湖水こすい地方ちほう

	イングランドの湖水こすい地方ちほう; （イギリス）
英名えいめい	The English Lake District
仏ふつ名めい	Le District des Lacs anglais
面積めんせき	229,205.19 ha
登録とうろく区分くぶん	文化ぶんか遺産いさん
文化ぶんか区分くぶん	遺跡いせき（文化ぶんか的てき景観けいかん）
登録とうろく基準きじゅん	(2), (5), (6)
登録とうろく年ねん	2017年ねん（第だい41回かい世界せかい遺産いさん委員いいん会かい）
公式こうしきサイト	世界せかい遺産いさんセンター（英語えいご）
地図ちず
	使用しよう方法ほうほう・表示ひょうじ

湖水こすい地方ちほう（こすいちほう、英えい: Lake District）は、イングランドの北西ほくせい部ぶ・カンブリア郡ぐんに位置いちする地域ちいきの名称めいしょうである。

概要がいよう

氷河ひょうが時代じだいの痕跡こんせきが色濃いろこく残のこり、渓谷けいこく沿ぞいに大小だいしょう無数むすうの湖みずうみが点在てんざいする風光ふうこう明媚めいびな地域ちいきで、イングランド有数ゆうすうのリゾート地ち・保養ほよう地ちとしても知しられる。The Lakes、Lakelandなどとも呼よばれる。

湖水こすい地方ちほうのほとんどの地域ちいきに相当そうとうする約やく2,300平方へいほうキロメートルは、1951年ねんにレイク・ディストリクト・ナショナル・パーク (Lake District National Park) と呼よばれるナショナル・パーク（National Park、日本にっぽんの国立こくりつ公園こうえんに相当そうとう）に指定していされた。イングランドとウェールズにある13のナショナル・パークにおいては最もっとも広ひろい面積めんせきを持もち、イギリス全体ぜんたいでみてもスコットランドにあるケアンゴーム・ナショナル・パーク (Cairngorms National Park) に次ついで2番目ばんめの広ひろさを誇ほこる。その範囲はんいが2017年ねんに世界せかい遺産いさんリストに登録とうろくされた^[1]。

地理ちり

湖水こすい地方ちほうは今いまから約やく15,000年ねん前まえの最終さいしゅう氷ごおり期きの終了しゅうりょうとともに形成けいせいされたと考かんがえられている。氷河ひょうがが衰退すいたいするとそのあとには氷河ひょうがが土砂どしゃを削けずり取とったU字じ谷だにや圏けん谷たにが残のこる。これらはその多おおくが水みずを貯ためこみ湖みずうみとなった。湖水こすい地方ちほう近辺きんぺんは緯度いどが高たかく、平均へいきん気温きおんが低ひくいために遷移せんいが進すすみづらく湖みずうみとならなかった部分ぶぶんは岩場いわばやムーアが形成けいせいされてシダなどが繁茂はんもした。森林しんりん限界げんかい以下いかにはオークが茂しげり、19世紀せいきにはマツのプランテーションが開ひらかれた。標高ひょうこう800mから900mあまりの山やまがいくつもあり、イングランド最高峰さいこうほうのスコーフル・パイク（標高ひょうこう978m）を擁ようし、イングランドでもっとも深ふかい湖みずうみもある。

また、地形ちけいは以下いかのようにいくつかの区分くぶんに分わけられている。

中央ちゅうおう高原こうげん（central fells）

北西ほくせい高原こうげん（north western fells）

ダーウェントウォーター（Derwent water）を南側みなみがわから見みた景色けしき）

北西ほくせい高原こうげんは湖水こすい地方ちほうの北西ほくせい部ぶ、ボロウデール（Borrowdale、渓谷けいこく）やBassenthwaite Lakeから、バターミア（Buttermere、湖みずうみ）までの間あいだの地域ちいきを指さす。

西部せいぶ（western fells）

東部とうぶ高原こうげん（eastern fells）

極東きょくとう高原こうげん（far eastern fells）

南東なんとう高原こうげん（south eastern fells）

南西なんせい高原こうげん（south western fells）

中央ちゅうおう部ぶ

気候きこう

イギリス気象庁きしょうちょうの観測かんそくによると、湖水こすい地方ちほうの平均へいきん降水こうすい量りょうは年間ねんかん2,000mmということであるが、地域ちいきによって大おおきな差さがありボローデール（ボロー渓谷けいこく）に位置いちするセスウェイト集落しゅうらくが最もっとも多おおく年間ねんかん3,300mm程度ていど、場所ばしょによっては5,000mmを記録きろくするのに対たいし、東側ひがしがわのペンリス（厳密げんみつには湖水こすい地方ちほうから外はずれる）では1,000mmに満みたないという。3月から6月がつにかけてが降水こうすい量りょうが少すくなく、10月から1月がつにかけて多おおい。

月別つきべつ平均へいきん気温きおんは1月がつの 3℃（37°F）が最低さいていで、7月がつの 15℃（59°F）が最高さいこうである。湖水こすい地方ちほうはロシアのモスクワとほぼ同どう緯度いどだが、北大西洋きたたいせいよう海流かいりゅうの影響えいきょうでモスクワよりも温暖おんだんである。このため山間さんかん部ぶを除のぞけば、雪ゆきが積つもることもほとんどない。ただし、年間ねんかんを通つうじて霧きりが発生はっせいし日び中ちゅうに平均へいきん2.5時じ間あいだ、沿岸えんがん部ぶでは平均へいきん4時じ間あいだ程度ていどは霧きりに包つつまれる。

地質ちしつ

湖水こすい地方ちほうの地質ちしつはとても複雑ふくざつであるがよく研究けんきゅうされている。北西ほくせいから南東なんとうへ時代じだいが新あたらしくなる地層ちそうで3区分くぶんされる。最古さいこの地層ちそうは約やく5億おく年ねん前まえのオルドビス紀き前期ぜんきの泥どろ岩がんで、Skiddawスレートと称しょうされてきた。中部ちゅうぶはオルドビス紀き後期こうきの泥どろ岩がんと火山岩かざんがんからなり、南東なんとう部ぶはシルル紀おさむにまでさかのぼる泥どろ岩がんと砂岩さがんで、縁辺えんぺんでは石炭せきたん紀きの石灰岩せっかいがんも含ふくみ特徴とくちょう的てきな地形ちけいをつくる。

動植物どうしょくぶつ

ヴェンデイス Vendace （*Coregonus vandesius*）は、イングランドの湖水こすい地方ちほうのみに存在そんざいする希少きしょう種しゅ。

湖水こすい地方ちほうには多おおくの動植物どうしょくぶつが生息せいそくしている。キタリス（現地げんちではレッド・スクレイルと呼よぶ。赤あかいリスの意い）は最もっとも多おおくみられる動物どうぶつの一ひとつである。植物しょくぶつは貧ひん栄養えいよう地ちを好このむ食虫植物しょくちゅうしょくぶつの仲間なかまが多おおい。魚さかなではサケ科かの3種しゅ、ヴェンデイス（Coregonus vandesius）、Schelly、ホッキョクイワナが貴重きちょうである。特とくにヴェンデイスはバセンスウェイト湖こ、ダーウェントウォーターの2か所しょでしか確認かくにんされていない。これらの希少きしょう種しゅの保護ほごを目的もくてきに14の湖みずうみで生いき餌えやルアーによる釣つりを禁止きんしする条例じょうれいが2002年ねん6月がつより施行しこうされた。外来がいらい種しゅの問題もんだいは特とくに魚さかなにおいて顕著けんちょである。スズキ目めのラッフ（英えい: ruffe、学名がくめい: Gymnocephalus cernua）は、ほかの魚さかなの卵たまごを食たべてしまうという点てんで脅威きょういとなっており、特とくに産卵さんらんから孵化ふかまで120日にちもかかるヴェンデイスでは深刻しんこくな問題もんだいとなっている。

もっともイギリス固有こゆうの動植物どうしょくぶつは種たねレベルで見みた場合ばあいの「固有こゆう種しゅ」では0と言いわれており、一般いっぱん的てきな種類しゅるいは他たの地域ちいきやヨーロッパの大陸たいりく部ぶ（アルプス山脈あるぷすさんみゃく以北いほく）でも見みられる。

産業さんぎょう

新しん石器せっき時代じだいの湖水こすい地方ちほうは石斧せきふの産地さんちだったと考かんがえられている。

牧畜ぼくちく、特とくにヒツジの牧畜ぼくちくはローマ時代じだいより続つづくこの地域ちいきの主要しゅよう産業さんぎょうである。現在げんざいではヒツジは肉にくや羊毛ようもうで地域ちいき経済けいざいを支ささえるだけでなく、観光かんこう客きゃくが求もとめる風景ふうけいの一部いちぶにもなっている。各地かくちで見みられる石垣いしがきも元もとはと言いえばヒツジが逃にげ出ださないように建たてられたものだ。2001年ねんに大だい流行りゅうこうした口蹄疫こうていえきは牧場ぼくじょう主おもに大おおきな打撃だげきを与あたえた。これは湖水こすい地方ちほうで用もちいられていたフェンスの貼はり方かたに問題もんだいがあり、山頂さんちょう側がわはフェンスを張はらず通電つうでんさせなかったことにある。これが山やまを越こえて行いき来きする一部いちぶのヒツジ同士どうしで接触せっしょくを招まねき感染かんせんが拡大かくだいしたとされている。以後いご、山頂さんちょう部ぶにもフェンスを張はり通電つうでんさせるようになっている。

鉱業こうぎょうは銅どうや鉛なまりを産出さんしゅつする。また重じゅう晶あきら石せき（主成分しゅせいぶん：硫酸りゅうさんバリウム）、グラファイトや粘板岩ねんばんがん（スレート）を産さんする。湖水こすい地方ちほうの伝統でんとう的てきな家屋かおくではスレートを薄うすくしたもの積つみ重かさねて外壁がいへきを構成こうせいしている。

19世紀せいきになると織物おりものの原料げんりょうにつかう糸巻いとまき（ボビン）の生産せいさんが盛さかんであったが、20世紀せいきに入はいると交通こうつう機関きかんの発達はったつにより主要しゅような産業さんぎょうは観光かんこう業ぎょうに移うつり、それが今日きょうまで続つづいている。

植林しょくりん地ちの伐採ばっさい
草くさを食はむ羊ひつじ。
典型てんけい的てきな湖水こすい地方ちほうの風景ふうけい。ヒツジの放牧ほうぼくと石垣いしがき、山やまをバックにした白しろい家いえが見みえる。
ウィンダミア西岸せいがんにある城跡じょうせき。

世界せかい遺産いさん

湖水こすい地方ちほうは第だい11回かい世界せかい遺産いさん委員いいん会かい（1987年ねん）で複ふく合あい遺産いさんとして審議しんぎされたときには見送みおくられ、文化ぶんか遺産いさんとして推薦すいせんされた第だい14回かい世界せかい遺産いさん委員いいん会かい（1990年ねん）では、適用てきようする基準きじゅんなどをめぐって委員いいん会かい審議しんぎがまとまらずに見送みおくられた。2017年ねんの第だい41回かい世界せかい遺産いさん委員いいん会かいでは、新あらたに文化ぶんか的てき景観けいかん（世界せかい遺産いさん上じょうの分類ぶんるいとしては1992年ねんに採用さいよう）として推薦すいせんされ、登録とうろくされた。

登録とうろく基準きじゅん

この世界せかい遺産いさんは世界せかい遺産いさん登録とうろく基準きじゅんのうち、以下いかの条件じょうけんを満みたし、登録とうろくされた（以下いかの基準きじゅんは世界せかい遺産いさんセンター公表こうひょうの登録とうろく基準きじゅんからの翻訳ほんやく、引用いんようである）。

(2) ある期間きかんを通つうじてまたはある文化ぶんか圏けんにおいて、建築けんちく、技術ぎじゅつ、記念きねん碑ひ的てき芸術げいじゅつ、都市とし計画けいかく、景観けいかんデザインの発展はってんに関かんし、人類じんるいの価値かちの重要じゅうような交流こうりゅうを示しめすもの。
(5) ある文化ぶんか（または複数ふくすうの文化ぶんか）を代表だいひょうする伝統でんとう的てき集落しゅうらく、あるいは陸上りくじょうないし海上かいじょう利用りようの際立きわだった例れい。もしくは特とくに不ふ可逆かぎゃく的てきな変化へんかの中なかで存続そんぞくが危あやぶまれている人ひとと環境かんきょうの関かかわりあいの際立きわだった例れい。
(6) 顕著けんちょで普遍ふへん的てきな意義いぎを有ゆうする出来事できごと、現存げんそんする伝統でんとう、思想しそう、信仰しんこうまたは芸術げいじゅつ的てき、文学ぶんがく的てき作品さくひんと直接ちょくせつにまたは明白めいはくに関連かんれんするもの（この基準きじゅんは他たの基準きじゅんと組くみ合あわせて用もちいるのが望のぞましいと世界せかい遺産いさん委員いいん会かいは考かんがえている）。

アクセス

自動車じどうしゃ

鉄道てつどう・フェリー

ロンドンからはスコットランドまで向むかう幹線かんせん路線ろせん、ウェスト・コースト本線ほんせん（West Coast Main Line）を利用りようする。途中とちゅうのオクセンホルム・レイク・ディストリクト鉄道てつどう駅えき（Oxenholme Lake District railway station）から湖水こすい地方ちほう南部なんぶにあるウィンダミア（Windermere）まで伸のびる支線しせんが分岐ぶんきしている。

また、ウェストコースト本線ほんせんでさらに北きた（スコットランド方向ほうこう）に進すすむと、湖水こすい地方ちほうよりやや北きたにあるカーライル鉄道てつどう駅えき（Carlisle Railway Station）を経由けいゆする。この駅えきから分岐ぶんきするカンブリアン・コースト線せん（Cumbrian Coast Line）は湖水こすい地方ちほうを西海岸にしかいがん沿ぞいを走はしる。ただし、湖みずうみの点在てんざいする高原こうげん地帯ちたいは経由けいゆせず、そこへ行いきたい場合ばあいは駅えきから別べつの交通こうつう機関きかんを利用りようする必要ひつようがある。

西海岸にしかいがんのレーブングラス鉄道てつどう駅えき（Ravenglass Railway Station）からはレーブングラス・アンド・エスクデール鉄道てつどう（Ravenglass and Eskdale Railway）という軌間きかん381mm（15インチ）の保存ほぞん鉄道てつどうが走はしっている。また、別べつの保存ほぞん鉄道てつどうLakeside and Haverthwaite Railwayがウィンダミアから出でており、これに乗のるとフェリーターミナルまで行いくことが出来できる。

ウィンダミアには船ふね自身じしんは動力どうりょくを持もたずにケーブルを動力どうりょく源げんとする「ケーブルフェリー」（ケーブルカーのフェリー版ばんのようなもの）が存在そんざいし、頻繁ひんぱんに運転うんてんされている。このほかにもいくつかの湖みずうみではフェリーが運転うんてんされている。

レーブングラスの保存ほぞん鉄道てつどう
ウィンダミアのケーブルフェリー

主要しゅよう都市とし

ウィンダミア - 湖水こすい地方ちほうの玄関げんかん口こう
ニア・ソーリー - 作家さっかビアトリクス・ポターが半生はんせいを過すごした
ホークスヘッド
アンブルサイド - 詩人しじんワーズワースが晩年ばんねん過すごした
グラーズミア - 「グラスミア」とも
ケズィック - 「ケジック」、「ケズウィック」とも