狗いぬ邪よこしま韓国かんこく

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狗いぬ邪よこしま韓国かんこく（くやかんこく）は、3世紀せいき中頃なかごろに朝鮮半島ちょうせんはんとう南部なんぶにあった国くに。中国ちゅうごく正史せいしの『三国志さんごくし』や『後こう漢書かんしょ』に見みえ、『三国志さんごくし』では「其（=倭国わのくに）の北岸ほくがんの狗いぬ邪よこしま韓国かんこく」とある。『後こう漢書かんしょ』では「倭やまとの西北せいほく端はしの国くに」とする。伽耶かや、任にん那な（みまな）との関連かんれん性せいが指摘してきされている。

また「狗いぬ邪よこしま韓国かんこく」という国くにがあったわけではなく、「狗いぬ邪よこしま」という国名こくめいと「韓国かんこく七なな千せん余あまり里さと」という旅程りょていを合あわせて誤読ごどくしてしまったという説せつも新あらたに提唱ていしょうされている。

記録きろく[編集へんしゅう]

三国志さんごくし[編集へんしゅう]

『三国志さんごくし』「魏ぎ書しょ」東夷あずまえびす伝でん韓かん条じょうには、

韓かんは帯おび方かた郡ぐんの南みなみにあり、東方とうほうと西方せいほうは海うみによって区切くぎられ、南方なんぽうで倭やまとと接せっし、四方しほうは四よん千里せんりばかり。韓かんには三種さんしゅあり、一いちに馬うま韓かん、二にに辰たつ韓かん、三さんに弁わきまえ韓かん。辰たつ韓かんとは昔むかしの辰たつ国こくのことで馬うま韓かんは西にしにある[1]。

とあり、韓かんは南方なんぽうでは陸続りくつづきに倭やまとと接せっすると述のべている。

『三国志さんごくし』「魏ぎ書しょ」東夷あずまえびす伝でん倭人わじん条じょうでは、

（帯おび方かた）郡ぐんより倭やまとに至いたるは、海岸かいがんに循（したが）ひて水みず行ぎょうし、韓かんの国くにを歴れき（へ）、乍（あるい）は南みなみし乍（あるい）は東ひがしし、其（そ）の北岸ほくがんの狗いぬ邪よこしま韓国かんこくに到いたり、七なな千せん余あまり里さと。
始はじめて一いち海うみを度ど（わた）ること、千せん余あまり里さとにして対馬つしま国こくへ至いたる[2][3]。

とあり、狗いぬ邪よこしま韓国かんこくを「その（= 倭やまとの）北岸ほくがん」と述のべている。

「其（= 倭やまと）北岸ほくがん」の解釈かいしゃくとしては、倭国わのくに（または倭人わじん居住きょじゅう地ち）の領域りょういき内ないとする説せつ、領域りょういき外がいで対岸たいがんとする説せつ、倭やまとの海うみと岸きしが接せっする意味いみとする説せつの3説せつが挙あげられている[4]。

なお、弁べん辰たつ十じゅう二に国こくの中なかでは「弁べん辰たつ狗いぬ邪よこしま国こく」として見みえる[5]。

後こう漢書かんしょ[編集へんしゅう]

『後こう漢書かんしょ』[6]東夷あずまえびす伝でん（列伝れつでん第だい七なな十じゅう五ご）は三さん韓かんの位置いち関係かんけいをより具体ぐたい的てきに、

馬うま韓かんは西部せいぶに在あり、54国こくを有ゆうし、その北きたは楽らく浪なみ郡ぐんと、南みなみは倭やまとと接せっする。辰たつ韓かんは東部とうぶに在あり、12国こくを有ゆうし、その北きたは濊貊と接せっする。弁べん辰たつは辰たつ韓かんの南みなみに在あり、また十じゅう二に国こくを有ゆうし、その南みなみはまた倭やまとと接せっする[7]。

と述のべ、「韓かん」の西部せいぶに馬うま韓かんが、東部とうぶに辰たつ韓かんが、南東なんとうに弁わきまえ辰たつ（辰たつ韓かん）があり、馬うま韓かんと弁べん辰たつが各々おのおのその南方なんぽうで「倭やまとと接せっする」と述のべられている。

『後こう漢書かんしょ』東夷あずまえびす伝でん倭人わじん条じょうでは、

倭やまとは韓かんの東南とうなん、大海たいかい中ちゅうの山島やましまによっており、およそ百ひゃく余あまり国こくある。（前漢ぜんかんの）武たけ帝みかどが（衛まもる氏し）朝鮮ちょうせんを滅ほろぼしてから、三さん十じゅう余あまり国こくが漢かんに使つかい訳やくを通つうじてきた。国々くにぐには皆みなが王おうを称しょうし、代々だいだいその家系かけいが続つづいている。諸王しょおうの中なかの大王だいおうたる大倭おおやまと王おうは、邪馬臺国やまたいこくに居いする。楽らく浪なみ郡ぐんは、その国くに（邪馬台国やまたいこく）を去さること一いち万まん二に千里せんり、その（倭やまとの）西北せいほくの境界きょうかいにあたる拘かかわ邪よこしま韓国かんこくを去さること七なな千せん余あまり里さと。その地ちはだいたい会かい稽郡東ひがし冶の東ひがしにあり、朱しゅ崖がけや儋耳と相似そうじしており、その法ほう俗ぞくも多おおくが同おなじである[8]。

とあり、「大倭おおやまと王おう」が住すまう邪馬台国やまたいこくは楽らく浪なみ郡ぐんから「一いち万まん二に千里せんり」、倭国わのくにの西北せいほくの境界きょうかいである狗いぬ邪よこしま韓国かんこくは楽らく浪なみ郡ぐんから「七なな千里せんり」と記しるされている。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ （原文げんぶん）
    韓かん在ざい帶おび方かた之の南みなみ，東西とうざい以海爲ため限げん，南みなみ與あずか倭やまと接せっ，方ぽう可か四よん千里せんり。有ゆう三種さんしゅ，一いち曰馬韓かん，二に曰辰韓かん，三さん曰弁韓かん。辰たつ韓かん者しゃ，古いにしえ之の辰たつ國こく也。馬うま韓かん在ざい西にし。 — 三国志さんごくし、巻まき三さん十じゅう、東夷あずまえびす伝でん
  2. ^ (渡邉わたなべ 2012, pp. 173f)
  3. ^ （原文げんぶん）
    倭人わじん在ざい帶おび方かた東南とうなん大海たいかい之の中なか，依よ山島やましま爲國ためくに邑。舊きゅう百ひゃく餘あまり國こく，漢かん時じ有ゆう朝見ちょうけん者しゃ，今こん使つかい譯やく所しょ通どおり三さん十じゅう國こく。從したがえ郡こおり至いたる倭やまと，循海岸水きしみず行ゆき，歷れき韓國かんこく，乍南乍東，到いた其北岸がん狗いぬ邪よこしま韓國かんこく，七なな千せん餘あまり里さと。 — 三国志さんごくし、巻まき三さん十じゅう、東夷あずまえびす伝でん
  4. ^ 井上いのうえ秀雄ひでお 「狗いぬ邪よこしま韓国かんこく」『国史こくし大だい辞典じてん』 吉川弘文館よしかわこうぶんかん。
  5. ^ （原文げんぶん）
    弁べん辰たつ亦また十じゅう二に國こく，又また有ゆう諸しょ小別しょうべつ邑，各かく有ゆう渠みぞ帥そち，大だい者しゃ名めい臣しん智さとし，其次有ゆう険けん側がわ，次じ有ゆう樊濊，次じ有ゆう殺ころせ奚，次じ有ゆう邑借。有ゆう，已やめ柢國，不ふ斯國，弁べん彌わたる離はなれ彌わたる凍こお國くに，弁べん辰たつ接せっ塗ぬり國こく，勤つとむ耆國，辰たつ彌わたる離はなれ彌わたる凍こお國くに，弁べん辰たつ古こ資し彌わたる凍こお國くに，弁べん辰たつ古こ淳じゅん是ぜ國こく，冉奚國こく，弁べん辰たつ半はん路みち國こく，弁べん樂らく奴やつ國こく，軍ぐん彌わたる國こく，弁べん軍ぐん彌わたる國こく，弁べん辰たつ彌わたる烏がらす邪よこしま馬ば國こく，如湛國こく，弁べん辰たつ甘あま路ろ國こく，戸こ路ろ國こく，州しゅう鮮國，馬うま延のべ國こく，弁べん辰たつ狗いぬ邪よこしま國こく，弁べん辰たつ走はし漕こげ馬ば國こく，弁べん辰たつ安やす邪よこしま國こく，馬うま延のべ國こく，弁べん辰たつ瀆盧國こく，斯盧國こく，優ゆう由よし國こく。弁わきまえ，辰たつ韓かん合あい二に十じゅう四國しこく，大國たいこく四よん五ご千せん家いえ，小國しょうこく六ろく七なな百ひゃく家いえ，總そう四よん五ご萬まん戸こ。 — 三国志さんごくし、巻まき三さん十じゅう、東夷あずまえびす伝でん
  6. ^ 正史せいしとしての順番じゅんばんは『三国志さんごくし』より前まえだが、成立せいりつは『三国志さんごくし』より遅おそい。
  7. ^ （原文げんぶん）
    馬うま韓かん在ざい西にし，有ゆう五ご十じゅう四國しこく，其北與樂ようらく浪なみ，南みなみ與あずか倭やまと接せっ。辰たつ韓かん在ざい東ひがし，十じゅう有ゆう二に國こく，其北與あずか濊貊接せっ。弁べん辰たつ在ざい辰たつ韓かん之の南みなみ，亦また十じゅう有ゆう二に國こく，其南亦また與あずか倭やまと接せっ。 — 後ご漢書かんしょ、巻まき八はち十じゅう五ご、東夷あずまえびす列伝れつでん
  8. ^ （原文げんぶん）
    倭やまと在ざい韓かん東南とうなん大海たいかい中ちゅう，依よ山島やましま為ため居い，凡百ぼんぴゃく餘あまり國こく。自じ武ぶ帝みかど滅めつ朝鮮ちょうせん，使つかい驛通えきどおり於漢者しゃ三さん十じゅう許もと國こく，國くに皆みな稱しょう王おう，世世せぜ傳統でんとう。其大倭やまと王おう居きょ邪馬臺國やまたいこく。樂らく浪なみ郡ぐん徼，去さ其國萬まん二に千里せんり，去さ其西北きた界かい拘かかわ邪よこしま韓國かんこく七なな千せん餘あまり里さと。其地大だい較在會かい稽東冶之東ひがし，與あずか朱しゅ崖がけ，儋耳相近すけちか，故こ其法俗ぞく多おお同どう。 — 後ご漢書かんしょ、巻まき八はち十じゅう五ご、東夷あずまえびす列伝れつでん

関連かんれん文献ぶんけん[編集へんしゅう]

中国語ちゅうごくご版ばんウィキソースに本ほん記事きじに関連かんれんした原文げんぶんがあります。
中国語ちゅうごくご版ばんウィキソースに本ほん記事きじに関連かんれんした原文げんぶんがあります。

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

邪馬台国やまたいこく
郡ぐんより女王じょおう国こくに至いたる国々くにぐに
其その余よの旁つくり国こく
その他たの国々くにぐに
登場とうじょう人物じんぶつ
官かん名めい
基本きほん用語ようご・筆者ひっしゃ・原典げんてん
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