくざわ季き生せいであった。菊沢きくざわは、『国語こくご研究けんきゅう』1-1（1933年ねん）の論文ろんぶん「国語こくごの科学かがく的てき研究けんきゅうに就て」において、日本語にほんご研究けんきゅうの分野ぶんやとして「音韻おんいん論ろん」「語義ごぎ論ろん」「文法ぶんぽう論ろん」などのほか、総合そうごう的てき研究けんきゅうとして「位相いそう論ろん」を設もうけるべきことを主張しゅちょうした。

この「位相いそう」は、物理ぶつり学がくの位相いそう（相そう）の概念がいねんを取とり入いれたものであった。菊沢きくざわは

　水みずは固体こたいである時ときは氷こおりであり、気体きたいと化かせば水蒸気すいじょうきとなるのでありますが、それらの様相ようそうの相違そういを位相いそう (phase) の相違そういと物理ぶつり学者がくしゃは名付なづけてゐますが、この言語げんごの様相ようそう姿態したいに就てもこの位相いそう〔2字じ傍点ぼうてん〕なる術語じゅつごを採用さいよう致いたしますならば、言語げんごは社会しゃかいが位相いそうを異ことにする毎ごとにその位相いそうを異ことにし、国語こくご学者がくしゃは国語こくごが位相いそうを異ことにする毎ごとにこれを研究けんきゅうする必要ひつようがあるといふ事ことになる訳わけであります。

と述のべており、水みずに氷こおりや水蒸気すいじょうきなどさまざまな様相ようそうがあるように、言語げんごにも使つかわれる時ときと場合ばあいによってさまざまな変容へんようがあると考かんがえたことが分わかる。

現在げんざいの位相いそう研究けんきゅう

言語げんごにどのような位相いそうがあるかについて、菊沢きくざわは必かならずしも網羅もうら的てきに述のべていないが、今日きょうの日本語にほんご学がくでは、女性じょせい語ご、若者わかもの言葉ことば、幼児ようじ語ご、特定とくていの階級かいきゅうの言葉ことば、特定とくていの職業しょくぎょうの言葉ことば、方言ほうげん、口語こうご・文語ぶんごなどは、いずれも、言語げんごのさまざまな位相いそうとみなされている。主おもに語彙ごいの問題もんだいが位相いそう語ご研究けんきゅうの中心ちゅうしんとなるが、田中たなか章夫あきおは発音はつおんや語法ごほう、文体ぶんたい、言語げんご行動こうどうの様式ようしき、言語げんご生活せいかつの内容ないよう、言語げんご意識いしきなども含ふくまれることを指摘してきした。また、中古ちゅうこ日本語にほんごや近代きんだい日本語にほんごのような時代じだい差さを位相いそう差さに含ふくめるかは研究けんきゅう者しゃによって意見いけんが異ことなる。位相いそう語ごのなかには、主おもにフィクションの世界せかいでステレオタイプ化かされ、現実げんじつの位相いそう語ごから乖離かいりするものもある（役割やくわり語ごを参照さんしょう）。

参考さんこう文献ぶんけん

• 菊澤きくざわ季き生せい(1933)「國語こくごの科学かがく的てき研究けんきゅうに就て」、千葉ちば春雄はるお編へん『国語こくご研究けんきゅうの科学かがく的てき研究けんきゅう1』厚生こうせい閣かく書店しょてん
• 菊沢きくざわ季き生せい(1933)『國語こくご位相いそう論ろん』(國語こくご科学かがく講座こうざ3國語こくご学がく)明治めいじ書院しょいん
• 佐藤さとう喜代治きよじ(2002)「菊沢きくざわ季き生せいと位相いそう論ろん」、『現代げんだいの位相いそう研究けんきゅう』(国語こくご論究ろんきゅう9)明治めいじ書院しょいん　ISBN 4625433126
• 田中たなか章夫あきお(1999)『日本語にほんごの位相いそうと位相いそう差さ』明治めいじ書院しょいん　ISBN 4625421160
• 米川よねかわ明彦あきひこ(2002) 「現代げんだい日本語にほんごの位相いそう」、飛田ひだ良文よしふみ・佐藤さとう武義たけよし編へん『現代げんだい日本語にほんご講座こうざ4語彙ごい』明治めいじ書院しょいん　ISBN 4625413087

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