(Translated by https://www.hiragana.jp/)
行為障害 - Wikipedia コンテンツにスキップ

行為こうい障害しょうがい

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』
行為こうい障害しょうがい
概要がいよう
診療しんりょう 精神せいしん医学いがく, 心理しんりがく, 児童じどう精神せいしん医学いがく
分類ぶんるいおよび外部がいぶ参照さんしょう情報じょうほう
ICD-10 F91
ICD-9-CM 312
MedlinePlus 000919
MeSH D019955

行為こうい障害しょうがい(こういしょうがい、conduct disorder、CD)は、DSM-5からは素行そこう障害しょうがいわけとなり素行そこうしょう訳語やくご併記へいきされ、反復はんぷくして持続じぞくてきな、はん社会しゃかいてき攻撃こうげきてき、また反抗はんこうてき行動こうどうパターンを特徴とくちょうとし[1]年齢ねんれい相応そうおう社会しゃかい規範きはん規則きそくおおきく逸脱いつだつしている状態じょうたいである。これらの行動こうどうパターンはよくはん社会しゃかいてき行動こうどうばれる[2]。それ通常つうじょうどもっぽい悪戯あくぎ青年せいねん反抗はんこうくらべてよりおもあつでなければならないとしている[1]。また、6かげつ以上いじょう持続じぞくしている必要ひつようがある[3][4]。これは司法しほう行政ぎょうせいてき文脈ぶんみゃくにおいて、非行ひこうという概念がいねんろんじられてきた範疇はんちゅうのものをおおふくんでいる。

行為こうい障害しょうがいはよく成人せいじんはん社会しゃかいせいパーソナリティ障害しょうがい(ASPD)のぜん段階だんかいとなっており、18さい未満みまんならばASPDの診断しんだんとはならない[5]

定義ていぎ

[編集へんしゅう]

精神せいしん医学いがくてき障害しょうがい一種いっしゅである。

行動こうどう

[編集へんしゅう]
ひと動物どうぶつたいする攻撃こうげきせい[6]
しばしばひと喧嘩けんかしたり、脅迫きょうはくしたり、威嚇いかくしたり、動物どうぶつたいして残虐ざんぎゃく仕打しうちをする。
所有しょゆうぶつ破壊はかい[6]
他人たにん所有しょゆうぶつ破壊はかい 放火ほうかなど
うそをつくことや窃盗せっとう[6]
かえうそをついたり、ぬすみをおこなう。
重大じゅうだい規則きそく違反いはん[6]
社会しゃかい規範きはん違反いはんする行動こうどうや、家出いえでなど

しかしながら、このような記述きじゅつてき行動こうどう個人こじん問題もんだいからしょうじる必要ひつようがあり、(困窮こんきゅう地域ちいき戦争せんそうこくからの移民いみんなど[4]環境かんきょうあるいは文化ぶんかてきにごくたりまえであるような場合ばあいには、より健全けんぜん環境かんきょうへと調整ちょうせいする必要ひつようせい意味いみするかもしれない[7]

診断しんだん

[編集へんしゅう]

世界せかい保健ほけん機関きかん

[編集へんしゅう]

世界せかい保健ほけん機関きかんICD-10精神せいしん行動こうどう障害しょうがいにおいては、F91行為こうい障害しょうがいである[8]挑発ちょうはつてきであるが攻撃こうげきてき行動こうどう存在そんざいしない、窃盗せっとうといった法的ほうてき侵害しんがい存在そんざいしないものは、反抗はんこう挑戦ちょうせんせい障害しょうがい(ODD)に鑑別かんべつされる[9]診断しんだんには発達はったつ段階だんかい考慮こうりょする必要ひつようがあり、正常せいじょう発達はったつ段階だんかいにおける3歳児さいじのかんしゃく、7歳児さいじ暴力ぼうりょく診断しんだん根拠こんきょとはならない[6]注意ちゅうい欠陥けっかんどうせい障害しょうがいや、気分きぶん障害しょうがい広汎こうはんせい発達はったつ障害しょうがいなどとの鑑別かんべつ診断しんだん必要ひつようである[6]

行為こうい障害しょうがいは、反復はんぷく持続じぞくしていることが必要ひつようであり、6かげつ以上いじょう持続じぞくがなければ診断しんだん推奨すいしょうされない[3]。つまり単発たんぱつてきはん社会しゃかいてきなエピソードは診断しんだん根拠こんきょとならない[10]

F91行為こうい障害しょうがい下位かい分類ぶんるいに、がた分類ぶんるいとして妥当だとうであるとして[11]、F91.0家庭かてい限局げんきょくせい、F91.1個いっこじん行動こうどうがた、F91.2集団しゅうだん行動こうどうがた記載きさいされている[12]。またICD-10研究けんきゅうよう診断しんだん基準きじゅんでは、重症じゅうしょう窃盗せっとうなど、重大じゅうだい危害きがいおよぼしている場合ばあい重症じゅうしょうとする方法ほうほうがよい指標しひょうであるとされ、またどうせい情緒じょうちょくわえた3つの側面そくめんから記載きさいすることが推奨すいしょうされている[11]

アメリカ精神せいしん学会がっかい

[編集へんしゅう]

アメリカ精神せいしん学会がっかいによる『精神せいしん疾患しっかん診断しんだん統計とうけいマニュアルだい4はん(DSM-IV)における診断しんだんコードは312.8である。

DSM-IV-TRにおいては[4]診断しんだん基準きじゅんAにおいて社会しゃかいてき規則きそく人権じんけん無視むししており、診断しんだん基準きじゅんBにおいていちじるしい機能きのう障害しょうがいをもたらしており診断しんだん基準きじゅんCにおいて18さい以上いじょうでもよいがはん社会しゃかいせいパーソナリティ障害しょうがいではないことが必要ひつようである。小児しょうに発症はっしょうがたとは10さい以前いぜん発症はっしょうであり、青年せいねん発症はっしょうがたとはそれ以降いこうである。そして武器ぶき使用しようなど、実際じっさい相当そうとう危害きがいあたえている場合ばあい重症じゅうしょうであると診断しんだんされる。

DSM-5では、素行そこうしょう診断しんだんめい併記へいきされている。

鑑別かんべつ診断しんだん

[編集へんしゅう]

非行ひこう深刻しんこくでない、臨床りんしょうてきいちじるしい機能きのう障害しょうがいこしていないものは該当がいとうしない[13]素行そこうが、混乱こんらんした家庭かてい虐待ぎゃくたいけてきたなど、どもの環境かんきょうにおける文化ぶんか水準すいじゅん相当そうとうする場合ばあい適応てきおう障害しょうがいである[13]とく小児しょうに思春期ししゅんきでは家族かぞく環境かんきょうたいするストレス反応はんのうであることもあり[14][15]初期しょき診断しんだん不適切ふてきせつとなりやすく慎重しんちょう診断しんだんすべき、あるいは診断しんだんしないようにすべきである[15]発症はっしょうおそいほど一過いっかせい可能かのうせいと、理由りゆう可能かのうせい考慮こうりょする必要ひつようがある[16]

物質ぶっしつ中毒ちゅうどく物質ぶっしつ依存いぞん関連かんれんしてしょうじる場合ばあい除外じょがいする必要ひつようがあり[1][17]使用しよう対処たいしょすれば行動こうどう消失しょうしつすることもある[18]行動こうどうじょう厄介やっかいさは、注意ちゅうい欠陥けっかんどうせい障害しょうがいでもしょうじるが問題もんだい重大じゅうだいさがことなる[13][14]

法的ほうてき侵害しんがいがない場合ばあい反抗はんこう挑戦ちょうせんせい障害しょうがいである[13]素行そこうしょうと、反抗はんこう挑発ちょうはつしょう素行そこう程度ていど連続れんぞくじょうにあり、鑑別かんべつにおいてとくにストレスのおお劣悪れつあく環境かんきょう子供こどもそだっている場合ばあいには、反抗はんこう挑発ちょうはつしょうとしたほうが子供こどもにはいとかんがえられる[19]深刻しんこくだが、診断しんだん基準きじゅんたない場合ばあい診断しんだんコードV71.02小児しょうにおよび思春期ししゅんきはん社会しゃかいてき行為こういである[7]

背景はいけい

[編集へんしゅう]

つぎのような要因よういん多面ためんてき、かつ複雑ふくざつ影響えいきょうっている。

  • 個人こじん要因よういん
  • 家庭かてい要因よういん
  • 社会しゃかい文化ぶんかてき要因よういん

疫学えきがく

[編集へんしゅう]

3-7さいどもがおおあつまる学級がっきゅうでは、行為こうい障害しょうがい発症はっしょうリスクがたかいという証拠しょうこがある[20][21]。また早期そうき介入かいにゅうによって行為こうい障害しょうがい発症はっしょうリスクをらせるという証拠しょうこがある[20]。NICEはクラス単位たんいで、感情かんじょう学習がくしゅう問題もんだい解決かいけつのプログラムを実施じっしするよう勧告かんこくし、1学年がくねんで30にん以下いかのクラス単位たんいおこなうとしている[20]

ゆうびょうりつ

[編集へんしゅう]

行為こうい障害しょうがいゆうびょうりつは、1-10%の範囲はんいとされている[2]。カナダの9-19さい人口じんこうにおいては6.8%であった(2011ねん[22]。しかし少年しょうねん更生こうせい施設しせつにおいては、米国べいこく法務省ほうむしょうによれば23-87%とされる[23]

対応たいおう

[編集へんしゅう]

行為こうい障害しょうがいたいするもっと効果こうかのある治療ちりょうは、個人こじん学校がっこう家庭かてい環境かんきょう統合とうごうである。家族かぞくには心理しんり教育きょういく提供ていきょうする[1]くわえて治療ちりょうにおいては、夫婦ふうふあいだ衝突しょうとつ母親ははおやそもそもうつなど、家庭かていない衝突しょうとつ注目ちゅうもくすべきである。治療ちりょうにおいてはおおくの問題もんだい行動こうどうのトリガーになる可能かのうせいについて注目ちゅうもくすることとなる。

おおくの治療ちりょうほう存在そんざいするが、もっと効果こうかてきなのはマルチシステミックセラピー英語えいごばん (MST) とされる。英国えいこく国立こくりつ医療いりょう技術ぎじゅつ評価ひょうか機構きこう(NICE)の診療しんりょうガイドラインでは、11-17さい患者かんじゃについてMSTを推奨すいしょうしている[24]

ほか、ペアレント・トレーニング 認知にんち行動こうどう療法りょうほう生活せいかつ技能ぎのう訓練くんれんなどの利用りよう考慮こうりょできる[1]

マルチシステミックセラピー

[編集へんしゅう]

MSTは、個人こじん問題もんだい行動こうどうひろ文脈ぶんみゃくにおいて、どのようにてはまるかを強調きょうちょうする、集中しゅうちゅう統合とうごうてき治療ちりょうである。個人こじん接続せつぞくされたシステム(家庭かてい学校がっこう隣家りんか)のなかには、その個人こじんはん社会しゃかいてき行動こうどう強化きょうかするパターンの存在そんざい発見はっけんされる。MSTは、個人こじん家庭かていちからりて、それらへの接続せつぞくろうとする心理しんり療法りょうほうである。

訓練くんれん専門せんもんによって、毎週まいしゅう3-4かいのセラピーを3-5ヶ月かげつあいだ実施じっしする[25]

薬物やくぶつでの介入かいにゅう

[編集へんしゅう]

児童じどう青年せいねん精神せいしん医学いがく専門医せんもんいがいなければ、薬物やくぶつ療法りょうほうはすべきではない[1]

NICEは、行為こうい障害しょうがいまたは反抗はんこう挑戦ちょうせんせい障害しょうがいかかえる児童じどう青年せいねんたいしては、継続けいぞくてき薬物やくぶつ療法りょうほうこころみてはならないとしている[26]。NICEは深刻しんこく攻撃こうげきてき行動こうどうたいして短期間たんきかん介入かいにゅうにはリスペリドン提案ていあんしているが、しかし臨床りんしょうガイドラインを遵守じゅんしゅ専門せんもん注意深ちゅういぶか処方しょほうされなければならないとしている[26]

過度かど従順じゅうじゅん強制きょうせいすることへの批判ひはん

[編集へんしゅう]

アメリカでは児童じどうすこしでも問題もんだい行動こうどうがあったり、かん癪持しゃくもちだったりすると注意ちゅうい欠陥けっかんどうせい障害しょうがい行為こうい障害しょうがいなどの精神せいしん疾患しっかん診断しんだんされ、リタリンによる薬物やくぶつ治療ちりょう継続けいぞくしておこなわれること(「くすりけ」と形容けいようされる)が問題もんだいになっている[27]ナラティヴ・アプローチ普及ふきゅう目指めざ医療いりょうソーシャルワーカーのデイヴィッド゠ナイランドは、安易あんい児童じどう精神せいしん疾患しっかん診断しんだんすることで、周囲しゅうい色眼鏡いろめがねでその児童じどうるようになり、児童じどう自身じしん自己じこ暗示あんじでその精神せいしん疾患しっかん特徴とくちょうとされる行動こうどう規則きそくからのがれられなくなり、自己じこ肯定こうていかんがることを批判ひはんしている[28]。それらの治療ちりょうでは反抗はんこうてき行動こうどうなされる行為こういおさむことがとりわけ強調きょうちょうされるが、ナイランドは一概いちがい従順じゅうじゅんもとめることでその人物じんぶつ個性こせいつぶすことになることを憂慮ゆうりょしている。ナイランドは、既成きせい社会しゃかい価値かちかん法律ほうりつ逃亡とうぼう奴隷どれいほう)にさからって、黒人こくじん奴隷どれいのジムととも奴隷どれいせい廃止はいしした自由じゆうしゅうかうハックルベリー・フィン(『ハックルベリー・フィンの冒険ぼうけん』の主人公しゅじんこう)が現代げんだいきていれば不適切ふてきせつ治療ちりょう個性こせいつぶされることになるだろうとべている[29]。ナイランドによれば、一昔ひとむかしまえのアメリカ社会しゃかいでは児童じどうがそれらの問題もんだい行動こうどうこしても、いたって「普通ふつう」だとなされていたという[30]。ナイランドのかんがえは医学いがく博士はかせジーン゠コムズも賛成さんせいしている[31]

出典しゅってん

[編集へんしゅう]
  1. ^ a b c d e f 世界せかい保健ほけん機関きかん 2010, BEH.
  2. ^ a b Hinshaw, S. P., & Lee, S. S. (2003). Conduct and oppositional defiant disorders. In E. J. Mash & R. A. Barkley (Eds.), Child psychopathology (pp. 144-198). New York: Guilford Press.
  3. ^ a b 世界せかい保健ほけん機関きかん 2005, pp. 275–276.
  4. ^ a b c アメリカ精神せいしん学会がっかい 2004, p. 行為こうい障害しょうがい.
  5. ^ Brown, SA.; Gleghorn, A.; Schuckit, MA.; Myers, MG.; Mott, MA. (May 1996). “Conduct disorder among adolescent alcohol and drug abusers.”. J Stud Alcohol 57 (3): 314–24. doi:10.15288/jsa.1996.57.314. PMID 8709590. 
  6. ^ a b c d e f 世界せかい保健ほけん機関きかん 2005, p. 276.
  7. ^ a b アレン・フランセス 2014, p. 31.
  8. ^ 世界せかい保健ほけん機関きかん 2005, pp. 276、279.
  9. ^ 世界せかい保健ほけん機関きかん 2005, pp. 279–280.
  10. ^ 世界せかい保健ほけん機関きかん 2005, p. 275.
  11. ^ a b 世界せかい保健ほけん機関きかん 2008, p. 169.
  12. ^ 世界せかい保健ほけん機関きかん 2005, pp. 275–278.
  13. ^ a b c d アレン・フランセス 2014, p. 30.
  14. ^ a b 英国えいこく国立こくりつ医療いりょう技術ぎじゅつ評価ひょうか機構きこう 2013, Chapt.1.3.5.
  15. ^ a b アレン・フランセス 2014, pp. 19、22.
  16. ^ アレン・フランセス 2014, pp. 31–32.
  17. ^ 英国えいこく国立こくりつ医療いりょう技術ぎじゅつ評価ひょうか機構きこう 2013, Chapt.1.3.15.
  18. ^ アレン・フランセス 2014, pp. 30–31.
  19. ^ アレン・フランセス 2014, p. 32.
  20. ^ a b c 英国えいこく国立こくりつ医療いりょう技術ぎじゅつ評価ひょうか機構きこう 2014, Chapt.1.
  21. ^ 英国えいこく国立こくりつ医療いりょう技術ぎじゅつ評価ひょうか機構きこう 2013, Chapt.1.2.
  22. ^ The Life and Economic Impact of Major Mental Illnesses in Canada (Report). Mental Health Commission of Canada. 9 February 2013.
  23. ^ U.S. Department of Justice. (2006). Psychiatric disorders of youth in detention (NCJ 210331)Washington, DC: U.S. Government Printing Office.
  24. ^ 英国えいこく国立こくりつ医療いりょう技術ぎじゅつ評価ひょうか機構きこう 2013, Chapt.1.5.13.
  25. ^ 英国えいこく国立こくりつ医療いりょう技術ぎじゅつ評価ひょうか機構きこう 2013, Chapt.1.5.14.
  26. ^ a b 英国えいこく国立こくりつ医療いりょう技術ぎじゅつ評価ひょうか機構きこう 2013, Chapt.1.6.
  27. ^ ナイランド 2006, p. 33-46.
  28. ^ ナイランド 2006, p. 48-49.
  29. ^ ナイランド 2006, p. 29-30.
  30. ^ ナイランド 2006, p. 8.
  31. ^ ナイランド 2006, p. 3-6.

参考さんこう文献ぶんけん

[編集へんしゅう]

関連かんれん項目こうもく

[編集へんしゅう]