武たけ庚かのえ

武たけ庚かのえ（ぶこう、生なま没年ぼつねん不ふ詳しょう）は、中国ちゅうごく周しゅう王朝おうちょうの初期しょきの武将ぶしょう。殷いん王朝おうちょうの最後さいごの帝王ていおうである帝みかど辛からし（紂王）の子こ。名なは禄ろく父ちち。武たけ庚かのえの名なを禄ろく父ちちとする一人ひとりの人名じんめいという『史記しき』の説せつがあるが、武たけ庚かのえと禄ろく父ちちという『論ろん衡』などの二人ふたりの人名じんめい説せつが妥当だとうである。

明あきら代だいの神かみ怪かい小説しょうせつの『封ふう神しん演義えんぎ』では、朝ちょう歌かが落城らくじょうした際さいに周しゅう兵へいによって捕とらえられる最後さいごの場面ばめんのみ登場とうじょうする。なお、安やす能のう版ばんでは少年しょうねんで生母せいぼに伴ともなわれて降伏ごうぶくした。

生涯しょうがい

『史記しき』「周しゅう本紀ほんぎ」によると、彼かれは既すでに成人せいじんしており（あるいは壮年そうねんに達たっしており）、父ちちが自決じけつを遂とげて殷いんが滅ほろぶと、部隊ぶたいを率ひきいて自みずから降伏ごうぶくし、姫ひめ発はつ（武たけ王おう）によって、殷いんの旧領きゅうりょうを与あたえられた。そして武ぶ王おうの弟おとうとの管かん叔鮮・蔡叔度どと共ともに商しょうの旧領きゅうりょうを監視かんしした。これを三さん監かんという（三さん監かんは管かん叔鮮・蔡叔度ど・霍叔処しょとの説せつもある）。

だが、彼かれらは兄弟きょうだいの周しゅう公こう旦だん（管かん叔は周しゅう公こうの兄あに、蔡叔・霍叔は弟おとうと）が摂政せっしょうとして、甥おいの姫ひめ誦を補佐ほさしているのに不満ふまんを持もった。それで二に人にんは禄ろく父ちちを擁立ようりつして殷いんと繋つながりがあった東部とうぶの淮夷と連合れんごうをして、謀反むほんを起おこした。容易よういならぬ事態じたいを悟さとった周しゅう公こうは討伐とうばつに向むかったが、敵てきは意外いがいと手強てごわく鎮圧ちんあつするのに3年ねん以上いじょうもかかったという。やがて反乱はんらんが鎮しずまり、首謀しゅぼう者しゃの禄ろく父ちちと黒幕くろまくの管かん叔は処刑しょけいされ、蔡叔は息子むすこの蔡仲に家督かとくを譲ゆずって、遠方えんぽうに流罪るざいとなった（三さん監かんの乱らん）。

こうして、旧きゅう殷いんの恐おそろしさを知しった周しゅう公こうは殷いんを二分にぶんし､西部せいぶは衛まもるとして弟おとうとの康かん叔封を封ふうじ、東部とうぶは宋そうとして禄ろく父ちちの伯父おじの微ほろ子こ啓けいを封ふうじて、殷いんの勢力せいりょくを弱体じゃくたい化かさせたという。

武たけ庚かのえの妻子さいしは『史記しき』には記述きじゅつされてはいないが、西にし周あまね期きの青銅器せいどうきの記述きじゅつによると、子こに太子たいし聴（紂王の孫まご）がおり、父ちちとともに周しゅう公こう旦だんに誅殺ちゅうさつされたと記しるされている。