私わたし掠かすめ船せん

フランシス・ドレークの座乗ざじょうしたゴールデン・ハインド号ごうのレプリカ

私わたし掠かすめ船せん（しりゃくせん、英えい: Privateer, 仏ふつ: Corsaire）とは、戦争せんそう状態じょうたいにある一いち国こくの政府せいふから、その敵国てきこくの船ふねを攻撃こうげきしその船ふねや積つみ荷に、荷物にもつを奪うばう許可きょか（私わたし掠かすめ免許めんきょ）を得えた個人こじんの船ふねであり、国くにに属ぞくした海賊かいぞく船せんともいえる。

概要がいよう

古ふるくより海軍かいぐんの任務にんむの一ひとつに、自国じこくの通商つうしょう路ろ（シーレーン）の維持いじと、敵国てきこくの通商つうしょう路ろの妨害ぼうがい・破壊はかいがある。大だい航海こうかい時代じだい以後いご、航路こうろが世界せかい規模きぼになるにつれてカバーしなければならない海域かいいきが広大こうだいとなり、海軍かいぐんの能力のうりょくが及およばない事態じたいが生しょうじてきた。各国かっこくは解決かいけつ策さくとして、民間みんかん船せんに私わたし掠かすめ免許めんきょを発行はっこうした。

私わたし掠かすめ船せんは海軍かいぐん力りょくの不十分ふじゅうぶんな後進こうしん国こくが優勢ゆうせいな海軍かいぐん力りょくを持もつ国家こっかへの通商つうしょう破壊はかいを目的もくてきとする場合ばあいと、海軍かいぐん力りょくが低下ていかした国家こっかが通商つうしょう路ろの維持いじを目的もくてきとして募つのる場合ばあいがある。前者ぜんしゃのケースが英えい西にし戦争せんそう時どきのイギリスであり、後者こうしゃのケースとして18世紀せいきのフランス私わたし掠かすめ船せんの活躍かつやくが挙あげられる。私わたし掠かすめ船せんは複数ふくすうの船ふねからなる小しょう艦隊かんたいが編成へんせいされることが多おおいが、単たん艦かんの場合ばあいもあった。初期しょきの私わたし掠かすめ船団せんだんは、編成へんせいされる度たびに共同きょうどう持株もちかぶ会社かいしゃが立たち上あげられ、国王こくおうや貴族きぞくなどの有力ゆうりょく者しゃが出資しゅっし者しゃとなった。

私わたし掠かすめ船せんは特許とっきょ状じょうを下付かふする以外いがい政府せいふに負担ふたんがかからないため、そのような意味いみで同どう時代じだいの傭兵ようへいに類似るいじする。反面はんめん、統制とうせいがきかず、同盟どうめい国こくや母はは国籍こくせきの船ふねまで襲おそう者ものや、本物ほんものの海賊かいぞくに転身てんしんする者ものまで現あらわれた。17世紀せいき以降いこうは、私わたし掠かすめ免許めんきょの発行はっこう時じに国家こっかに担保たんぽを前納ぜんのうさせることで統制とうせいがとられるようになり、「捕獲ほかく法ほう」などの法律ほうりつによって運用うんようが確立かくりつされるようになった。

私わたし掠かすめ免許めんきょを「海賊かいぞく免許めんきょ」、私わたし掠かすめ船せんを「公認こうにん海賊かいぞく」と呼称こしょうする場合ばあいもあるが、厳密げんみつには私わたし掠かすめ船せんは海賊かいぞくではない。しかし、私わたし掠かすめ船せんによる通商つうしょう破壊はかいを「公認こうにんの海賊かいぞく」、「国くにを挙あげての海賊かいぞく行為こうい」とする論者ろんしゃもいる。

なお、私わたし掠かすめという概念がいねんはあくまで西にしヨーロッパのものであり、それが現地げんち勢力せいりょくに受うけ入いれられるかは別べつ問題もんだいであった。例たとえば、平戸ひらどに商館しょうかんを構かまえたオランダ東ひがしインド会社かいしゃは、当初とうしょは日本にっぽんとの貿易ぼうえきが振ふるわず、平戸ひらどを根拠地こんきょちとしてポルトガルなどへの私わたし掠かすめに精せいを出だす状態じょうたいとなっていた。ただ、「私わたし掠かすめである」とするオランダの立場たちばは江戸えど幕府ばくふには受うけ入いれられず、1621年ねんには、日本にっぽん近海きんかいでの海賊かいぞく行為こういを禁きんじる旨むねの老中ろうじゅう奉書ほうしょが発はっせられている。

プライベティア

英語えいごでPrivateer。王おうの私的してき軍艦ぐんかんのこと。ヨーロッパの王おうや女王じょおうは海軍かいぐんを持もつだけの財力ざいりょくがなく、戦時せんじには代かわりに商船しょうせんを戦艦せんかんとして利用りようした。そのような商船しょうせんは私わたし掠かすめ船せん（プライベティア）と呼よばれた。はじめてプライベティアを利用りようしたのは13世紀せいき半なかばのイギリス王おうヘンリー3世せいで、フランス人じんに対たいして用もちいた。王おうはそれぞれのプライティアに海賊かいぞく行為こういの許可きょか証しょう「敵てき船せん拿捕だほ許可きょか状じょう」を授さづけ、敵てきの船ふねを攻撃こうげきする権限けんげんを与あたえた。戦争せんそうが終おわれば戦艦せんかんから商船しょうせんに戻もどることになっていたが、実際じっさいにはそのまま海賊かいぞく行為こういは続つづき、本当ほんとうの海賊かいぞくになったプライベティアもとても多おおかった。

私わたし掠かすめ船せんの歴史れきし

私わたし掠かすめ船せんの襲撃しゅうげき

16世紀せいき中頃なかごろ、カリブ海かりぶかいのスペイン貿易ぼうえき航路こうろへフランス私わたし掠かすめ船せんが盛さかんに襲撃しゅうげきを行おこない、イギリスがこれに続つづいた。1530年ねん、プリマスの大だい商人しょうにんウイリアム・ホーキンズは私わたし掠かすめ行為こういと密輸みつゆで巨大きょだいな利益りえきを上あげ、プリマスの市長しちょうになっている。こうした成功せいこうは愛国心あいこくしんや名誉めいよ、攻撃こうげき精神せいしんを喚起かんきさせ冒険ぼうけん商人しょうにんと呼よばれる後続こうぞく者しゃたちを生うみ出だした。

オランダ独立どくりつ戦争せんそうにおいて海外かいがいに逃亡とうぼうしたネーデルラントの貴族きぞくたちは「海うみの乞食こじき団だん」を結成けっせいし、1569年ねんにウィレム1世せいは私わたし掠かすめ免許めんきょ状じょうを発行はっこうした。オランダ私わたし掠かすめ船せんは新大陸しんたいりくから戻もどるスペイン商船しょうせんを襲撃しゅうげきしたり、スペイン支配しはい下かの町まちを焼やき討うちするなどスペインの海上かいじょう勢力せいりょくに対たいしてゲリラ戦せんを展開てんかいし、独立どくりつ戦争せんそうに貢献こうけんした。

イギリス（イングランド）の私わたし掠かすめ船せんの始はじまりは、1243年ねんにヘンリー3世せいがゲオフレイ船長せんちょうに与あたえた報復ほうふくを目的もくてきとした許可きょかが初はじめてとされているが、国家こっかが積極せっきょく的てきに奨励しょうれいしたのはエリザベス1世せい治下ちかの英えい西にし戦争せんそうの時ときのことである。海軍かいぐん力りょくに劣おとるイングランドは、スペイン海軍かいぐんと正面しょうめんから戦たたかうことを極力きょくりょく避さけ、代かわりに私わたし掠かすめ船せんを一種いっしゅの準じゅん軍事ぐんじ組織そしきとして用もちい、表向おもてむき非ひ正規せいきの行動こうどうとしてスペイン船せんを襲おそわせた。中なかでもフランシス・ドレークの私わたし掠かすめ船せんによる世界せかい周航しゅうこうやカディス襲撃しゅうげきは偉業いぎょうと讃たたえられた。アルマダの海戦かいせんに参加さんかした200隻せき以上いじょうのイギリス艦船かんせんのうち、150-160隻せきは商船しょうせんだったと言いわれる。特とくに西にしインド諸島しょとう海域かいいきに遊弋ゆうよくするイギリス私わたし掠かすめ船せんの活動かつどうは激はげしく、当時とうじのイギリス船せんそのものが「海賊かいぞく船せん」と評価ひょうかされることになった。

17世紀せいきに入はいるとカリブ海かりぶかいのイスパニョーラ島とうを本拠ほんきょとし、ウィンドワード海峡かいきょうを通過つうかするスペイン船せんを狙ねらう海賊かいぞくが現あらわれた（バッカニア）。フランス政府せいふは彼かれらに私わたし掠かすめ免許めんきょを与あたえて公認こうにんし、続つづけてイングランドやオランダも彼かれらに私わたし掠かすめ免許めんきょを与あたえた。オリバー・クロムウェルの「西方せいほう政策せいさく」によって1655年ねんにジャマイカを占拠せんきょしたイングランドでは、ジャマイカ総督そうとくのトマス・モディフォードが積極せっきょく的てきにバッカニアを公認こうにんしてポート・ロイヤルの利用りようを認みとめ、彼かれらの略奪りゃくだつ品ひんによって同地どうちは急速きゅうそくに発展はってんした。特とくにそのなかの一人ひとりヘンリー・モーガンはスパニッシュ・メインの18の都市とし、4つの町まち、多数たすうの村むらを襲撃しゅうげきし、パナマ地峡ちきょうを超こえパナマ市しを略奪りゃくだつ、破壊はかいした。この功績こうせきによりモーガンはナイトに叙じょされ、ジャマイカの副ふく総督そうとくとなった。

18世紀せいきの英えい仏ふつ戦争せんそう中なかには非常ひじょうに多数たすうの私わたし掠かすめ船せんが活動かつどうした。スペイン継承けいしょう戦争せんそう、アン女王じょおう戦争せんそうではフランス側がわが多おおくの私わたし掠かすめ船せんを繰くり出だし商船しょうせんを襲撃しゅうげきしたが、制海権せいかいけんは常つねにイギリス側がわに握にぎられ戦争せんそうの大勢おおぜいに影響えいきょうを与あたえることはできなかった。 アメリカ独立どくりつ戦争せんそうでは1775年ねんに正規せいきの軍艦ぐんかんと商船しょうせん改造かいぞうの私わたし掠かすめ船せんからなる大陸たいりく海軍かいぐんが編成へんせいされたが、参加さんかした私わたし掠かすめ船せんは合計ごうけいすると約やく1500隻せきに及およんだ。ジョン・ポール・ジョーンズはイギリス本国ほんごく沿岸えんがんでの牽制けんせい攻撃こうげきを企図きとし戦果せんかを上あげたが、多おおくの私わたし掠かすめ船せんは金きむ目当めあてであり、専もっぱら輸送ゆそう船せんや商船しょうせんを襲撃しゅうげきした。

フランス革命かくめいからナポレオン戦争せんそうにかけてフランス側がわの私わたし掠かすめ船せんが活躍かつやくし、交戦こうせん国こく・中立ちゅうりつ国こくに対たいし略奪りゃくだつし、大陸たいりく封鎖ふうさ令れいを側面そくめんから支援しえんした。 革命かくめい後ご、仏ふつ領りょう西にしインド諸島しょとうでは条件じょうけんが自由じゆうに書かき込こめる私わたし掠かすめ免許めんきょ証しょうが公然こうぜんと売うりさばかれた。また、チャールストン在住ざいじゅうのフランス人じんたちは、偽造ぎぞうされた委任いにん状じょうを元もとに私わたし掠かすめ船せんを作つくり破壊はかい活動かつどうを行おこなった。1797年ねんのアメリカ国務省こくむしょうの報告ほうこくでは年間ねんかんに300隻せき以上いじょうのアメリカ商船しょうせんがフランス私わたし掠かすめ船せんに拿捕だほされたという。翌年よくねんの1798年ねんにアメリカとフランスは非公式ひこうしきな戦争せんそう状態じょうたいに入はいり、アメリカ側がわも200隻せきに及およぶ商船しょうせんに対たいフランス私わたし掠かすめ免許めんきょと報復ほうふく的てき拿捕だほ認可にんか状じょうを発行はっこうした。

アメリカの南北戦争なんぼくせんそうにおいて南部なんぶ連合れんごう政府せいふは私わたし掠かすめ船せん免状めんじょうを発行はっこうしたが、それにより活動かつどうした少数しょうすうの私わたし掠かすめ船せんはたちまち圧倒的あっとうてきに優勢ゆうせいな北部ほくぶ海軍かいぐんにより鎮圧ちんあつされた。

1856年ねんのパリ宣言せんげんでヨーロッパ列強れっきょうは私わたし掠かすめ船せんの利用りようを放棄ほうきした。さらに1907年ねんのハーグ平和へいわ会議かいぎで武装ぶそうした商船しょうせんは軍艦ぐんかんとして登録とうろくされるべきことが国際こくさい法ほうとして規定きていされ、アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくを含ふくむ諸国しょこくもそれに従したがい、私わたし掠かすめ船せんの慣習かんしゅうは消滅しょうめつした。パリ宣言せんげん以後いご、戦時せんじに民間みんかん船せんは特設とくせつ艦船かんせんとして用もちいられることとなった。

私わたし掠かすめ船せんの収益しゅうえき

私わたし掠かすめ船せんの航海こうかいで得えられた利益りえきは、国庫こっこ・出資しゅっし者しゃ・船長せんちょう以下いか乗組のりくみ員いんに所定しょていの比率ひりつで分配ぶんぱいされた。 15-16世紀せいきのイギリス私わたし掠かすめ船せんの場合ばあい、国王こくおうが5分ぶんの1、海軍かいぐんが10分ぶんの1を控除こうじょし、残のこりを3等分とうぶんして船長せんちょう（船主せんしゅ）、出資しゅっし者しゃ、乗組のりくみ員いんで分割ぶんかつした。 国家こっかや出資しゅっし者しゃにとっては私わたし掠かすめ船せんはおおむね儲もうかる事業じぎょうだった。エリザベス1世せいがフランシス・ドレークに私わたし掠かすめ免許めんきょを与あたえ投資とうしした際さいの利益りえき率りつは、6000%にのぼったという説せつもある。

時代じだいが下くだり私わたし掠かすめの成果せいかが低下ていかし、乗組のりくみ員いんの士気しきの低下ていかを反映はんえいして国王こくおうや海軍かいぐんの取とり分ぶんは期待きたいできなくなった。私わたし掠かすめが不ふ成功せいこうの場合ばあい、乗組のりくみ員いんは無給むきゅうとなり出資しゅっし者しゃに経費けいひを返却へんきゃくしなければならない契約けいやくだったからである。

著名ちょめいな私わたし掠かすめ船せんの関係かんけい者しゃ

• フランシス・ドレーク
• ウィリアム・キッド
• ヘンリー・モーガン
• ジャン・バール
• アマロ・ロドリゲス・フェリペ
• ロベール・シュルクーフ
• アレクサンダー・ハミルトン
• ジョン・ポール・ジョーンズ
• ルネ・デュゲイ＝トルーアン
• クリストファー・レイモンド・ペリー - マシュー・ペリーの父親ちちおや

参考さんこう文献ぶんけん

• 篠原しのはら陽一よういち『帆船はんせんの社会しゃかい史し』高文たかふみ堂どう出版しゅっぱん社しゃ、1983年ねん。ISBN 4770700563。 
• 竹田たけだいさみ『世界せかい史しをつくった海賊かいぞく』筑摩書房ちくましょぼう〈ちくま新書しんしょ〉、2011年ねん。ISBN 9784480065940。 
• サムエル・モリソン 著しる、西川にしかわ正ただし身み 訳やく『アメリカの歴史れきし』 1巻かん、集英社しゅうえいしゃ〈集英社しゅうえいしゃ文庫ぶんこ〉、1997年ねん。ISBN 4087603172。 
• 東洋文庫とうようぶんこ 編へん『東ひがしインド会社かいしゃとアジアの海賊かいぞく』勉つとむ誠まこと出版しゅっぱん、2015年ねん。ISBN 978-4-585-22098-5。 
• 増田ますだ義郎よしお『略奪りゃくだつの海うみ　カリブ　もうひとつのラテン・アメリカ史し』岩波いわなみ新書しんしょ、1989年ねん　ISBN 4004300754

関連かんれん項目こうもく

• 海賊かいぞく
• 通商つうしょう破壊はかい
• 経済けいざい制裁せいさい
• 重じゅう商しょう主義しゅぎ
• バルバリア海賊かいぞく - 16-18世紀せいきにバルバリ諸国しょこくを中心ちゅうしんに活動かつどうした海賊かいぞく。「私わたし掠かすめ船せん」と訳やくされることがある。
• ミニスカ宇宙うちゅう海賊かいぞく - 笹本ささもと祐一ゆういちのSF小説しょうせつ・ライトノベル。主人公しゅじんこうが私わたし掠かすめ船せん免許めんきょ所持しょじ者しゃの後継こうけい者しゃであることに始はじまるストーリー。

外部がいぶリンク

• 海上かいじょう交易こうえきの世界せかいと歴史れきし（篠原しのはら陽一よういち）
• 『私わたし掠かすめ船せん』 - コトバンク