真田紐さなだひも

真田紐さなだひも（さなだひも）は、縦糸たていとと横糸よこいとを使つかい織機しょっき（織おり機き、機き（はた））で織おった^[1]平ひらたく狭せまい織物おりものの日本にっぽんの紐ひも。漢字かんじでは「絛紐」（さなだひも）と書かくこともある（wikt:絛）。元々もともとは一いち重じゅう織おりで、中なかを空洞くうどうにした袋織ふくろおりりが派生はせいした^[1]。材質ざいしつは木綿こわた・正絹しょうけんを使つかう。

主おもに茶道具ちゃどうぐの桐きり箱ばこの紐ひも。刀かたなの下さげ緒お、鎧よろい兜かぶと着用ちゃくよう時じの紐ひも、帯締おびじめ・帯留おびどめ用ようの紐ひも、荷物にもつ紐ひも等とうに使用しようする。

真田紐さなだひもは、通常つうじょうの織物おりものの4倍ばい以上いじょうの糸いとを圧縮あっしゅくして平ひらたく織おられ、伸のびにくく丈夫じょうぶである。そのため重量じゅうりょう物ぶつを吊つったり、物ものを確実かくじつに縛しばったりする際さいに使つかう。数かず多おおくの柄えがあり、一部いちぶは家紋かもんの様ように家いえ・個人こじんの決きめられた柄えがあり個人こじん・集団しゅうだんの認証にんしょう、作品さくひんの真贋しんがん鑑定かんていに使つかわれている。

名前なまえの由来ゆらい[編集へんしゅう]

起原きげんは定さだかではないが、関ヶ原せきがはらの戦たたかいで敗やぶれて九度山くどさんに配流はいるされて蟄居ちっきょしていた真田さなだ昌幸まさゆき・信繁のぶしげ父子ふしが真田紐さなだひもを作製さくせいし、生計せいけいを立たてていたという俗説ぞくせつがある。『安齋あんざい随筆ずいひつ』によると、真田紐さなだひもは、九度山くどさんに蟄居ちっきょ中ちゅう、生計せいけいのために真田紐さなだひもを作成さくせいし、正宗まさむね、貞宗さだむねの脇差わきざしの柄えを巻まくのに使つかい、そこから真田さなだ父子ふしの発明はつめいという真偽しんぎ不明ふめいの逸話いつわが生うみ出だされた。真田さなだ氏しの故こ地ちである長野ながの県けん上田うえだ市しの歴史れきし資料しりょう館かんが所有しょゆうする「昌幸まさゆき公所ぐぞ用よう甲冑かっちゅう」に真田紐さなだひもが巻まかれており、これをもって武勲ぶくんを上あげたので真田紐さなだひもの名なが付ついたという説せつもある。伊賀いがの真田紐さなだひも作づくり、木綿もめんの栽培さいばい、茶道さどうの大家たいか千利休せんのりきゅうのしつらえなどを総合そうごうすると、発祥はっしょうはもっと古ふるい時代じだいであると言いえる。真田さなだ氏しの発祥はっしょう地ちである上田うえだ市し付近ふきんも上田うえだ縞しまなどで知しられる織物おりものの産地さんちであり、九度山くどさんも織物おりものの産地さんちであることから各かく関連かんれん地域ちいきでは地場じば産業さんぎょうと真田紐さなだひもとの関連かんれんを宣伝せんでん文句もんくに使つかったことからこのような逸話いつわが誕生たんじょうしたと考かんがえられる^[2]。

他たには、チベット周辺しゅうへんの言語げんごで「織お紐ひも」を意味いみする「サナール」が転てんじたとする説せつがある^[1]。チベットの山岳さんがく民族みんぞくが家畜かちくの獣しし毛げを染そめ腰こし機きを用もちい織おった細ほそ幅はば織物おりもの(サナール)が南みなみ乗じょう仏教ぶっきょう伝来でんらいとともに海路かいろ日本にっぽんに入はいってきたものが、停泊ていはく地ちの沖縄おきなわ地方ちほうではミンサー織おりになり、八重山諸島やえやましょとうでは八重山やえやま織おになり、本州ほんしゅうでは綿めんを草木くさきで染そめ織おった細ほそ幅はば織物おりものとなり後ごの真田紐さなだひもになったと言いわれている。獣しし毛げで織おられていたサナールに対たいし日本にっぽんには獣しし毛げ材料ざいりょうがなかったが、同おなじくインドよりもたらされ、戦国せんごく時代じだい初期しょきに初はじめて大坂おおさか地区ちくで栽培さいばいが成功せいこうした綿糸めんしを使用しようした。よって真田紐さなだひもの生産せいさんは近江おうみ・京きょうなど関西かんさい地方ちほうが中心ちゅうしんだったが、後のちに栽培さいばい地域ちいきの北上ほくじょうにより生産せいさん地域ちいきも広ひろがっていった。

また、平安へいあん時代じだいに日本にっぽんに入はいってきたとされる中国ちゅうごく南部なんぶ産さんの真田紐さなだひもによく似にた織お紐ひもが、当時とうじは「さのはた（狭せま織お）」と呼よばれていたため、「さのはた」が「さなだ」に転化てんかしたという説せつもある。

歴史れきし[編集へんしゅう]

中国ちゅうごくから日本にっぽんの宮中きゅうちゅうに伝つたわったと言いわれる組紐くみひもに対たいし、庶民しょみん・武士ぶしが常用じょうようしたのが真田紐さなだひもである。経糸たていとのみで「組くむ」組紐くみひもは構造こうぞう的てきに伸のびやすいのに対たいし、縦糸たていとと横糸よこいとを機きで「織おる」真田紐さなだひもは非常ひじょうに実用じつよう的てきだった。

平安へいあん・鎌倉かまくら時代ときよの武将ぶしょうは宮廷きゅうてい色いろの強つよい、飾かざりの多おおい甲冑かっちゅうを身みに着つけていたが、庶民しょみんや地方ちほう豪族ごうぞくを出自しゅつじとする武将ぶしょうが登場とうじょうした戦国せんごく時代じだいには、真田紐さなだひもなど一般いっぱん庶民しょみんの生活せいかつ用具ようぐを甲冑かっちゅうに使用しようすることにより、より動うごきやすく実戦じっせん的てきとなり、これが結果けっか的てきに戦国せんごく時代じだいにおける勝敗しょうはいを左右さゆうし、ひいては時代じだいの変かわり目めの一因いちいんとなった。全国ぜんこく各地かくちの武将ぶしょうが軍需ぐんじゅ物資ぶっしとして製作せいさく・使用しようし、天正てんしょう伊賀いがの乱らん以前いぜんの伊賀いが国こくでは忍しのび達いたるの農閑期のうかんきの作業さぎょうとして真田紐さなだひも作づくりが行おこなわれていた。忍しのびの道具どうぐとしても用もちいられたり、薬くすりや真田紐さなだひもの行商ぎょうしょう人ひとは各かく屋敷やしきや城しろにも怪あやしまれず出入でいりが可能かのうであり、商売しょうばいを隠かくれ蓑みのに内偵ないていしたりしたと伝つたわる。だが伊賀いがの乱らん以後いごは組紐くみひも作づくりに転てんじていったが、今こん現在げんざいも手織ており真田紐さなだひもは滋賀しが県けん東ひがし近江おうみ市しの西村にしむら家かでその技術ぎじゅつは受うけ継つがれ織おられている。

また、戦国せんごく時代じだい中期ちゅうき、千利休せんのりきゅうが茶道さどうを庶民しょみんに広ひろめる為ため、それまで貴族きぞくのみ使用しようが可能かのうだった宮中きゅうちゅう型がたのしつらえ(塗ぬり箱ばこに組紐くみひも)から、庶民しょみんでも使つかえる無垢むくの桐きり箱ばこ、そして当時とうじ武将ぶしょうや庶民しょみんが使つかっていた真田紐さなだひもを使用しようするようになった。元来がんらい、刀かたなの下さげ緒お等とうに使つかわれていた時ときに各かく家いえの好このみの柄えが出来でき、これを遺品いひん回収かいしゅうの折おりの目印めじるしにしたことが、後のちに茶道具ちゃどうぐでは「茶道さどう御ご約束やくそく紐ひも」と呼よばれる各かく茶道さどう流儀りゅうぎ、各かく作さく陶すえ家か、各かく機関きかんでのみそれぞれ使つかうことが出来できる独特どくとくの柄えを制定せいていする文化ぶんかの基もととなった。茶器ちゃきや箱書はこがきを偽造ぎぞうしても、御ご約束やくそく紐ひもは使つかう糸いとや織おり方かたを専門せんもん家かが見みれば、贋物にせものを見分みわけられるようになっている。かつては秘密ひみつを守まもるため、真田紐さなだひもづくりを家業かぎょうとしていることを公おおやけにしていないこともあった^[1]。

また、桐きり箱ばこの結むすびは、武将ぶしょうが茶道具ちゃどうぐに毒どくなどを塗ぬられるのを防ふせぐために使つかった封印ふういん結むすびが基もとと言いわれている。この為ため、各かく家いえ・個人こじんで工夫くふうして結むすび、定期ていき的てきに結むすびを変かえたりもした。現在げんざい、多おおくの茶道具ちゃどうぐの結むすびは裏千家うらせんけの結むすびである。

徳川とくがわの天下てんか統一とういつに伴ともない、特とくに大阪おおさかを中心ちゅうしんとした地方ちほうの庶民しょみんには親おや豊臣とよとみ・反はん徳川とくがわ的てき風潮ふうちょうが根強ねづよく、最後さいごまで徳川とくがわに苦汁くじゅうをなめさせた真田さなだ信繁のぶしげを支持しじ・美化びかする動うごきがあり、真田紐さなだひもを一ひとつの象徴しょうちょうとするようになったと言いわれている。