源信みなもとのまこと (公卿くぎょう)

凡例はんれい 源信みなもとのまこと
源信みなもとのまこと（菊池きくち容斎ようさい『前賢ぜんけん故実こじつ』）
時代じだい	平安へいあん時代じだい初期しょき - 前期ぜんき
生誕せいたん	弘ひろし仁ひとし元年がんねん（810年ねん）
死没しぼつ	貞さだ観かん10年ねん閏うるう12月28日にち（869年ねん2月がつ13日にち）
別名べつめい	北辺ほくへん大臣だいじん
官位かんい	正せい二に位い、左大臣さだいじん、贈おく正せい一いち位い
主君しゅくん	淳和天皇じゅんなてんのう→仁明天皇にんみょうてんのう→文徳ふみのり天皇てんのう→清和せいわ天皇てんのう
氏族しぞく	嵯峨さが源はじめ氏し
父母ちちはは	父ちち：嵯峨天皇さがてんのう、母はは：広井ひろい弟おとうと名めいの娘むすめ
兄弟きょうだい	有ゆう智子さとこ内親王ないしんのう、潔きよし姫ひめ、正良まさよし親王しんのう、正子まさこ内親王ないしんのう、信しん、貞さだ姫ひめ、弘ひろし、常つね、全ぜん姫ひめ、寛ひろし、明あきら、善ぜん姫ひめ、定じょう、秀しゅう良りょう親王しんのう、忠良ただよし親王しんのう、生せい、安やす、融とおる、鎮、勤つとむ、啓けい、業ごう良りょう親王しんのう、基良もとよし親王しんのう、業ごう子こ内親王ないしんのう、秀子ひでこ内親王ないしんのう、俊子としこ内親王ないしんのう、芳子よしこ内親王ないしんのう、繁子しげこ内親王ないしんのう、基子もとこ内親王ないしんのう、仁子さとこ内親王ないしんのう、宗子むねこ内親王ないしんのう、純子じゅんこ内親王ないしんのう、斉子せいこ内親王ないしんのう、淳じゅん王おう、清きよし、澄きよし、勝かち、賢けん、継つぎ、若わか姫ひめ、密みつ姫ひめ、端はし姫ひめ、盈みつる姫ひめ、更さら姫ひめ、神かみ姫ひめ、容よう姫ひめ、吾われ姫ひめ、声こえ姫ひめ、年とし姫ひめ、良りょう姫ひめ
子こ	叶かのう、平ひらた、恭きょう、有ゆう、好こう、保ほ、任にん、昌あきら、春はる尋ひろ

源みなもと 信しん（みなもと の まこと）は、平安へいあん時代じだい初期しょきから前期ぜんきにかけての公卿くぎょう。嵯峨天皇さがてんのうの子こ（嵯峨さが第だい一いち源氏げんじ）。官位かんいは正せい二に位い・左大臣さだいじん、贈おく正せい一いち位い。初代しょだい源氏げんじ長者ちょうじゃ。北辺ほくへん大臣だいじんと号ごうした。

経歴けいれき

嵯峨さが朝ちょうの弘ひろし仁ひとし5年ねん（814年ねん）に弟おとうとの弘ひろし・常つねと共ともに源みなもと朝臣あそん姓せいを賜たまもの与あずかされて臣籍しんせき降下こうかし、左京さきょうに貫ぬき付づけされて戸主こしゅとなった。淳和じゅんな朝ちょうの天てん長ちょう2年ねん（825年ねん）無位むいから従したがえ四よん位い上じょうに直叙ちょくじょされ、翌よく天てん長ちょう3年ねん（826年ねん）侍従じじゅうに任にんぜられる。治部じぶ卿きょう・播磨はりま権守ごんもりを経へて、天てん長ちょう8年ねん（831年ねん）7月がつに22歳さいで参議さんぎに任にんぜられ、同年どうねん正月しょうがつに非ひ参議さんぎながら従したがえ三さん位いに叙じょせられた弟おとうと・常つねに半年はんとし遅おくれて公卿くぎょうに列れっす。天てん長ちょう9年ねん（832年ねん）正せい四よん位い下かに昇叙しょうじょ。

天てん長ちょう10年ねん（833年ねん）仁明天皇にんみょうてんのうの即位そくい後ごまもなく従したがえ三さん位いに叙じょせられる。仁じん明朝みんちょうでは天皇てんのうの外そと伯父おじ・橘たちばな氏し公こうや、嵯峨さが上皇じょうこうの女婿じょせいでその信頼しんらいが非常ひじょうに篤あつかった藤原ふじわら良りょう房ぼうには官位かんいを越こえられるものの順調じゅんちょうな昇進しょうしんを果はたし、承うけたまわ和わ2年ねん（835年ねん）正せい三さん位い、承うけたまわ和わ9年ねん（842年ねん）に発生はっせいした承うけたまわ和わの変へんの直後ちょくごに中納言ちゅうなごん、承うけたまわ和わ15年ねん（848年ねん）大納言だいなごんに任にんぜられる。

嘉よしみ祥さち3年ねん（850年ねん）文徳ふみのり天皇てんのうの即位そくい後ごまもなく従したがえ二に位いに昇のぼる。次期じき春宮とうぐうの選定せんていにあたって、右大臣うだいじん・藤原ふじわら良りょう房ぼうが後見こうけんする惟おもんみ仁じん親王しんのう（のち清和せいわ天皇てんのう）が有力ゆうりょくであったもののまだ幼少ようしょうであったことから、文徳ふみのり天皇てんのうから先さきに長男ちょうなんの惟おもんみ喬たかし親王しんのう（紀きの静子しずこ所生しょせい）を立たてて、惟おもんみ仁じん親王しんのうが成長せいちょうしたのちに皇嗣こうしを継つがせる意向いこうについて相談そうだんを受うける。ここで信しんは、惟おもんみ仁じんに罪つみがあるなら廃はいすべきであるが、罪つみがないのであれば他たの皇子おうじを擁立ようりつすべきではない、天皇てんのうの命令めいれいであっても承諾しょうだくできない、と述のべたという。斉ひとし衡4年ねん（857年ねん）良りょう房ぼうの太政大臣だじょうだいじん就任しゅうにんに伴ともない左大臣さだいじんに昇進しょうしん。

天てん安やす2年ねん（858年ねん）清和せいわ天皇てんのうの即位そくいと同時どうじに正せい二に位いに至いたる。貞さだ観かん6年ねん（864年ねん）信しんが弟おとうとの中納言ちゅうなごん・源みなもと融とおる、右みぎ衛門えもん督とく・源みなもと勤つとむらと共謀きょうぼうして反逆はんぎゃくしようとしている旨むねの投なげ書しょがあり、世間せけんが大騒おおさわぎとなる。これより先さきに、信しんと対立たいりつするようになり次第しだいに不和ふわとなっていた大納言だいなごん・伴ばん善男よしおは、この事件じけんに乗じょうじて「大臣だいじん（信しん）が不善ふぜんを為なそうとしていることは既すでに耳みみにしている。このような匿名とくめいの文書ぶんしょがあることがその徴候ちょうこうである」と断だんじた。貞さだ観かん7年ねん（865年ねん）春はるになると、信しんの家人かじん・清原きよはら春はる瀧たきを日向ひなた掾じょうに、左ひだり馬ば少しょう属ぞく・土師はじ忠ただし道どうを甲斐かい権けん掾じょう、左衛門さえもん府ふ生せい・日下部くさかべ遠藤えんどうを肥後ひご権けん大目おおめとする任官にんかんが行おこなわれる。これは弓馬きゅうばに優すぐれる者ものを抜擢ばってきするように見みせかけた、信しんの威勢いせいを奪うばうものであった。

果はたして、翌よく貞さだ観かん8年ねん（866年ねん）応おう天てん門もんの変へんが発生はっせい。閏うるう3月がつに応おう天てん門もんが焼失しょうしつすると、大納言だいなごん・伴ばん善男よしおの誣告ぶこくにより信しんは放火ほうかの嫌疑けんぎを受うけ、右大臣うだいじん・藤原ふじわら良相りょうしょうと伴ばん善男よしおとの通謀つうぼうにより、朝廷ちょうていの兵士へいしにより信しんの邸宅ていたくが取とり囲かこまれる。しかし、太政大臣だじょうだいじん・藤原ふじわら良りょう房ぼうはこの出兵しゅっぺいを承知しょうちしておらず、清和せいわ天皇てんのうに対たいして状況じょうきょうを確認かくにんしたところ、天皇てんのうも初耳はつみみであるとのことで、結局けっきょく勅みことのりにより参議さんぎ・大江音人おおえのおとんどと左ひだり中ちゅう弁べん・藤原ふじわら家か宗むねが信しんの邸宅ていたくに派遣はけんされて仲裁ちゅうさいが行おこなわれた。信しんは平素へいそより伴ばん善男よしおと不仲ふなかであったことから、もともと危惧きぐを抱いだきつつも、危機ききから逃のがれるための対策たいさくは行おこなっていなかったところ、思おもいかけず虎口ここうを逃のがれることができたという。信しんは所有しょゆうしていた駿馬しゅんめ12頭とう・従者じゅうしゃ40余よ名めいを朝廷ちょうていに献上けんじょうし、反乱はんらんの意図いとがないことを示しめそうとしたが、朝廷ちょうていは受うけ取とらず全すべて返却へんきゃくした。なお、変へんにて朝廷ちょうていの兵へいに邸やしきを包囲ほういされて絶望ぜつぼうした、信しんの家いえの人々ひとびとが嘆なげき悲かなしむ様子ようすが『伴ばん大納言だいなごん絵詞えことば』として描えがかれている。

この事件じけんは信しんに大おおきな精神せいしん的てき打撃だげきを与あたえ、以後いご門もんを閉とじて篭居ろうきょしていた。貞さだ観かん10年ねん閏うるう12月がつ（869年ねん2月がつ）気分きぶん転換てんかんのために摂津せっつ国こく河辺かべ郡ぐんに狩猟しゅりょうに出でかけるが、その最中さいちゅうに落馬らくばして深泥みどろに陥おちいった。救すくい出だされ呼吸こきゅう停止ていし状態じょうたいから一旦いったん蘇生そせいしたものの、意識いしき不明ふめいのまま数すう日にち後ごの28日にちに薨去こうきょ。享年きょうねん59。最終さいしゅう官位かんいは左大臣さだいじん正せい二に位い。遺命いめいにより薄すすき葬そうとされ殯歛（仮かり殯）の日ひも多おおくの人ひとは知しらなかった。以前いぜんより北山きたやまの嶺みねの下したに造立ぞうりゅうしていた一棟ひとむねの建物たてものの中なかに棺かんを安置あんちし、四方しほうの壁かべを固かたく閉とじ、人畜じんちくに妄みだりに侵入しんにゅうされないようにしたという。翌よく貞さだ観かん11年ねん（869年ねん）3月がつに正せい一いち位いの位階いかいを贈位ぞういされた。

人物じんぶつ

生来せいらい、才知さいちに優すぐれる一方いっぽう、洗練せんれんされていて上品じょうひんな性質せいしつであり、人並ひとなみならぬ気高けだかさがあった。

古人こじんが書かき残のこした書物しょもつを好このんで読よみ、書しょの腕前うでまえも優すぐれ、図画ずがも巧だくみで彩色さいしきがすばらしく馬うまの形かたちの絵えはまるで本物ほんもののようであった。また、嵯峨さが上皇じょうこうからは親したしく笛ふえ・琴きん・琵琶びわなど楽器がっきの教習きょうしゅうも受うけた。あらゆる物事ものごとに対たいしてその深奥しんおうを究きわめたが、特とくに鷹狩たかがりには非常ひじょうに心しんを注そそいだという。

官かん歴れき

注記ちゅうきのないものは『六ろく国史こくし』による。

• 弘ひろし仁ひとし5年ねん（814年ねん） 5月がつ8日にち：臣籍しんせき降下こうか（源みなもと朝臣あそん）
• 弘ひろ仁じん6年ねん（815年ねん） 6月がつ19日にち：貫ぬき附ふ左京さきょう
• 天てん長ちょう2年ねん（825年ねん） 10月がつ20日はつか：従したがえ四よん位い上じょう（直叙ちょくじょ）
• 天てん長ちょう3年ねん（826年ねん） 正月しょうがつ28日にち：侍従じじゅう。7月3日にち：治部じぶ卿きょう
• 天てん長ちょう5年ねん（828年ねん） 正月しょうがつ13日にち：播磨はりま権守ごんもり
• 天てん長ちょう8年ねん（831年ねん） 7月がつ11日にち：参議さんぎ、治部じぶ卿きょう播磨はりま権守ごんもり如元
• 天てん長ちょう9年ねん（832年ねん） 正月しょうがつ7日にち：正せい四よん位い下か。11月7日にち：左ひだり兵衛ひょうえ督とく、去さ治部じぶ卿きょう
• 天てん長ちょう10年ねん（833年ねん） 3月がつ6日にち：従したがえ三さん位い
• 承うけたまわ和わ2年ねん（835年ねん） 正月しょうがつ7日にち：正せい三さん位い。正月しょうがつ11日にち：兼けん近江おうみ守まもる。4月16日にち：左ひだり近衛このえ中将ちゅうじょう
• 承うけたまわ和わ4年ねん（837年ねん） 2月がつ23日にち：兼けん左衛門さえもん督とく、近江おうみ守まもる如故
• 承うけたまわ和わ8年ねん（841年ねん） 7月がつ28日にち：兼けん武蔵むさし守もり
• 承うけたまわ和わ9年ねん（842年ねん） 7月がつ15日にち：服ふく解かい（嵯峨さが上皇じょうこう服喪ふくも）。7月25日にち：中納言ちゅうなごん
• 承うけたまわ和わ15年ねん（848年ねん） 正月しょうがつ10日にち：大納言だいなごん
• 嘉よしみ祥さち3年ねん（850年ねん） 4月がつ17日にち：従したがえ二に位い。11月25日にち：東宮とうぐう傅でん
• 仁じん寿ことぶき4年ねん（854年ねん） 8月がつ28日にち：兼けん右みぎ近衛このえ大将たいしょう。9月23日にち：止とめ大将たいしょう
• 斉ひとし衡4年ねん（857年ねん） 2月がつ19日にち：左大臣さだいじん
• 天てん安やす2年ねん（858年ねん） 11月7日にち：正せい二に位い
• 貞さだ観かん2年ねん（860年ねん） 10月がつ29日にち：賜たまもの山城やましろ国こく宇治うじ郡ぐん地ち25町まち
• 貞さだ観かん10年ねん（868年ねん） 閏うるう12月がつ28日にち：薨去こうきょ（左大臣さだいじん正せい二に位い）
• 貞さだ観かん11年ねん（869年ねん） 3月がつ4日にち：正せい一いち位い

系譜けいふ

『尊卑そんぴ分脈ぶんみゃく』による。

• 父ちち：嵯峨天皇さがてんのう
• 母はは：広井ひろい氏しまたは広こう幡はた氏し、藤井ふじい氏し
• 生母せいぼ不ふ詳しょうの子女しじょ
  • 男子だんし：源みなもと叶かのう
  • 男子だんし：源平げんぺい
  • 男子だんし：源みなもと恭きょう（初はつ名めいは謹）
  • 男子だんし：源みなもと有ゆう
  • 男子だんし：源みなもと好よしみ
  • 男子だんし：源みなもと保たもつ - 若狭わかさ守まもる従したがえ五ご位い下か
  • 男子だんし：源みなもと任つとむ
  • 男子だんし：源みなもと昌あきら
  • 男子だんし：春はる尋ひろ

参考さんこう文献ぶんけん

• 武田たけだ祐吉ゆうきち、佐藤さとう謙三けんぞう訳わけ『読よみ下くだし 日本にっぽん三さん代だい実録じつろく 上巻じょうかん』戎えびす光ひかり祥さち出版しゅっぱん、2009年ねん
• 『公卿くぎょう補任ほにん 第だい一いち篇へん』吉川弘文館よしかわこうぶんかん、1982年ねん
• 『尊卑そんぴ分脈ぶんみゃく 第だい三さん篇へん』吉川弘文館よしかわこうぶんかん、1987年ねん
• 『国史こくし大だい辞典じてん 第だい13巻かん』吉川弘文館よしかわこうぶんかん　国史こくし大だい辞典じてん編集へんしゅう委員いいん会かい(編へん）ISBN 4642005137