煮物にもの

煮にている様子ようす(des diots au vin blanc)

煮物にもの（にもの）または煮物にもの料理りょうり（にものりょうり）とは、煮にて調理ちょうりされた料理りょうり。食材しょくざいが柔やわらかくなるまで比較的ひかくてき長時間ちょうじかん加熱かねつを行おこなうものを特とくに煮込にこみ（にこみ）という。

水みず（調味ちょうみ料りょうを入いれたり出汁だしを使用しようする場合ばあいも）に食材しょくざいを入いれて加熱かねつする。加熱かねつした食材しょくざいだけでなく、加熱かねつに利用りようした液体えきたい（つゆ、汁しる）も利用りようする場合ばあいがある。

調理ちょうり法ほう

水みずなどの液体えきたいを加熱かねつして沸騰ふっとうさせる事ことを煮にるといい、この調理ちょうり法ほうで作つくった料理りょうりを煮物にもの（他た、鍋なべ料理りょうりなど）と呼よぶ。食材しょくざいへの更さらなる食味しょくみ浸透しんとうを目的もくてきに、時間じかんをかけて煮にることを煮込にこみ（にこみ）と呼よぶ。蒸発じょうはつを目的もくてきとして煮にる調理ちょうり法ほうを煮に切きり（にきり）と呼よぶ。

中国ちゅうごく江西えにし省しょうの洞窟どうくつ遺跡いせきで世界せかい最古さいこと思おもわれる2万まん年ねん前まえの土器どきが見みつかっており、北海道ほっかいどうの大正たいしょう遺跡いせき群ぐんの調査ちょうさによって土器どきが最初さいしょに料理りょうりに使つかわれたのは1万まん4000年ねん前まえであるとされている。オランダ・フローニンゲン大学だいがくのピーター・ジョーダン博士はかせらの合同ごうどう研究けんきゅうチームの研究けんきゅうによって、1万まん4000年ねん前まえの土器どきから、サケ・マス類るいを煮炊にたきした痕跡こんせきが見みつかっている。

煮物にものには様々さまざまな種類しゅるいがある。一般いっぱん的てきな日本にっぽん料理りょうりの煮物にものは、だしに加くわえ、醤油じょうゆ、日本酒にほんしゅ、みりん、砂糖さとうや味噌みそ、塩しお、しょうが汁じる、油あぶらなどを味付あじつけとして使つかう。技法ぎほうは素材そざいの色いろや風味ふうみを生いかすよう、だしや薄口うすくち醤油じょうゆを使用しようした薄うすい煮汁にじるで煮にる方法ほうほう（おでんや風呂吹ふろふき、煮にびたし等とう）、砂糖さとうや濃口こいくち醤油じょうゆを使つかい、素材そざいに濃こい味あじが染しみ込こむように加熱かねつ調理ちょうりする方法ほうほう（煮につけ、煮にしめ、肉にくじゃが等とう）、その他たの素材そざいに応おうじて幅広はばひろい方法ほうほうがある。多おおくの素材そざいでは、ずっと火ひにかけ通とおしても煮に崩くずれるだけで、味あじはそれほど急きゅうに染しみ込こむことは無なく、いったん火ひからおろして冷さめる間あいだに味あじがしみ込こむので改あらためて火ひにかける、もつ煮にの場合ばあいは煮に崩くずれは少すくないものの、味あじがしみにくいので弱火よわびで長時間ちょうじかん煮にるなど、素材そざいに合あわせた火加減ひかげんが重要じゅうようで、あるいは野菜やさいの煮物にものにみりんを使つかうと身みが絞しまり固かたくなりやすいので使用しようを避さけるなど、調理ちょうりの手法しゅほうはさまざまで、単たんに作つくるだけならば簡単かんたんではあるが、美味おいしくかつ見栄みばえ良よく作つくるのは難むずかしい料理りょうりである。

「煮炊にたき」は、おかずを煮にたり飯めしを炊たいたりすること。煮にて煮物にものと炊飯すいはんをして飯めし作つくる、炊事すいじ・料理りょうりを指さす方言ほうげんがある。焚たく（火ひで加熱かねつする）・炊たく（炊飯すいはんなど米べい類るいを食たべられるように煮にる）という言葉ことばを、特とくに西日本にしにほんで使用しようすることがあり、煮にることを「焚たく（たく）」、煮物にもののことを「たいたん（＝焚たいた物もの）」ということがある。

煮にかた一覧いちらん

煮物にものは最もっとも一般いっぱん的てきな料理りょうりであるため、煮にる方法ほうほうによって様々さまざまな呼よび名ながつけられている。

• 煮込にこみ（にこみ）
  • 比較的ひかくてき大おおきく切きった食材しょくざいをたっぷりの煮汁にじるで長時間ちょうじかん煮にた料理りょうり。
• 煮付につけ（につけ）
  • 最初さいしょから少量しょうりょうの汁しるで甘辛あまからく、煮汁にじるが少すこし残のこるまで濃こく煮にた料理りょうり。煮に魚ぎょに多おおく用もちいる。煮染にしめより短時間たんじかん。
• 含ふくめ煮に（ふくめに）
  • 素材そざいの色いろや味あじを生いかし、中なかまでしみこませるよう、ゆっくりと弱火よわびで薄目うすめの汁しるで煮にる料理りょうり。
• 煮にしめ（にしめ）
  • 野菜やさいや乾物かんぶつを、日持ひもちをよくするため、濃こい味あじで汁しるがなくなるまで煮につめる料理りょうり。
• 煮浸にびたし（にびたし）
  • 薄うす味あじの汁しるでさっと煮にて、そのまま煮汁にじるの中なかで食材しょくざいを冷さまして、また器うつわに盛もり煮汁にじるをかけて味あじをしみ込こませる料理りょうり。あくで煮汁にじるの色いろが悪わるくなるのを防ふせぐ。
• 炊たき合あわせ
  • 複数ふくすうの食品しょくひんを、それぞれ別べつの鍋なべで煮にて、１ひとつにした料理りょうり。日本にっぽん料理りょうりの調理ちょうり法ほう。それぞれの食材しょくざいの持もち味あじを活いかした方法ほうほうで煮にあげる。
• 煮にきる
  • 和あえ物もの、酢すの物ものなど加熱かねつしない料理りょうりの場合ばあい、みりん、酒さけなどは、アルコール分ぶんをとばしてから加くわえる。そのために鍋なべに入いれて煮立にたてたり、急いそぐときやかるく焦こがして香かおりを高たかくするときは鍋なべをかたむけ、火ひをいれたりする。
• 煮詰につめる
  • 煮汁にじるの水分すいぶんをとばしつつ味あじを凝縮ぎょうしゅくさせる。
• 煮に転ころがす
  • 煮にくずれしにくい食材しょくざいを少量しょうりょうの煮汁にじるで焦こげ付つかないように鍋なべをゆすりつつ煮詰につめる。

用語ようご

• 煮にえばな
  • 煮汁にじるが沸騰ふっとうする直前ちょくぜんをいう。味噌汁みそしるはこのときがいちばん味噌みその香かおりがして美味びみであるといい、煮にえばなをすくう。
• ひと煮立にたち
  • 煮汁にじるをいちど沸騰ふっとうさせてからほんのちょっとの間あいだ、煮にる。

代表だいひょう的てきな煮物にもの

ぜいたく煮に

• うま煮に
• おでん
• カレー
• 昆布こぶ巻まき
• シチュー
• ポトフ
• ボルシチ
• ロールキャベツ

魚類ぎょるい・海藻かいそう類るい

• 甘露煮かんろに
• サバの味噌みそ煮に
• 佃煮つくだに
• 煮に魚ぎょ
• 煮付につけ
• ぶり大根だいこん
• 棒鱈ぼうだら煮に - 山形やまがた県けんで見みられる
• 大和やまと煮に

獣肉じゅうにく類るい

• 角かく煮に
• 肉にくじゃが

野菜やさい類るい

• 筑前ちくぜん煮に
• 煮豆にまめ
• 風呂吹ふろふき

慣用かんよう句く

• 煮にて食ぐおうと焼やいて食ぐおうと
• 煮にても焼やいても食くえない
• 煮にるなり焼やくなり
• 煮にえきらない
• はらわたが煮にえくりかえる
• 煮にしめたような
• 煮にえ湯ゆを飲のまされる
• 業ごうを煮にやす
• 〜のごった煮に

格言かくげん・ことわざ

• 豆まめの煮に方かたで二に度ど離婚りこん
• 鱈たらは馬うまの鼻息はないきでも煮にえる
• うどの煮にえぶとり (たいして役やくにたない物ものに限かぎって量りょうだけは多おおい。うどの大木たいぼくと同義どうぎ)
• 小豆あずきは莫迦ばかに煮にさせろ (気長きながにやったほうがよい事ことの喩たとえ)
• 豆腐とうふも煮にれば締しまる (頼たよりない者ものも苦労くろうすればそれなりに根性こんじょうが据すわる)
• 狡兎こうと死しして走狗そうく煮にらる (かつて役やくに立たった者ものも、用よう済ずみとなれば捨すてられる)
• 琴きんを焚たいて鶴づるを煮にる (無風流ぶふうりゅう、殺風景さっぷうけいのたとえ)
• 豆まめを煮にるに豆まめ殻からを以って炊たく (兄弟きょうだいが相そう争あらそう比喩ひゆ)「三国志さんごくし」
• 大国たいこくを治ちむるは小しょう鮮を烹(に)るが如ごとし (小しょう魚さかなを煮にるときかき廻まわしすぎたら崩くずれる。大国たいこくは干渉かんしょうしすぎず鷹揚おうように治おさめよ)「老子ろうし」

食物しょくもつ以外いがいでの煮沸しゃふつ

• 紙かみ - 原料げんりょうとなる木材もくざいチップを煮にて繊維せんい（パルプ）を取とり出だす。
• 絹きぬ - 蚕かいこの繭まゆを煮にて糸いとをほぐす。
• 殺菌さっきん - 沸騰ふっとうした熱湯ねっとうに10分間ふんかん程度ていど浸ひたす（煮沸しゃふつ消毒しょうどく）。

参考さんこう文献ぶんけん

• 〔つきぢ田村たむら〕三さん代目だいめ、田村たむら隆たかし 著ちょ『日本にっぽん料理りょうりの基本きほん』新星しんせい出版しゅっぱん社しゃ、2009年ねん、ISBN 978-4-4050-9185-6

関連かんれん項目こうもく

• 煮詰につめる
• 煮にこごり
• ジャム
• 茹ゆで物ぶつ