海綿動物かいめんどうぶつ

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海綿動物かいめんどうぶつもん Porifera
生息せいそく年代ねんだい: エディアカラ現世げんせい
"Calcispongiae" from Ernst Haeckel's
Kunstformen der Natur, 1904
分類ぶんるい
ドメイン : かく生物せいぶつ Eukaryota
階級かいきゅうなし : オピストコンタ Opisthokonta
階級かいきゅうなし : コアノゾア Choanozoa
さかい : 動物界どうぶつかい Animalia
後生ごしょう動物どうぶつ Metazoa
もん : 海綿動物かいめんどうぶつもん Porifera
Grant in Todd, 1836
和名わみょう
海綿動物かいめんどうぶつもん
英名えいめい
sponge
つな

海綿動物かいめんどうぶつ(かいめんどうぶつ、えい: sponge)は、海綿動物かいめんどうぶつもん: Porifera)にぞくする動物どうぶつ総称そうしょうである。海綿かいめん、カイメンなどとも表記ひょうきされる。

熱帯ねったいうみ中心ちゅうしん世界中せかいじゅうのあらゆるうみ生息せいそくする。淡水たんすい生息せいそくするたね存在そんざいする。つぼじょう扇状せんじょうはいじょうなど様々さまざま形態けいたいをもつたね存在そんざいし、同種どうしゅであっても生息せいそく環境かんきょうによって形状けいじょうことなる場合ばあいもある。おおきさはすうmmから1mをすもの(南極なんきょくかい生息せいそくするたるじょう海綿かいめん Scolymastra joubini)まで多様たようである。細胞さいぼう生物せいぶつであるが、細胞さいぼうあいだ結合けつごうはゆるく、はっきりとした器官きかんひとし分化ぶんかられない。こまかい網目あみめじょう海綿かいめんしつ繊維せんいからなる骨格こっかくスポンジとして化粧けしょうよう沐浴もくよくようもちいられる。

生物せいぶつがくてき特徴とくちょう[編集へんしゅう]

海綿かいめん固着こちゃくせい動物どうぶつである。基本きほんてきには放射ほうしゃ相称そうしょうかたちるが、実際じっさいには環境かんきょうによってもおおいに変化へんかする。表面ひょうめんしょうあなばれるすうおおくのあなをもち、ここからみず食物しょくもつをとりこんでいる。また、だいあなとよばれる開口かいこう上部じょうぶにあり、ここからみずしている。腔とばれる内側うちがわ空洞くうどうにはむちをそなえたえり細胞さいぼう多数たすうあり、このむちによってしょうあなからだいあなへのみず循環じゅんかんこしている。このような体内たいないみず循環じゅんかんさせる構造こうぞうをまとめてみずみぞけい(canal system)という。

だい部分ぶぶん海産かいさんで、潮間しおまたいから深海しんかいまで様々さまざまなものがある。淡水たんすいさんたねすくないながら存在そんざいする。岩盤がんばん海藻かいそう、あるいは貝殻かいがらうえなど、かた基盤きばんうえいて成長せいちょうするものがおおいが、深海しんかいどろそこにはじょう構造こうぞうさるようにして定着ていちゃくするものがある。

カイメンは濾過ろか摂食せっしょくものであり、体内たいないとおけるみずなかから有機物ゆうきぶつ微粒子びりゅうし微生物びせいぶつらえて栄養えいようとする。それらはえり細胞さいぼう内部ないぶしょく細胞さいぼうによって確保かくほされる。ただし、深海しんかいなどには肉食にくしょくせいカイメンばれるものがあり、それらはよりおおきな小型こがた甲殻こうかくるいなどをらえて消化しょうかする。

海綿かいめん体内たいないには大量たいりょう微生物びせいぶつ共生きょうせいしており、たねによってはぜん体積たいせきの 40% を微生物びせいぶつめる[1]。そのおおくが海綿かいめん体内たいないからのみ発見はっけんされるしゅである。現在げんざい細菌さいきん細菌さいきん双方そうほうに、Poribacteria(カイメン Porifera にちなむ)やタウム細菌さいきんCenarchaeum symbiosumなど)といったあたらしいもん提唱ていしょうされている[2]

生殖せいしょく[編集へんしゅう]

生殖せいしょく無性むしょう生殖せいしょく有性ゆうせい生殖せいしょく双方そうほうおこなう。無性むしょう生殖せいしょくとしてからだひょうから成長せいちょうして繁殖はんしょくするほか、だまばれる体外たいがい放出ほうしゅつして繁殖はんしょくするたねもある。有性ゆうせい生殖せいしょく多様たようであり、雌雄しゆう同体どうたい雌雄しゆう異体いたい双方そうほうたねがある。おおくのたねでは受精じゅせい幼生ようせいになるまではおや体内たいないそだ胎生たいせいであるが、卵生らんせいたね存在そんざいする。

発生はっせい[編集へんしゅう]

発生はっせい過程かていにおいて、そと胚葉はいよううち胚葉はいようといった胚葉はいよう形成けいせいこらない。また、細胞さいぼうでありながら明瞭めいりょう器官きかん分化ぶんかられない。このため、海綿動物かいめんどうぶつもんおよび平板へいばん動物どうぶつもん同様どうよう組織そしき分化ぶんかられない)はがわせい動物どうぶつ Parazoa として、器官きかんけい分化ぶんかしたその動物どうぶつである真正しんしょう後生ごしょう動物どうぶつ Eumetazoa とは区別くべつされている。えり細胞さいぼうえりかこまれたむちをもつことから、単細胞たんさいぼう生物せいぶつえりむち毛虫けむし(えりべんもうちゅう)と海綿動物かいめんどうぶつとの類似るいじせいふるくから指摘してきされてきた。このことから、以前いぜん海綿動物かいめんどうぶつえりむち毛虫けむしぐんたいから派生はせいしたもので、細胞さいぼう動物どうぶつとは系統けいとうことなるものではないかともわれたこともある。しかし、海綿動物かいめんどうぶつにはホメオボックス遺伝子いでんし、TGB-βべーた遺伝子いでんしなど、細胞さいぼう生物せいぶつとしての分化ぶんか発生はっせいかかわる遺伝子いでんしぐんすで存在そんざいしていることがあきらかになってきており、細胞さいぼう動物どうぶつとのはそうおおきなものではないとの証拠しょうこがっている。

後生ごしょう動物どうぶつとの系統けいとう関係かんけい[編集へんしゅう]

先述せんじゅつのように、従来じゅうらいはこのぐん後生ごしょう動物どうぶつとはべつ系統けいとうぞくするとのせつがあった。しかし分子ぶんし系統けいとうがくひとし情報じょうほうから、細胞さいぼう動物どうぶつえりむち毛虫けむしぐんたい起源きげんであるとかんがえられるようになり、海綿動物かいめんどうぶつもっと原始げんしてき細胞さいぼう動物どうぶつであるというせつがあらためて提示ていじされている。したがって、動物どうぶつすべ祖先そせん共有きょうゆうするたん系統けいとうぐんであるとかんがえられている。

しかし、最古さいこ細胞さいぼう動物どうぶつ化石かせきであるエディアカラ生物せいぶつぐんからはとげ動物どうぶつによく生物せいぶつつかっていることから、 とげ動物どうぶつ幼生ようせい類似るいじした単細胞たんさいぼう生物せいぶつ繊毛せんもうちゅうのようなものが細胞さいぼう動物どうぶつ起源きげんであるというかんがえものこっている(繊毛せんもうむしるい起源きげんせつ、ciliate theory)。

いずれにせよ、細胞さいぼう動物どうぶつとしては破格はかく組織そしき器官きかん単純たんじゅんであり、その進化しんかのごく初期しょき分化ぶんかした原始げんしてきなものであるとの定見ていけんがある。しかし、うみそこせい生物せいぶつとしては非常ひじょう成功せいこうしている動物どうぶつぐんでもある[3]

分類ぶんるい[編集へんしゅう]

石灰せっかい海綿かいめんつな Calcarea
骨格こっかく主成分しゅせいぶん炭酸たんさんカルシウムで、すべ海産かいさん海綿動物かいめんどうぶつである。
  • カルキネアつな Calcinea
    • ロイケッタ Leucettida
    • クラトリナ Clathorinida - クラトリナカイメン
  • カルカロネアつな Calcaronea
    • アミカイメン Leucosolenida - カゴアミカイメン
    • ツボカイメン Syncettida - ケツボカイメン
  • ファレトロニダつな Pharetronida
    • ペトロビオナ Inozoa
    • ソラシア Sophinctizoa
普通ふつう海綿かいめんつな Demospongiae
現生げんなまする海綿かいめんの95%がこのつなぞくしている。骨格こっかくはかなり柔軟じゅうなんせいのある海綿かいめんしつ繊維せんいの「スポンジン」で構成こうせいされている。スポンジンの主成分しゅせいぶんは、すべての動物どうぶつがもつ細胞さいぼうがいマトリックスであるコラーゲン祖先そせん物質ぶっしつである。
  • どうほね海綿かいめんつな Homosclromorpha
    • どうほね海綿かいめん Homoscleromorhida - ノリカイメン
  • 四放海綿亜綱 Tetrectinomorpha
    • ゆうほし海綿かいめん Choristida - アツカワカイメン
    • 螺旋らせん海綿かいめん Spirophorida - グミカイメン、トウナスカイメン
    • イシカイメン Lithistida - Theonella cylindrica
    • かた海綿かいめん Hadromerida - パンカイメン・ユズダマカイメン
    • 中軸ちゅうじく海綿かいめん Axinelida - ツノマタカイメン
  • 角質かくしつ海綿かいめんつな Ceractinomorpha
ろく海綿かいめんつな Hexactinellida
ガラス海綿かいめんともよばれ、ろく放射ほうしゃほしじょうケイ酸けいさんしつほねへんおもとする骨格こっかくつ。深海しんかい砂地すなじなどに生息せいそくしている。
  • りょうばんつな Amphidiscophora
    • りょうばん Amphidiscosa
  • 六放星亜綱 Hexasteriphora
    • ろく Dictynia
    • カイロウドウケツ Lyssacina - カイロウドウケツ
    • アウロキスチス Lycniscosa
硬骨こうこつ海綿かいめんつな Sclerospongiae
炭酸たんさんカルシウムの骨格こっかく周囲しゅういケイ酸けいさんしつほねへん海綿かいめん組織そしき取巻とりまいている。おおくが化石かせきたねである。
  • アストロスクレラ Astrosclerida
  • ケラトポレラ Ceratoporellida
  • 床板とこいた海綿かいめん Tabulospongida

人間にんげんとのかかわり[編集へんしゅう]

スポンジ

普通ふつう海綿かいめんつなぞくする6しゅ海綿かいめん海綿かいめんしつ繊維せんいだけからなりかたほねへんたないため、スポンジとして化粧けしょうよう沐浴もくよくようもちいられる。地中海ちちゅうかいさん紅海こうかいさん海綿かいめんやわらかく、品質ひんしつたかいとされる。海底かいてい捕獲ほかくした海綿かいめん組織そしき腐敗ふはいさせあらながしてのこった骨格こっかくが、スポンジとして店頭てんとうられる海綿かいめんとなる。日本にっぽんでは、ガラス海綿かいめん一種いっしゅであるカイロウドウケツなどがその姿すがた面白おもしろさからかざりなどに使つかわれた。

海綿かいめん水中すいちゅう浮遊ふゆうする食物しょくもつ濾過ろか摂食せっしょくするため、水質すいしつ汚濁おだく原因げんいんとなる水中すいちゅう微生物びせいぶつ有機物ゆうきぶつ除去じょきょする役割やくわりたしている。

カイメンからは複雑ふくざつ構造こうぞう有機ゆうき化合かごうぶつ多数たすう発見はっけんされており、医薬品いやくひん候補こうほとして期待きたいされている。こう HIV くすりとしてもちいられているジドブジンはカイメン由来ゆらい天然てんねんぶつ類似るいじした構造こうぞうっており[4]ほかにもハリコンドリンB[5]環状かんじょうグアニジンるい[6]などがこうがんざいこう HIV やくこうマラリアくすりとして作用さようすることが確認かくにんされている。

挿入そうにゅうしき生理せいり用品ようひんタンポン)として使用しようされることがある。乾燥かんそうしたカイメンをちつ挿入そうにゅうしてけいわせる。してあらって乾燥かんそうさせればさい利用りようできる。江戸えど時代じだいから使つかわれていたことがわかっている。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

出典しゅってん[編集へんしゅう]

  1. ^ Gretchen Vogel, "The Inner Lives of Sponges", Science 2008, 320, 1028 - 1030. doi:10.1126/science.320.5879.1028
  2. ^ Lars Fieseler, Matthias Horn, Michael Wagner, and Ute Hentschel, "Discovery of the Novel Candidate Phylum “Poribacteria” in Marine Sponges", Appl Environ Microbiol. 2004 June; 70(6): 3724–3732. doi:10.1128/AEM.70.6.3724-3732.2004.
  3. ^ Vacelet(1999)p.46
  4. ^ Lisa M. Jarvis, "Liquid Gold Mine", C&EN 2007, 85, 22-28. [1]
  5. ^ 上村うえむら 大輔だいすけ, "海洋かいよう生物せいぶつ由来ゆらいの“もの分子ぶんし”のなぞ"
  6. ^ 長澤ながさわ 和夫かずお, “海産かいさん環状かんじょうグアニジンけい天然てんねんぶつぜん合成ごうせいおよ新規しんきグアニジンがたひとし有機ゆうき分子ぶんし触媒しょくばい開発かいはつ”, 薬学やくがく雑誌ざっし, Vol. 123, 387-398 (2003). doi:10.1248/yakushi.123.387

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

  • 白山しろやま義久よしひさ へん 『バイオディバーシティ・シリーズ (5) 脊椎動物せきついどうぶつ多様たようせい系統けいとう節足動物せっそくどうぶつのぞく)』 はなぼう (2000) ISBN 978-4-7853-5828-0
  • 佐藤さとうのりぎょう倉谷くらたにしげる野地のちきよしはれ長谷部はせべひかりやすし ちょ 『シリーズ進化しんかがく (4) 発生はっせい進化しんか』 岩波書店いわなみしょてん (2004) ISBN 978-4000069243
  • L.マルグリス、KV.シュヴァルツ ちょ図説ずせつ生物せいぶつかいガイド いつつの王国おうこく日経にっけいサイエンスしゃ (1987) ISBN 978-4-532-06267-5
  • J. Vacelet. 1999. Sponges(Porifera) in submarine Caves. Qatar Univ. Sci. J.pp.46-56.

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]