紅あかい花はな

『紅あかい花はな』（あかいはな）は、つげ義春よしはるが『ガロ』1967年ねん10月がつ号ごうに掲載けいさいした短編たんぺん漫画まんが^[1]。雄大ゆうだいな自然しぜんの風景ふうけいとノスタルジックなおかっぱ頭あたまの少女しょうじょを通とおして、独特どくとくの叙情じょじょう世界せかいをき上ずきあげた作品さくひんである。『ねじ式しき』と対極たいきょくをなすもう一ひとつの代表だいひょう作さく。

概要がいよう

ストーリーは、釣つり人ひとである主人公しゅじんこうの男性だんせいと、山中さんちゅうの小ちいさな売店ばいてんで店番みせばんをしているキクチサヨコとの出会であいから始はじまる。キクチサヨコは、良よい釣つり場ばを訪たずねる主人公しゅじんこうに、同級生どうきゅうせいのシンデンのマサジを紹介しょうかいする。作中さくちゅうでは、どこの地方ちほうのものとも明示めいじされていない方言ほうげんが用もちいられている^[1]。

『紅あかい花はな』とは、少女しょうじょが初潮しょちょうを迎むかえて大人おとなになることの隠喩いんゆである。半分はんぶん大人おとなになりかかったキクチサヨコと、彼女かのじょにいたずらするかたわら、仄ほのかな恋心こいごころを寄よせるまだ子供こどものシンデンのマサジのやり取とりが渓流けいりゅうや森もりといった自然しぜんを背景はいけいに繰くり広ひろげられ、微妙びみょうな恋こい物語ものがたりを際立きわだたせる。

千葉ちば県けん夷隅いすみ郡ぐん大多喜おおたきの旅館りょかん寿恵ひさえ比ひ楼ろうの当時とうじ17～18歳さいくらいの娘むすめが、同様どうようのおかっぱ頭あたまをした『沼ぬま』に登場とうじょうする少女しょうじょのモデルであるといわれ、同時どうじにキクチサヨコの原型げんけいでもないかとの推測すいそくもあるが詳細しょうさいは不明ふめい。また、舞台ぶたいもどことも限定げんていできない土地とちであり、幻想げんそう的てきである。しかし、この作品さくひんのおおらかさは、つげが白土しらつち三平さんぺいに招待しょうたいされた旅館りょかん寿恵ひさえ比ひ楼ろう滞在たいざいがもとになっているといわれ、作者さくしゃの人生じんせいの中なかでも、最もっとも解放かいほう感かんに満みちた時期じきに描えがかれた作品さくひんの一ひとつである。

『紅あかい花はな』の中なかでキクチサヨコの台詞せりふとして採用さいようされたバスガイドが務つとめていた小湊こみなと鉄道てつどう車庫しゃこ

作中さくちゅうに、どこの地方ちほうとも特定とくていできないような方言ほうげんが散ちりばめられており、またキクチサヨコは韻いんを踏ふんだような台詞せりふをとうとうと喋しゃべるが、この台詞回せりふまわしも作者さくしゃの想像そうぞう力りょくの中なかから生うまれたものであり、福島ふくしま弁べんを駆使くしした『もっきり屋やの少女しょうじょ』とはまた趣おもむきが異ことなっている。心地ここちの好よい台詞せりふもこの作品さくひんの魅力みりょくの一ひとつ。

台詞せりふで特徴とくちょう的てきなのはヒロインの生理せいりを表現ひょうげんする言葉ことばの数々かずかずだが、そのうちの「腹はらがつっぱる」は、作者さくしゃが生理せいり中ちゅうの少女しょうじょに想像そうぞう力りょくを張はり巡めぐらせて作つくったものではなく、寿恵ひさえ比ひ楼ろう旅館りょかん滞在たいざい時じに「靴下くつしたがつっぱる」と嘆なげく女性じょせいの会話かいわを作者さくしゃが聞きき間違まちがえたエピソードが元もとになっている。このエピソードは、1967年ねん4月がつには友人ゆうじん（立石たていし慎太郎しんたろう）と旅館りょかん寿恵ひさえ比ひ楼ろうを再訪さいほうした際さいに、隣室りんしつに泊とまっていたバスガイドの発はっした言葉ことば「えいっ、腹はらが立たつ、突つっ張ぱる」がヒントとなり、『紅あかい花はな』の中なかでキクチサヨコの台詞せりふとして利用りようした。また、つげがどてらを着きて寝ねようとしたところ宿やどの少女しょうじょが「どてらを着きて寝ねると切せつない」といったが、これを「もっきり屋やの少女しょうじょ」にて少女しょうじょのセリフに利用りようした^[2]。

あらすじ

どこの地ちとも知しれない山やま深ふかい村むらにポツンと1軒けんの茶店ちゃみせ。
店番みせばんの少女しょうじょ、キクチサヨコは物憂ものうげにため息いきをつく。
そこへ、ふっと現あらわれた釣つり人じん。すかさず店みせに招まねき入いれるサヨコ。
貧まずしい家いえのサヨコは、一人ひとりで店みせを切きり盛もりしていた。
やんちゃな同級生どうきゅうせいマサジは、いつものようにサヨコをいじめにやってくる。
川岸かわぎしには、紅あかい花はなが怪あやしく咲さき乱みだれている。
マサジは、一人ひとり川かわに入はいるサヨコの姿すがたを見みつける。
そこで、思おもいがけず目めにしたものは・・・・
マサジの目めの前まえを、不思議ふしぎな紅あかい花はなが渓流けいりゅうの流ながれの中なかを舞まうように流ながれていく。
サヨコの様子ようすに、マサジの心しんは微かすかに揺ゆれ動うごく。
^[3]

評価ひょうか

松岡まつおか正ただし剛つよし

『紅あかい花はな』のキクチサヨコや『もっきり屋やの少女しょうじょ』のコバヤシチヨジの奥おくには、英えい泉いずみの藍あい摺すり浮世絵うきよえの朱しゅが徒花あだばなのように点てんじられている^[4]。

映像えいぞう化か作品さくひん

1976年ねん

1976年ねん4月がつ3日にちにNHK『土曜どようドラマ』枠わく内ないで『劇画げきがシリーズ』と題だいされた『ガロ』の作品さくひん3本ほんシリーズの一本いっぽんとしてドラマ化かされた。他たの2本ほんは林はやし静一せいいち原作げんさくの『赤色あかいろエレジー』と、滝田たきたゆう原作げんさくの『寺島てらしま町まち奇き譚たん』。

このドラマではつげ義春よしはるがモデルと思おぼしき主人公しゅじんこうが幻想げんそう世界せかいと原はら風景ふうけいの中なかに迷まよい込こむストーリーとなっている。演出えんしゅつは『夢ゆめの島しま少女しょうじょ』や『四季しき～ユートピアノ』など擬似ぎじドキュメンタリータッチのドラマで評価ひょうかの高たかい佐々木ささき昭一郎しょういちろう。出演しゅつえんは草野くさの大悟たいご、沢井さわい桃子ももこ、宝生ほうしょうあやこ、藤原ふじわら釜がま足あしほか。草野くさの大悟たいご演えんじる主人公しゅじんこうの「私わたし」は、つげ義春よしはるに似にていると当時とうじ評判ひょうばんになった。また、往年おうねんの名めい脇役わきやくである藤原ふじわら釜がま足あしが長井ながい勝一かついちをモデルにした出版しゅっぱん社しゃの社長しゃちょう役やくで出演しゅつえん。アラカンこと嵐あらし寛ひろし寿郎としおが原作げんさくには登場とうじょうしないキクチサヨコの祖父そふ役やくを演えんじている。『紅あかい花はな』の他ほか、つげの『沼ぬま』『ねじ式しき』『古本ふるほんと少女しょうじょ』『ゲンセンカン主人しゅじん』などのエッセンスを1つのストーリーにまとめた内容ないようとなっている^[5]。このドラマは現在げんざいまで映像えいぞうソフト化かされていないが、第だい31回かい文化庁ぶんかちょう芸術げいじゅつ祭さい大賞たいしょうを受賞じゅしょうするなど評価ひょうかは高たかくNHKアーカイブスなどで再さい放送ほうそうが行おこなわれている^[5]。

1993年ねん

1993年ねんに『ゲンセンカン主人しゅじん』のタイトルで映画えいが化かされたオムニバス作品さくひんの第だい2話わとなった。監督かんとくは『網走あばしり番外地ばんがいち』などで知しられる石井いしい輝男てるお。佐野さの史郎しろうがつげ義春よしはるをモデルにした主人公しゅじんこうを演えんじた。本ほん作さくの他ほかに、表題ひょうだいである『ゲンセンカン主人しゅじん』『李りさん一家いっか』『池袋いけぶくろ百ひゃく点てん会かい』の4話わが収おさめられた。

キクチサヨコは久積ひさづみ絵夢えむ、シンデンのマサジは荻野おぎの純一じゅんいちが演えんじた^[6]。最後さいごのシンデンのマサジがキクチサヨコを背負せおって山やまを下おりるシーンで斜面しゃめんいっぱいに咲さき乱みだれる紅あかい花はなは、ティッシュペーパーの造花ぞうかで再現さいげんされたという。

1994年ねん2月がつに東北新社とうほくしんしゃよりVHS版はんがリリースされた後のち、2018年ねん6月がつにDIGレーベルよりHDニューマスター版ばんが発売はつばいされた。

1998年ねん

1998年ねん9月にテレビ東京てれびとうきょうの深夜しんやドラマ『つげ義春よしはるワールド』の第だい11話わとして放映ほうえいされた。主演しゅえんは田辺たなべ誠一せいいち、邑野未み亜あ^[7]。

注釈ちゅうしゃく・出典しゅってん

[脚注きゃくちゅうの使つかい方かた]

^ ^a ^b つげ義春よしはる『紅あかい花はな』小学館しょうがくかん、小学館しょうがくかん文庫ぶんこ、1995年ねん1月がつ、3-18頁ぺーじ。
^ 『つげ義春よしはる漫画まんが術じゅつ』（下巻げかん）1993年ねん10月がつ ISBN 4-948-73519-1、ISBN 978-4-948-73519-4
^ 『マンガ夜話やわ』Vol.3（キネマ旬報社きねまじゅんぽうしゃ）ISBN 978-4873765099
^ “ねじ式しき・紅あかい花はな小学館しょうがくかん文庫ぶんこ 1988”. 松岡まつおか正ただし剛つよしの千せん夜や千せん冊さつ. 2023年ねん9月がつ21日にち閲覧えつらん。
^ ^a ^b “NHKアーカイブス（番組ばんぐみ）｜これまでの放送ほうそう”. 2017年ねん2月がつ13日にち閲覧えつらん。
^ “ゲンセンカン主人しゅじん”. 2017年ねん2月がつ13日にち閲覧えつらん。
^ “ドラマデータベース”. 2020年ねん6月がつ20日はつか閲覧えつらん。

外部がいぶリンク

ドラマ「紅あかい花はな」（NHK) - ウェイバックマシン（2007年ねん9月がつ6日にちアーカイブ分ぶん）
土曜どようドラマ　劇画げきがシリーズ　紅あかい花はな - NHK放送ほうそう史し

[sb-1] つげ義春よしはる『紅あかい花はな』小学館しょうがくかん、小学館しょうがくかん文庫ぶんこ、1995年ねん1月がつ、3-18頁ぺーじ。

[ge-2] 『つげ義春よしはる漫画まんが術じゅつ』（下巻げかん）1993年ねん10月がつ ISBN 4-948-73519-1、ISBN 978-4-948-73519-4

[manga-3] 『マンガ夜話やわ』Vol.3（キネマ旬報社きねまじゅんぽうしゃ）ISBN 978-4873765099

[matsuoka-4] “ねじ式しき・紅あかい花はな小学館しょうがくかん文庫ぶんこ 1988”. 松岡まつおか正ただし剛つよしの千せん夜や千せん冊さつ. 2023年ねん9月がつ21日にち閲覧えつらん。

[NHK-5] “NHKアーカイブス（番組ばんぐみ）｜これまでの放送ほうそう”. 2017年ねん2月がつ13日にち閲覧えつらん。

[6] “ゲンセンカン主人しゅじん”. 2017年ねん2月がつ13日にち閲覧えつらん。

[7] “ドラマデータベース”. 2020年ねん6月がつ20日はつか閲覧えつらん。

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