有島ありしま生馬いくま

有島ありしま 生馬いくま ARISHIMA, Ikuma
生誕せいたん	(1882-11-26) 1882年ねん11月26日にち 神奈川かながわ県けん横浜よこはま市し
死没しぼつ	(1974-09-15) 1974年ねん9月15日にち（91歳さい没ぼつ） 神奈川かながわ県けん鎌倉かまくら市し
墓地ぼち	鎌倉かまくら市し材木座ざいもくざ霊園れいえん
国籍こくせき	日本にっぽん
著名ちょめいな実績じっせき	画家がか

有島ありしま 生馬いくま（ありしま いくま、本名ほんみょう・有島ありしま壬生みぶ馬ば、1882年ねん〈明治めいじ15年ねん〉11月26日にち - 1974年ねん〈昭和しょうわ49年ねん〉9月15日にち）は、日本にっぽんの画家がか。号ごうは雨あめ東生とうせい、十じゅう月がつ亭てい。

神奈川かながわ県けん横浜よこはま市し出身しゅっしん。志賀しが直哉なおやや児島こじま喜久雄きくおとは少年しょうねん時代じだいからの友人ゆうじんで、『白樺しらかんば』創刊そうかんに参加さんかし、代表だいひょう作さく『蝙蝠かわほりの如しく』を書かいた。長ながくヨーロッパに留学りゅうがくしたが、その際さい、有島ありしまの恋人こいびと（女中じょちゅう）を志賀しからに託たくし、帰国きこく後ご、彼女かのじょと結婚けっこんの意志いしがないことを示しめしたため、志賀しがとの間あいだに疎隔そかくが生うまれ、敗戦はいせん後ご、志賀しがは『蝕むしばまれた友情ゆうじょう』（1947年ねん（昭和しょうわ22年ねん））を書かいて絶交ぜっこう。

家族かぞく

有島ありしま武郎たけおの弟おとうと、里見さとみ弴の兄あに。妻つまの信子のぶこは原はら田熊たぐま雄つよしの妹いもうとでドイツとのクォーター。妹いもうとのシマは医学いがく者しゃの高木たかぎ喜き寛ひろしに嫁とついだ。甥おいには武郎たけおの長男ちょうなんである俳優はいゆうの森もり雅之まさゆきがおり、1923年ねん（大正たいしょう12年ねん）に武郎たけおが心中しんちゅうのした後のちは彼かれの親代おやがわりとなって育そだてた。姪めいには高木たかぎ喜き寛ひろし・シマ夫妻ふさいの長女ちょうじょ・園子そのこがおり、西洋せいよう古典こてん学者がくしゃの呉ご茂一もいちに嫁とついだ。一人娘ひとりむすめの暁子あきこは東京とうきょう川崎かわさき財閥ざいばつの3代目だいめ当主とうしゅ・川崎かわさき守之もりゆき助すけに嫁とついだ。

略歴りゃくれき

有島ありしま生馬いくまが命名めいめいした「琅鶴湖こ」（水内みずうちダム）を記念きねんする石碑せきひ。

大蔵省おおくらしょう関税かんぜい局きょく長なが兼けん横浜よこはま税関ぜいかん長ちょうをしていた有島ありしま武ぶとその妻つま・幸こうの次男じなんとして、横浜よこはま月岡つきおか町まち（現げん・老松おいまつ町まち（横浜よこはま市し））の税関ぜいかん長官ちょうかん舎しゃで生うまれる。干支えとから「壬生みぶ馬ば（みぶま）」と名付なづけられたが、難読なんどくを嫌きらってのちに「生馬いくま」に改称かいしょう。父ちちの職業しょくぎょうや横浜よこはまという土地とち柄がらから外国がいこく人じんとの交流こうりゅうも多おおく、兄あに姉あねとともに洋学ようがく教育きょういくを受うける一方いっぽう、両親りょうしんとも武家ぶけ出身しゅっしんであったことから和洋わよう混載こんさいの環境かんきょうで育そだつ。父親ちちおやが由比ヶ浜ゆいがはまに別荘べっそうを持もっていたことから、吉田よしだ清成きよなり、吉原よしはら重俊しげとし、山尾やまお庸三ようぞう、園田そのだ孝吉こうきちらといった官僚かんりょうの子供こどもたちと親したしく交流こうりゅうした。

1891年ねん（明治めいじ24年ねん）に父親ちちおやが大蔵省おおくらしょう国債こくさい局長きょくちょうとなり東京とうきょうの麹町こうじまち区く永田町ながたちょうの官邸かんていに転居てんきょし、麹こうじ町まち小学校しょうがっこうに転校てんこうしたが、1893年ねん（明治めいじ26年ねん）に父親ちちおやが退官たいかんした後のち、1895年ねん（明治めいじ28年ねん）に学習がくしゅう院いん初等しょとう科かに転校てんこう。中等ちゅうとう科かに進すすむ1896年ねん（明治めいじ29年ねん）に麹町こうじまち区く下した六ろく番ばん町まち10（現げん・六番ろくばん町まち（千代田ちよだ区く））の旧きゅう旗本はたもと屋敷やしきに一家いっかで転居てんきょし、学校がっこうでは志賀しが直哉なおや、田村たむら寛ひろし貞さだ、黒木くろき三次みつじ、三条さんじょう公こう輝てるらと文芸ぶんげいサークル「睦むつみ友とも会かい」を結成けっせいして会報かいほう誌しで文芸ぶんげい評論ひょうろんなどを発表はっぴょう。1900年ねん（明治めいじ33年ねん）中等ちゅうとう科か4年ねんのときに肋膜炎ろくまくえんを患わずらい、学習がくしゅう院いんを中退ちゅうたいして父ちちの郷里きょうりである鹿児島かごしま県けん平佐ひらさ村むら（現げん・薩摩さつま川内せんだい市し）で転地てんち療養りょうようする。このとき近所きんじょの書店しょてんで見みつけた『近松ちかまつ研究けんきゅう』を読よんだことから近松ちかまつ門左衛門もんざえもんなど日本にっぽんの古典こてん文学ぶんがくに夢中むちゅうになり、また、当地とうちで出会であった日本人にっぽんじん神父しんぷから見みせられたローマの宗教しゅうきょう美術びじゅつからイタリアで絵えを学まなびたいと思おもうようになる。

一いち年ねんの療養りょうようを終おえて、1901年ねん（明治めいじ34年ねん）に東京とうきょう外国がいこく語ご学校がっこう（現げん・東京外国語大学とうきょうがいこくごだいがく）イタリア語ご科かに入学にゅうがく。1903年ねん（明治めいじ36年ねん）には小山内おさない薫かおるの紹介しょうかいで、かねてより傾倒けいとうしていた島崎しまざき藤村とうそんを小諸こもろに訪たずねた際さい、ピサロの絵えを初はじめて見みせられ衝撃しょうげきを受うける（藤村ふじむらとの交流こうりゅうは生涯しょうがい続つづき、のちに藤村ふじむらの『千曲川ちくまがわのスケッチ』の装丁そうていも手掛てがけ、藤村ふじむらが没ぼっした際さいは生馬いくまが葬儀そうぎ委員いいん長ちょうを務つとめた）。岩元いわもと禎ただしに紹介しょうかいを頼たのみ、大学だいがくの卒業そつぎょう式しきが終了しゅうりょうしたその足あしで洋画ようが家か藤島ふじしま武二たけじのもとを訪たずね、住すみ込こみの生徒せいととなるが、しばらくして駒込こまごみ円通寺えんつうじに転居てんきょし、日にち露ろ戦争せんそう終戦しゅうせん後ごの時期じきである1906年ねん（明治めいじ39年ねん）5月がつ、イタリアに向むかう。元もと電話でんわ交換こうかん手しゅから絵画かいがモデルになり生馬いくまと知しり合あって有島ありしま家かの女中じょちゅうとなった恋人こいびと・関せき安子やすこの世話せわを友人ゆうじんらに頼たのむ。

薩摩さつま出身しゅっしんのイタリア公使こうし・大山おおやま綱つな介かいの紹介しょうかいで6月がつにローマに居きょを構かまえ、古典こてん美術びじゅつを学まなびはじめるが、同年どうねん9月がつに訪たずねてきた兄あに・有島ありしま武郎たけおとともにヨーロッパ各地かくちを巡めぐる旅行りょこうに出でかけ、同年どうねん12月がつ末まつからパリに留とまるも、ロンドン滞在たいざい中ちゅうの武郎たけおを訪たずねて過すごし、翌よく1907年ねん（明治めいじ40年ねん）2月がつ末まつからパリの美術びじゅつ学校がっこうグラン・ショミエールに通かよいはじめる。6月にはラファエル・コランの画室がしつを訪たずね、夏なつにはヨーロッパに留学りゅうがく中ちゅうの旧友きゅうゆうらと交流こうりゅうを楽たのしみ、同年どうねん秋あきにセザンヌ回顧かいこ展てんを見みて感銘かんめいを受うける。パリでは荻原おぎわら守衛もりえ、高村たかむら光太郎こうたろう、南みなみ薫造くんぞう、梅原うめはら龍三郎りゅうさぶろう、藤田ふじた嗣治つぐじらとも交流こうりゅうした。

1910年ねん（明治めいじ43年ねん）2月がつに帰国きこくし、武郎たけお、弟おとうと・里見さとみ弴とともに『白樺しらかんば』同どう人ひととなり、セザンヌをいち早はやく紹介しょうかいする。 同年どうねん、女中じょちゅうの関せき安子やすこを捨すて、里見さとみ弴の学友がくゆうだった原はら田熊たぐま雄つよしの妹いもうと・原田はらだ信子のぶこ（ - 1978年ねん）と結婚けっこん。1911年ねん（明治めいじ44年ねん） 文展ぶんてんに入選にゅうせん。娘むすめ・暁子あきこ（1911 - 1982）が生うまれる。

白樺しらかんば派はのメンバー。前列ぜんれつ右みぎから1番目ばんめが有島ありしま生馬いくま（明治めいじ45年ねん〈1912年ねん〉）

1914年ねん（大正たいしょう3年ねん）文展ぶんてんからの独立どくりつを志向しこうする二科会にかかい結成けっせい（創立そうりつ会員かいいん）。1914年ねん（大正たいしょう3年ねん）妻つま・信子のぶこが家いえを出でる。1920年ねん（大正たいしょう9年ねん）志賀しが直哉なおやが生馬いくまの生活せいかつを批判ひはん的てきに描えがいた小説しょうせつ『或あるる一夜いちや』を発表はっぴょう。1921年ねん（大正たいしょう10年ねん）画家がか西村にしむら伊作いさくや歌人かじん与謝野よさの晶子あきこ、画家がか石井いしい柏亭はくていらによって当時とうじの学校がっこう令れいに縛しばられない自由じゆうでより創造そうぞう的てきな学校がっこう、文化ぶんか学院がくいんが創立そうりつされる。生馬いくまも講師こうしとして教壇きょうだんに立たった（教おしえ子ごに村井むらい正ただし誠まことがいる）。1928年ねん（昭和しょうわ3年ねん）娘むすめ・暁子あきこ、原はら智恵子ちえこらと渡わたし欧おうし、フランスでレジオンドヌール勲章くんしょう授与じゅよ。

1935年ねん（昭和しょうわ10年ねん）、帝国ていこく美術びじゅつ院いんの大改革だいかいかくが行おこなわれ、官選かんせんの形かたちで美術びじゅつ院いんの会員かいいんに選出せんしゅつされる。このことで二科会にかかいを脱会だっかい。 同年どうねん、日本にっぽんペンクラブ（会長かいちょう・島崎しまざき藤村とうそん）の副ふく会長かいちょうになる。 1936年ねん（昭和しょうわ11年ねん）7月がつ、島崎しまざき藤村とうそんらとともにペン・クラブ国際こくさい大会たいかいに出席しゅっせきするためアルゼンチンを訪問ほうもん。 帰国きこく後ごの同年どうねん12月がつ、安井やすい曽そ太郎たろうらとともに一水会いちすいかい設立せつりつに参画さんかく。 1937年ねん（昭和しょうわ12年ねん） 帝国ていこく芸術げいじゅつ院いん会員かいいんとなる。 1958年ねん（昭和しょうわ33年ねん） 日展にってん常務じょうむ理事りじに就任しゅうにん。1964年ねん（昭和しょうわ39年ねん） 文化ぶんか功労こうろう者しゃとなる。1971年ねん（昭和しょうわ46年ねん）娘むすめ・暁子あきこ、昭和しょうわ天皇てんのう皇后こうごうヨーロッパ歴訪れきほうに同行どうこうし通訳つうやくを務つとめる。1974年ねん（昭和しょうわ49年ねん）91歳さいで死去しきょ。

1982年ねん（昭和しょうわ57年ねん）、有島ありしま生馬いくまの鎌倉かまくらの家いえ（通称つうしょう「松まつの屋敷やしき」）が長野ながの市し信州新しんしゅうしん町まち上条じょうじょうに移築いちくされ、「有島ありしま生馬いくま記念きねん館かん」として開館かいかんされた。

→詳細しょうさいは「有島ありしま生馬いくま記念きねん館かん」を参照さんしょう

著書ちょしょ

• 蝙蝠かわほりの如ごとく （洛陽らくよう堂どう 1913年ねん　白樺しらかんば叢書そうしょ）
• 獸人じゅうじん （東京とうきょう堂どう 1915年ねん）
• 南歐なんおうの日ひ （新潮社しんちょうしゃ 1916年ねん）
• 暴君ぼうくんへ （新潮社しんちょうしゃ 1917年ねん）
• 葡萄ぶどう圃の中なか （春陽しゅんよう堂どう 1918年ねん）
• 鏡かがみ中ちゅう影かげ （春陽しゅんよう堂どう 1919年ねん）
• 死しぬほど （春陽しゅんよう堂どう 1920年ねん）
• 美術びじゅつの秋あき （叢くさむら文ぶん閣かく 1920年ねん）
• 回想かいそうのセザンヌ （エミル・ベルナールの訳書やくしょ）、叢くさむら文ぶん閣かく 1920年ねん／岩波いわなみ文庫ぶんこ、1953年ねんほか
• 嘘うその果はて 常子つねこの手紙てがみ （新潮社しんちょうしゃ 1921年ねん）
• 片方かたがたの心しん （プラトン社しゃ 1924年ねん）
• セザンヌ （アルス 1925年ねん）
• 海うみ村むら （改造かいぞう社しゃ 1927年ねん）
• 現代げんだい日本にっぽん文學ぶんがく全集ぜんしゅう 第だい27篇へん 有島ありしま武郎たけお集しゅう・有島ありしま生馬いくま集しゅう （改造かいぞう社しゃ 1927年ねん）
• 有島ありしま生馬いくま全集ぜんしゅう （全ぜん3巻かん 改造かいぞう社しゃ 1932年ねん-1933年ねん）／日本にっぽん図書としょセンター（復刻ふっこく版ばん）、1997年ねん
• 有島ありしま生馬いくま畫集がしゅう 人物じんぶつ肖像しょうぞう篇へん （アトリヱ社しゃ 1932年ねん）
• 東方とうほうへの港みなと （岡倉おかくら書房しょぼう 1936年ねん）
• 邪道じゃどう （グラツィア・デレッダ（訳わけ）日本にっぽん出版しゅっぱん社しゃ 1942年ねん）
• 青春せいしゅん回想かいそう （随筆ずいひつ集しゅう 信濃しなの青年せいねん社しゃ 1947年ねん）
• 思おもい出での我わが （中央公論ちゅうおうこうろん美術びじゅつ出版しゅっぱん 1976年ねん）
• 一ひとつの予言よげん 有島ありしま生馬いくま芸術げいじゅつ論集ろんしゅう （形象けいしょう社しゃ 1979年ねん）

参考さんこう文献ぶんけん

• 『人事じんじ興信録こうしんろく 第だい8版はん』 人事じんじ興信所こうしんじょ、1928年ねん（昭和しょうわ3年ねん）7月がつ10日とおか
• 『人事じんじ興信録こうしんろく 第だい14版はん 上じょう』 人事じんじ興信所こうしんじょ、1943年ねん（昭和しょうわ18年ねん）10月がつ1日にち
• 小谷野こやの敦あつし 著ちょ 『日本にっぽんの有名ゆうめい一族いちぞく 近代きんだいエスタブリッシュメントの系図けいず集しゅう』幻冬舎げんとうしゃ〈幻冬舎げんとうしゃ新書しんしょ〉、2007年ねん（平成へいせい19年ねん）9月がつ30日にち第だい1刷さつ発行はっこう、ISBN 978-4-3449-8055-6

関連かんれん人物じんぶつ

• 有島ありしま武郎たけお（元もと札幌さっぽろ農のう学校がっこう教授きょうじゅ、生馬いくまの実兄じっけい）
• 里見さとみ弴（小説しょうせつ家か、生馬いくまの実弟じってい）
• 森もり雅之まさゆき（俳優はいゆう、生馬いくまの甥おい、兄あに・武郎たけおの実子じっし）
• 藤島ふじしま武二たけじ（画家がか）

外部がいぶリンク

• 有島ありしま生馬いくま記念きねん館かん
• 長野ながの県けん博物館はくぶつかん協議きょうぎ会かいホームページ　信州しんしゅうミュージアムガイド
• 有島ありしま生馬いくま - 東京とうきょう文化財ぶんかざい研究所けんきゅうじょ
• 『有島ありしま生馬いくま』 - コトバンク