反はん社会しゃかい性せいパーソナリティ障害しょうがい

反はん社会しゃかい性せいパーソナリティ障害しょうがい
概要がいよう
診療しんりょう科か	精神せいしん医学いがく, 心理しんり学がく
分類ぶんるいおよび外部がいぶ参照さんしょう情報じょうほう
ICD-10	F60.2
ICD-9-CM	301.7
MedlinePlus	000921
Patient UK	反はん社会しゃかい性せいパーソナリティ障害しょうがい
MeSH	D000987

反はん社会しゃかい性せいパーソナリティ障害しょうがい（はんしゃかいせいパーソナリティしょうがい、英語えいご: Antisocial Personality Disorder、ASPD）、もしくは非ひ社会しゃかい性せいパーソナリティ障害しょうがい（ひしゃかいせいパーソナリティしょうがい、英語えいご: Dissocial Personality Disorder、DPD）は、社会しゃかい的てき規範きはんや他者たしゃの権利けんり・感情かんじょうを軽視けいしし、人ひとに対たいして不誠実ふせいじつで、欺瞞ぎまんに満みちた言動げんどうを行おこない、暴力ぼうりょくを伴ともないやすい傾向けいこうがあるパーソナリティ障害しょうがいである。

診断しんだんには、子供こどもの頃ころは行為こうい障害しょうがい（素行そこう症しょう）であった必要ひつようがある。加か齢よわいと共ともに30代だいまでに軽かるくなる傾向けいこうもある。

定義ていぎ

「精神せいしん障害しょうがい#定義ていぎ」も参照さんしょう

自己じこ愛あい性せいパーソナリティ障害しょうがいの場合ばあいは、自分じぶんは優すぐれているのだから人ひとを使つかって当然とうぜんだと考かんがえて人ひとを利用りようするが、それとは異ことなり、欲ほしいものを手てに入いれたり、自分じぶんが単たんに楽たのしむために行おこなうのが特徴とくちょうである。人ひとを愛あいする能力のうりょくや優やさしさは欠如けつじょしている上うえ、人ひとの顔色かおいろを窺うかがって、騙だましたりする傾向けいこうもある。反はん社会しゃかい性せいパーソナリティ障害しょうがいの人ひとは一種いっしゅのトラブルメーカーに当あたり、アルコール依存いぞん症しょう、薬物やくぶつ依存いぞん症しょう、性的せいてき倒錯とうさく、犯罪はんざいといった問題もんだいを起おこしやすい傾向けいこうがあるとされる。事故じこ、虐待ぎゃくたい、ストレス等とうで脳のうに損傷そんしょうを受うけたことで反はん社会しゃかい性せいパーソナリティ障害しょうがいを発症はっしょうする場合ばあいがあるが、これは外傷がいしょう性せい脳のう損傷そんしょうやストレスによる前頭まえがしら前ぜん皮質ひしつの機能きのう不全ふぜんで起おこるものと推測すいそくされる。

診断しんだん

アメリカ精神せいしん医い学会がっかい

診断しんだん基準きじゅんBにより、18歳さい以上いじょうである。診断しんだん基準きじゅんCにより、15歳さい以前いぜんに、行為こうい障害しょうがいの証拠しょうこがある。診断しんだん基準きじゅんDによって統合とうごう失調しっちょう症しょうや躁病そうびょうエピソードが原因げんいんではない。

そして、診断しんだん基準きじゅんAが行動こうどうの記述きじゅつ的てき形式けいしきであり

• A1.法律ほうりつにかなって規範きはんに従したがうことができない、逮捕たいほに値あたいする行動こうどう
• A2.自己じこの利益りえきのために人ひとを騙だます
• A3.衝動しょうどう的てきで計画けいかく性せいがない
• A4.喧嘩けんかや暴力ぼうりょくを伴ともなう易えき刺激しげき性せい
• A5.自分じぶんや他人たにんの安全あんぜんを考かんがえることができない
• A6.責任せきにん感かんがない
• A7.良心りょうしんの呵責かしゃくがない

ということのうち、15歳さい以来いらいにおいて3つ以上いじょう呈ていしている。慢性まんせい的てきでもあるが、加か齢よわいと共ともに30代だいまでに軽かるくなる傾向けいこうにもあり寛解かんかいすることもある。それは特とくに犯罪はんざい行為こういにおいてであるが、薬物やくぶつ使用しようなども減少げんしょうしてくる。

診断しんだんには、子供こどもの頃ころは行為こうい障害しょうがいであった必要ひつようがある。

なお、パーソナリティ障害しょうがいの診断しんだんは、特定とくていのパーソナリティの特徴とくちょうが成人せいじん期き早期そうきまでに明あきらかになっており、薬物やくぶつやストレスなど一過いっか性せいの状態じょうたいとも区別くべつされており、臨床りんしょう的てきに著いちじるしい苦痛くつうや機能きのうの障害しょうがいを呈ていしている必要ひつようがある。

ICD

ICD-10精神せいしんと行動こうどうの障害しょうがいにおいては、F60.2非ひ社会しゃかい性せいパーソナリティ障害しょうがいである。行為こうい障害しょうがいである場合ばあいには除外じょがいされる。

ICD-10もまた、いかなるパーソナリティ障害しょうがいの診断しんだんにおいてもパーソナリティ障害しょうがいの全般ぜんぱん的てき診断しんだんガイドラインを満みたすことを求もとめている。

疫学えきがく

一般いっぱん人口じんこうにおける有ゆう病びょう率りつは、男性だんせい3%、女性じょせい1%ほどとされる。

「反はん社会しゃかい性せい」理論りろんと差別さべつ

「科学かがく的てき人種じんしゅ主義しゅぎ」も参照さんしょう

チェーザレ・ロンブローゾ

マジョリティ（多数たすう派は）集団しゅうだん社会しゃかいの価値かち観かんに基もとづいて「反はん社会しゃかい性せい」理論りろんを一方いっぽう的てきに定義ていぎした結果けっか、特定とくていの集団しゅうだんに対たいする不当ふとうな差別さべつが引ひき起おこされてきた歴史れきしが存在そんざいする。

19世紀せいきにイタリアユダヤ人じんのチェーザレ・ロンブローゾは、脳のうが生物せいぶつ的てきに退化たいかし罪ざいを犯おかしやすい精神せいしん的てき気質きしつを持もつ「生来せいらい性せい犯罪はんざい者しゃ」という概念がいねんを提唱ていしょうした。「生来せいらい性せい犯罪はんざい者しゃ」は骨相こっそう学がくや観相かんそう学がくに基もとづき身体しんたい的てき特徴とくちょうから判別はんべつできるとした。ロンブローゾは罪つみを犯おかす危険きけん性せいが高たかい「生来せいらい性せい犯罪はんざい者しゃ」を罪つみを犯おかす前まえに事前じぜんに識別しきべつし、社会しゃかいから隔離かくりしておくのが良よいとした。ロンブローゾは同性愛どうせいあい者ものも当代とうだいのヨーロッパ人じんよりも何なに世代せだいも前まえの未開みかい・野蛮やばんな状態じょうたいに先祖返せんぞがえりしており、そのため同性愛どうせいあいという異常いじょう行動こうどうに走はしるのだ、と説明せつめいした。

ロンブローゾは、南みなみイタリア人ひとは「生来せいらい性せい犯罪はんざい者しゃ」が多おおいと論ろんじた。19世紀せいきにイタリア統一とういつ運動うんどうが勃興ぼっこうしたが、南みなみイタリアを統治とうちする両りょうシチリア王国おうこく（シチリア・ブルボン朝あさ）のフランチェスコ2世せいやローマ教皇きょうこうピウス9世せいはそれに否定ひてい的てきな態度たいどだった。ジュゼッペ・ガリバルディによって両りょうシチリア王国おうこくが征服せいふくされイタリア王国おうこくが成立せいりつすると、統治とうちするブルボン朝あさへの崇敬すうけいの念ねんが強つよく、また熱心ねっしんなキリスト教きりすときょう信者しんじゃが多おおい南みなみイタリアでは、それに抵抗ていこうするデモや反乱はんらん・ブリガンテ（「山賊さんぞく」「匪賊ひぞく」と和訳わやくされる）の活動かつどうが活発かっぱつ化かした。元々もともと北きたイタリア人じんは南みなみイタリア人じんを蔑視べっししていたが、それらによって「野蛮やばんな南部なんぶ」という差別さべつ感情かんじょうがさらに増幅ぞうふくされた。統一とういつ政府せいふはそれらを一律いちりつに「山賊さんぞく」と呼よんで弾圧だんあつした（→南みなみイタリア#南部なんぶ問題もんだい参照さんしょう）。 イタリア王国おうこく宰相さいしょうのカミッロ・カヴールは南みなみイタリアを「イタリアで最もっとも腐敗ふはいした地域ちいき」と呼よんだ。

ロンブローゾ学説がくせつは南部なんぶ差別さべつに論理ろんり的てき根拠こんきょを与あたえた。ロンブローゾは数すう多おおくの犯罪はんざい者しゃの検視けんしに立たち会あったが、ロンブローゾ本人ほんにんの言げんによれば「生来せいらい性せい犯罪はんざい者しゃ」理論りろんはブリガンテの遺体いたいの検視けんしに立たち会あったときに思おもいついたものであるという。ロンブローゾはイタリア北部ほくぶ住民じゅうみんと南部なんぶ住民じゅうみんでは「人種じんしゅ」に違ちがいがあり、「金髪きんぱつ」の人物じんぶつが多おおい北部ほくぶでは犯罪はんざい発生はっせい率りつが少すくなく、「金髪きんぱつ」の人物じんぶつが少すくない南部なんぶでは犯罪はんざい発生はっせい率りつが多おおいと論ろんじた。

ロンブローゾに師事しじしたエンリコ・フェリはロンブローゾ学説がくせつを発展はってんさせ「生うまれながらの犯罪はんざい者しゃ」という概念がいねんを強調きょうちょうした。フェリは、北部ほくぶ住民じゅうみんはゲルマン人じん・スラブ人じん・ケルト人じんの血ちを引ひき、南部なんぶ住民じゅうみんはアラブ人じん・フェニキア人じん・ギリシャ人じんの血ちを引ひいているが、南部なんぶ住民じゅうみんはアフリカやオリエントの血統けっとうを引ひいているがゆえに犯罪はんざい率りつが高たかく、犯罪はんざい者しゃが多おおいと論ろんじた。ロンブローゾ学説がくせつの流ながれを汲くむアルフレード・ニチェーフォロは、南部なんぶ住民じゅうみんは罪つみを犯おかしやすい精神せいしん的てき気質きしつと野蛮やばんさゆえブリガンテやマフィア・カモッラなどの凶悪きょうあく犯罪はんざい者しゃ集団しゅうだんを生うみ出だしてきたと論ろんじた。そして南部なんぶ住民じゅうみんのそれらの精神せいしん的てき気質きしつを治療ちりょうするためには北きたイタリア人じんによる南部なんぶの「文明ぶんめい化か」が必要ひつようだと訴うったえた。

皮肉ひにくにもナショナリズムによる国民こくみん統合とうごうを訴うったえるムッソリーニのファシスト党とうの全体ぜんたい主義しゅぎ体制たいせい下かで、国民こくみんの分断ぶんだんを煽あおるロンブローゾ学説がくせつに基もとづく南部なんぶ差別さべつの論説ろんせつを公言こうげんすることが制限せいげんされ、それは退潮たいちょうした。しかし北きたイタリア人じんの南部なんぶに対たいする差別さべつ感情かんじょうは残のこり、心理しんり学者がくしゃのバッタッキ（Marco Walter Battacchi）は1959年ねん段階だんかいで北きたイタリア人じんが未いまだに南部なんぶに対たいする差別さべつ感情かんじょうを抱だいていることを自著じちょで述のべている。

関連かんれん作品さくひん

• 『悪あくの教典きょうてん』 - 先天せんてん性せいの反はん社会しゃかい性せいパーソナリティ障害しょうがいを持もつ故ゆえ、道徳心どうとくしんが欠如けつじょしたサイコキラーを主人公しゅじんこうにしている。
• 『黒くろい家いえ』 - 「菰田こもた幸子さちこ」が反はん社会しゃかい性せいパーソナリティ障害しょうがいであり、保険ほけん金きん目的もくてきのため我わが子こを首吊くびつり自殺じさつに見みせかけて殺害さつがいし、その後ごも障害しょうがい保険ほけん金きんを得えるため夫おっとの両りょう腕うでを切断せつだんする等ひとし、何なんの罪ざいの意識いしきも無なく猟奇りょうき的てき行動こうどうを重かさねていく様さまを描えがいている。

参考さんこう文献ぶんけん

• アメリカ精神せいしん医い学会がっかい、(翻訳ほんやく)高橋たかはし三郎さぶろう・大野おおの裕ひろし・染しみ矢や俊幸としゆき『DSM-IV-TR 精神せいしん疾患しっかんの診断しんだん・統計とうけいマニュアル』（新しん訂てい版ばん）医学書院いがくしょいん、2004年ねん。ISBN 978-0890420256。 
• アレン・フランセス『精神せいしん疾患しっかん診断しんだんのエッセンス―DSM-5の上手じょうずな使つかい方かた』金剛こんごう出版しゅっぱん、2014年ねん3月がつ。ISBN 978-4772413527。 、Essentials of Psychiatric Diagnosis, Revised Edition: Responding to the Challenge of DSM-5®, The Guilford Press, 2013.
• CG77: Antisocial personality disorder: Treatment, management and prevention (Report). 英国えいこく国立こくりつ医療いりょう技術ぎじゅつ評価ひょうか機構きこう. 2009年ねん1月がつ.
• 宮崎みやざきかすみ「名めい探偵たんていホームズと「生来せいらい性せい犯罪はんざい者しゃ」 : 変質へんしつ論ろんの系譜けいふと推理すいり小説しょうせつへの展開てんかい」『表現ひょうげん学部がくぶ紀要きよう』第だい16巻かん、和光大学わこうだいがく表現ひょうげん学部がくぶ、2016年ねん3月がつ11日にち、127-146頁ぺーじ、CRID 1050282677923200512。 
• 北村きたむら暁夫あきお『ナポリのマラドーナ イタリアにおける「南みなみ」とは何なにか』山川やまかわ出版しゅっぱん社しゃ、2005年ねん。ISBN 978-4634491915。 
• 藤澤ふじさわ房ぼう俊しゅん『カヴール イタリアを創つくった稀代きたいの政治せいじ家か』太陽たいよう出版しゅっぱん、2021年ねん。ISBN 978-4867230466。 
• 藤澤ふじさわ房ぼう俊しゅん『匪賊ひぞくの反乱はんらんイタリア統一とういつと南部なんぶイタリア』太陽たいよう出版しゅっぱん、1992年ねん。ISBN 978-4884690991。 
• 藤澤ふじさわ房ぼう俊しゅん『ガリバルディ イタリア建国けんこくの英雄えいゆう』中公新書ちゅうこうしんしょ、2016年ねん。ISBN 978-4121024138。 
• 北原きたはら敦あつし 編へん『イタリア史し』山川やまかわ出版しゅっぱん社しゃ〈新版しんぱん 世界せかい各国かっこく史し〉、2008年ねん。ISBN 978-4634414501。 
• 北村きたむら暁夫あきお 編へん『近代きんだいイタリアの歴史れきし 16世紀せいきから現代げんだいまで』ミネルみねるヴァ書房ぁしょぼう、2012年ねん。ISBN 978-4623063772。 
• 梅うめ根ね悟さとる 編へん『イタリア・スイス教育きょういく史し』講談社こうだんしゃ〈世界せかい教育きょういく史し大系たいけい〉、1977年ねん。 
• 竹内たけうち啓一けいいち『地域ちいき問題もんだいの形成けいせいと展開てんかい 南みなみイタリア研究けんきゅう』大明だいめい堂どう、1998年ねん。ISBN 978-4470560288。 

関連かんれん項目こうもく

• パーソナリティ障害しょうがい - 演技えんぎ性せいパーソナリティ障害しょうがい
• サイコパス（精神病せいしんびょう質しつ）
• サイコキラー
• 反はん社会しゃかい的てき行動こうどう
• コルチゾール
• 衝動しょうどう制御せいぎょ障害しょうがい
• いじめ
• 機能きのう不全ふぜん家族かぞく