海綿動物 かいめんどうぶつ 門 もん Porifera
分類 ぶんるい
和名 わみょう
海綿動物 かいめんどうぶつ 門 もん
英名 えいめい
sponge
綱 つな
海綿動物 かいめんどうぶつ (かいめんどうぶつ、英 えい : sponge )は、海綿動物 かいめんどうぶつ 門 もん (羅 ら : Porifera )に属 ぞく する動物 どうぶつ の総称 そうしょう である。海綿 かいめん 、カイメンなどとも表記 ひょうき される。
熱帯 ねったい の海 うみ を中心 ちゅうしん に世界中 せかいじゅう のあらゆる海 うみ に生息 せいそく する。淡水 たんすい に生息 せいそく する種 たね も存在 そんざい する。壺 つぼ 状 じょう 、扇状 せんじょう 、杯 はい 状 じょう など様々 さまざま な形態 けいたい をもつ種 たね が存在 そんざい し、同種 どうしゅ であっても生息 せいそく 環境 かんきょう によって形状 けいじょう が異 こと なる場合 ばあい もある。大 おお きさは数 すう mmから1mを越 こ すもの(南極 なんきょく 海 かい に生息 せいそく する樽 たる 状 じょう の海綿 かいめん Scolymastra joubini )まで多様 たよう である。多 た 細胞 さいぼう 生物 せいぶつ であるが、細胞 さいぼう 間 あいだ の結合 けつごう はゆるく、はっきりとした器官 きかん 等 ひとし の分化 ぶんか は見 み られない。細 こま かい網目 あみめ 状 じょう の海綿 かいめん 質 しつ 繊維 せんい からなる骨格 こっかく はスポンジ として化粧 けしょう 用 よう や沐浴 もくよく 用 よう に用 もち いられる。
生物 せいぶつ 学 がく 的 てき 特徴 とくちょう [ 編集 へんしゅう ]
海綿 かいめん は固着 こちゃく 性 せい の動物 どうぶつ である。基本 きほん 的 てき には放射 ほうしゃ 相称 そうしょう の形 かたち を取 と るが、実際 じっさい には環境 かんきょう によっても大 おお いに変化 へんか する。表面 ひょうめん に小 しょう 孔 あな と呼 よ ばれる数 すう 多 おお くの孔 あな をもち、ここから水 みず と食物 しょくもつ をとりこんでいる。また、大 だい 孔 あな とよばれる開口 かいこう 部 ぶ が上部 じょうぶ にあり、ここから水 みず を吐 は き出 だ している。胃 い 腔と呼 よ ばれる内側 うちがわ の空洞 くうどう 部 ぶ には鞭 むち 毛 げ をそなえた襟 えり 細胞 さいぼう が多数 たすう あり、この鞭 むち 毛 げ によって小 しょう 孔 あな から大 だい 孔 あな への水 みず の循環 じゅんかん を引 ひ き起 お こしている。このような体内 たいない に水 みず を循環 じゅんかん させる構造 こうぞう をまとめて水 みず 溝 みぞ 系 けい (canal system)という。
大 だい 部分 ぶぶん は海産 かいさん で、潮間 しおま 帯 たい から深海 しんかい まで様々 さまざま なものがある。淡水 たんすい 産 さん の種 たね も少 すく ないながら存在 そんざい する。岩盤 がんばん や海藻 かいそう 、あるいは貝殻 かいがら の上 うえ など、硬 かた い基盤 きばん の上 うえ に張 は り付 つ いて成長 せいちょう するものが多 おお いが、深海 しんかい の泥 どろ 底 そこ には根 ね 状 じょう の構造 こうぞう で突 つ き刺 さ さるようにして定着 ていちゃく するものがある。
カイメンは濾過 ろか 摂食 せっしょく 者 もの であり、体内 たいない を通 とお り抜 ぬ ける水 みず の中 なか から有機物 ゆうきぶつ 微粒子 びりゅうし や微生物 びせいぶつ を捕 と らえて栄養 えいよう とする。それらは襟 えり 細胞 さいぼう や内部 ないぶ の食 しょく 細胞 さいぼう によって確保 かくほ される。ただし、深海 しんかい などには肉食 にくしょく 性 せい カイメン と呼 よ ばれるものがあり、それらはより大 おお きな小型 こがた 甲殻 こうかく 類 るい などを捕 と らえて消化 しょうか する。
海綿 かいめん の体内 たいない には大量 たいりょう の微生物 びせいぶつ が共生 きょうせい しており、種 たね によっては全 ぜん 体積 たいせき の 40% を微生物 びせいぶつ が占 し める[1] 。その多 おお くが海綿 かいめん 体内 たいない からのみ発見 はっけん される種 しゅ である。現在 げんざい 、細菌 さいきん と古 こ 細菌 さいきん 双方 そうほう に、Poribacteria(カイメン Porifera に因 ちな む)やタウム古 こ 細菌 さいきん (Cenarchaeum symbiosum など)といった新 あたら しい門 もん が提唱 ていしょう されている[2] 。
生殖 せいしょく は無性 むしょう 生殖 せいしょく と有性 ゆうせい 生殖 せいしょく の双方 そうほう を行 おこな う。無性 むしょう 生殖 せいしょく として体 からだ 表 ひょう から芽 め が成長 せいちょう して繁殖 はんしょく するほか、芽 め 球 だま と呼 よ ばれる芽 め を体外 たいがい に放出 ほうしゅつ して繁殖 はんしょく する種 たね もある。有性 ゆうせい 生殖 せいしょく も多様 たよう であり、雌雄 しゆう 同体 どうたい と雌雄 しゆう 異体 いたい の双方 そうほう の種 たね がある。多 おお くの種 たね では受精 じゅせい 後 ご 、幼生 ようせい になるまでは親 おや の体内 たいない で育 そだ つ胎生 たいせい であるが、卵生 らんせい の種 たね も存在 そんざい する。
発生 はっせい の過程 かてい において、外 そと 胚葉 はいよう や内 うち 胚葉 はいよう といった胚葉 はいよう の形成 けいせい は起 お こらない。また、多 た 細胞 さいぼう でありながら明瞭 めいりょう な器官 きかん の分化 ぶんか が見 み られない。このため、海綿動物 かいめんどうぶつ 門 もん および平板 へいばん 動物 どうぶつ 門 もん (同様 どうよう に組織 そしき の分化 ぶんか が見 み られない)は側 がわ 生 せい 動物 どうぶつ Parazoa として、器官 きかん 系 けい が分化 ぶんか したその他 た の動物 どうぶつ である真正 しんしょう 後生 ごしょう 動物 どうぶつ Eumetazoa とは区別 くべつ されている。襟 えり 細胞 さいぼう が襟 えり に囲 かこ まれた鞭 むち 毛 げ をもつことから、単細胞 たんさいぼう 生物 せいぶつ の襟 えり 鞭 むち 毛虫 けむし (えりべんもうちゅう)と海綿動物 かいめんどうぶつ との類似 るいじ 性 せい が古 ふる くから指摘 してき されてきた。このことから、以前 いぜん は海綿動物 かいめんどうぶつ は襟 えり 鞭 むち 毛虫 けむし の群 ぐん 体 たい から派生 はせい したもので、多 た 細胞 さいぼう 動物 どうぶつ とは系統 けいとう が異 こと なるものではないかとも言 い われたこともある。しかし、海綿動物 かいめんどうぶつ にはホメオボックス 遺伝子 いでんし 、TGB-β べーた 遺伝子 いでんし など、多 た 細胞 さいぼう 生物 せいぶつ としての分化 ぶんか 、発生 はっせい に関 かか わる遺伝子 いでんし 群 ぐん が既 すで に存在 そんざい していることが明 あき らかになってきており、他 た の多 た 細胞 さいぼう 動物 どうぶつ との差 さ はそう大 おお きなものではないとの証拠 しょうこ も挙 あ がっている。
後生 ごしょう 動物 どうぶつ との系統 けいとう 関係 かんけい [ 編集 へんしゅう ]
先述 せんじゅつ のように、従来 じゅうらい はこの群 ぐん が他 た の後生 ごしょう 動物 どうぶつ とは別 べつ の系統 けいとう に属 ぞく するとの説 せつ があった。しかし分子 ぶんし 系統 けいとう 学 がく 等 ひとし の情報 じょうほう から、多 た 細胞 さいぼう 動物 どうぶつ は襟 えり 鞭 むち 毛虫 けむし の群 ぐん 体 たい が起源 きげん であると考 かんが えられるようになり、海綿動物 かいめんどうぶつ は最 もっと も原始 げんし 的 てき な多 た 細胞 さいぼう 動物 どうぶつ であるという説 せつ があらためて提示 ていじ されている。したがって、動物 どうぶつ は総 すべ て祖先 そせん を共有 きょうゆう する単 たん 系統 けいとう 群 ぐん であると考 かんが えられている。
しかし、最古 さいこ の多 た 細胞 さいぼう 動物 どうぶつ の化石 かせき であるエディアカラ生物 せいぶつ 群 ぐん からは刺 とげ 胞動物 どうぶつ によく似 に た生物 せいぶつ が見 み つかっていることから、 刺 とげ 胞動物 どうぶつ の幼生 ようせい に類似 るいじ した単細胞 たんさいぼう 生物 せいぶつ の繊毛 せんもう 虫 ちゅう のようなものが多 た 細胞 さいぼう 動物 どうぶつ の起源 きげん であるという考 かんが えも残 のこ っている(繊毛 せんもう 虫 むし 類 るい 起源 きげん 説 せつ 、ciliate theory)。
いずれにせよ、多 た 細胞 さいぼう 動物 どうぶつ としては破格 はかく に組織 そしき 器官 きかん が単純 たんじゅん であり、その進化 しんか のごく初期 しょき に分化 ぶんか した原始 げんし 的 てき なものであるとの定見 ていけん がある。しかし、海 うみ の底 そこ 生 せい 生物 せいぶつ としては非常 ひじょう に成功 せいこう している動物 どうぶつ 群 ぐん でもある[3] 。
石灰 せっかい 海綿 かいめん 綱 つな Calcarea
骨格 こっかく の主成分 しゅせいぶん は炭酸 たんさん カルシウム で、総 すべ て海産 かいさん の海綿動物 かいめんどうぶつ である。
カルキネア亜 あ 綱 つな Calcinea
ロイケッタ目 め Leucettida
クラトリナ目 め Clathorinida - クラトリナカイメン
カルカロネア亜 あ 綱 つな Calcaronea
アミカイメン目 め Leucosolenida - カゴアミカイメン
ツボカイメン目 め Syncettida - ケツボカイメン
ファレトロニダ亜 あ 綱 つな Pharetronida
ペトロビオナ目 め Inozoa
ソラシア目 め Sophinctizoa
普通 ふつう 海綿 かいめん 綱 つな Demospongiae
現生 げんなま する海綿 かいめん の95%がこの綱 つな に属 ぞく している。骨格 こっかく はかなり柔軟 じゅうなん 性 せい のある海綿 かいめん 質 しつ 繊維 せんい の「スポンジン 」で構成 こうせい されている。スポンジンの主成分 しゅせいぶん は、他 た の総 すべ ての動物 どうぶつ がもつ細胞 さいぼう 外 がい マトリックス であるコラーゲン の祖先 そせん 物質 ぶっしつ である。
同 どう 骨 ほね 海綿 かいめん 亜 あ 綱 つな Homosclromorpha
同 どう 骨 ほね 海綿 かいめん 目 め Homoscleromorhida - ノリカイメン
四放海綿亜綱 Tetrectinomorpha
有 ゆう 星 ほし 海綿 かいめん 目 め Choristida - アツカワカイメン
螺旋 らせん 海綿 かいめん 目 め Spirophorida - グミカイメン、トウナスカイメン
イシカイメン目 め Lithistida - Theonella cylindrica
硬 かた 海綿 かいめん 目 め Hadromerida - パンカイメン・ユズダマカイメン
中軸 ちゅうじく 海綿 かいめん 目 め Axinelida - ツノマタカイメン
角質 かくしつ 海綿 かいめん 亜 あ 綱 つな Ceractinomorpha
六 ろく 放 ひ 海綿 かいめん 綱 つな Hexactinellida
ガラス海綿 かいめん ともよばれ、六 ろく 放射 ほうしゃ 星 ほし 状 じょう のケイ酸 けいさん 質 しつ の骨 ほね 片 へん を主 おも とする骨格 こっかく を持 も つ。深海 しんかい の砂地 すなじ などに生息 せいそく している。
両 りょう 盤 ばん 亜 あ 綱 つな Amphidiscophora
六放星亜綱 Hexasteriphora
六 ろく 放 ひ 目 め Dictynia
カイロウドウケツ目 め Lyssacina - カイロウドウケツ
アウロキスチス目 め Lycniscosa
硬骨 こうこつ 海綿 かいめん 綱 つな Sclerospongiae
炭酸 たんさん カルシウムの骨格 こっかく の周囲 しゅうい をケイ酸 けいさん 質 しつ の骨 ほね 片 へん と海綿 かいめん 組織 そしき が取巻 とりま いている。多 おお くが化石 かせき 種 たね である。
アストロスクレラ目 め Astrosclerida
ケラトポレラ目 め Ceratoporellida
床板 とこいた 海綿 かいめん 目 め Tabulospongida
人間 にんげん との関 かか わり[ 編集 へんしゅう ]
スポンジ
普通 ふつう 海綿 かいめん 綱 つな に属 ぞく する6種 しゅ の海綿 かいめん は海綿 かいめん 質 しつ 繊維 せんい だけからなり硬 かた い骨 ほね 片 へん を持 も たないため、スポンジとして化粧 けしょう 用 よう や沐浴 もくよく 用 よう に用 もち いられる。地中海 ちちゅうかい 産 さん 、紅海 こうかい 産 さん の海綿 かいめん が柔 やわ らかく、品質 ひんしつ が高 たか いとされる。海底 かいてい で捕獲 ほかく した海綿 かいめん の組織 そしき を腐敗 ふはい させ洗 あら い流 なが して残 のこ った骨格 こっかく が、スポンジとして店頭 てんとう で見 み られる海綿 かいめん となる。日本 にっぽん では、ガラス海綿 かいめん の一種 いっしゅ であるカイロウドウケツ などがその姿 すがた の面白 おもしろ さから飾 かざ りなどに使 つか われた。
海綿 かいめん は水中 すいちゅう に浮遊 ふゆう する食物 しょくもつ を濾過 ろか 摂食 せっしょく するため、水質 すいしつ 汚濁 おだく の原因 げんいん となる水中 すいちゅう の微生物 びせいぶつ や有機物 ゆうきぶつ を除去 じょきょ する役割 やくわり を果 は たしている。
カイメンからは複雑 ふくざつ な構造 こうぞう を持 も つ有機 ゆうき 化合 かごう 物 ぶつ が多数 たすう 発見 はっけん されており、医薬品 いやくひん の候補 こうほ として期待 きたい されている。抗 こう HIV 薬 くすり として用 もち いられているジドブジン はカイメン由来 ゆらい の天然 てんねん 物 ぶつ と類似 るいじ した構造 こうぞう を持 も っており[4] 、他 ほか にもハリコンドリンB [5] や環状 かんじょう グアニジン類 るい [6] などが抗 こう がん剤 ざい や抗 こう HIV 薬 やく 、抗 こう マラリア 薬 くすり として作用 さよう することが確認 かくにん されている。
挿入 そうにゅう 式 しき の生理 せいり 用品 ようひん (タンポン )として使用 しよう されることがある。乾燥 かんそう したカイメンを膣 ちつ に挿入 そうにゅう して経 けい 血 ち を吸 す わせる。取 と り出 だ して洗 あら って乾燥 かんそう させれば再 さい 利用 りよう できる。江戸 えど 時代 じだい から使 つか われていたことがわかっている。
^ Gretchen Vogel, "The Inner Lives of Sponges", Science 2008 , 320, 1028 - 1030. doi :10.1126/science.320.5879.1028
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^ Vacelet(1999)p.46
^ Lisa M. Jarvis, "Liquid Gold Mine", C&EN 2007 , 85, 22-28. [1]
^ 上村 うえむら 大輔 だいすけ , "海洋 かいよう 生物 せいぶつ 由来 ゆらい の“切 き れ者 もの 分子 ぶんし ”の謎 なぞ "
^ 長澤 ながさわ 和夫 かずお , “海産 かいさん 環状 かんじょう グアニジン系 けい 天然 てんねん 物 ぶつ の全 ぜん 合成 ごうせい 及 およ び新規 しんき グアニジン型 がた 不 ふ 斉 ひとし 有機 ゆうき 分子 ぶんし 触媒 しょくばい の開発 かいはつ ”, 薬学 やくがく 雑誌 ざっし , Vol. 123 , 387-398 (2003). doi :10.1248/yakushi.123.387
白山 しろやま 義久 よしひさ 編 へん 『バイオディバーシティ・シリーズ (5) 無 む 脊椎動物 せきついどうぶつ の多様 たよう 性 せい と系統 けいとう (節足動物 せっそくどうぶつ を除 のぞ く)』 裳 も 華 はな 房 ぼう (2000) ISBN 978-4-7853-5828-0
佐藤 さとう 矩 のり 行 ぎょう 、倉谷 くらたに 滋 しげる 、野地 のち 澄 きよし 晴 はれ 、長谷部 はせべ 光 ひかり 泰 やすし 著 ちょ 『シリーズ進化 しんか 学 がく (4) 発生 はっせい と進化 しんか 』 岩波書店 いわなみしょてん (2004) ISBN 978-4000069243
L.マルグリス 、KV.シュヴァルツ 著 ちょ 『図説 ずせつ ・生物 せいぶつ 界 かい ガイド 五 いつ つの王国 おうこく 』 日経 にっけい サイエンス社 しゃ (1987) ISBN 978-4-532-06267-5
J. Vacelet. 1999. Sponges(Porifera) in submarine Caves. Qatar Univ. Sci. J.pp.46-56.