勘当かんどう

勘当かんどう（かんどう）は、親おやが子こに対たいして親子おやこの縁えんを切きること。

日本語にほんごにおける言葉ことばの変遷へんせん

勘当かんどうはもと法家ほうかの術語じゅつごで、罪つみを勘かん(かんが)えて法ほうに当あてることをいい、上代じょうだいでは勘当かんどうの本来ほんらいの意義いぎは『類聚るいじゅう三さん代だい格かく』、あるいは『延喜えんぎ式しき』にみえるように、罪つみの軽重けいちょうに応おうじて刑けいを定さだめるというだけのことであったが、「勘かん（かんが）え当あて、調査ちょうさして決定けっていすること」の意味いみで用もちいられ、中古ちゅうこになると「譴責けんせきする」という日本にっぽん独自どくじの意味いみが加くわわり、近世きんせい以降いこうには親おやや上位じょうい者しゃが下位かい者しゃの縁えんを切きるという意味いみで用もちいられた。類義語るいぎごの久離きゅうりは、親族しんぞく一同いちどうとの関係かんけいの断絶だんぜつをい渡いわたす場合ばあいに用もちいられる。なお、江戸えど時代じだいの勘当かんどうは、本来ほんらい、奉行ぶぎょう所しょに届とどけ出でて公式こうしきに親子おやこ関係かんけいを断たつものだが、公おおやけにせず懲戒ちょうかい的てきな意味いみを持もつ内証ないしょう勘当かんどうも行おこなわれた。

江戸えど時代じだいにおいては、親類しんるい、五ご人組にんぐみ、町役人まちやくにん（村役人むらやくにん）が証人しょうにんとなり作成さくせいした勘当かんどう届とどけ書しょを名主なぬしから奉行ぶぎょう所しょ（代官だいかん所しょ）へ提出ていしゅつし（勘当かんどう伺うかがい・旧離きゅうり・久離きゅうり）、奉行ぶぎょう所しょの許可きょかが出でた後のちに人別にんべつ帳ちょうから外はずし（帳とばり外がい）、勘当かんどう帳ちょうに記しるす（帳とばり付づけ）という手続てつづきをとられ、人別にんべつ帳ちょうから外はずされた者ものは無宿むしゅくと呼よばれた。これによって勘当かんどうされた子こからは家督かとく・財産ざいさんの相続そうぞく権けんを剥奪はくだつされ、また罪つみを犯おかした場合ばあいでも勘当かんどうした親おや・親族しんぞくなどは連坐れんざから外はずされる事ことになっていた。復縁ふくえんする場合ばあいは帳とばり付づけを無効むこうにする（帳消ちょうけし）ことが、現在げんざいの「帳消ちょうけし」の語源ごげんとなった。ただし、復縁ふくえんする場合ばあいも同様どうようの手続てつづきを必要ひつようとした事ことから、勘当かんどうの宣言せんげんのみで実際じっさいには奉行ぶぎょう所しょへの届とどけ出でを出ださず、人別にんべつ帳ちょう上じょうは親子おやこのままという事こともあったという。人別にんべつ帳ちょうに「旧離きゅうり」と書かかれた札さつ(付箋ふせん)を付つける事ことから、「札付ふだつきのワル」ということばが生うまれた。

近代きんだい以後いごにおいても明治めいじ憲法けんぽう下したの旧きゅう民法みんぽう第だい742条じょう・749条じょう及および旧きゅう戸籍こせき法ほうで戸主こしゅの意いに沿そわない居住きょじゅう・結婚けっこん・養子ようし縁組えんぐみをした家族かぞくに対たいして戸主こしゅが当該とうがい家族かぞくを離籍りせきをした上うえで復籍ふくせきを拒こばむことができる旨むねの規定きていがあり、勘当かんどうの制度せいどが存在そんざいした。

現在げんざい、日本国にっぽんこく憲法けんぽう下したの法律ほうりつで親子おやこ関係かんけいを否定ひていする制度せいどは、いくつか存在そんざいする。普通ふつう養子ようし縁組えんぐみの裁判さいばん離縁りえん、嫡出ちゃくしゅつ否認ひにんの訴うったえ、親子おやこ関係かんけい不ふ存在そんざいの訴うったえ、血縁けつえん関係かんけいのない認知にんちの無効むこう請求せいきゅうによって戸籍こせき上じょうの親子おやこの縁えんを切きる制度せいどがあるが、これらは実みの親子おやこ関係かんけいを絶たつ制度せいどではなく、親おやの意いの沿そわない居住きょじゅう・結婚けっこん・養子ようし縁組えんぐみという理由りゆうで親子おやこの縁えんを一方いっぽう的てきに切きることはできない。実みの親子おやこが関係かんけいを絶たつ制度せいどとしては、1989年ねんに施行しこうされた特別とくべつ養子ようし縁組えんぐみによる実じつ親子おやこの親族しんぞく関係かんけい終了しゅうりょうがあるが、特別とくべつ養子ようし縁組えんぐみは原則げんそくとして子供こどもが15歳さいに達たっした後のちはすることができず、また子供こどものためという制度せいどの趣旨しゅしから実じつ親おやが実子じっしに対たいして一方いっぽう的てきな意向いこうによって法的ほうてきに親子おやこの縁えんを切きる性格せいかくのものではない。そのため、現在げんざいでは勘当かんどうは言葉ことばのみであり法的ほうてきな手続てつづきとしては存在そんざいしない。実じつ親おやから実子じっしに対たいして親子おやこ関係かんけいに関かんするペナルティーを与あたえることができるほぼ唯一ゆいいつの制度せいどとしては相続そうぞく廃除はいじょがあるが、相続そうぞく廃除はいじょは認みとめられる要件ようけんが限定げんてい的てきでかつハードルが極きわめて高たかいため、これも単たんに親おやの意いに沿そわない（婚姻こんいんや職業しょくぎょう選択せんたくを行おこなった、または不ふ妊にんや（社会しゃかい通念つうねん上家うわやを継つぐ）男児だんじを出生しゅっしょうできなかった）といった理由りゆうのみで認みとめられることはまずなく、特とくに遺言ゆいごん状じょうでの宣告せんこくの場合ばあいは被ひ宣告せんこく者しゃによる家庭かてい裁判所さいばんしょへの異議いぎ申もうし立たてにより否認ひにんされることが多々たたある。

イギリスにおいて実子じっしを義絶ぎぜつした事例じれい

イギリスの政治せいじ家かであったレオ・アメリーには、第だい二に次じ世界せかい大戦たいせん当時とうじ、既すでに成人せいじんした若者わかものであった二人ふたりの息子むすこがおり、そのうち一人ひとりはイギリス軍ぐんに加くわわって戦たたかったのだが、もう一人ひとりの息子むすこジョン・アメリーはナチス・ドイツに与くみして、出身しゅっしん国こくイギリス向むけの宣伝せんでんラジオ放送ほうそうに従事じゅうじした。1945年ねんに終戦しゅうせんを迎むかえた後のち、ジョン・アメリーは反逆はんぎゃく罪ざいで訴追そついされ、処刑しょけいされたが、遺のこされた父親ちちおやは『Who's Who』に記載きさいされていた自分じぶんの経歴けいれきの中なかにあった「息子むすこ2人にん (two sons)」という記載きさいを、「息子むすこ1人にん (one son)」と改あらためるよう編集へんしゅう部ぶに求もとめ、これを認みとめられた。

関連かんれん項目こうもく

• 家族かぞく・家庭かてい・親族しんぞく
• 欠落けつらく - 久離きゅうり
• 破門はもん・除名じょめい
• 無宿むしゅく
• 遺産いさん - 相続そうぞく
• 相続そうぞく廃除はいじょ（日本国にっぽんこく憲法けんぽう下かの代用だいよう的てき制度せいどであるものの、現実げんじつ的てきには前述ぜんじゅつのとおり単たんに親おやの意いに沿そわないという理由りゆうだけではほとんど認みとめられていない。）
• 離縁りえん・絶縁ぜつえん